Hyskoa's garden   作:マネ

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 スタングたちの深夜の冒険は「日曜日の深夜はないんじゃない。帰ってきてそのまま開墾作業するの大変だよ?」というアリスの提案により、土曜日深夜に延期していた。

 アリスがいないことに気づいたネアは深夜の村にさがしに出たがみつからなかった。ネアは数日前から村長の家に泊まっているジンを頼ることにする。ジンはネイロがあやしいと踏み、ネイロの部屋をさがすもネイロはいなかった。スタング=デリングの家に行く。スタングもいなくなっていた。争った形跡はどこにもない。

 ただ違和感はひとつだけあった。

 ネアの家の朝食用のパン(ハムやレタス)がなくなっていたこと。それも三人分。バターを塗った形跡もあった。

 ジンは三人で深夜の遠足に出かけたと断言する。

 いつの間にか、ネアが消えていた。村の外にはモンスターがいて、夜は徘徊してはならなかった。ジンはネアも含めて、四人の捜索と救出を依頼される。

 ジンは人間離れして目も鼻も舌も耳も良いが、ゴンと比べると遥かに劣っていた。ゴンは特別だった。

 しかし、ジンはすぐにネアをみつける。ネアは男に捕まっていた。


No.016 緋涙のブループラネット⑥

 バンダナを巻いた少年。

 

 物腰がハンパねぇな。歩く際の重心移動で右後ろにわずかな隙が生まれている。意図的なんだろうな。オーラの流れに違和感がある。わざと隙をつくっているんだろう。あと数年もすればそれも気づかないレベルになり、バケモンになるな。今も十分にバケモンだけど。

 

「ジン!」

 

 ゼネルに捕まっている少女が男に呼びかける。

 

「彼女を解放しろ」

 

 ゼネルは少女を横に押し出す。

 

「どっかに消えろ。用があるのはアイツだけだ」

「村へ戻れ」とジン。

「でも……わかった」

 

 ゼネルはジンと二人になった。

 

「ゼネルか? ノヴからきいている」

「おまえを殺す」

 

 ゼネルは両手にオーラを溜める。念弾を放出する。遅い。ジンにあっさり交わされる。スピードを速めていく。

 

 念弾には強いオーラは込めていない。威力がなければないほど、ゼネルの念弾はスピードを増す。その念弾の中に、わずかに威力のある念弾を混ぜる。念弾の破壊力に慣れ、命中することに恐怖を覚えなくなったジンの中には油断が生じるはず。

 

 さらに隠を駆使する。

 

 天才といっても、所詮は十代の使い手。

 

 ジンは強い念を込めた念弾だけを確実に交わしていく。破壊力のない念弾は無視。ジンに着弾するがダメージはほぼない。

 

 まさかすべて見切っているのか?

 

「どうした?」

 

 こいつ、強い。

 

 能力がわからない以上、うかつに近づくことはできない。

 

 ゼネルは足で小石を跳ねあげて、それに念を込めてぶっ放す。念だけの念弾より格段に破壊力が増す。ジンを湖のほうに追いやる。湖なら空を支配できるゼネルのほうが優位と考えた。

 

 崖からジンは湖に飛び込む。

 

「浮き上がってきたところを狙い撃つ」

 

 湖の中から念弾が発射された。ゼネルは紙一重で交わす。

 

「ごふっ」

 

 背中に念弾が当たった。避けたはず。後ろをみると念弾が跳弾している。念弾がゼネルを囲むように迫ってくる。次々に念弾がゼネルに命中する。

 

 堅がうまく使えない。

 

 ゼネルのオーラが乱れている。これはリリオラの能力。不快な波長のオーラを発して、相手をオーラを乱す。放出系能力。

 

 ジンが水中から飛び出した。魚のようなスピードだ。凝でみるとジンの衣服を鱗のようなオーラが覆っている。水の抵抗が感じられない。

 

 念能力の天才かよ。めちゃくちゃだ。戦闘経験値も俺並みじゃないか?

 

 やばい。戦術がすべて裏目に出ている。

 

 ゼネルは気合いで不快なオーラをかき消す。

 

 ゼネルはジンを岩山に誘い込む。一撃だ。ジンに直接ふれることができれば変化系の超重量の念でジンの動きを封じることができる。ゼネルの誘いにジンを乗ってくる。

 

 ジンは余裕なのか?

 

 ジンはおそらく操作系。先に一撃を決めたほうが勝ちだ。

 

 ゼネルは変化系で大岩の重心をずらし、崩す。ジンの退路を防ぐ。

 

「ラッシュ・ジ・エンド」

 

 ジンは防御の構えを取る。ゼネルの攻撃に防御は無意味。ふれることが目的だから。念能力のバトルにおいて、武道は無力化することがある。まさに今がそれだ。

 

 ジンにラッシュの一撃目を食らわせる。ジンは防御をするも左腕が重くなり態勢を崩す。二撃目でノーガードになる。

 

 ゼネルのコブシにウボォーギンのビッグバンインパクト並みのオーラが集まる。相手に反撃させず攻撃することによってのみ発動する高難易度の発だからこその破壊力。

 

 操作系ならこれで終わり。放出系でも大ダメージ。強化系でなら四撃目を食らわせて終わり。

 

「終わりだ」

 

 ゼネルのコブシがジンの胸を貫く。岩が破壊される。

 

 ゼネルのアゴに右ストレートが入った。身体がグラグラする。

 

 何がおこった?

 

 攻撃を受けた?

 

 どうして?

 

 そんなことより、次の攻撃を避けなければ……。

 

「ラッシュ・ジ・エンド・トレース」

 

 一撃目、二撃目、三撃目、次々にゼネルにヒットしていく。しかも一撃ごとに破壊力が増している。

 

 ゼネルの背中に大岩が当たる。

 

 俺の能力までコピーしたのか? ありえない。制約がついているんだぞ。

 

 ゼネルは突っ伏した。

 

「能力をコピーする能力か?」

 

 ゼネルはかろうじて話す。

 

「能力のトレースだよ。打撃系の技は一度食らうとたいてい使えるようになるんだ。ただの才能だな」

 

 ゼネルはなんとか立ち上がる。身体はガタガタで動かない。殺されるときは立って殺されたい。

 

「才能で念の制約まではトレースできないはずだ。いや、しないはずだ」

 

 ジンは黙った。つまり、そこがジンの念能力の正体というわけだ。あのとき、俺のコブシはジンの胸を貫いた。これは事実だ。だが手ごたえはまるでなかった。

 

 すり抜けた?

 

 物体やオーラをすり抜ける能力。オーラを増大させる能力。

 

「殺せ」

「殺しはしない。オレは捕まえるだけだ」

「だったら、なぜバラガムのボスのシドーを殺した?」

「オレは誰も殺してないぜ」

 

 ゼネルの胸をブレードが貫く。そのブレードがジンに届いた。ジンが半透明になり、ブレードから逃れる。念を込めた投剣攻撃。隠も使っている。

 

 身体の芯が熱い。

 

「これでも殺れないか」とオールバックの男。

「シンファ……なんで……?」

 

 シンファはブレードをゼネルから引き抜く。ゼネルはオーラで止血する。心臓近くの血管を切断されたようだ。

 

「よくやった。ゼネル。十分な働きだ。ジンの能力の正体がわかってきた。ジン、神の領域に踏み込んだな?」

 

「シンファ……?」

「あぁ、そうだ。シドーは俺が殺った」

 

 ウソだろ。

 

 ボスの致命傷はシンファの発によるものだった。初めから犯人は明らかだったんだ。ただ信じたくなかった。だから、コイツのあんなウソに簡単に引っかかった。

 

 ジンが怒りの表情を浮かべている。

 

「おまえはなんだ?」

 

 ジンは周囲を警戒している。ネアか?

 

「元バラガム盗賊団の戦闘員」

「元?」

「これより俺たちはバラガムを脱し、クート盗賊団と名を変える。俺はクート盗賊団、団長シンファ=カルマ」

 

 悪夢のはじまりだった。

 

 ゼネルはアスフィーユたちを思った。

 

 

 ◆

 

 

 シンファとジンがどこかに行った。戦っているんだろう。

 

 戦闘員の末路なんてこんもんか。サイテーだ。信じていた仲間に裏切られて、誰に看取られることもなく……。

 

 胸に重みを感じた。誰かいる。

 

「オッサン、しっかりしろ」

 

 オッサンじゃねえよ。こどもの声だ。かなり幼い。ネアの髪と同じ金色の髪。なんでこんな時間にこんなこどもがこんな森にいるんだ? 死後の世界か?

 

「俺が誰だか知ってるのか?」

「知ってなきゃ助けちゃいけないの?」

「そういう意味じゃなくて……知ったら、助けたことを後悔するぜってこと」

「後悔するのは助けたことじゃなく、助けられなかったときだよ」

 

 なんなんだよ。このガキは。

 

 ガキは胸に青い宝石をぶらさげていた。

 

「ブループラネット……」

「オッサン、ブループラネット知ってるの?」

「さがしてた」

 

 ガキは宝石を外して、俺の手に握らせた。

 

「これがそうだよ。本物だよ。マノリアからもらったんだ。赤くないけど本物だよ」

「汚れるぞ」

 

 さらに、銀色の怪物に乗ったガキが二人やってきた。黒髪と金髪。増えた。

 

 こんな俺を必死で助けようとするガキどもがいた。

 

 バラガム盗賊団戦闘員のこの俺の最後がこんなだって誰が想像した。

 

「寝んなよ。オッサン」

 

 だから、オッサンじゃねえって。案外、世界はやさしいのかもしれない。こんな俺にさえも。

 

「助かるから」

「絶対助けるから」

 

 ガキどもの泣き顔をみた。

 

「ありがとう」

 

 ゼネルは目を閉じた。


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