Hyskoa's garden   作:マネ

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No.013 緋涙のブループラネット③

「最初から話そう」

 

 シンファが講堂の壇上にツカツカと歩いてく。まるで団長気取りで、ゼネルはイラついた。

 

 ゼネルはまだボスが死んだことが信じられなかった。

 

「最後の5thブループラネットを十三使途のマノリアが生涯持っていたことが古文書の解読により判明した。その情報は千耳会からボスへと伝わった。若手ハンターであるジンの情報ルートもそんなところだろう。問題なのはそこではなく、千耳会からボスへ情報が伝わったという情報がジン=フリークスに伝わったことだ」

 

「千耳会の情報管理はずさんよ。誰が何を収集しているとか、筒抜けだし」とキスペル。

 

「だったら、なんでおまえは千耳会を利用する作戦なんて立てたんだよ」

 

 ゼネルはキスペルに食ってかかった。キスペルは作戦参謀で、バラガム盗賊団の頭脳だった。

 

「バラガムがブループラネットを狙ってるという情報を流せば余計な仕事が減るから。バラガムと敵対しようなんて組織は存在しない。必然と競争相手が減る。それにブループラネットを手放そうとする者も出てくるかもしれない。ブループラネットの持ち主に敵が多ければリークされることもあるかもしれない。実際、その通りになったしね。非難される言われはないわ」

 

 キスペルも責任を感じていることが伝わってきた。キスペルは普段あまり弁解したりしないから。ゼネルは怒りの矛先がわからなくなった。

 

 ゼネルは壁をぶん殴る。

 

「くそぉおおおおおおおおっ」

 

 何かがおかしい。何かがおかしいんだ。だけど、それがなんなのかわからねぇ。

 

「ボスは本当に死んだのか?」

「それは事実。僕が直接ボスの身体に確かめたから」

 

 アヴァンは断言した。

 

「俺は信じない」

「確かめればいい」

 

 シンファは講堂の奥を指差す。棺桶があった。気づいてはいた。気づかないふりをしていた。

 

 ゼネルは確かめた。

 

「ヤツは他人の能力をコピーする。コピー条件は攻撃を受けること。ヤツは俺の血祭剣を使って、ボスを殺した」

 

 シドーの胸にシンファの斬撃があった。

 

「固有能力まで?」

「あぁ」

 

 そんなバカな。受けた攻撃をコピーする? そんな能力が存在するはずがない。念の概念を壊している。

 

「本当よ」

 

 リリオラが言う。

 

「わたしの能力もコピーされた」

 

 リリオラの能力はオーラを放出し、人の感情を操作する能力。集団戦闘において、驚異的な効果を発揮する。ほとんど幻術使いといってもいい。

 

 バラガムは三つの派閥に分けられる。シンファ派。スコーラス派。その他。ゼネルやアスフィーユはその他だった。といっても、その他はゼネルとアスフィーユしかいないが。

 

 リリオラはスコーラス派だった。二つの派閥がグルになって、ゼネルをダマす理由はない。

 

「キスペル、ジンの経歴の説明を頼む」とシンファ。

 

「彼は12歳でハンター試験を受験し、合格。その後は……」

 

 シンファは完全に次期ボスの座を狙っているようだった。現時点でシンファがもっとも次期ボスに近いが、ゼネルがスコーラス側につけばパワーバランスはひっくり返る。ゼネルがキャスティングボートを握っていた。

 

 ゼネルにとって、それはもうどうでもいいことのように思えた。

 

「……魔獣の研究を行った。考古学にも、特に古い宗教方面に興味を持っているようで、それがブループラネットを手に入れようとした動機の可能性が高いわね。さいきん、暗殺一家ゾルディック家の襲撃を受けて、生き残ったというウワサもある」

 

 マジかよ、という声。

 

「彼らは絶対に殺せると思ったときしか暗殺を実行にうつさない。実行にうつってからの暗殺成功率は100%に近いとも言われているわ。その襲撃を凌いだのは考察に値するわね」

 

「暗殺の実行者は誰なんだい?」

 

 アヴァンが訊く。

 

「ZZIGG=ゾルディック……と言われている」

 

「たしか、世界最強の未確認生物だっけ? 見た人は皆殺しだから、だれも見たことがないとかっていう」とアスフィーユ。

 

 天空闘技場のインタビューで、ネテロが「世界最強は彼だ」と発言したというウワサがあった。彼が暗殺者だから記事にはできなかったとかなんとか……。

 

 いずれにしても、ジンはそのレベルにあるということだ。世界最強と戦って、凌ぎ切るレベル。

 

「シングルハンターの称号をもらってもおかしくない実績を残しているけど、年齢が若いのがネックになっているのか、シングルの称号はまだもらえていない、ってところね」

 

 こいつだけ、1日が48時間なんじゃないのか、と思ってしまうほどの実績を残している。

 

「すげぇな、おい」

 

 ライジンがわかったフリをして発言した。

 

「無駄口禁止」

 

 フージンに蹴られた。

 

「バラガムはジン=フリークスを殺す。異論はないな、スコーラス?」

「まるで、俺のやり方でジンを殺すから、俺に従えと言いたげだな?」

「そういったつもりはないが」

「あぁ、ジンを殺すことには異論はない。俺はな」

 

 スコーラスは副リーダーに視線を送る。彼女は憔悴している。

 

「俺は勝手にやらせてもらうぜ」

 

 ゼネルはそういって講堂を出ていく。アスフィーユがなぜか追ってきた。

 

 

 ◆

 

 

・シンファ派           ・スコーラス派

 

 シンファ:特質系(戦闘員)    スコーラス:強化系(戦闘員)

 

 フージン:変化系(戦闘員)    リリオラ:放出系(情報処理)

 

 ライジン:変化系(戦闘員)    キスペル:操作系(作戦参謀)

 

 エンジン:特質系(戦闘員)    アヴァン:具現化系(後方支援)

 

 

・その他

 

 ゼネル:強化系(戦闘員)

 

 アスフィーユ:具現化系(情報処理)

 

 イデアム(副リーダー):特質系(指令)

 

 

 ◆

 

 

「ゼネル君、これには何か裏があるよ」

「わかってる。けど、わけがわからないよ」

 

「ジン=フリークスの能力の説明もおかしいよ」

「リリオラがウソをついているとしたら?」

「それはないよ」

「なんで? シンファ側なんじゃないのか? 昔、シンファのヤツと付き合ってたんだろ?」

「ざんねんながら付き合ってません。一晩中朝まで問い質したからまちがいない。あたしのあの時間返してほしいよ。まったく」

 

 アスフィーユは口をとがらせながら断言した。無理やり訊き出したんだろう。アスフィーユはそういう話が大好きだから。そして、何も収穫なしじゃ怒りもするだろう。リリオラにしたら、良い迷惑だが。

 

「いったい誰が何のために、何をしようとしているんだろうね」

 

「これまで一度たりとも、ボスが一人で何かをハントしようとしたことはなかったんだ。そのためのバラガム盗賊団だったから。ボスがジンに負けたことより、一人で戦ったことが意外だったよ。ありえないと思った。特にジンみたいな危険人物とサシでやるなんて」

 

 まったくわからない。

 

「ジンを倒す。今できるのはそれしかない」

 

 俺がジンを殺しに行くのも、誰かが立案した作戦の内なんだろう。わかってはいても、自分で自分を止める術がなかった。

 

 ジンを許せなかったから。

 

「ジンとは戦っちゃダメ。ホントに死ぬよ」

 

 アスフィーユは真剣な顔だった。

 

「リリオラさんに落ち着くミストをかけてもらったら……?」

「落ち着いてるよ。自分でも信じられないくらいに」

「顔……怖いよ」

 

 ゼネルの顔を心配そうにのぞくアスフィーユがいた。

 

 ゼネルは目を背けた。

 

 アスフィーユがあきらめたように笑った。

 

「あたし、操作系のように知的で、放出系のように包容力があって、変化系のようにミステリアスで、具現系のようにひとりの人のことを考えられて、強化系のようにまっすぐな人が好き」

 

「そんなヤツはいないよ」

「うん、いない……いなくて……よかった」

 

 アスフィーユはやさしく笑った。

 

 バラガムはバラバラになるだろう。スコーラスにしても、シンファにしても、バラガムを御し切ることはできないだろう。分裂は時間の問題だ。

 

「じゃあな」

「うん、じゃあね」

 

 アスフィーユの辛そうな笑う顔が脳裏に残った。

 

 もうここに戻ってくることはないだろう。

 

 ジンは俺が殺す。

 


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