Hyskoa's garden   作:マネ

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 ほぼ全員がA級首のバラガム盗賊団メンバーのゼネルは賞金首ハンターのホコラとシルドラから攻撃を受ける。ゴンが生まれる数年前の出来事である。


ルルカ×一坪の密林 -過去編-
No.011 緋涙のブループラネット①


 岩がごつごつしている山岳。

 

 ホコラは揃えた右手の人差指と中指と、揃えた左手の人差し指と中指で十字の印を結んでいる。それが能力の発動条件らしい。回転する鉾が空中を飛んで、ゼネルに向かってくる。鉾には自動追尾効果がある。スピードはかなり遅い。

 

 ゼネルは鉾から一旦は距離をとって、一気にホコラとシルドラに接近した。

 

「ラッシュ・ジ・エンド」

 

 ゼネルは右ストレートをシルドラに放つ。次に左フック……連続攻撃を繰り出す。しかし、すべてシルドラの半透明のバリアに弾かれた。

 

「私の絶対防御(パーフェクトシールド)はどんな攻撃も受けつけない」

「そして、僕のセブンブレードはどんな相手も一撃で倒す」とホコラ。

 

 どんな相手も一撃で倒す。あの十字の印が制約なんだろう。こんな制約があったら、両手が使えず、まともに戦えない。まともに戦うためのバリアなんだろう。シルドラのバリアがホコラも包んでいる。あのバリアを破ればセブンブレードを無力化することができるはずだ。

 

 ホコラとシルドラ、どっちの能力もしょうもない能力だが、二人そろうとそれなりの能力になる。二人がしょうもない使い手であることに変わりないけれど。

 

 それがゼネルの感想だった。

 

 シルドラのバリアでホコラを守り、ホコラの自動追尾のセブンブレードで攻撃するコンボ。

 

 念能力のバトルセオリーに一人のとき、二人を相手に挑んではならないというものがある。その二人が熟練のコンビだった場合は絶対だ。ほぼ勝ち目がなくなるから。あくまでもセオリーだけど。

 

 ゼネルはホコラの回転する鉾を紙一重で交わしていく。もちろん当たれば具現化系の追加効果で死ぬ可能性が高い。少なくとも重傷は免れないだろう。

 

 ゼネルの能力は打撃のコンボがつながるほどに攻撃力が増すというもの。ホコラとシルドラのコンボにはまったくの無力。

 

「A級首のバラガム盗賊団の戦闘員も大したことないね」

「ジンさんの言っていたとおり、僕たち賞金首ハンターの前じゃ手玉だね。ただの強化系かませ」

「あ?」

 

 ガキが、ハメ技で粋がるなよ。攻略できない念能力なんてありはしない。オレが能力を無効化する能力を持っていたら、死んでいたんだぞ。わかってるのか? バリアも絶対じゃない。

 

 ホコラとシルドラは十代半ばくらいにみえる。それに対してゼネルは二十歳だった。

 

 つっても、この状況はやばい。二人とも大した使い手じゃないが悪くない戦術だ。オレにこの戦術を破る技がないのは事実。面倒なこった。

 

 十代半ばで、これだけの戦術を組み立てて実行できるやつはそうはいないだろう。それにしては戦闘考察力がおろそか。戦闘準備は及第点だが戦闘中は及第点とは言い難い。オレをただの強化系だと決めつけている節もある。戦闘前と戦闘後じゃ、まるで別人。戦術を組み上げたのはこいつらじゃない。こいつらのバックにいるヤツ。

 

 ジン=フリークス。

 

 ジンはホコラとシルドラと同じような年齢らしい。頭はキレる。だがまだ経験値がA級首と戦うに足りない。それがこの状況だ。このオレ相手にこの二人をよこすとはありえない選択だ。たしかにこの戦術は優れている。だがそこまでだ。オレを倒し切るまでの戦術ではない。机上では倒しているのだろうが現実には無理だ。

 

 こいつらは何もわかっちゃいない。

 

 セブンブレードという技名もバカ丸出し。この鉾以外にも武器があると言っているようなもの。二本目、三本目の武器は隠を使って攻撃を仕掛けてくるつもりか? そんな方法をとってきたらバカ確定。八本目がなかったら、大バカ確定。

 

「こんな追い詰められた状況でやけに余裕だね?」

 

 ホコラが安全圏で狩りをする狩人のような態度でいう。

 

「ああ、余裕だよ」

「強がっちゃって。私たち相手に焦っちゃカッコ悪いとか?」

 

 セブンブレードを避けながら、ゼネルは会話する。

 

「おまえら、自分が死なないと思ってるだろ? 安全圏でプレーしていると思ってるだろ? これは命のやり取りだぜ。破れないバリアなんて存在しない」

 

「だったら、破ってみせて」

 

 一週間くらい逃げて、ガス欠に持ち込むのがこの手の戦法に対するセオリー。一見ハメ技にみえるが、ハメ技勝負では二人よりゼネルのほうが一枚も二枚も上手だった。所詮は机上の空論。実戦は奥が深い。経験値の少ないだろうホコラとシルドラはゼネルの敵じゃなかった。

 

 ゼネルが問題視してるのは二人のバックについているであろうジン=フリークス。長期戦に持ち込めばおそらく彼が出張ってくる。ジンの能力は未知数。形勢が逆転される可能性が高い。だからといって、この二人相手に仲間の助けを乞うのは恥ずかしい。ゼネルは激しいジレンマの中にあった。

 

 ゼネルはオーラを変化させてオーラに質量と硬度を持たせる。それを弾丸にしてぶっ放した。

 

 強化系と変化系と放出系を組み合わせた技だ。フランクリンの制約つきのダブルマシンガンと同等の破壊力を持つ。それも制約なしで。

 

 地形が変わるほどの乱射攻撃。シルドラのシールドのまわりの地面が吹き飛ぶ。二人はバランスを崩す。二人は声が出ないようすだ。驚いていることにも気づいていないのかもしれない。

 

 ホコラの鉾が消えた。解除されたようだ。

 

 十字の印が解けたのが解除条件か? シルドラとのコンボじゃなきゃ意味を成さない能力のようだ。やっぱりしょうもない能力だ。

 

 自動追尾のロックは外れているか? セブンブレードのロックを解除して、ヤツの視界の外に出れば逃げることは可能のようだけど、プライドに賭けて、逃げる選択肢はない。

 

 こいつら、弱い。想像以上に弱すぎる。警戒すべきはこいつらのバックについているヤツら。追い詰め過ぎて、そいつらに出てこられても面倒だ。

 

「だいじょうぶ。私の絶対防御は誰にも破れない」

 

 シルドラは正気を取り戻し、バリアが無傷であることに安堵しているようだった。

 

 なんでも切れる刀は具現化できないがバリアは意外と簡単に具現化することができる。攻撃より防御のほうが念能力は強い。これは念能力の特性だ。仮に最強の鉾と最強の盾があるなら、念能力においては盾が勝つ。攻略不可能な盾は存在しないが。

 

 ゼネルは凝で喉にオーラを溜めた。ホコラとシルドラが耳をふさいだ。教科書通りのバトルだな。イライラするぜ。

 

 ホコラもシルドラも得意顔をしている。

 

 アイツらも、オレも決め手に欠ける。こう着状態か。

 

「ロックオンッ!!」

 

 正面から回転する鉾が飛んでくる。横から同じく隠でみえにくくした剣と槍が飛んでくる。

 

 まずはバカ確定。

 

 ゼネルは両方とも紙一重で交わす。態勢も崩さず、次の動作に備える。

 

「避けやがった」

 

 そりゃ避けるだろ。

 

「なかなかやるわね」

 

 どんだけレベルの低いバトルを想定してたんだよ。

 

 二つの武器を具現化すれば二倍ではなく、二倍以上のオーラの消費量になる。攻撃力が二倍以上になっているためだ。さぁ、武器はいくつまで増やせる? 増やせば増やすほどオーラの消費量は格段に激しくなる。

 

 鉾、剣、槍、斧、鋸……五つの武器がゼネルを囲むように迫ってきた。本気を出してきた感じだ。

 

 さすがに五つから逃げるのはきびしい。円を使えればいいんだが……。

 

 ゼネルは円が苦手だった。マックスで1メートルにも満たない。

 

「誇りに思っていいよ。セブンブレードを五つまで使わせたのはアンタが初めてだ」

「だからか。全然使いこなせてないぜ」

 

 ホコラのコメカミに青筋がみえた。

 

 岩が落ちてくる。セブンブレードを押し潰した。

 

 ゼネルのオーラは質量を持っている。岩をオーラで囲んで、岩の質量を大きくして、岩のバランスを崩して落とした。

 

「誇りに思っていい、か。そういうのは上級者のセリフだ。おまえが使うには100年早い」

 

 巨大な岩が回転し動きはじめる。ゼネルのオーラの重心移動によるものだった。オーラの質量増加は放出するとできなくなる。ゼネルが直接オーラにふれていないと質量を大きくすることはできない。減らすことはできる。

 

 普通はこのオーラに円の効果もあるがゼネルはそういう感覚が鈍く、コントロールも大ざっぱだった。繊細なコントロールが苦手だった。

 

「なんだ!? この力は」

「バラガム盗賊団戦闘員のオーラ量を舐めるなよ」

 

 ホコラとシルドラは驚いているようだ。

 

「このまま押し潰したらどうなる? 生き埋めかな?」

「たかが強化系が」

「強化系は戦闘において最強。念能力の基本中の基本だ。具現化系は弱いんだ。念能力をちょっとかじったヤツが陥りやすい落とし穴だ」

 

 槍が岩を突き抜けて砕いた。

 

「質量にオーラを使って、硬度化を怠ったね」

 

 冷静な分析だな。オレでもあれだけ巨大な岩に質量と硬度の両方を付加することはできない。凝を使えば砕くのは容易。戦いの中で成長しているようだ。

 

 ここに来ても、セブンブレードの残り二つを具現化してこない。出し惜しみする理由もないだろうに。あるとしたら、その武器ではオレを攻撃できないから。五つは遠隔操作型。残り二つの武器は自分の身を守るための能力……? カウンター型?

 

 ゼネルはホコラのセブンブレードに包囲された。

 

 逃げ場所は空中しかない。ゼネルは足の裏にオーラを集めて、空中へジャンプする。

 

「空中で自由に動くことはできない。詰みだ」

 

 ホコラが勝利宣言をする。

 

「オレのオーラは重くなる」

「重い物質も落ちる速度は変わらない。物理の基本だよ」とホコラ。

 

 ホコラの槍がゼネルを襲う。ゼネルはオーラを放出する。というか投げ飛ばす。ゼネルの身体が投げ飛ばした方向とは逆方向に吹っ飛ぶ。槍が空を切る。ゼネルは回避した。

 

「空中でモノを投げればそのエネルギーと同じだけ抗力ってモノが発生するんだ。物理の基本だぜ」

 

 ゼネルはまるで空を飛ぶように次々に襲ってくるセブンブレードを回避していく。

 

「空を飛んでいる……?」

「能力は使い方次第」

 

 ゼネルは完全に空を支配した。

 

「おまえのその能力の弱点を教えてやろう。空中に逃げられたら、ほぼ捕えられない。三次元の攻防に弱い。そういう練習をしていないだろう?」

 

「空を飛ぶ念能力者。こんなのアリかよ」

「二対一で挑んできておいて、アリとかナシとか言ってんなよ」

 

 とは言っても、オレの念能力じゃ、こいつらは倒せない。仕方ない。

 

「練」

 

 ブォン、とゼネルが毒々しいオーラを発する。ゼネルはその敵意むき出しのオーラをホコラとシルドラに向ける。

 

「ラッシュ・ジ・エンド」

 

 ゼネルの右ストレート! アッパー! フック! キック! シルドラのパーフェクトシールドを攻撃していく。攻撃するたびに攻撃力が上がっていく。その衝撃でまわりが揺れる。シルドラが立っていた地面が衝撃で吹き飛ぶ。

 

 精神攻撃はバトルの基本。

 

 世界が揺れているようだった。シルドラにダメージはない。だが……。

 

「シールド、解けてるぜ?」

 

 相手の禍々しいオーラにふれて、あまりの恐怖に正気を失うということはレベル差が大きい場合に起こりうる。恐怖心を植えつけられて、戦線復帰できないこともある。ハゲてしまうことや一気に老け込んでしまうこともある。

 

 ホコラとシルドラにおきたのはまさにそれだった。

 

「ふひゅー」

 

 ホコラはお爺さんのように変わり果てた姿になっていた。シルドラは口から泡を吹いて気を失っているようだった。

 

「念の戦いは精神力の戦いそのもの。精神力が弱いものは負ける」

 

 ゼネルはシルドラのライセンスを盗み取る。ホコラはライセンスを身につけていなかった。つまり、ホコラはその程度の使い手だということだ。

 

「もらった能力に価値なんてない」

 

 ジン=フリークスは自信家の凄腕だが、まだ念の教え方も知らないガキといったところか。このレベルの使い手にこれほどの戦術を伝授できる技術は脅威だが、弱者の気持ちがわかっていない。ジン、一応、ボスに報告しとくか。

 

「おやおやおやぁ……ゼネル君、結構手こずっちゃったみたいだね~」

 

 バラガム盗賊団新入りのアスフィーユがどこからともなく現れた。空間移動の具現化系能力者だ。

 

「手こずってねぇよ。こいつら、念能力と精神力が噛み合っていなかったし。アンバランスな能力は怖くない」

「でも、秘密の能力使わされたよね?」

「…………みてたのかよ」

 

「殺さないの?」

「もう殺す価値もないから」

 

 おそらくこいつらはもう立ち上がれない。立ち上がってきたとしても敵じゃないし。

 

「ゼネル君、次の仕事が決まったよ」

「なに?」

「ブループラネットって知ってる?」

「知らない」

「世界に五つしかない宝石なんだけど、あたしたちでそれをすべて手に入れる。ルルカに最後の一つがあるらしいの」

「もう四つ集めたんだ。五つすべて手に入れるたら願いでも叶うのか?」

「かもね」

 

 

 ◆

 

 

 ゼネル:強化系能力者

 

 攻撃をつなげていくほどに攻撃力が上がっていく。相手の反撃があるとリセットされる。オーラに硬度と質量を持たせることができる。バラガム盗賊団のナンバー4。

 

 

 アスフィーユ:具現化系能力者

 

 登録した相手のところに一瞬で移動することができる。登録方法は顔と名前を知ることと相手の肌にふれることと相手と一言でも会話を交わすこと。ふれている相手と一緒に瞬間移動することも可能。ただし登録が必要。強力な能力の持ち主だが戦闘員ではない。

 

 

 ◆

 

 

 ルルカ地方に謎の遺跡を守るサトラの一族が住んでいた。

 

「ねぇねぇ、ネア姉さま、その宝石をみせて」

 

 アリスはネアが胸につけている宝石に興味を抱いていた。世界の七大秘宝から漏れた秘宝だった。ネアはアリスにわたす。

 

「綺麗」

「俺にも」

 

 男の子が宝石に手を伸ばす。

 

「ダメ。これは修道女しかふれちゃいけないの」

「あたしはいいの?」

「アリスは特別」

 

 アリスは修道女ではなかった。ネアは聖火教の修道女見習いだった。神との婚姻を数日後に控えていた。婚姻の儀が終われば正式な修道女となる。

 

「綺麗だよね?」

 

 男の子は宝石にさわれず、すこしふてくされた。

 

「河原の石のほうがきれい」

「わかってないなぁ、スタンは」

 

「ブループラネットっていうのよ」

「なんで赤いのにブルーなの?」

 

 スタングは疑問を口にする。宝石は緋色に輝いていた。

 

 突然、教会の扉が開いた。ボロボロの服を着た少年が入ってきた。この教会は村の入り口にある。

 

「ハラ減ったぁ」

 

「だれ?」

「密漁者じゃないね」

 

 密漁者はこの森じゃお腹をすかせない。食べ物は豊富にあるから。

 

 スタングがつぶやくとツンツン頭の少年は応えるように笑った。少年の笑顔は自信に満ちていた。

 

「オレはハンターだ」

「ハンターなのに密漁(ハント)しなかったんだ」

 

 これが俺、スタングとヤツの宿命の出会いだった。


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