真・怪人バッタ男 序章(プロローグ)   作:トライアルドーパント

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本作は、今まで気分転換程度にちまちまと書いていた二次小説を、アニメ『僕らのヒーローアカデミア』1・2巻と、映画『仮面ライダー1号』のDVDを見たテンションと、盆休みを利用して適当な所で完成したものです。

夏休みの特別編として、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。

6/20 誤字報告より誤字を修正しました。ありがとうございます。

2018/5/20 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。

2022/3/25 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第1/3話 俺の恐さに、子供が泣いた!

人は生まれながらに平等じゃない。

 

それが僕、緑谷出久が齢四歳にして知った、社会の現実。

 

「や、止めなよかっちゃん!」

 

「ったく。幾ら負けても全然懲りねえんだなぁ、デク!」

 

「待てぃ!」

 

「あん?」

 

「悪い奴等は、許さないっ!」

 

そしてこれが、僕のもう一人の幼馴染との最初の出会い。

 

「おいおい、ヒーロー気取りの奴がデクの他にも……」

 

「ヴヴゥゥゥ……」

 

「「「ん?」」」

 

「GRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「「「「「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」」」」

 

そしてコレが、僕の人生最大にして、最初に乗り越えたトラウマだ。

 

 

●●●

 

 

俺の名前は「呉島 新【くれしま あらた】」。折寺中学校の三年生だ。

 

今は朝のHR前で、俺は幼馴染と何時もの様にヒーロー談義に華を咲かせていた。今日のお題は本日デビューしたプロヒーローの事だ。

 

「それにしても巨大化って、スゲェ“個性”だな。もう速報でピックアップされてるぞ」

 

「うん、人気も出そうな凄い“個性”だよね! だけどそれに伴う街への被害も考えると、今後は割と限定的な活動になるんじゃないかと思うんだ。そこら辺はこの“巨大化”の大きさが自在なのか、どうかで……」

 

この一見もさっとしたのが、同じクラスで幼馴染の「緑谷出久【みどりや いずく】」。ヒーローオタクで、俺と同じくプロヒーローを目指している。出久の“個性”に関する分析力はかなりのもので、一度スイッチが入ると中々止まらないのが玉に瑕だ。とは言え、流石に担任の先生が来たことで朝のHRが始まるとなれば、流石に止まらざるを得ない。

 

「え~お前等も三年と言う事で、そろそろ本格的に将来について考える時期だ! 今から進路希望の紙を配るが皆! ……大体、ヒーロー科志望だよね~」

 

『ハーーーーーイ』

 

「せんせぇーーー! 『皆』とか一緒くたにすんなよ! 俺はこんな“没個性”共と仲良く底辺なんざ行かねーーーよ!」

 

このチンピラみたいな奴は「爆豪勝己【ばくごう かつき】」。出久と同じ俺の幼馴染なのだが、かなりの頻度で俺と出久に突っかかってくる。簡単に言うとコイツは「嫌な奴だが凄い奴」で、能力も才能も野心も負けん気も、その全てが人並み外れている。

 

俺が初めてこの二人に出会った時は、三人のいじめっ子と二人のいじめられっ子と言う感じの現場で、その光景を目にした俺は正義感から介入したのだが、その結果5人全員が凄まじい泣き顔と悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。まるで悪魔か殺人鬼にでも出会ったかのようなリアクションだった。

 

それから幾許かの時間が過ぎ、俺が小学校に上がる頃には、俺は出久とよく遊ぶようになって、勝己とはよく勝負事をするようになった。

出久に関しては、皆が出久を「ある理由」から馬鹿にしていた中、俺は出久の事を馬鹿にせず対等に接していたら何時の間にかそうなっていて、勝己に関してはずっと俺の事をライバル視している様な感じだ。特に1年生の頃に6年生に囲まれてボコボコにされていた勝己を助けたあたりから、勝己の俺に対する当たりが強くなったよーな気がする。

 

「あ、そいやあ、爆豪と呉島と緑谷の三人は雄英志望だったな」

 

その瞬間、教室内の時間が止まった。

 

出久はこの世界では“個性”を持たない、所謂“無個性”と呼ばれる、この世代では珍しいタイプの人間だ。この“個性”と言うのは昔で言うところの超能力の様な物で、基本的には遺伝が大きく関係しているらしいのだが、出久は両親が“個性”を持っているにも関らず“個性”を持って生まれなかった。そしてこれがさっき言った、出久が周囲から馬鹿にされていた「ある理由」だ。

 

普通なら“無個性”と言う時点で、その人物はこの超人社会で絶対的弱者のレッテルを貼られ、スクールカーストの最底辺を生きる事を余儀なくされる。ましてや、ヒーロー科最難関の雄英高校を志願していると聞けば、嘲笑と共に馬鹿にされるのがオチだ。

しかし、このクラスは違う。只一人の例外を除いて、出久を表立って馬鹿にする人間は居ない。そして、その只一人の例外が早速突っかかってきた。

 

「オイオイ! “個性”使ったら怪人かヴィランに見えるシンとぉ~、“没個性”どころか“無個性”のデクがぁ~、何で俺と同じ土俵に立ってんだ、あ゛ぁ゛ん゛!?」

 

そうそう、勝己は何故か子供の頃から俺を「シン」と呼び、出久の事を「デク」と呼んでいる。俺の方はともかく、出久を「デク」と呼ぶのは止めろと昔から何度も注意しているのだが、勝己は10年以上経っても止める気配が無く、俺も出久も半ば諦めている。

 

「ほぉ~~、それでお前はどうするんだ? 俺が怪人かヴィランならお前は仲間を呼んで、5人がかりで俺一人をやっつけるのか? 俺は別に構わないぜ? お前等がちゃんと必殺技の準備を終えるまで攻撃しないで待ってるぜ?」

 

「てっ、てんめェ……ッッ!!」

 

「お、おい、シンさ……、いや、呉島。お、落ち着けよ。な?」

 

「ば、爆豪も、止めろよ。なあ?」

 

目から殺人光線を出しそうな勢いの勝己と、それをあえて挑発する俺。ある意味でこのクラスの名物なのだが、クラスメイト達は戦々恐々としている。

 

その理由は俺が持って生まれた“個性”にある。

 

俺は出久と違い“個性”を持っている。俺の“個性”は簡単に説明すると、人間にバッタの力が宿った「バッタ人間になる事が出来る」と言うものだ。コレは出久曰く、相当に強い“個性”らしいのだが、俺の“個性”にはヒーローを目指す上で致命的と言える欠点があった。

 

それは、俺が“個性”を使った時の見た目が、余りにも怖すぎると言う事。

 

普段の俺は甘いマスク(笑)の、メロンの様に高貴なイケメン(爆)なのだが、“個性”を使った時の俺は正に「怪人バッタ男」と言っても良い程に、グロテスクな見た目の異形と化してしまう。

 

実際に去年の職場体験学習で訪れた商店街で、プロヒーローによる子供向けのヒーローショーが企画されていたのだが、ちょっとした不手際で人手が足りなくなってしまい、俺が“個性”を使ってヴィラン役を務めた事があった。

しかし、俺がステージに上がった瞬間、子供達が示し合わせたかの様に一斉に、そして火山の噴火を思わせる凄まじい勢いで泣き出してしまい、俺は強制的にステージから退場させられ、何故か出禁まで喰らった。

 

他にもたまたまひったくりのヴィランに遭遇し、“個性”を使ってヴィランをひっ捕らえる事に成功した事があるのだが、その後駆けつけたプロヒーローはあろう事か俺を攻撃し、俺はそのまま警察に逮捕されてしまった。

幸い、監視カメラや被害者の証言によって冤罪は晴れたものの、「何処からどう見てもヴィランにしか見えなかった」と言うプロヒーローの言葉が一番辛かった。

 

自分の持って生まれた“個性”によって、そんな苦い経験をイヤと言うほど積んできた俺は、「相手が“無個性”だから“個性”を持つ自分に劣る」と言う考え方が嫌いだ。それは「どんな“個性”を持っているかで優劣を決める」と言う考え方に繋がっていると考えるからだ。

 

しかし、“無個性”でも個性持ちより優れている所があるのだと思っている人間は少ない。だから“無個性”である出久も、当初は個性持ちのクラスメイトに馬鹿にされていた。俺はそんな勘違いした連中を目にすると必ず注意していたものだが、相手が素直に言う事を聞くとは限らない。特に不良やチンピラはその傾向が強く、そんな奴等は時として“個性”を使った実力行使を行う。

 

そんな時があれば俺は決まって、そんな事をする連中に必殺の「ホッパー・テラー」をお見舞いする。「ホッパー・テラー」とは、最もグロテスクな“個性”を使う瞬間を、相手の顔を押さえつけながら至近距離で強制的に披露し、その姿を相手の網膜と脳裏と精神に焼き付けると言う必殺技だ。その威力は泣く子も黙る所か、笑う子も泣き出しひきつけを起こした挙句、泡を吹いて気絶する。それでも効かない馬鹿野郎には、怒りの暴力「ホッパー・バイオレンス」でタコ殴りだ。

 

しかし、そんな活動を繰り返してきた結果、俺は何時の間にか周囲から「シンさん」と呼ばれる様になり、その内「折寺中の怪人」と言う有難くも無い渾名を頂戴し、挙句の果てには「バッタ人間になるのではなく、人間に化ける“個性”なんじゃないか」とか、「正体は人間に擬態した地球外生命体なんじゃないか」とか、そんな有らぬ噂まで立っていた。

 

「おいおい、二人とも落ち着け! そんな事したら二人とも雄英に行けなくなるぞ!!」

 

「……チッ!」

 

クラスメイトだけでなく、担任が本気になって俺達を止めに入った為で、勝己は渋々ながらも自分の席に着いた。

 

まあ実際の所、勝己は5対1の集団リンチなんていう事は絶対にしない。勝己はチンピラ染みた性格をしているが、俺との勝負は必ず一対一のタイマンで挑み、卑怯な手段は決して使わない。そこら辺は勝己の信用も信頼もできる所なのだ。

 

 

●●●

 

 

放課後。全ての授業が終わった後、直ぐに学校の図書室に向かい、借りていた本を返却した後でまた新しい本を借りた。それから特に用事は無いので一人で家路に着いた所、どこかトボトボと歩く出久の背中を発見し、声を掛けようとしたその時、マンホールからヘドロの様な物が噴出して近くにいた出久に絡みついた。ヘドロの正体はヴィランだった。

 

「ッ!? ~~~ッ!?」

 

「大丈~夫。体を乗っ取るだけさ、落ち着いて。約45秒。直ぐに楽になる」

 

それの何処が大丈夫だ! 訳の分からない事を言うヘドロマンに怒りを覚えた俺は制服の上を脱ぎ、何とか脱出しようともがいている出久を助ける為に“個性”を使った。

 

「ヴヴッ……グワアアアァァッッ!!」

 

俺が“個性”を使う時、俺の体は急激な変化によって激痛に苛まれる。先ずは顔に血管が浮かび上がり、次に両目は深紅に染まる。眉の付け根から一対の触覚が突き出し、下顎が二つに割れる。最後に額から真っ赤な第三の眼が出現し、全身の筋肉が隆起した上で皮膚が緑色に染まる事で、俺はバッタ人間へと変身するのだ。ちなみに“個性”を使っている間、何故か俺はまともに喋る事が出来ない。

 

「URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

「ん? 一体な……な! 何だアイツはぁあああああああッッ!?」

 

ヘドロマンは俺の姿を見て物凄く驚いていた。まあ、初見の奴は大体こーゆー反応をするので、俺にとっては何時もの事だ。そして、そんな動揺によって生まれた隙を利用して、此方の攻撃を叩き込むのも何時もの事だ。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ぐわああああああ!? なん……だ……!?」

 

俺はヘドロマンに狙いを定め、能力の一つである『超強力念力』をヘドロマンに叩き込んだ。正直この能力を体得した時はどう考えてもバッタの力ではないと思ったのだが、父さんは「本来生物は、科学では説明のつかない特殊な能力を秘めている」と言っていた。本当だろうか。

いずれにせよ、相手が流動的な体を持っていようとも、実体がある限りこの能力から逃れる術は無い。超強力念力のパワーによって気絶したのか、べチャッとコンクリートの地面に叩きつけられたヘドロマンは、そのまま動かなくなった。

 

「GRUUUUUUUU……」

 

「TEXAS……SMASH【テキサス・スマッシュ】!!」

 

「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

ヘドロマンから解放された出久の無事を確認しようと出久に近づいた刹那、砲弾と錯覚するほどの強烈な衝撃が俺を襲った。

 

 

●●●

 

 

「いやぁ、本当に済まない事をした! てっきりヴィランが子供を襲っていると思ってしまってね。何時もはこんなミスはしないんだが、オフだったのと慣れない土地で浮かれちゃったかな!?」

 

「はぁ……」

 

「しかし、コレは君のお蔭さ、ありがとう!! 無事、詰められた!!」

 

俺はか~な~り戸惑っていた。正直な話、ヴィランに間違えられる事は大した問題じゃない。“個性”を使えばそんな事はしょっちゅうだ。問題はその相手が「№1ヒーロー」にして、出久の憧れであるオールマイトだったと言う事。お蔭で出久は緊張から物凄くテンパっている。しかし、サインがしてあると言うこのノートの焦げは、もしかして勝己の仕業だろうか?

 

一方のオールマイトはと言うと、さっき出久を襲ったヘドロマンを追っていたらしく、追いついたと思ったら見たことも無い怪人(つまり俺)が中学生を襲おうとしていた現場に遭遇、即座に拳圧で攻撃したとの事。

ちなみにヘドロマンは気絶している間に二本のペットボトルに詰められているのだが、オールマイトはどうやって詰めたのだろうか? まさか素手で?

 

「じゃあ私はコイツを警察に届けるので! 液晶越しにまた会おう!」

 

「え!? そんな……もう、まだ……」

 

「プロは常に敵か時間との戦いさ! それでは今後とも……応援よろしくねーーーーーーーーーーー」

 

力を溜めてジャンプし、爆発的な跳躍力でその場を立ち去ったオールマイト……の左足に出久がしがみ付いていた。

 

……え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ!?

 

昔から妙に行動力がある奴ではあったが、流石にこんな事をするとは思わなかった。俺は急いで“個性”を使い、オールマイトと同じ様に渾身の力で地面を蹴り、背中からバッタの翅を生やして、出久とオールマイトを追った。

このバッタの翅は俺と同じ“個性”を持つ父さんには生えていなかったらしいが、俺は生まれた時にバッタの翅が生えていたらしい。今では任意でこの翅を出し入れする事が出来る。

 

こうしてバッタの跳躍力と飛行能力を駆使し、上空からオールマイトと出久を探した。間も無くビルの屋上にいる二人を見つけ、そこへ向かって急降下する最中、オールマイトの体から煙が上がった。俺が屋上に着地して煙が晴れた時、そこに居たのはガリガリに痩せている上に愛想の悪い、オールマイトによく似た金髪のお兄さんだった。

 

「え!? ニセ!? 偽者!? 細ーーッ!!」

 

「GUUUU……」

 

「……私は、オールマイトさ。……ガフッ!」

 

「嘘だーーーーーーーーッッ!!」

 

「……あの、血ぃ吐いてますけど、大丈夫なんですか?」

 

「ああ、問題無いよ。それとこれは……ほら、プールで常に腹筋に力入れている人がいるだろう? アレと同じだよ」

 

「嘘だぁあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

出久は目の前で起こった出来事が信じられなかったらしく、絶叫した後で現実逃避をしている。俺の方は一先ず“個性”を解いて人間に戻ったが、オールマイトが吐血している事が心配だ。まあ、今の状態を説明するのに、変な例えを持ってくる位には余裕があるようだが……。

 

「……ウソだ……」

 

「……見られたついでだ少年達。間違ってもネットには書き込むな?」

 

「はい?」

 

オールマイトが俺達二人に語ったのは、世間の知らないオールマイトの真実と、“平和の象徴”と言う№1ヒーローが背負った過酷な十字架だった。

 

「プロは何時だって命懸けだよ。『“個性”が無くとも成り立つ』とは、とてもじゃないがあ……口に出来ないね」

 

オールマイトの言葉は重い。それは数多くの修羅場を潜り抜け、色々なモノを守ってきたからこその重さだった。

 

「……はあ……」

 

「……それじゃあ、『どんな“個性”を持っていても、ヒーローになる事は出来る』と思いますか?」

 

「……さっきから君達は、『ヒーローになる事』を目標にしているみたいだが、ヒーローになる事は“始まり”であって“終わり”では無い。プロヒーローを目指す上で大切な事は『自分がヒーローになって何をしたいのか』だ。

人を助ける事に憧れるなら、警察官や医者と言う手もある。あれだって立派な人を助ける仕事だ。ヒーローと言う職だけがヒーローになる手段ではない。困っている人を助けたなら、その者は紛れも無くヒーローだと私は思う」

 

「………」

 

「別にプロヒーローを目指すなと言う訳じゃない。プロヒーローを夢見る事は、決して悪い事じゃない。だが……相応に現実も見なくてはいけないと言う事だ、少年」

 

そう言ってオールマイトは立ち去った。出久の顔は絶望に満ちていた。

 

「……出久、帰ろう?」

 

「……うん」

 

空気が重かった。何時もなら二人で帰る時は、活躍しているプロヒーロー談義で盛り上がるのだが、この時ばかりはそうならなかった。

 

「……それ、もしかして勝己にやられたのか?」

 

「……うん。ちょっとね」

 

「「………」」

 

参った。こういう時こそ、友人として何か言うべきなのに、何と言えばいいのか分からない。神の如く憧れていたヒーローに「“個性”が無ければヒーローにはなれない」と、言われた“無個性”の出久に、“個性”のある俺は一体何と言ったら良い?

 

脳みそをフル回転させ、何かイイ台詞はないものかと考えながら歩いていたのだが、ふと気がつくとさっき爆発があった現場の近くまで来てしまっていた。どうやら無意識に何時もの様に、現場に来てしまったらしい。こんな時に見るのもなんだと思ったのだが、出久が現場に近づいていくので後ろから着いて行くと、何と暴れていたのはさっきのヘドロマンだった。

 

「!? アイツ、何で此処に!?」

 

「…………! 僕の……せい…………!」

 

隣の出久がつぶやいた時、俺はヘドロマンが暴れている理由を理解した。恐らく出久がオールマイトにしがみ付いた時に、ヘドロマンが入ったペットボトルがポケットから落ちてしまったのだろう。そう言えば屋上に居た時、オールマイトのズボンにペットボトルが無かった様な気がする。

 

「つーか、あのヴィラン。さっきオールマイトが追っかけてた奴じゃね?」

 

「オールマイト!? うそぉ!? 来てんの!?」

 

「じゃあ、何してんだ。オールマイトは!?」

 

ギャラリーがオールマイトの登場を期待しているが、それは無理だ。何故なら、オールマイトは活動制限によって動けない。俺ならヘドロマンを何とか出来るが、ここで俺が“個性”を使ったら確実にパニックが起きる。そして面白おかしく動画がネットにアップされ、最悪プロヒーローに逮捕される。

 

ここはあのヘドロマンに対して、有利な“個性”を持ったプロヒーローが来るのを待つしかない。

 

そう思って傍観していた俺だったが、人質になっていた中学生と言うのが何と勝己だった。ヘドロマンに捕われた勝己は、何時もの傲岸不遜で自信満々な目では無く、自分ではどうしようもない絶望に満ちた目をしていた。

 

次の瞬間、俺の隣に居た出久は飛び出し、俺はヘドロマンへの怒りから“個性”を使った。

 

「あのガキ……爆死――」

 

「URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 

『うわあああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!』

 

「な、なんだアレは!? 新手のヴィランか!?」

 

「!! 来やがったか!!」

 

予想通りに群衆はパニックを起こし、プロヒーローは俺を新手のヴィランと勘違いし、現場は阿鼻叫喚の地獄と化した。

一方の出久に狙いを定めていたヘドロマンは、突如出現した俺の方へと狙いを変えた。それを見た出久は、鞄をヘドロマンに投げつけて隙を作り、無事に勝己の元へと辿りついた。

 

「ぬ゛ッ!? だが、お前は後回しだ!! 喰らいやがれぇ!」

 

勝己を助けようとする出久をヘドロマンは無視し、ヘドロマンと勝己の個性が混ざった爆裂パンチが俺を襲った。

 

「SHIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「!!」

 

「あっちゃん!」

 

「ハハハハ! ざまぁみやがれ! 次はお前の――」

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

このバッタの肉体は高温に非常に弱い。しかし、勝己の“個性”はあくまで爆破であり、爆発によって「物を燃やす」と言うより、爆発の衝撃によって「物を破壊する」事に比重が置かれた“個性”だ。現に出久のノートも燃やしきれていないし、何度か勝己の“個性”を喰らっている俺の体が、その事を一番よく知っている。

 

確かに爆炎も発生しているので油断は出来ないが、この手の攻撃の対処方法は既に俺の中で確立されている。

 

「JYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「……は!?」

 

全身に絡みつき肉体を燃やし続ける炎を、俺は全身から超強力念力を発動して吹き飛ばし、更に火傷によって損傷した箇所を、『超回復能力』を用いて瞬く間に修復した。こんなプラナリア紛いの能力をバッタは持っていないと思うのだが、もう俺は気にしないことにした。

 

そして「貴様だけは、絶対に……ゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!」と言う感情が篭った、怒りの超強力念力を叩き込もうとしたのだが、突如ヘドロマンは取り込んでいた勝己を解放し、現場からの逃走を開始した。

 

「ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!! く、来るなぁああああああああああああッッ!! お、俺の傍に近寄るなぁああああああああああああああああああああッッ!!」

 

ヘドロマンは完全に怯えていた。しかしそんなヘドロマンに対して、容赦なく正義の鉄槌が下される時がやって来た。№1ヒーローのオールマイトの手によって。

 

「DETROIT……SMASH【デトロイト・スマッシュ】!!」

 

吐血しながらも必殺技を繰り出したオールマイトによって、ヘドロマンはバラバラに砕け散った。必殺技によって起こった風圧によって上昇気流が発生したのか、現場には雨が降り出していた。右腕一本で天候を変えるほどのオールマイトの活躍によって、群集は歓声を上げてオールマイトを讃えていた。

 

終わった。そしてこの状況下なら上手い事逃げられるのではないかと思った俺は、その場を去るべく高く跳んだ。しかし、この場には一人だけ文字通り「違う視点」を持つヒーローが居て、彼女に俺の行動は筒抜けだった。

 

「デ・コ・ピンッ!」

 

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

空中で逃げ場の無い俺は、巨大な中指によって文字通り虫けらの様に吹き飛ばされ、猛烈な勢いで地面に叩きつけられた。

 

 

●●●

 

 

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

 

「あ~~、そんなに謝らなくても良いですよ。慣れっこですから」

 

本日二度目の気絶から目が醒めると、俺は警察病院に搬送されており、今日からデビューとなったMt.レディが俺にひたすら謝っていた。

 

何でも彼女には、出久がヴィラン(つまりは俺)から逃げてヒーロー達に助けを求めた一般人に見えたらしく、俺とヘドロマンの戦いは「友達を助けに来た」と言うよりも「ヴィラン同士が獲物を奪い合っている」様に見えたとの事。そして、皆がオールマイトに気を取られている隙に立ち去ろうとした俺を目聡く見つけた彼女の手によって、俺は仕留められてしまったと言う訳だ。

 

今回の事件はオールマイトと出久、それに勝己が「俺がヴィランではない」事の証人になってくれたそうで、俺がヴィランである疑いは晴れたらしい。ちなみに制服はヘドロマンの爆裂パンチと、Mt.レディのウルトラデコピンによって消滅し、“個性”の解けた俺はほぼ全裸の状態で発見されたとか。

 

正直な話、“個性”を使ってヴィランだと誤認逮捕されるのは初めてじゃない。その都度、誤認逮捕したプロヒーロー達と話す機会が得られるのだが、「だが、私は謝らない」とか「紛らわしい見た目で、紛らわしい事をするお前が悪い」と言ってのける輩がいた事を考えれば、彼女はとっても良心的だ。

 

「ところで、あのヘドロマンはどうしたんですか?」

 

「恐慌状態に陥っているらしいわ。何でも『刑務所の方が安全だ』って言ってたとか」

 

彼女の話によるとあのヘドロマンは、俺に報復する目的でたまたま遭遇した勝己を取り込み、「よし! この“個性”ならオールマイトや怪人に勝つる!」と踏んでいたらしいのだが、それを正面から突破された事で心が折れたらしい。今では娑婆に出る事で俺と遭遇する事を恐れており、俺には二度と会いたくないと思っているらしい。

 

「……ねぇ。あたしが言うのも何だけど、貴方は自分の“個性”が嫌いじゃないの?」

 

「別に嫌ってはいませんよ? 確かに見た目で損する事の方が多いですけど、この“個性”のお蔭で出来た事も多かったですし」

 

「本当にそう? 別の“個性”なら良かったのにって思うこと無い?」

 

「……俺の“個性”は父親譲りで、父さんも昔はヒーローに憧れていたらしいんですが、色んな理由でヒーローになるのを諦めたそうです」

 

正直、見た目と言う点において、この“個性”は恐らく世界でも類を見ない程の恐怖を他者に与えるだろう。どんなに凄い事が出来ても、それらをぶっちぎりでマイナスにしてしまう圧倒的なルックスは余りにも致命的だ。

 

しかも、両腕に生えた棘の「スパイン・カッター」や、両手の爪「ハイバイブ・ネイル」。そして生え揃った牙である「ブレイク・トゥーサー」は、地球上に存在するあらゆる物体を切断することが出来る為、当時の科学技術では父さんのコスチュームを作る事が出来無かったのだと言う。

 

それらの理由から父さんはヒーローの道を諦め、科学の道に進んだ。同じ様な悩みと“個性”を持つ人間の助けになればと考えての決断だった。ただ、父さんの中ではずっとそれが足枷になっている様な気がするのだ。

 

出久のお母さんは出久が“個性”を持って生まれなかったことに責任を感じていたらしいが、俺の父さんは自分のバッタの“個性”を俺に受け継がせた事を後悔しているのだと思う。そうでなければ子供の頃に、「済まない、済まない……」なんて泣いて謝ったりはしないだろう。

 

「夢って言うのは、叶えられなくなったら呪いと同じです。呪いを解くには、夢を叶えるしかない。それなら俺はこの呪いを解いてみせる。この“個性”でプロヒーローになるまで、絶対に諦めないって心に誓ったんです」

 

「……私はね、自分の“個性”で色々辛い思いをしていたから、同じ様に自分の“個性”の所為で生きづらい思いをしている人達の希望になりたくて、ビッグなヒーローになろうって決めたの」

 

そう話すMt.レディは、巨大化の“個性”を持つが故に、過去に高校進学を生まれ持った“個性”を理由に断られ続け、最終的には北海道の農業高校へ進学したらしい。

 

「『“個性”の所為で辛い思いをしている人達の希望』……ですか」

 

「ええ、『“個性”に苦しんでいる人達の希望の象徴』。それが私の目指すヒーロー像よ」

 

この時、オールマイトに言われた「ヒーローになって何をしたいのか」と言う、プロヒーローになる上で一番大切な事と、Mt.レディが語った彼女の目指すヒーロー像が、俺の中でジグソーパズルのピースの様にピッタリと嵌った様に感じた。

 

それは俺がプロヒーローと言うスタートラインに立った後で、俺がこの“個性”で目指すべきゴールなのではないかと。

 

「……俺も、それを目指して、良いですか? 自分の“個性”に苦しんでいる人達の、希望の象徴を」

 

「! ええ、勿論よ。『相棒【サイドキック】』になりたいなら歓迎するわよ。なるとしても高校を卒業してからだけど」

 

その後、時間が遅くなった事を理由に、Mt.レディの相棒兼マネージャーが俺を家の近くまで車で送ってくれた。しかし、Mt.レディのヒーロー活動で発生した被害総額に関してブツブツ一人言を言っていたので、俺が高校を卒業する頃までに彼女がヒーロー活動をやっているのかどうかが心配になった。

 

色々と大変な一日だったが、俺の人生の明確な目標を見つけられたことを考えれば、かなり有意義な一日だった……と俺は思う。

 

 

○○○

 

 

デコピンで吹き飛ばされた呉島少年の様子を見ようと彼の病室を訪れた時、そのつもりは無かったのだが、彼とMt.レディの会話を聞いてしまった。そして彼がヒーローを目指した原点と、彼が目標としたヒーロー像を知った。

 

あの場の呉島少年の無実は、私と緑谷少年と爆豪少年で証明したが、警察の塚内君から呉島少年の事について聞いた時は流石に驚いた。彼は何度か自分の“個性”を使って人助けをしているのだが、その時にヴィランと間違われ、プロヒーローに逮捕された経歴がある事を知った。

 

かつて、全てを統べる絶対的な巨悪の中から、一つの聖火の様に受け継がれる正義が生まれたように、超人を肯定する世界の光の中から、世界を脅かす闇が生まれる事もある。人は誰もが“個性”を選ぶ事は出来ず、その“個性”を持って生まれたが故に、悪に堕ちてしまった人間もこの超人社会には確かに存在する。

 

呉島少年の境遇は正にそれだ。実際にそんなヴィランを何人も見てきた私から見れば、どうして今までヴィランになっていないのかが不思議な位だ。

 

そう考えると、自分の行動が情けないと思わずにはいられない。ヒーローとしての活動時間を気にするあまり、ヴィランに襲われた緑谷少年を助けた呉島少年を、ヴィランと間違えて攻撃するとは!

 

考えてみれば、彼の様な人間は数え切れない程いるに違いない。これから私が赴任する雄英高校にも、そんな悲しみや闇を抱えている子がきっといる。しかも、この手の子は光が強くなればなる程、それに伴って闇もまた深くなる傾向がある。

 

そんな子供達を救えずして何がヒーローか! いや、何が教師か!

 

元々は後継者探しを目的とした赴任だったが、これは私が教師として生きる為の第一歩だと思い至った私は、緑谷少年に『ワン・フォー・オール』を譲渡する為の肉体改造を目的としたトレーニングと同時に、呉島少年に対して何かしてやれないかとネカフェで調べ物をしていた。そして小一時間程経過した頃、コレはと思う記事を発見した。

 

その名も「自己肯定感を取り戻させるカウンセリング」。

 

振り返って見れば、私が間違えて攻撃した事を謝った時の呉島少年の目は、達観と諦観が見え隠れしていた。考えてみれば呉島少年は“個性”を使った時の自分の見た目によって、自分の善性や正義をずっと否定されてばかりだったのではないだろうか?

 

これはいけない。私が呉島少年にするべき事は決まった。後は方法を模索するだけだ。ふむ、効果があるのは、スポーツ、ゲーム、飼育体験、達成感、共感……か。

 

 

 

翌日。考えが纏った私は、早速呉島少年に会いに行った。

 

「私が来たーーーーーーーーッ!!」

 

「!? オールマイト!?」

 

「呉島少年! 私と一緒にこの犬とジョギングしながら、連想ゲームをして遊ばないか? あとこのサボテンもあげよう!」

 

「え? あ、はい」

 

呉島少年の困ったような顔は実に印象的だった……と言っておこう。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新【くれしま あらた】
 バッタの“個性”を持って生まれた本作の主人公。通称はもちろん「シンさん」。出自はライダーベビーのそれに近く、言うなれば『HERO SAGA』の二代目シンさん。主人公はデク君とは似て非なる境遇にしようと考えた結果、「親の“個性”を引き継いでしまった少年」と言う設定に。なんかギルスみたいだが気にしない。
 ルックスは若い貴虎ニーサンをイメージ。理由は『平成ライダー対昭和ライダー』で、メロンニーサンがシンさんの声を担当していたから。つまりはタカトラがバッタで「タトバ」って事ですね。分かります。

緑谷出久
 原作主人公。主人公の名前を貴虎にしたら、デク君の幼馴染が「かっちゃん」と「たっちゃん」になると思った為、主人公の名前を新にしたと言う経緯がある。この世界では当初、乱入した怪人バッタ男の被害者と見られていたが、本当のことを話してプロヒーローに怒られてしまった。後は原作通りの展開。

爆豪勝己
 どこぞのムッシュ・バナーヌ的なポジションで、恐怖を克服する事に執念を燃やすタフガイ。精神面に関しては、ある意味で原作以上に強化されている。主人公をぶっ殺すのは俺だと思っているが、それは「どんな状況でも必ず勝つ」主人公を超えるため。何だかんだ言っても、主人公の強さに対しては憧れがある。

Mt.レディ
 ニッチなファンが大勢いる駆け出しヒーロー。使用する“個性”の問題からか、作者にはどうしてもウルトラマンに見える。巨大化した大きさはウルトラマンの半分位で、光線も切断技も使用しないケド。
 ヒーローを目指した理由や出身高校については、スピンオフの『すまっしゅ!!』の設定を採用。実は彼女は当初ヒロインとして考えられていたと言う没設定を元に、主人公と彼女を絡ませてみた。お蔭でこの世界では原作より腹黒くない。



主人公の“個性”
 周囲には「バッタ」で通しているが、その見た目と能力は完全にS.I.C.の腹に黄色いコアがある「仮面ライダーシン」であり、正確には「バッタの怪人化」と言うべき“個性”。『仮面ライダーBLACK』のバッタ男でも『テラフォーマー』のバッタ人間でも無い。その姿は他の追随を許さない圧倒的な存在感を醸し出し、初対面の人間は高確率でヴィランと間違える。ついでにインベスみたいな声で叫びまくり、まともな会話は不可能。
 情報ソースが不確かではあるが、87%以下のダメージなら0.1秒で全快する回復力と、相手の感情などのあらゆるエネルギーを吸収して常に進化する能力も採用。昔はちゃんとウィキペディアにも載っていたし。ついでなので、同じバッタやイナゴモチーフの怪人ネタも出そうと思い、軽く調べてみると……。

『BLACK』……シャドームーン。
『ZO』……ドラス。
『クウガ』……ズ・バヅー・バ。ゴ・バダー・バ。
『555』……アークオルフェノク。
『剣』……ローカストアンデッド。
『響鬼』……魔化魍ウワン(蝉との合成怪人)。
『カブト』……ホッパーワーム(設定上で存在するらしい)。
『W』……ホッパードーパント。
『オーズ』……バッタヤミー。
『鎧武』……イナゴ怪人。

……凄い面子だ。

超強力念力
 原作で使用されなかったシンさんの超能力。個人的には映画『バイオハザード』シリーズの主人公アリスが『バイオハザードⅢ』で使っていた念力をイメージ。それにしても最終章の6作目は一体何時になるのだろうか?

超回復能力
 シンさんのチート能力その1。通常の人間の約50倍の細胞増殖によって、腕程度なら0.03秒で再生する事ができる。全身でも87%以上の肉体を奪われない限りは、0.1秒以内に全快する……らしい。バッタは足をもがれたら再生しない筈だが、まあシンさんだから気にしない。

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