日本のトイレの環境の良さは異常だと思う。
「あ、凛ちゃん。折角覚悟を決めたところ悪いんですけど。今日は日が悪いみたいなので外出は控えた方が……」
は、日が悪いって何言ってんのよこいつ。
私はそろそろ外に出ないとまずいのよ。
姉としての威厳ってものがそろそろ限界なの。
「聖杯戦争中なんだからある程度の危険は覚悟の上よ。さあ良いから行くわよ」
「仕方が無いですね。まあ、自分で見た方が早いかもですし」
一体何を言ってるのよこいつは。
さて、ついに遠坂家の玄関までやってきたわ!!
ここに来るまで実に長かったわね。
「むーむー」
でも、私は決めたのよ。桜の姉にふさわしい女になるって。
「むがーむがー」
だから、こんなところで躓いていられないの。
ってうるさいわよ間桐君。縛られて猿ぐつわをかまされたくらいでみっともないわよ。
ほら、何て言うのいざ外に出ようと思ったらやっぱりアサシンのセリフが気になっちゃってね。
試しにあんたを外に蹴りだしてみればわかるんじゃないかなーって思ったのよ。
ほら、いい考えでしょ?
「というわけで。栄光の外に向かって逝って来なさい間桐君!!」
私はドアを開けると迷わず間桐君を蹴りだした。
待つこと1分……2分……何だやっぱり何もないんじゃない。
「おい、大丈夫か慎二。今助けてやるからな。ちくしょう、心のどこかではまだ遠坂の事を信じていたのに。何でこんな事が出来るんだ!!」
え……あれ?
何かおかしくないかしら?
この声って衛宮君よね。
って駄目じゃない急いで誤解を解かないと!!
あわてて私も外へ一歩を踏み出す。そこには必死に間桐君の縄を外そうとする衛宮君の姿があった。
そして、その視線は何処までも冷たい。
この視線にルビをつけるとしたらエターナルフォースブリザードアイかしら? 私の心は折れる
「いやいや、誤解よ衛宮君。これには深いわけが……」
弁解を始めようとした時そいつは唐突に現れた。視覚化できそうなほどの死の気配。
青の絶望。
殺気を隠そうともしない絶対なる暴力。
そう、ランサーだ。何よあんた帰ったんじゃなかったの?
一度帰ったら諦めなさいよ。
「おい坊主ども。俺もこの家のもんには酷い目にあわされたんでな加勢してやる!!」
え、何? 何が起こったの?
いきなり何?
あ、わかったわ誰かドッキリ大成功とでも書かれたプラカードを持って現れるんでしょ?
いや、もうむしろ。
「現れなさいよ!!」
「はーい、呼びましたか」
お前じゃない。けど今はグッジョブよ。
こいつが来てくれればこの状況を何とか抜け出せるかもしれない。
「急に人が現れた!!」
「え、あらこんにちは。衛宮君でしたよね。昨日は驚かしちゃってごめんなさいね?」
よし、ナイスよアサシン。そうやってフレンドリーに接してなんかもううやむやにしちゃいなさい。
大丈夫まだ致命傷で済んでるはずだから。
ふふふ、遠坂の女は強いのよ
「……その服はまさか!! おい、慎二こいつだ。こいつが桜を……桜を……すまない本当に済まない。すぐ横に居たのに守ってやる事が出来なかった」
え、桜がどうしたの? まさか聖杯戦争にでも巻き込まれたの?
って言うかその手の痣は令呪じゃない。
まさかこいつもマスターだったの?
抜かったわ、衛宮家は安全だと思ったから桜を預けたのに。大事な彼女一人守り切れないへっぽこマスターの所に大事な妹を預けてなんかいられないわね。
「そうね、そろそろ桜を返してもらおうかしら? 貴方の所になんて預けていられないみたいだしね」
「貴様。桜は妹なんじゃないのか? それをそんな犬猫みたいに。渡さねえ、お前みたいなやつに絶対に桜は渡さないぞ」
あら、少しはガッツがあるじゃない。
わかったわ。これが噂に聞く『お父さんお宅の娘を俺に下さいってやつなのね』
犬猫って言うのが何のことかわからないけど、あの子の唯一の肉親として一発殴らせてもらうわよ。
「何かはやてちゃんとの仲がすれ違っていった時を思い出しますね」
「おい、構えな坊主共。どうやら奴は戦闘態勢に入ったみてえだ。ちっ、そっちの縛られてる坊主を助けてる暇がねえ。おいそこの赤毛の坊主、お前は何が出来る?」
「俺は三流にも成れない魔術師だ。出来ることと言えば親父に仕込まれた強化魔術位しかない」
強化魔術? 随分とまた微妙な。
衛宮君のお父さんは一体どんな教育をしたのかしら?
というか、桜の子に継がせる魔術刻印として衛宮君は失格かしら……
「でも、俺はもう正義の味方になる資格は無くなったんだ。だからもう自重は捨てた!!」
え、あれ。その重火器の山は一体どこから出したのよ。
流石にあの量はやばいわ。
「アサシン、転送」
「へっ、予想以上だぜ坊主。この俺を前にして俺から視線を逸らすことの意味教えてやるぜ」
「しまっ」
「させません!!」
ランサーの進行を防ぐようにアサシンの束縛呪文が襲い掛かる。
「しゃらくせえ」
アサシンの束縛呪文など軽い紐の様に破りながら突き進む。
しかし、いつの間に準備していたのかその数は10や20ではきかない。突破するころにはこちらも体制の立て直しをする時間が稼げた。
「仕方が無いわね。ここは一時撤退しましょうアサシン。どうやら今は時ではないみたいだからね」
そう、私はまだ衛宮君を殴りつけていないのだ。
というか、ランサーが邪魔で殴れそうもないし。
「時……まさか学校の結界の事か?」
え、何それ。どこかの陣営が学校を拠点にでもしたのかしらね。
でも良いことを聞いたわ。ここしばらく学校に入れなかったのなら私ひきこもりじゃないじゃない。
学校に入れないから仕方なく家に居ただけなのよ。
「それじゃあね」
「逃がすか!!ゲイ・ボルグ」
あれ、これもしかして死んだんじゃないかしら私。
ゲイ・ボルグってあれよね。クーフー凛……もといクー・フーリンの持ってるって言う。
やばいこいつ予想以上の大物なんだけど。
狙いはアサシンみたいだけど、余波だけで軽く死ねるわ。
桜、私が消えても清く正しい交際を心がけるのよ?
そして気が付いたら私は遠坂家のトイレの中だった。
あ、なんかここ落ち着くわね。
それにしても起床時間のほとんどをトイレで過ごす遠坂凛なんて数ある平行世界の中でも私だけじゃないかしら?
「うん、お外怖い。私もう一生トイレで過ごすわ」
「何馬鹿なこと言ってるんですか。ほら、早く出ますよ」
「ヤダ、怖い」
そうよ、トイレこそが私の理想郷なの。
つらい現実から逃避できる私の唯一の場所。
冷静になって考えるとさっきのは何よ。妹の恋人に完全に悪役だと思われてるじゃない。
やり直しを要求するわ。
あ、このインテリア安かったけど意外にかわいいわね。
「むがーむがー」
「答えは得たわ。大丈夫よアサシン、私はこれからもトイレで過ごすから」
「はあ、転送地点をトイレに設定したのは間違いでしたかね。それじゃあ中に居ていいですからせめてドアを開けてくださいよ」
うん、まあそれくらいなら妥協してあげるわ。
絶対に外には出ないけどね!!
「むーむーむー」
「それでさっきのはどういう事よ。あれはランサーよね? さっきもう帰ったって言ったじゃない」
正直尋常な殺気じゃなかったわよ。本当に何したのよ貴女。
ゲイ・ボルグって事はクー・フー・リンよね。大英雄も大英雄じゃない。
その大英雄があそこまで殺しに来るって普通は無いわよ。
「ええ、どうも私ランサーさんに嫌われてるみたいなんですよね。特に何かをした覚えはないんですが。だからさっきのは戦いの気配でも感じて慌てて戻ってきたんだと思います。決して遠坂家周辺にセンサーが仕掛けられたわけでは無いです」
うわぁ……それ、絶対に何かをした覚えが無いって嘘でしょ。
何をやらかしたのかしら。
全く、私が悪役に勘違いされたのはきっとこいつのせいね。
「って言うか、さっきは何で助かったの? あれ転移間に合わないタイミングだったわよ」
「え、胸に穴が開きましたけど。死ななければ安いってやつでもう治しました(本当は私はプログラム体だからどうしても人とは体の構造が違うからですけどね)」
「やれやれ、あんた本当に人間止めてるわね。ところで今最後良く聞こえなかったんだけど?」
「今凛ちゃんが言った事が全部ですよ」
「何の事よ?」
「さあ、何でしょうか?」
「むむむむむー」
「そう言えばさっきからうるさいけど間桐君も一緒に転移したのね」
「ええ、一応同盟相手ですから」
「ふーん、まあどうでもいいか」
「むむむーむがーむがー」
くそっ慎二が居ない!! 人質のつもりか? ちくしょう、また俺に力が無いばかりに。
おい坊主。早く召喚しないと死ぬぞお前。
何せやつは死を操る魔女だからな!!
追伸
上の文章を打つときに「何せ八つ橋を操る魔女だからな!!」って誤変換されて痛み止め吹いたw