凍り付いた空気。それを破ったのは、憤怒の形相から一転、挑発的な笑みを見せたアーチャー。彼は器用に街灯の上にたったまま、ズェピアに声を掛ける。
「我が真名を識るか吸血鬼。……フッ、成る程な。その知恵に免じて先程の無礼は赦す、そこな雑種と話を続けろ」
「ふむ、恩赦を戴き感謝感激の極みだよギルガメッシュ王。さて、セイバー君、私の願いだが……」
話しを続けろと言うアーチャーとその言葉通りに話しを続けようとするズェピア。彼等は至極当然といった風に行動しているが、その行動に理解が追い付いていない者も当然存在する。例えば、現状がサッパリ判らないのに2人に声を掛けられたセイバーとか。
「待ってくれバーサーカー、出来れば先に何故アーチャーの真名がわかったのか教えてほしい」
「ふむ、少々セイバー君には難しかったか。仕方ない、教鞭など久しく執っていないが、授業といこう」
そう言うズェピアは既にワイシャツとジーンズに戻っており、近くのコンテナを爪で切って教鞭らしき物を作るとペシリと音を鳴らした。未だにニヤニヤと笑っているのが締まらないため玉に瑕だが、なかなか教師が板に付いている。
「さて、まずは彼、ギルガメッシュの最初の戦闘についての解説から始めよう。まぁ最初に結論から言っておくと、ギルガメッシュのマスターは阿呆と言えるだろうね。まぁ、魔術師なんて殆ど阿呆か馬鹿しかいないのだが」
身も蓋も容赦も無いズェピアの断言に、ギルガメッシュは自分のマスターが貶されたというのに声を上げて笑い、セイバーは疑問を投げる。
「どういう意味だバーサーカー?」
「それは今から説明しよう。さて、彼、ギルガメッシュのマスターこと遠坂時臣は五つのミスを犯している。まず一つ、アサシンは実体化したとはいえ、気配遮断スキルは健在。にもかかわらず、アーチャーが一瞬で察知、撃滅した点」
セイバーはその指摘に概ね納得するが、気になった事を指摘する。
「それだけでは、遠坂とやらがアーチャーに偶々周囲の警戒を命じていただけかもしれないではないか」
「そうだね。だが二つめ、弟子が師匠を殺すならわざわざ敵対した挙げ句出奔するなどせずに弟子のままで居て師匠が油断した隙に遅効性の毒を飲ませる方が楽な点。この二つに思い至った時、私はまず、第一戦が『八百長試合』ではないかと考えた。これは、遠坂時臣がアサシンを撃滅したにも関わらず、冬木教会に逃げ込む前に言峰綺礼を抹殺しようとする素振りも見せなかった事から明らかだ」
「バーサーカー、それは遠坂が逃げる相手の背を斬りつけるを良しとしなかったからではないのでしょうか?」
「確かにセイバー君やランサー君のような騎士ならばそうはすまい。だが、遠坂時臣は魔術師だ。そうだな……マーリンに魔術師としては二流な弟子が居たとしよう。その不出来な弟子がマーリンを殺そうとしてタダで済むと思うかね?」
「成る程、よく判りました。マーリンならば逃げる隙も与えず殺してしまうでしょうが、遠坂にその素振りすらないのはおかしいと言うわけですか」
「その通り。では、ギルガメッシュの真名に繋がる残り三つを一気に挙げてしまおう。科学を舐め過ぎな点、見せつけるように使い魔が侵入するのを許容した点、アーチャーに一撃でしとめるように言わなかった点の三つだ」
「ふむふむ」
いつの間にやら、ズェピアの授業はセイバーだけでなく、ライダー、ランサー、アーチャー、アイリスフィールとウェイバーも耳を傾けるモノとなっているが、ズェピアは気負うことなくペラペラと口を動かす。
「さて、まず科学と使い魔から行こう。コレは単純な話なのだが、一部始終を小型カメラを付けた複数の使い魔に撮影させ、ギルガメッシュの宝具、行動などを完璧に記録しただけだ。そしてそれを分析し、思考実験などを行った。次のアーチャーに一撃でしとめるように言わなかった点は分かり易いだろう?」
「……大量の宝具を見たからか?」
「その通り。そして、私の考えだが。まず、大量の宝具を持つであろう英霊をあらゆる伝承から抽出した。次にその顔立ちから西洋人だと当たりを付け、その次に数ある中からプライドが高く傲慢な英雄を絞り込み、更にその他100回の絞り込みを経た結果、アーチャーはギルガメッシュ王に違いないと読んだわけだ」
そう言ってペシリとズェピアは教鞭を振り、次の話題へと移る。
「さて、いい加減私の願いを話そう。私の願いは受肉だ。」
一切気負う事無く放たれたその言葉は、常識的に考えて到底聖杯無しで叶ったとは信じがたく。されどアーチャーは実に愉快だと言わんばかりに笑ってズェピアへと声を掛ける。
「気に入ったぞ吸血鬼。貴様、道化として我に仕える事を赦す。有り難く思え」
「ふむ、それは幸甚の極み。此方も同盟相手が欲しかったのだよ」
此処に、聖杯戦争史上最悪最狂の同盟が成立した。
----運命の歯車は狂い、喜劇は紡がれる。