Fate/Zepia   作:黒山羊

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+3days PM5:49 『異状発生』

 夕暮れの街。その陰を縫うように走るのはパーカーのフードで顔を隠した異様な一群。三人一組のスリーマンセルで迅速に獲物を狩っていく彼等は疲労の影を一切見せず、黙々と作業をこなす。

 

 だが、疲労はなくとも疑問はある。

 

 彼等が狩りを始めてかれこれ三時間。既にその短刀で百の獲物を刈り取り、スリングショットで千の獲物を貫いたというのに、何故に獲物の数が減らぬのかと。

 

「マリク、綺礼様には連絡したか? この数は異様だぞ」

「うむ、既に携帯電話を用いて連絡済みである。故にモハメドよ、喋るより手を動かすが良い」

「そりゃわかってるが、キリがないんだよなぁ……」

 そうこぼしてしまうのも仕方がないほどの数の暴力。

 

 アサシン達は辟易しながらも短刀を投げる手を止めず、単純作業に明け暮れるのだった。

 

 

--------

 

 

 一方此方は四人一組。セイバー率いるキャメロットの騎士達はアインツベルンの森に侵入した怪魔達の処理に追われていた。

 その装備は城に置いてあったロングソードをアイリスフィールが錬金術で強化しただけの質素なものだが、各々の技量で充分に強化されたその太刀筋は迷うことなく怪魔を切り裂いていく。

 

「ランスロット、そろそろあれを」

「了解した」

 

 そう言って積み上げられた怪魔の死体が回復するより先にランスロットが灯油で焼き尽くす。正直に言ってスーツ姿の彼が20リットルタンク片手に死体を焼く光景は何というか、強面と深紫の髪に相俟ってヤクザの死体処理にしか見えない。

 ちなみに、彼が死体焼き担当なのはセイバーとガウェインが焼き加減をミスして上手くトドメを刺せず、モードレットが自爆でスーツの裾を焦がすというハプニングが原因であり、彼がやりたくてやっているわけではないのだと此処に明記しておく。

 

「しかし姉さん、話には聞いていたがキリがないな」

「ええ、あのキャスターの物量は異様なレベルですから。……しかし、今回は私へのストーカー行為でもなく、本格的な攻撃とも言えない散発的な怪魔の群れ。キャスターの意図が読みかねますね」

「オレ達を心理的疲労で追い詰めるつもりなんじゃないかな……?」

「それならばキャスターはもっと外道な手段を取る筈です。……ふむ、こういう搦め手は我々には思いつかないので何ともいえませんね。切嗣はキャスターの意図が読めますか?」

 

 そう問い掛けるセイバー、この場に切嗣がいない以上、何も知らない者が見たとすれば意味の分からない行動。だが、近代兵器のインパクトで忘れられがちとはいえ衛宮切嗣は魔術師である。

 

 セイバーの着るスーツ。そのネクタイピンに仕込まれた会話用の魔術装置はセイバーの呟きをしっかりとマスターに伝えていた。

 

『喋る暇があるなら手を動かしてくれないか、セイバー』

「手は抜いていません。……そもそも、キャスターが直接操っていないのであれば、この程度の魔物は私にとって何の障害にもなり得ませんから」

『それなら良い。……キャスターの目的だったかい? まぁ、十中八九「釘付け」が目的だろう。詳しい事はランスロットに訊いてくれ。…………君と違って僕にはこの化け物は手強いからね』

 

 そういう切嗣の声の背後で断続的に魔獣の雄叫びのような砲声が聞こえて居る辺り、本当に忙しいのだろう。

 

 実際彼は城の屋上にミニガンを据え付けて孤軍奮闘しているのだから忙しいなどというレベルではないのだが、それに対する理解をセイバーに求めるのは酷だろう。

 

 

「ランスロット、切嗣のいう『釘付け』とは何です?」

「……陽動作戦の内、死兵を用いて敵を一定の地点で足止めする作戦です。普通ならば兵士を無駄遣いするため余り有効な手段ではないのですが…………」

「キャスターの無限の兵力があってこその手段ですか……つくづく贅沢な戦術が好きですね、あの『元帥』は」

「ガウェイン、そこはオレ達の貧乏ブリテンと違ってアイツは国家予算並の私財を持ってたんだから仕方ないんじゃないか?」

 そう返すモードレットにガウェインが納得したように『あぁ、成る程』などと言っている。騎士らしいが天然なガウェインと騎士らしくないがしっかり者なモードレットの従兄弟コンビは中々しっかりかみ合っている。カムランの丘の悲劇が起こらなければ、こんな光景もあったのだろうかとふと思うセイバーは、徐々に『聖杯に託す願い』を変質させつつあった。

 

 

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 さてさて、三人一組、四人一組と来て、お次は二人一組。歩幅の合わない二人三脚が微笑ましいライダー陣営は夕焼けの空を駆けていた。

 

 と、いうのも一時的な同盟関係にあるバーサーカー陣営からのたっての希望があったからだ。

 

「うわぁ、本当に街中怪魔だらけだぞライダー。……空飛べて良かったよ、本当に」

「まぁ、流石に街中で『遙かなる蹂躙制覇』をぶち込む訳にはいかんしなぁ。それは兎も角、頼まれた『偵察』は出来とるのか、ウェイバー?」

「今やってるよ。……だけど、バラバラと怪魔が居るだけでキャスターの魔力は見つからない。……気になるのは川には怪魔が少ない事だけど、川には人間が居ないから当たり前なんだよなぁ」

 

 そう言ってウンウンと唸るウェイバーに、ライダーはゆっくりと戦車を旋回させつつ問い掛ける。

 

「おいおい、流石にキャスターの魔力が一切無いってのは変だぞ? これだけの召喚をしてるなら痕跡位はあるんじゃないのか?」

「そう言われても無い物は無いんだよ……」

 

 心底困ったという表情で眼下の街を双眼鏡で覗き込むウェイバー。

 

 異変が起こったのはまさしくその時だった。

 

「なっ……!?」

「ん? どうしたウェイバーよ」

「怪魔が、怪魔が消えた!!」

「はぁ?」

 

 訝しむライダーだが、事実街から一瞬にして怪魔が消えたのは紛れもない事実。セイバー陣営、アサシン達、間桐陣営を含めたあらゆる陣営が困惑する中、続けざまに次なる異変が発生した。

 

 その瞬間、ライダーは突如として自身にかかる負担が増加したことを察し、全力で降下、困惑するウェイバーを担いで戦車から降りるなり戦車を収納し霊体化した。

 

 普段から実体化に拘っているライダーのその行動に流石にウェイバーも異常を察し、問いを投げる。

 

「おい!? いきなりどうしたんだよ!?」

「……落ち着け、ウェイバーよ。……しかし、これはかなりマズいなぁ」

「…………何が起こったんだ?」

 

 今度はゆっくりと問うウェイバーに、ライダーは一つの、とんでも無い異常を伝える。

 

 

 

「…………聖杯からのバックアップが途絶えた」


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