さて、ウェイバーとライダーは、現在お好み焼き屋を訪れていた。時刻は丁度正午。腹の虫をなだめるべく店に入った2人は奥の座敷でくつろいでいる。
「しかし、お主の昨日の願いはなかなか上策だったな、ウェイバーよ」
「……『並列思考の取得』だろ? まぁ、二つしかないけど、それでも前とは段違いだからな。……軍師がトロいのはマズいだろ、ライダー」
「然り。軍師たるもの常に冷静に頭を捻らねばならん。……だがしかし、その真価を発揮するのがツッコミなあたりが、お前らしいよなぁ?」
「それを言うなよな」
そう言って膨れてみせるウェイバーにライダーはガッハッハといつもの豪快な笑い声と共にこんがり焼けたお好み焼きを寄越す。そのソースと鰹節の香りに釣られてチマチマ食べつつ、ウェイバーは昨夜の宴会を回想してふと呟く。「そういえば、何でお前だけ馬だったんだ?」
「さぁなぁ? ブケファラス以外は忙しかったのではないか?」
「忙しい…………?」
「英霊ってのは案外暇がないんだぞ? 巨大隕石から地球を救ったり核戦争を阻止したりしなきゃならんからな」
そう言って、ライダーはお好み焼きをバクリと喰らう。普通、お好み焼きは一口で半減しないのよな、などと思いながら、自分のサーヴァントのデカさに呆れるウェイバーだが、そんな中、偶々見覚えのある男が来店した事に気付く。
「なぁ、ライダー。…………あれ、バーサーカーだよな?」
「ん? おぉ、ありゃあ確かにバーサーカー。女連れとは羨ましいが……見覚えの無い連れだな」
その声に此方に気づいたのか、ズェピアと連れの少女達はテクテクとウェイバー達に近寄ってくる。
「やぁ、昨夜ぶりだねライダー君、ウェイバー君。……相席宜しいかな? どうにも他の席は家族連れらしくてね」
「おぅ、構わんぞ?」
「おい、相談する素振りくらい見せろよライダー……別に相席自体は良いけどさ」
そんな会話をしつつ座席を移動するウェイバーとライダー。結果的に丁度女性陣と男性陣が向かい合わせに座る形になる。
「……で、バーサーカーよ。そっちの連中は誰なんだ? 余の勘では人間ではないようだが……」
その質問に2人組の左側。赤毛の少女が鈴の音のような美声を不機嫌そうに響かせる。
「私を知らないなんて、随分古いのね、この猪は。……まぁ、マネージャーの知り合いみたいだし、串刺しは勘弁してあげるわ」
「君も有名なのだがね、エリザベート君。……紹介しよう。竜の血を引く美少女で、趣味はお風呂、最近頑張っているのは料理。ギター片手に音楽業界に殴り込みを掛ける……予定の吸血系アイドル、エリザベート・バートリー君だ」
「しっかり脳味噌に刻みなさい、さもないと物理的に刻み込むわよ!」
そう言ってビシリと指を突きつけるエリザベート。まぁ、その姿にツッコミを入れない訳には行かず、ウェイバーは冷や汗と共に口を開く。
「いや、何で血の伯爵夫人がアイドルなんだよ…………」
「あら、ナイスレスポンスよ、チワワ。まぁ、アイドルについて語りたいのは山々なんだけれど、長くなるから今は良いわ。私のバンドメンバーを紹介しないとだし」
そう言ってチラリと横に座る長身白髪の男性に目をやるエリザベートに釣られて、ウェイバーとライダーの目線も動く。視線を集中させられた男性は優雅な所作でお冷やを飲みつつ、挨拶を返す。
「私は、ヴラド三世。またの名をヴラド・ドラクリヤ。かつてルーマニアを統べた王だ。……此度はある条件をもとに現界している」
「……と、いうわけで、ヴラド君だ。まぁ、彼の依頼は既に完遂しているのだが」
「む? 気になるではないか。何なのだ? その願いとは」
征服王の疑問に、ヴラドは苦笑を浮かべて返答する。
「私の伝記をしたためて出版するという契約でね。……忌まわしいドラキュラの名を少しでも薄められればよいのだが」
「む。……あぁそうか。お前さんは謂われのない悪名を背負っとるんだったな」
「然り。我が国、我が治世に悔いはない。故に何の理由もなく貶められるなど耐えられんのだ。……聖杯を得る事が出来ぬならば、出来る範囲で汚名返上をしなければなるまい?」
そう言って穏やかな物腰で話す彼は、成る程確かに伝承の吸血鬼とは思えない。にも関わらず、何故ズェピアに召喚されたのかとウェイバーは思考を巡らせる。そんな彼の表情を読んだのか、ヴラドは注釈を付ける。
「……不名誉な事に、私は吸血鬼化のスキルを所有している。彼に呼び出されたのはそれが原因だろうな。それと、言い忘れだが、私はキーボード担当との事だ。……人質時代にチェンバロを覚えたとはいえ、昔とった杵柄レベルなのだが。あと、趣味は裁縫だな。…………私の自己紹介は以上だ」
そう言って口を閉ざすヴラドは、お好み焼きのメニューに没頭する。
そんな中、ウェイバーは流石にズェピアの行動を察していた。
「発動したのか? 固有結界?」
「あぁ。そろそろ良い頃合いだからね。時間があるときに敷設しておかないと」
彼が何気なく告げるその言葉はどうしようもなく重大で。
嵐の気配を感じさせる物だった。