Fate/Zepia   作:黒山羊

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Interlude-⑨ 『宴会翌日・槍弓side』

 さて、今度は切嗣のシャウト先であるランサー陣営。彼等は今、各々思い思いの朝を過ごしている。

 

 モラルタ、ベガルタ、ゲイ・ジャルグ、そしてゲイ・ボウ。それら四つの武器を切り替えて朝のトレーニングを行うランサー。

 

 紅茶を飲みつつ、昨夜の会談で得た情報から新たな礼装を制作するケイネス。

 

 そして、今日も朝の『読書』を楽しむソラウ。

 

 そんな中、昨夜と異なる点と言えば…………。

 

「ふむ、やはり広々とした拠点は良いものだな」

「ええ、あなたの『拠点の拡張』という願いはシンプルイズベストだったと思うわ、ケイネス」

「訓練場を造って戴いたおかげで、我が槍の冴えも一層鋭くなっております」

 というわけで、拠点が巨大化している。前回の反省から高層化はせずに二階建ての庭付き一戸建て邸宅へと変化したランサー陣営の拠点は訓練用の中庭を備えた他、強化魔法による住宅自体の強度上昇、多重結界による敷地内への侵入阻止、十重二十重の致死トラップ。

 

 現在、ケイネスが構築しているのはそれに加えてより防衛力を上げるために配置する、番犬代わりのゴーレムである。

 

「ふむ、こんな所か」

「ケイネス様、それが昨晩言っておられた『月霊髄液・改』ですか?」

「あぁ、まず魔力供給をバッテリー式にした。勿論、魔力炉などに接続したまま運用する事も可能なうえ、緊急時には私からも魔力を供給出来る。まぁ、バッテリーでも一日は駆動出来るので、普段はバッテリーで充分だし、この敷地内では常に魔力炉と接続しているのだがな。次に、圧力感知力を更に強化し、周囲の音を拾うことで擬似的な視覚すら持つに至った。最後に、学習機能を付け足した事で、私がいちいち指示せずとも行動出来る。私とソラウには攻撃出来ないように設定しているので安全性も万全だ。昨夜のホムンクルスから自律性と単独行動性を盛り込むことを閃いたのだ」

 

 そう自慢げに語るケイネスに、ランサーはふと気になった部分を指摘する。

 

「む、私には攻撃可能なのですか……?」「あぁ。だが、悪意あっての事ではないぞ、ランサー。そうだな、テストも兼ねて実演と行くか」

 

 そう言ってケイネスが指を弾くと、『月霊髄液』はその姿を、人型へと変じさせる。腕の様な部分の先に長い棘を生やしてぎこちなく構えるその姿は、どことなくランサーに似ている。

 

「これが、『月霊髄液・人間形態』。まぁ、何だ。お前も手合わせする相手は必要だろう、ランサー? たかが傀儡だが、油断はするなよ? この礼装は敷地内ならば不死身だ。どれだけ切り飛ばされても回復する。その上学習機能も付加されているのだ。すぐに追い付かれるかも知れんぞ。……あぁ、ランサー。流石にゲイ・ジャルグには弱い。訓練用の槍を使え」

「有り難き幸せ!! より一層訓練にも身が入りまする!!」

 

 そう言って訓練場の真ん中で槍代わりの鉄の棒を構えるランサーと、その動きを真似ているらしい月霊髄液。暫く、軽い打ち合いをしていた両者の動きは次第により熾烈なモノとなり、訓練場に闘気が満ちあふれる。一度受けた手は二度と受けない強敵を相手にランサーの口元は獰猛な獣のように弧を描く。

 

 その姿を見てデータを採りつつ、ケイネスは独白する。

 

「ふむ。月霊髄液との打ち合いでランサーは強化され、それに合わせて月霊髄液は進化。結果として拠点の防衛力が増加し、ランサーは鍛え上げた武を背後を気にせず振るえる。……我ながら、完璧なプランだ」

 そうこぼすケイネスに、普通ならば誰も異は唱えない。それほどにケイネスの編んだ策は素晴らしい物だ。だが、策ではなく、在り方に口を挟む者が一人。婚約者のソラウだ。

 

「駄目よ、ケイネス。天狗にならないと誓ったのは貴方だったでしょう?」

「む……。すまない、ソラウ。いや、ありがとう。危うく、以前の私に戻る所だったよ。この国では『勝って兜の緒を締めよ』というからね。策が成った時こそ、気を引き締めねば」

「その意気よケイネス。あなたはランサーとカップリン……じゃなくて、コンビなのだから。ランサーの武を使いこなす策士でなくっちゃ」

「あぁ、まだまだ努力が必要だな。ならば、早速次の作戦を練ろう。一分一秒が惜しいからね」

 そう言って顔にかかる髪を払い、再び魔術に没頭するケイネスと、その姿に微笑みつつ戦場を颯爽と駆ける主従を『妄想』してニコニコ笑顔のソラウ。そして、地獄の訓練を受けながらも楽しそうなランサー。

 

 

 努力を尽くす天才という怪物に着実に近付くケイネス達は、今日も地道に足元を固めるのだった。

 

 

--------

 

 さて、努力と言えば、やはり遠坂。泳ぐ白鳥よろしく優雅に振る舞うために水面下で途方もない努力を積む、ある意味脳筋なこの血族の現当主、遠坂時臣は、自室で紅茶の香りを楽しんでいた。

 

 そんな中、部屋の隅にあるソファに座るのはぐったりとしたギルガメッシュと肌を艶々と光らせているエルキドゥ。

 昨夜の『多少の面白み』補正なのか、それとも素なのか、時臣が願ったのは『エルキドゥの召喚』。妙な所で頭を働かせた時臣が『ギルガメッシュを触媒にして』召喚したため、性能はどこぞの騎士トリオよりはマシなオールD。宝具はないものの、スキル「気配感知」Eランクながらも所持しており、不意打ち対策には充分なステータスを持つエルキドゥの召喚はまぁ、比較的良い策だっただろう。

 

 が。英雄王からすれば、ある意味で災難だった。まぁ、ナニが災難だったかは言うまいが、ソラウさんが迸るパトスで神話に成りかねないとだけ言っておく。

 

「ごめんよ、ギル。今度から手加減するから」

「……頼む。今の我は意外にピンチなのでな…………現界を保つのも辛……く…………」

 そう言い残してギルガメッシュはガクリとソファに沈み込み、泥のような眠りに落ちる。エルキドゥは肉体スペック特化なのに対し、ギルガメッシュは宝具特化。

 

 今の今まで不眠不休だった彼が爆睡するのを誰が笑えようか。

 

 そんなギルガメッシュの頭を膝に乗せ、優しく頭を撫で始めたエルキドゥ。その様子を見ていた時臣は、ふと気になった事を質問する。

 

「エルキドゥ様」

「なんだい? 遠坂時臣」

「申し上げにくいのですが、貴方の性別が少々気にかかるのです。男性なのか女性なのか…………」

 

 その質問に、エルキドゥは、むぅ、と口に手を当てて暫し考えを巡らせる。

「うーん。今は女の子だよ? 膝枕はやっぱり女の子じゃないとね。男の子だと柔らかさが足りない」

「今は……? つまり、性別を切り替えられるのですか?」

「本来は姿も自在なんだけどね。弱体化したから現状では若干しか変化がないんだよ」

 

 性転換は若干なのだろうか? という疑問を、時臣は紅茶で飲み下す。

 

「ふむ。理解しました。妙な質問をしてしまい申し訳有りません、エルキドゥ様」

「あはは、そう畏まらなくても良いよ? あぁ、それと、僕の性別は面倒だから男の娘って事で宜しくね」

「……分かりました」

 

 正直余計に面倒な気がする。そんな感想と共に『エルキドゥは天然系』と脳に刻み込んだ時臣はふと思いついた次の質問を口にする。「……時に、英雄王の事なのですが……昨夜小耳に挟みましたが、お好きなのですか? 恋愛的な意味で」

 

 時臣のストレートな質問に、眠って居るはずのギルガメッシュの耳がピクリと動く。が、それに気付いたのはエルキドゥのみ。

 

 確かに視界に収めているのに、気付かない辺りT.U.E.-遠坂うっかりエフェクト-は未だに猛威を奮っているらしい。

 

「うーん。恋愛より家族愛かな。ギルは、なんか手の掛かる弟って感じなんだよね。目を離したらすぐに訳分かんない法律作るし、こっそり遊びに出かけるし。でもそこが可愛いんだよね。なんて言うの? あれだ『馬鹿な子ほど可愛い』ってやつ? もうね、ギル可愛いよギル。例えば昨日もお風呂で…………」

「わぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 何やら絶叫しつつ飛び起きた英雄王。が、素早くエルキドゥに捕獲され、その膝にちょこんと座る羽目になる。

 

「む、おはようございます。王よ」

「おちおち寝ていられんではないか!? 何コレ。我、虐められてない?」

「パニクったギルも可愛いねー。地味にレアだし?」

「~っ!! …………ハァ。厄日から厄年に変更かもしれぬな、我の運勢」

「悟ったみたいな顔してもお姉さんの追撃からは逃げられないゾ?」

「うわぁ、ウゼェ」

 

 完璧に童心に帰っている2人と、38度のヌルい眼差しでそれを見つめる時臣。

 

 

 

 相も変わらぬギルガメッシュ陣営は、今日も余裕を持って慢心していた。

 


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