Fate/Zepia   作:黒山羊

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土日に地元に蜻蛉返りし、結婚式に参列してきました。

花嫁さんというのはやはり美しいものです。

しかし、フルコース描写の後にフルコースを食べることになるとは……(笑)




Interlude-⑧ 『宴の翌日・狂剣side』

 朝。昨夜の宴会の影響か、雁夜が目を覚ましたのは日が昇ってから数時間たった午前九時。隣にある桜の布団には、既に桜の影はなく、リビングから『白き月姫ファンタズムーン、次回も見てね! マーブル~、ファンタズムっ!!』などと子供向けアニメの音声が流れている。

 

 そんな中、部屋の中で異彩を放つ存在が一人。フリルなどの飾り気を排し、エプロンに幾つかポケットを付けた機能性重視のメイド服を着た小麦色の肌を持つ女性。ぴょこんとハネた触角の様な一房の前髪が可愛らしいが、その表情は非常に薄い。

 

 その顔を、雁夜はどこかで見た気がした。

 

「……マスター、間桐雁夜の起床を確認」「……誰だ? ……いや、待て、どこかで」

「私はラニ=Ⅳ。我が師、ズェピア・エルトナム・オベローンに錬成されたホムンクルスです。……覚えておられますか?」

「……らにふぉー?」

「……昨夜の記憶を失っているのですね、マスター雁夜。……黄金の聖杯に何か願いませんでしたか?」

 

 その質問に数秒考えを巡らせていた雁夜は、唐突に昨夜の記憶を取り戻した。

 

「ああぁぁぁ!?」

「思い出されましたね、マスター雁夜」

「『ズェピアの錬金術が観たい』って願った気がする…………」

「その通りです。貴方は余興として錬金術の披露を要求し、ズェピア師がそれを実行。師が生前使用されていたホムンクルスである私、ラニ=Ⅳを再錬成なさいました。その後、血中のアセトアルデヒドの増加現界に達したマスター雁夜が睡眠を開始。此方の隠れ家までズェピア師によって転移させられ、今まで休息されていました」

 その説明で改めて状況を把握した雁夜はがっくりとうなだれる。酔っていたにしては、悪くはないが良くもない願いだが……。

 

「……どうせなら、もっとマシな事を願えば良かった」

「……? マスター雁夜、ズェピア師は錬金術師です。錬金術師が錬金術を取り戻したのは喜ばしい事では?」

「……いや、まぁ、そうなんだけど。…………この聖杯戦争がロールプレイングゲームに似ているのは分かるか?」

「えぇ、それが何か?」

「ロールプレイングで一番大事なステータスは、ズバリ幸運だ。幸運って奴は、命中、回避、クリティカル、アイテムドロップにエンカウント率と、多彩な状況に補正を掛ける。それを上げとけば良かったと思ってな」

「成る程。確かにその理論は理解できます。が、それは対象が通常の錬金術師だった場合です。私の師、ズェピア・エルトナム・オベローンの錬金術は並の錬金術師を山と積まねば届かぬ領域です。普通、ホムンクルスとはパーティーの余興程度で気軽に、それも適当な生ゴミから作る物では無いのですよ?」

「……ちなみに、普通だと?」

「大量の人間の遺伝子サンプルから適切な物を選び、素材を選定し、術式を構築し、錬成陣を組んで適切な日、適切な場所で儀式を行います。時間にして約一年以上掛かりますね。それを師は片手間に一瞬で生ゴミを素材に行ったのですよ。遺伝情報を完全に解明した上で暗記し、更に電子レベルで錬成できる師だからこその荒業です」「…………今更だが、とんでもないサーヴァントだな、ズェピア」

 

「真祖は最高位の精霊ですので、妥当なレベルかと」

 

 そう答えてから、ラニ=Ⅳはさて、と言うように咳払いをして、話題を切り換える。

 

「マスター雁夜。納得いただけたのならばリビングでブランチをお食べ下さい。私はズェピア師より『あなた方の世話』を命じられておりますので」

「……わかった」

 

 そう言って雁夜はゴソゴソと布団から這いだし、間仕切りの向こうで和服からいつものジャージ姿へと着替える。

 

 間桐一家の一日は、新たなメンバーを加え、今日も始まったのだった。

 

 

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 さて、視点は変わり、アインツベルン陣営。 朝のティータイムを楽しむ切嗣とアイリスフィールを前に、セイバーは居心地悪そうにもぞもぞとしている。

 

 まぁ、主にその周囲を取り巻くスーツ姿の三人組が原因なわけだが。

 

「む、王よ、顔色が優れませんが……」

「察しろよ、ガウェイン。オレ達が居るから気まずいんだろ?」

「……その通りだ。…………特に、私が原因だろう」

「ランスロット。てめぇもそのマイナス思考をどうにかしろ。ウチの親父……じゃねぇや、えーっと、姉さん? は基本的に大らかで天真爛漫だ。食い物の怨みを買わねえ限りはな」

 

 とまぁ、ランスロット、モードレット、ガウェインの残念騎士トリオである。セイバーは彼等のひそひそ話に溜め息を一つ吐いて切嗣に質問する。

 

「……何故、黄金の聖杯で、よりによってこの三人を召喚したのですか切嗣。ステータスオールE-、宝具無し、スキル無しの最弱サーヴァントが三人いた所で戦況が変わるとは思えませんが……」

「……舞弥の代わりだ。ランスロットは伝承通りの破壊工作技能と潜入能力を持っているし、モードレットは騎士道を無視した白兵戦、いわゆるCQCの使い手。ガウェインはアイリスフィールの護衛に打って付けの騎士道馬鹿。セイバーのサポートにはベストな布陣だと思うんだが。それに、ランスロットとモードレットに銃を持たせれば上手く行けばキャスターのマスターを手早く処理できる」

 

 切嗣の声には何の躊躇いもない。確かに一度捕獲された舞弥は『ナニカサレタ』可能性がある以上、仮に奪還したとして手近には置けないのは判る。それに、切嗣の言うようにランスロット、モードレットの二人は切嗣の補佐として適任であるのも確かだし、ガウェインが手伝ってくれるのはセイバーとしても有り難い。だが、セイバーはそれでも気になる事があった。

「……切嗣の目的は理解しました。ですが……あなた達は納得したのですか? サー・ランスロット、サー・ガウェイン、モードレット」

「ん? まぁ、オレのスタイルを肯定してくれるマスターなんだ、オレは文句無しだぜ」

「私は再び王に仕える栄を与えて頂いたので満足です」

「……私も赦されるならば再び貴女に仕えたい。王よ」

「……納得済みですか。ならば良いのですが…………」

 

 そう言うセイバーの表情は不服、と言うよりは秘密がバレたときの気まずい表情である。そんなセイバーを見て、今まで静観していたアイリスフィールは思わず笑みをこぼしてしまう。

 

「む、何が可笑しいのです、アイリスフィール」

「あぁ、気分を悪くしないでね、セイバー。やっぱり貴方は可愛いなと思っただけだから」

 

 そう言うアイリスフィールの発言にセイバーはからかわれたと思ったのか、プクッと頬を膨らませて不満を示す。が、横から伸びた人差し指三本にむにっとつつかれ、むくれ顔は一瞬で解除された。

 

「ぷはっ。……何をするのですか!!」

「姉さん、可愛い顔が台無しだぜ?」

「その通りです、貴方には笑顔が似合います、王よ」

「……すみません。あまりに可愛らしかったのでつい」

「あらあら、『おとめげぇむ』みたいね、セイバー」

 

 何やら花がまき散らされそうなセリフをサラリと吐くイケメン2人と男装女子。それと、くすくすと笑うアイリスフィール。

 

「……むぅ。……まぁ確かに大人気ない表情でした。……時にアイリスフィール、その『乙女ゲーム』とは何ですか?」

「イケメンに囲まれてイケメンハーレムを築き上げるゲーム、らしいわ。ソラウさんいわく。あと、イケメンとイケメンがネチョネチョした友情を育む『びぃえるげぇむ』と言う物もこれに含まれるそうよ?」

「ブハァッ!?」

「あら、大丈夫? 切嗣?」

 

 紅茶がモロに気管に入ったらしい切嗣は、ゲホゲホとむせつつ、天に向かって吼える。

 

「人の! お嫁さんに!! なに吹き込んでくれてるんだあの魔女ッッ!?」

 

 

 アインツベルンの森に、今日も切嗣の声が響き渡る。

 ある意味、これが一日のテンプレートになりつつあるアインツベルン陣営であった。

 


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