Fate/Zepia   作:黒山羊

42 / 58
Interlude-⑦ 『宴会騒動・英霊side』

 食事も終わり、飲み会の様相となり始めた会場。知らぬ間にサーヴァント組とマスター組に別れていたこの状況。そんな中でウェイバーだけは何故かライダーに連れられてサーヴァント組に混じっていた。

 

 で、現在、余興としてギルガメッシュの持つ金の聖杯。略して金聖杯に、何か適当な願い事を一人一つ願おうという酔った勢い以外の何者でもないお題でサーヴァント達が盛り上がる中、ウェイバーはなんとも言えない顔でオレンジジュースを飲んでいるわけだ。

 

「余は何を願うかのぉ……」

「我はもう決めたぞ、雑種共」

「ほう、ならば願ってみてはどうかね、ギルガメッシュ。私を含めて皆、未だ考えつかないのだからね」

「フッ、我が願いに瞠目せよ雑種共! 『聖杯よ時臣めをもう少し面白味のある奴にしろ。してくれ。して下さい』」

 

 ギルガメッシュの願いは実に微妙。神社の願い事レベルのそれだが、聖杯がしっかりと輝いた辺り、きっと叶ったのだろう。微妙な願いが。

 

「切実な雰囲気でしょうもない事を願いおったぞコイツ」

「英雄王、貴方は酔うと素直になるタイプなのですか…………」

「我を貴様等の尺度で考えるな。我は『本当はエルを生き返らせたい』など毛ほども考えておらんわ馬鹿者が」

「ギルガメッシュ、だだ漏れになっているぞ。思考とかギャップとかが」

 

 そんな中、静かに考えていたランサーが口を開く。

 

「『モラルタとベガルタを再び我が手に』」

「ランサー、酔っても未だ真面目か貴様ッ!?」

「コレは罰ゲームですね」

「む、俺はそんなルールなど聞いていないぞ騎士王!?」

「私が決めました、今」

「なん……だと…………!?」

 

 完全に英霊というか、大学生のノリで話が進む中、罰ゲームをどうするかで更に盛り上がる英霊共。今夜は全員私服な事も相まって、完全にただの学生にしかみえない。そんな中でもちゃっかり二振りの剣がランサーの胡座の上に乗っかっていることで聖杯の信憑性が上昇しているのはまぁ、酔っ払い共には関係の無い話である。

「罰ゲームはどうするのかね?」

「『自害せよ、ランサー』とかどうでしょう」

「それ、もはや罰ゲームじゃなくて罰だろ!? コーラ一気飲みとかにしとけよ!?」

 

 思わずツッコミを入れるウェイバーに、『お前天才じゃね!?』みたいな顔で振り向く英霊共。もはやコントとしか思えないが、酔っ払いに常識は通じない。

 

 無駄に迅速にスーパーマーケットでコーラを購入してきたズェピアのお陰というか、何というか、既に一気飲みが始まっている辺りスペック高い奴らがフザケるとロクな事にならない。

 

「ランサーの、ちょっと良いとこ見てみたい! それ、一気! 一気! 一気!!」

「くっ、ノリノリ過ぎるだろう騎士王!? ……南無三!!」

 

 妙に古臭い言葉を吐いて、500ミリのコーラを一気飲みするランサー。咽せることなく飲めてしまう辺り、無駄にスペックを浪費している。

 

「……プハッ!? 飲みきったぞ……ゲフ……騎士王……ゲフゥ……」

「ガハハハハ、やるではないか!! 余も願いが決まったぞ? 『ウェイバーの身長がまだ成長しますように』」

「ファックッ!? 何願ってくれやがりますかオマエはァァァァァァッ!?」

「おぉ、ウェイバー君ナイスツッコミではないか」

「クハハハハッ!! 愉快だなライダーのマスターよ? 我が財である『ピコピコハンマーの原点』を下賜してやっても良いぞ?」

「誰が要るかっ」

 

 キレッキレのツッコミが気に入ったらしいギルガメッシュのからかいにツッコミ、更に笑われるウェイバー。

 

 箸が転がっても面白い状態なのか、ギルガメッシュには珍しく「我にツッコミを入れるとは不遜だが、良いぞ。特に許す」などと言われているが、酔っ払いにツッコミをいちいち入れるのも疲れたのか、ウェイバーは大きく溜め息を吐いてオレンジジュースを飲む作業に戻る。もうツッコまないぞ、などとフラグを立ててしまっているのに気付いていないあたり、彼も酔っているのだろう。

 

「さて、余の次は誰が願うのだ? 騎士王か? それともバーサーカーか?」

「私が願います、良いですねバーサーカー」

「構わないよセイバー君。トリは任せたまえ」

「では、『聖杯よ、ブリテンの料理をもう少し手軽に美味しくして下さい』」

 

 セイバーのその願いに、聖杯はその身を毎度の如く輝かせる。

 

 が。

 

--エラー・EX宝具の改竄は不可能です--

 

「宝具ですかッ!?」

「むぅ。なぜ、飯が宝具になっておるのだ?」

「ふむ、コレはもしや……」

「「知っているのかズェピア!?」」

「うむ。民明書房ではないのだがね。……宝具とは人々の願いや認識が形になったものだ。セイバー君のエクスカリバーがその例と言えよう。……で、此処からは仮説なのだが、全人類の『イギリス料理はマズい』という認識が既に概念宝具の域に辿り着いているのではないだろうか」

 

 なんてこったい。

 

 そんな空気が溢れる中、セイバーが実に渋い顔で次善の願い事を言う。

 

「……仕方ありません『大きなライオンのぬいぐるみが欲しいです』」

 

 今度はしっかりとセイバーの膝の上に可愛らしいライオンが現れる。セイバーはふてくされたのかそれに顔をうずめてモフモフし始めた。

 

「ふむ、案外年相応の趣味もあるのだね。……では、最後は私か」

「うむ、我を楽しませよ吸血鬼」

「いや、今回は君達を肴に私が楽しむ番だ。喰らえ諸君!! 『聖杯よ。この聖杯戦争に参加した英霊の生前の関係者と直通するテレビ電話を寄越したまえ!!』」

 

 謎の沈黙。意味不明な願いに困惑しているのがセイバー、ライダー、ランサー。そして、ズェピアの真意を理解して戦慄しているのがギルガメッシュだ。

 

 だが、そんな面々に構う事なく、黄金の聖杯はズェピアの前に空中投影型のSFチックな電話を呼び出す。その大きさはちょうどポケベル程だ。本来数字のボタンが付く部分に刻まれた文字がサーヴァントのクラスになっている以外は別段変化はない。そのボタンをズェピアは素早く「セイバー」にセットし通話ボタンを押す。「お約束だが、言っておくとしよう。ポチッとな」 そんな間抜けな声のあと、画面に映ったのは…………。

 

 

『王よ!! 何故女性である事を隠しておられたのだ!! まさか叔父上が叔母上だったとは知りませんでしたよ!? 永遠の17歳とか私の好みストライクですよ!?』

『ガウェイン。キモいぞテメェ』

『ガウェインは元からだ。しかし、お前も先程「まさか女だっただと……そりゃ、オレを認知しねぇ筈だわ。オヤジとか吹き込みやがって、死ねよモリガンの糞ババア」などと呟いていた気がするのだが? モードレット?』

『『死ね、ランスロット』』

『……何故!?』

 

 円卓の騎士らしき残念なイケメン共である。

 

「ふむ。予想外に愉快ではないかね。ねぇセイバー君」

「ぬぉぉぉぉ…………」

 

 首まで真っ赤にして、おおよそ乙女らしからぬ呻き声を出すセイバーとそれをニヤニヤと眺めるズェピア。そんな状況を見て、ギルガメッシュがぼそりと漏らす。

 

「吸血鬼、我ですら考え付かぬ拷問を生み出すとは、よもや天才か!?」

「いや、英雄王。そりゃ、今更すぎるだろうよ。あやつの才覚は余でも知っとるぞ?」

 

 そう言ってライダーがツッコむ隙に、どうにか復活したセイバーはテレビに向かってまくし立てる。

 

「言えるわけ無いでしょう!? 私が女だと知られれば円卓の騎士がどうなっていたか分からない訳ではないはずだ!!」

『『え? そんなの永遠に仲良しだったに決まってるじゃないですか』』

「あるぇー!?」

「セイバー君、セイバー君。キャラ崩壊しているようだが大丈夫かね?」

「いや、俺の見る限りお前が原因だろう、バーサーカーよ」

「何のことかな?」

 

 そう言うズェピアの注意が逸れた隙に、セイバーはズェピアの手にある電話のボタンを押す。そのボタンは……『ギルガメッシュ』

 

「おのれセイバー!?」

『やぁ、ギル。元気そうだね』

 

 そんな風に言って画面に登場したのは翡翠のような長髪を持つ女性らしき人物。「……我の友、エルキドゥだ。その程度察しろ」

 何やら急に大人しくなったギルガメッシュに、画面の中の人物……エルキドゥは、よよよと泣き真似をしつつ告げる。

 

『水臭いじゃないかギル。2人で裸になってあんなになるまで組んず解れつして汗を流した仲なのに、友達だなんて』

「「……ほう?」」

 

 エルキドゥの爆弾発言にサーヴァント全員が「ぬぉぉぉぉぅ!?」などと悶えるギルガメッシュに視線を向ける。

 

「英雄王、詳しく」

「コレは予想外の展開だね。もはや性別違い程度では驚かないが、流石にこれは」

「ガッハッハ、英雄王、やはり隅に置けぬ奴よな!!」

「成る程。これがソラウ様が熱弁されていた『幼なじみ系カップル』というモノなのだな」

「ぬぐぐぐぐぐ…………。事実なのが質が悪いぞエル…………。が、我が手ずから貴様等のその勘違いを正してくれる。……エルが言っているのは取っ組み合いの大喧嘩の事だ、雑種共」

『幼なじみ系カップルは本当だけどね』

「それも嘘だぞ、雑種共」

『やれやれ。こんなに愛を囁いても糠に釘とはね。そもそも、毎日一緒に寝てたのに夜這いの一つも無いとか何処まで甲斐性無し…………』

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 流石に耐えきれなかったらしいギルガメッシュは神速でボタンを切り替える。

 

 次なるボタンは……『ランサー』だ。

 

「む、俺か」

『ディル! 頑張ってるか?』

「おお、オシーン殿か! あぁ、新しい主も良い人だし、俺でもやっていけそうだ」

『それは良かった。その国では俺たちケルトの英雄はあまり知られてないらしいけど頑張ってくれ!』

「あぁ、任せろ友よ」

 

 そんな会話を交わすディルムッドとオシーン。ある意味由緒正しいテレビ電話の使用法だが、ギルガメッシュとセイバーは何やらつまらなさそうである。

 

「吸血鬼、最後に貴様のボタンを押すが良い。いや、押せ」

「そうです、バーサーカー。自分のボタンを押すのです」

「ふむ、別に構わないがね? ポチッとな」

 その声と共に画面に現れたのは……ロリ、老人、長身男性、そして南京錠。共通点は唯一つ、全員の目が紅いことである。

 

『……ズェピアか。久しいな』

「ネロ君か。混沌は制御出来そうかね?」『……いや、どうにも安定性に欠ける』

『やぁやぁ、ズェピア君。死んだんじゃなかったのか?』

「相変わらずだな、コーバック君。遮られたネロ君が鍵穴に針金蟲をねじ込んでいるが、無事かね?」

『大丈夫だ、問題ない』

「フラグ乙とだけ言っておこう」

 

 そんな会話の中、黙っていた老人、宝石翁ゼルレッチがぼそりと呟く。

 

『特定した』

「怖いのでその言い方はやめてくれたまえ。何を送りつけるつもりかね? カレイドステッキだけは御免被るよ」

『チッ……』

「やはりそうだったのか」

 

 相手はともかく、交友関係は比較的マトモなズェピアに、ギルガメッシュとセイバーは歯噛みする。そんな中、横から伸びた指が『ライダー』のキーを押す。

 

「余の相手も見せろ。……ってなんだ、ブケファラスか」

『ヒヒーン』

「「馬かよ!?」」

 

 英霊全員から素で突っ込まれ、ガッハッハと笑うライダー。

 

 

 

 

 そんなテンションとノリと酒の力を借りて、宴はまだまだ続く。続くったら続く。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。