Fate/Zepia   作:黒山羊

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「」が通常の会話、『』は念話、無線、携帯などの会話とします。


0days PM8:50 『剣戟観劇』

 未明、遠坂邸に侵入しようとしたアサシンがアーチャーに返り討ちにされ、序盤からサーヴァントが脱落するという波乱の幕開けでもって始まった第四次聖杯戦争。

 ズェピアは雁夜からの情報を聞いて『アーチャーが気配遮断中のアサシンに先制攻撃した』という点が気になったものの、ひとまず保留。

 

 現在時刻は午後8時。強大な魔力が挑発するように移動しているのを発見したズェピアは、可能な限り気配を抑えてその気配を逃さない程度に追う。

 

 気配はやがて倉庫街で停止したが、すぐに飛び出すようなことはせず、コンテナの陰を縫って近づく。どうやらズェピア以外に追跡していた者があるらしく、もう一つ澄んだ硝子のような闘気の主が既に到着しているらしい。その気配に一段と警戒を強めつつ接近すると、遂に視界に2人の英霊が現れた。

 

 二振りの長物を持つ美貌の男と、青のドレスに似た鎧を纏う可愛らしい姫騎士。最大の注意をその2人に向けつつも周囲の警戒は緩める事無く、ズェピアは念話を使いマスターと連絡を取る。

 

『マスター、私と感覚共有はしているかね?』

『ん? ズェピアか。何だ唐突に』

『ランサーと、セイバー或いはライダーと思しき英霊とそのマスターらしき人物を発見した。恐らく戦闘するのだろう。マスターも観客席に居て欲しいのだが』

『……そういうことなら使い魔を向けよう。別の角度から見ないと判らないこともあるだろうし』

『了解した。舞台は海浜倉庫街。もう暫くすれば幕が上がるだろう』

『分かった』

 

 これで、情報の共有は問題ない。後はあの2人がどういう戦いをするのかだが……。

 

 

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「よくぞ来た。今日一日この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり。俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ」

 

 そう言って、ランサーは姫騎士へと不敵な笑みをを向ける。

 

「その清澄な闘気、セイバーとお見受けするが、如何に?」

 

 その問いに答える姫騎士もまた、似たような笑みを浮かべていた。

 

「如何にも。そういうお前はランサーに相違ないな?」

 

 そうして両名は幾らかの会話の後、戦闘を開始した。

 

 

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『バーサーカー、あのセイバーは何も持ってないように見えるんだが』

『ふむ、さながら不可視の剣といった所か。どうやら魔力で空気を操り、剣の周りに暴風を凝縮させて蜃気楼のような状態を作っているらしい。ああまでして隠すからにはあの剣は余程有名な物か、余程奇抜な形なのだろうな』

『有名は判るけど、奇抜?』

『例えば長さが槍並だとか、鎌のように湾曲しているとか、三節棍の様に自由に刃が曲げられるといった場合には、その剣身が見えないのはかなりの脅威だろう?』

『ああ、成る程』

 

 そんな会話を繰り返すバーサーカー陣営。彼らはまぁ、概ね綺麗に役割を分担していた。戦場に直接赴き詳細な分析を担当するズェピアと複数の使い魔で全体を俯瞰しズェピアからの情報を元に資料を調べる雁夜。

 

 戦闘時は狂化の影響で思考内容が混沌と化すズェピアと、魔術師としては三流で死徒としては赤ん坊な雁夜にはこれしか戦う手段がない。直接戦闘は最後の手段だと考えた彼等は、ある意味魔術師に対する冒涜と言える方法でこの戦争に挑む。この点、ズェピアが魔術師ではなく錬金術師であったのは実に僥倖と言えよう。科学にも理解がある彼だからこそこの作戦に反対する事無く諸手を挙げて賛成してくれたのだ。

 それは、インターネット検索による英霊の真名看破、及び対マスター用の武器としては手軽で強力な科学兵器の使用である。召喚からの数日間、ズェピアと雁夜はほぼ毎日大工仕事をしていた。間桐邸から下水道までインターネット回線を引っ張ったり、爆弾やら何やらを作ったり。

 

 素人の自作した科学兵器、それだけならばさしたる驚異ではない。しかし、雁夜は三流ながらに間桐の魔術師なのだ。

 

 簡単な術式で性能を強化したそれは一応魔術的アイテムとして使用できる。当然、ズェピアも今幾つか戦場に持ち込んでいるし、雁夜の蟲にソレを括り付けた「自走爆弾」や「特攻爆弾」も開発済み。下水道は既にトラップで溢れるちょっとした要塞になっている。

 そう、バーサーカー陣営はこの戦争に科学と魔術によるゲリラ戦で挑もうとしているのだった。

 

 

『バーサーカー、取り敢えず「美形 二本の槍 英雄」で調べたら候補が出てきた』

『ふむ、流石は記者をしていただけの事はある。しかしながら便利な物だね、インターネットというものは』

『偽情報も多いけどな。でも複数のサイトで裏を取った。そのランサーが本当に二本の槍を使うならケルトの英雄「ディルムッド・オディナ」だと思う。まぁ、片方がフェイクで本当は一本槍の達人かも知れないけどね』

『成る程、参考にしよう。最も、あの手合いは真剣勝負に興奮して名乗る事がままある。いずれ真名の裏付けも取れよう』

 

 そう言いながら、周囲を索敵していたズェピアは、風に乗って煙草の匂いが流れて来るのに気付いた。

 

 サーヴァントであるか無いか以前に、吸血鬼は鼻が利く。ニンニクの匂いが吸血鬼に効果的だという伝説はその嗅覚を端的に言い表していると言えよう。そんな吸血鬼が煙草の匂いに気付かないわけがない。

 

『マスター、風下に陣取ったのは正解だったらしい。煙草の匂いがする。仄かに石鹸の匂いもするから風呂に入って匂いを誤魔化してはいるらしいが、まさか犬並に鼻が利くサーヴァントがいるとは思わなかったのだろう』

『魔術師か?』

『其処までは判らないが、煙草の匂いと石鹸の匂いを付けた者と石鹸の匂いだけの者の2人組と後、今気付いたが香水を付けた馬鹿な男が居るらしい』

『……お前にはレーダーでも着いてるのか? 性別まで判るか普通?』

 

 雁夜の問いにズェピアは若干口ごもりつつ答える。

 

『その……香水に混じって若干烏賊みたいな臭いがだね……』

 

 その内容を聞いた雁夜もまた、口ごもりつつズェピアに指示を出す。

 

『……あぁ、よく判った。…………取り敢えずセイバーとランサーは俺が見とくからその三つの臭いの主に注意しといてくれ』

 

 

 

 セイバーとランサーがヒートアップするなか、バーサーカー陣営は何とも言えない空気を漂わせて、倉庫街をみはりつづけるのだった。


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