Fate/Zepia   作:黒山羊

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+1days PM8:54 『舞台撤収』

 ズェピアに『正義の味方』とは何なのかと問い詰めるべく考えに臥せていた顔を上げたセイバー。だがしかし、状況は彼女が物思いに耽っている内に大きく変化していた。

 

「ご協力ありがとうロード・エルメロイ。等価交換になるかは判らないが、私に答えられる範囲で何か一つ質問にお答えしよう」

「……ふむ、宜しい。ならば、貴様の宝具は何だ、ズェピア・エルトナム・オベローン」

 

 いつの間にやら子供達は眠りこけており、ズェピアとケイネスが何やら会話をしているその状況。完全にセイバーを放置して話が進んでいるらしい。

 

「私の宝具か。バーサーカークラスだと『武器としての』宝具はないな」

「……成る程。その言葉、誓って嘘はないな?」

「なんなら、セルフギアス・スクロールを書いても良い。嘘はないのだからね」

「其処まで言うなら信用しよう。確証を得たわけではないがね」

 

 そう言ってニヤリと笑いあうズェピアとケイネス。何やら魔術師特有の会話らしいが、騎士二人と三流魔術師にはいまいち解りづらい。そんな訳で一段落付いたと見たセイバーはバーサーカーに話し掛ける。

 

「バーサーカー、貴方に聞きたい事がある」

「ふむ。私は冬木教会にこの子供達を連れて帰らねばならんのだがね。……まぁ、恐らくマスターの召集があるだろうから君のマスターを連れて協会に来たまえ。そこで話を聞こう」

 

「…………分かりました。しかし、どうやってこの子達を運ぶのですか?」

「まぁ見ていたまえ。『私の宝具』で運ぶ」

 

 そう言ってからズェピアの姿がキャスターと戦っていた最中と同じ様に「ブレる」。

 

 そうして暫くするとズェピアの周囲に立つ人影が一人。二人。三人、四人。五人、六人、七人。

 

「さて諸君、子供を担いで撤収だ。エキストラとは言え今宵の舞台で捕らわれの姫君を演じきった名優諸君だ。粗相の無いようにしたまえ」

 

 そう言うズェピアの指示に従い子供を担ぐ彼等は、人種、性別、そして何より年代がバラバラだった。騎士、メイド、中国拳士、Tシャツ女性、鬼の様な益荒男、学ラン高校生に、黒いなまもの。

 全く何の共通点も見いだせない彼らは、きびきびと動いて子供を抱えると冬木の教会に向かって闇を駆けていった。

 

「バーサーカー、何なのです? 今のは?」

「私の『宝具』の極々一部だ。……まぁ、実戦レベルで使うとマスターが大変なことになるのでね。流石においそれと全てを晒すわけにも行くまい。実質的に戦闘には使えない宝具だ。事実、先程出した彼らはキャスターの怪魔より弱い」

「確かに彼ら自体はそれ程の脅威とは感じませんでしたが」

 

 だが、セイバーの直感はそれでもこの『宝具』が宝具などではない何か途轍もないモノである様に感じている。

 

 そんな風に悩む彼女を後目にズェピアは雁夜と共に冬木教会の方へと消える。 後にはセイバーとランサー。そして薙ぎ倒された森の木々だけが残っていた。

 

 

--------

 

「ズェピア、彼処までヒントを出して良いのか?」

 

 教会へと向かいつつ、そう問いかける雁夜は咎めるような口調ではない。単に、本当に大丈夫なのかと確認するだけの言葉だ。

 

「何、ハッタリだから問題ないよ。宝具ではないにしろ、本当にアレは戦闘向きではないからね。…………雁夜が瀕死になるほど魔力供給するなら話は別だが」

「本当にそんなにヤバいのか? その『虚言の夜』は」

「危険極まりないとも。……何しろアレは『空想具現化』と『固有結界』の合わせ技だよ? 消費する魔力も通常戦闘とは桁違いだ」

「……まぁ、凄そうだということはわかった」

「それは一般的に何も解っていないという意味なのではないかね?」

「そうとも言うな」

「そうとしか言わないだろう」

 

 

 そんな掛け合いと共に夜を駆けるズェピアと雁夜は冬木教会へと到着。

 

 減らず口を叩きながらその内部へと足を運ぶのだった。

 


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