Fate/Zepia   作:黒山羊

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Interlude-④ 『桜の花嫁修業奮闘記』

 朝、ズェピア先生と買い物に行った私は先生とのお散歩が終わったので、おじさんがいる秘密基地に帰ってきました。

 

「桜、今日は一緒に料理を作ろう。私の国で良く食べられている物だし作り方も簡単だから、やってみないかね?」

 

 しゃがんで私の顔を見ながらそう言うズェピア先生に私は「はい」と言って首を振りました。先生はニッコリ笑うと私を優しく抱っこしてキッチンへ歩いていきます。

 この秘密基地は、おじさんと先生が頑張って作ったらしいです。だからキッチンとリビングとベッドの部屋も分かれています。

 

 おじさんは作っているとき何だか楽しそうに『子供の頃を思い出すな』と言っていました。大人になったら秘密基地はなかなか作れないらしいです。『いっぱんじょーしき』とか『こうじょりょうぞく』とかがあるらしいです。

 大人はかわいそうです。

 

 ズェピア先生に抱っこされた私はキッチンにある踏み台に乗って先生の横に立ちました。先生は朝買ってきた『モロヘイヤ』という野菜を綺麗に洗ってから私に渡します。

 

「では、桜はそれの葉っぱだけを取ってくれるかね? 茎は食べないからゴミ箱に入れてくれたまえ」

「はい、先生」

 

 私は頑張って葉っぱを集めます。その間に先生はフライパンを使って小さく切った鶏肉をバターで炒めていました。こんがりして美味しそうです。

 

「先生、葉っぱを取りました」

「良くできたね。では、私はこの葉っぱを茹でるから、桜はこのニンニクの皮を剥いてくれないか?」

「わかりました」

 

 先生が渡してくれたニンニクは玉ねぎに似ています。ニンニクは白い。玉ねぎは茶色い。そう覚えてから、私は皮を剥きます。皮は薄くて、なかなか取れません。

 

 私が頑張って皮を剥いている間にズェピア先生は炊飯器にレンジでチンしたバターと洗ったお米を入れてスイッチを押しています。何をしているのか聞いたら、「バターライスのズボラな作り方だよ。真似をしても良いが、しばらく炊飯器がバター臭くなる」と言っていました。

 

 しっかり覚えておきます。

 

 ズェピア先生が茹でたモロヘイヤを包丁で細かく切ってから、『鶏ガラスープのもと』を入れたお湯を沸かしてさっきの鶏肉を煮始めた頃、私は何とかニンニクを剥き終わりました。

 

「先生、ニンニクが剥けました」

「ご苦労様、桜。さて、ではこのニンニクを刻んでさっき鶏肉に使ったバターの残りで炒める。この時にコリアンダーとカルダモンを加えるのが美味しさの秘密だ」

「『こりあんだー』と『かるだもん』……おぼえました」

 

 私は雁夜おじさんが買ってくれた自由帳にクレヨンで『こりあんだー』『かるだもん』と書きます。

 

「凄いな桜、もう文字が書けるのか。将来はきっと賢くなるだろうね。……さて、ニンニクを炒めたら、さっき煮込んだ鶏肉スープに刻んだモロヘイヤを入れる。そして少し茹でてから、アツアツのニンニクとバターを素早く入れて蓋をする。ニンニクの香りを閉じ込めるんだ」

「香りを閉じ込める、ですね」

「そうだ、偉いぞ桜。さて、スープに入れたバターがパチパチ言わなくなったら塩コショウで味を整えて完成だ」

 

 そう言って先生は三人分の器にスープを注ぎます。ニンニクとスパイスの香りがしてとても美味しそう。良い匂いにつられて雁夜おじさんもやってきました。

 

「雁夜、今日は桜がスープを作ったのだよ」

「本当かい? 凄いな桜ちゃん。おじさんなんてカップラーメンしか作れないのに」

 

 そう言っておじさんはヨシヨシと私を撫でてくれます。その間にズェピア先生はバターライスをカレーのお皿に入れています。

 

「さて、戴こうか。私はスープをバターライスに掛けながら食べるのが好きだが、別々に食べても美味しいのだよ」

「いただきます。……うん、美味しいよ桜ちゃん」

 

 そう言って嬉しそうに笑うおじさんに続いて、私もスープを飲みます。

 

 

 

 その日の晩御飯は今まで食べたご飯で一番おいしかったです。

 


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