幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで 作:とるびす
あードキドキした! まだ心臓が鳴ってるし、チキンメンタルで無理し過ぎたわね。
やっぱ真実を打ち明けるには決意と準備が若干足りなかったような気がしないでもない。だけどこのままじゃ小傘もろとも紙屑のように吹き飛ばされる未来しか見えなかったからね、仕方ないね!
さて、気になるのは萃香や他のみんなの反応だけど……イマイチ動きが見られない。妖夢や地面に突っ伏してる魔理沙は驚いてる様が伝わってくるんだけど、それ以外は疑わしいような目で見るだけで、藍に至っては冷ややかな視線を飛ばしてきてるような?
分身萃香も本体萃香も、私をジッと見るだけでノーリアクション。沈黙が痛いとはこのことか。下腹部あたりに寒気を感じる。
「……」
「す、萃香? なんか反応してくれると嬉しいなーって。無視はキツいから」
「……」
「あ、ハイ」
これは辛い。なんなのこの空気? 私の予想では「やったー紫が帰ってきたぞー! 宴だー!」パターンか「八雲紫が出てきたぞ! ブチ殺せ!」ってパターンになると思ってたんだけどな。
もしかして情報処理が追いついてないのかな? まあ分かるわその気持ち。私だって貴女たちがやらかすたびに脳みそがフリーズしたりして……。
「その言葉、本気ってことでいいのかい?」
「……ん?」
「もし冗談で言ったなら、嗤って流してやる。だが、お前さんがそれを本気で言ったなら話は別問題だ。……聞かせてくれ、『自分は八雲紫』だと、本気で言っているのか?」
「そ、そうよ! 私は八雲紫───」
「嘘をつけ」
素っ気なく言い放たれた言葉から感じる、途轍もない敵意。冷たく私を射抜く眼光から漏れる、灼熱の激情。
私はこの瞬間、萃香の地雷を踏み抜いてしまったことに気が付き、そして最悪の結果を察してしまった。後悔しても、もう遅い。
「何度も言ったと思うが、鬼は嘘が大っ嫌いだ。……けどね、嘘の中にもランク付けってもんはあるよ。保身の為の嘘なんて虫唾が走るくらいさ。そしてお前がたった今吐いた嘘ってのはね、私が最も嫌悪する部類の嘘だ」
耳鳴りが鼓膜を打つ。萃香の分身たちの妖力がどんどん高まっているのだ。大気の色が目まぐるしく変異し、萃香たちへと吸い込まれていた。
私は腰を抜かして地面に尻餅をついた。小傘やアリスが何かを叫んでいるけど、そんなもの頭に入ってこない。
「お前が吐き捨てた嘘……私の友人を侮辱する嘘は、絶対に許せない。絶対だッ!」
萃香の怒号でようやく思考できるようになった。ひたすら保身に走る私のポンコツブレインがまず思いついたのが、嘘ではないという弁解だった。
「ご、誤解よそれは! 私は正真正銘身も心も八雲紫なのよ! なんでそんな……」
「まだ嘘をつくのか。まだ私の友を愚弄するのかッ! どこで私と紫の約束を知ったんだ? お前、まさか紫の行方を知ってるんじゃないだろうな?」
「あわ、わわ……!」
火に油を注いだだけだった! な、なんで? なんで信じてもらえないの? 少しくらい疑われるのは想定してたけど、ハナから否定されるなんて思わなかった。
私に問題があるのかしら。取り敢えず小傘に聞いてみよう。
「ねえ小傘。私が八雲紫って信じる?」
「あー……うん。わちきはメリーの味方だよ」
つまり信じてないってことね! マイルドな言い方で気を使わせて悪かったわ!
マズイ、これは本気でマズイ。このままじゃ地獄に叩き落とされてしまう。勿論物理的に!
取り敢えず誤解を解かなきゃ!
「あ、あのさ……なんで私が八雲紫じゃないって思うの? 確かに小っちゃいし胸は無いけど、少しくらいは疑って欲しいわ。ほら金髪だし」
「疑う余地も無いね。お前みたいに弱くて小物な八雲紫がいるもんか。お前からは紫の雰囲気が少しも感じられない」
元から貴女達に比べたらクソ雑魚なんですがそれは……。雰囲気に関しては仕事モードと日常モードで使い分けてたから仕方ないのかな? まあ私ってメリハリを
なら仕事モードの雰囲気にすれば萃香もきっと信じてくれるはず! 目をキリッとさせて、余裕たっぷりに口の端を持ち上げて……。
「ふふ……これならどうかしら? 正真正銘、八雲紫そのものでしょう?」
「全然違う」
「えっ」
まさかの自己完全否定に頭がぐらりとする。さ、三ヶ月間のブランクがあったからかな? いや、そうに違いない!
だが、萃香の口から飛び出す言葉の数々が私を追い詰めてゆく。
「次に目だ。紫の瞳の色は鮮やかな深紫色。だけどもお前の瞳の色は青色。……まさか眼球に色を塗ったわけじゃないだろう?」
「えっ、ウソ!?」
すぐに小傘に確かめてもらったが、彼女も私の目は青色だと言う。ちなみにカラーコンタクトを入れたことなんて一度もない。
そんなぁ……邪気眼みたいでカッコいいからお気に入りだったのに。けど逆にこれでギリシャ出身設定が嘘だとバレなかったことに納得がいったわね。
萃香の追撃は止まらない。
「次にお前の種族。妖怪ではあるようだが、妖力を全く感じることができない。いくら追い詰めても妖力を開放する気配がないところを見ると、よほど胆力があるか、元から妖力なんて存在しないかの二択。……前者はないだろうね。つまり、お前はスキマ妖怪はおろか何故そこに存在しているかも疑わしい有機物ってこと。精霊のなりそこないか何かか?」
私=可燃物……?
いやいやその等式は成り立つけれども、あまりにも酷すぎる! 正直辛い!
まあ、萃香の言うことにも一理くらいはある。妖力が無いと私とは断定できないわよね。しかし妖力どころか、霊力も無いんだったら……私って何を動力源に生きてるんだろう? 弁解のつもりが自分の謎を自分の手でさらに深めてしまった。
そして萃香のとどめ。
「最後に私の能力になるわけだが、私は紫がいなくなってから今日に至るまで萃める力を発動していた。さて、何を萃めていたと思う?」
「……わ、私?」
「お前じゃない! ……紫だ。
対象に能力が問題なく発動すれば勿論私が気づく。だがね、この三ヶ月間一度たりとて紫に反応したことはない。あいつは今どこにも居ないんだよ。なあ、それじゃ私の目の前にいるお前さんは何なんだ? 何で能力が発動しないんだ? ……そりゃあ八雲紫じゃないからね。発動するはずないよね」
「な、なにそれ……」
「そりゃこっちの台詞だよ」
萃香の能力については私もその凄さを実感している。先ほどまでの戦闘でも見た幻想郷の強者たちに引けを取らない強大さもさることながら、その緻密さに狂いはないだろう。昔、萃香が私を呼び出した時だって萃める能力は問題なく発動していた。スキマから引きずり出されるほどの力だからね、忘れようがないね。
ていうかここまできたら私自身も怪しくなってきたわ。自分の正体にしっかりと確信が持てなくなってきた。
もしかして、私は自分を八雲紫だと思い込んでる頭の可哀想な一般妖怪だったりして……。やばいちょっとシャレになんないわ!
待った、一旦状況を整理しましょう! 振り返ることで見えてくる何かがあるはず! ほら、温故知新とかいうやつよ!
まずは大前提。ここはどこ? 私は誰? ……ここは博麗神社だった場所。そして私は八雲紫の記憶を持っている謎の妖怪”自称”メリー。……ちょっと迷走してきた。
ここは十分に考える時間が欲しいところだが、周りをそれを許してくれないらしい。特に萃香。
百面相状態の私にどんどん詰め寄ってくる。周りを見れば他の分身たちも次々に行動を開始し、戦闘を再開させていた。
「さて、何か反論はあるかい?」
「いやえっと……あれよあれ! なんていうかその……違うの! これは何かの間違いなの!」
「私は何度も念押ししたじゃないか。それを今更間違いなんて、都合が良すぎると思わない? 嘘だと認めたところでもう遅いってハナシだ。……悪いが私の気が収まらないんでね、それ相応の報いは受けてもらおう。なぁに殺しはしない、ただ泣いたり笑ったり出来なくなるだけだから」
それって生殺しじゃないですかヤダー! 明らかに死ぬより辛い未来なんですけどぉ!
ああ……もう。なんか本能が思考を放棄するように訴えかけてるわ。恐怖ともどかしさで、頭がどうにかなっちゃいそう。すぐに逃げるか萃香を説得するかしないといけないのに。
ダメだ。心が折れた。
完膚なきまでに自分を否定されて、周りが八方塞がり過ぎて、容易に想像できるこれからの私の未来が悲惨すぎて、涙が止まらない。
勇気を出して事を収めたかったのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう?
どうして……。
「メリィィッ! 今すぐ逃げて! 後ろを振り返らずに走って!」
叫ぶと同時に小傘が分身萃香へと飛び掛った。茄子色の傘が扇型に見えるほど早く振り下ろされ、分身萃香の脳天へと打ち込まれる。
だが分身萃香は少し仰け反った程度で、蚊ほども効いていない。多分、能力で頭部をスカスカにしたのか、もしくは衝撃そのものを霧散させたのか。どっちにしろ正攻法じゃ分身ですら倒せない。
「ふん、また一撃で葬ってやるよ。オンボロ」
「オンボロでいい! 傘としての本分を失わない限り……人を守ることができる限り、わちきは傘として在り続ける! 鬼なんかに友人を奪われてたまるか!」
「ハッ、こんな状況じゃなきゃ褒め称えてたんだがね! せめてこの鬼の剛力を手向けとしよう!」
分身萃香の体が空気に溶け、数瞬後に小傘の腹へ拳が突き刺さる。昼間と同じ光景が脳裏でフラッシュバックしたが、小傘は二の舞になるつもりはなかったようだ。踏ん張って衝撃を抑え込むとその隙に本体の茄子傘が舌を伸ばして拘束する。
「へ、へへ……こうなってしまえばこっちのものだ。わちきはアリスみたいに万能じゃないから貴女を一人しか抑えきれないけど、せめて貴女だけでもメリーに手は出させない!」
「ほぉー、やるじゃん。これじゃ力ずくでの脱出は無理そうだ。そしてゼロ距離密着状態からのレーザーか」
「わちきの性質は超撥水! 貴女の体を的確に捉えて蒸発させる!」
萃香の腕や脚が茄子傘の舌を引きちぎろうと蠢めくが、どうやら伸縮性に優れているようで完全に張り付いて離さない。さらにさらに茄子傘の紅い一つ目が輝きだした。これは技有り!
す、すごい! 小傘が萃香を封殺した! やっぱりやればできる子だったのね! 思えば藍と橙のコンビネーション制裁を沢山受けていたにも関わらず、なんだかんだで次の日にはピンピンしていた小傘が弱いわけないよね!
他の分身もチームプレーによって皆でなんとか戦えてるし、一筋の希望が差し込んできたって感じかしらね。さあ、今のうちに考えるのよ紫……いや、メリー。なんとか和解まで持っていくための平和への方程式を……!
ちなみに逃げるという選択肢はない。どうせ逃げ切れないし、私のために体を張ってくれてるアリスや魔理沙、そして小傘に背を向けるなんて、そんなことしたら一生あの子達に足を向けて寝ることなんて出来やしない! 捕まっている霊夢をそのままにしておくわけにもいかないしね。
くそぅ、戻れるもんなら早く元の体に戻りたい。バカみたいに高いヒールとありったけの胸Padがあれば私が八雲紫だって証明できないかしら? ……ないわね、流石に。
藍か橙に弁解を頼んでみるとかは……ダメか。二人とも萃香の分身と戦闘中で近づけないし、先ほどの藍の反応を見るに私の話を全く信じてないっぽい。橙は怪訝そうな顔をするだけだったけど、最終的には藍の指示通りに動くだろうしねぇ。
うむむ……そうだ! 私と萃香だけしか知らない共通の秘密とかを言えばいいんじゃない!? ふ、ふふ……流石は私! 幻想郷の賢者此処に在り!
さて萃香との二人だけの秘密、秘密……。あれれ、何も浮かばない。いやいや何かあるはずでしょ? あの子とは今まで食ってきたパンの枚数よりも多く酒を飲み交わしてきたんだから。それはもう酷い時には毎日浴びるように飲まされて、一時はお酒恐怖症になるくらいに。
……お酒で記憶が吹っ飛んでるだけかな?
くっ、悠長に考え込んでる暇なんてないのに。こうしている間にも小傘は必死に……
「……! か……!」
「ほれ、離さないと死ぬぞー」
必死に……必死の形相で悶絶していた。
いつの間にか二体目の分身萃香が現れて、鎖で小傘の首を絞め落としている。顔色はみるみる青白くなって、意識は半分飛びかけ。だがそれでももう一人の分身萃香の拘束を解こうとしない。解いてしまったら……私の方に来ちゃうから?
私の体が弾けるように動いた。たかが知れたスピードで走って、小傘の首を絞め落とす萃香の角を掴んだ。そして微々たる力で後ろを引っ張る。萃香を小傘から引き離すために。
……小傘のオッドアイが私を見た。鎖を掴んで震える手を握り締め、声の出ない口から泡のように儚く空気が漏れる。
読唇術なんて嗜んでいない私だけど、小傘が言おうとしている言葉は容易に分かった。「に、げ、て」と、彼女は言っているのだ。
「逃げない!(ていうか逃げ切れない)」
私の力なんて助けになるわけがない。それでも、何もしないなんてカッコ悪いことはできなかった。頭しか取り柄がないのに何も思いつけないし、とっておきの秘策と銘打っておいて正体をバラしてみれば挙句には萃香を怒らせて……。
戦国時代なら腹切りものの失態よね。だから私は勝てもしない力比べに挑んだの。今の私の気分はさながら山本勘助! 「おいは恥ずかしか! 生きてられんごっ!」 って心境なのよ!
「あぁ? お前さぁ、弱い癖にしゃしゃり出てくるんじゃないよ。せっかくこいつらが必死にお前を逃がそうとしてくれてるのに」
「なら私の言葉を信じなさい! 私は、八雲紫なんだからぁ!」
「まだ言うか」
「ひぃぃっ!?」
───すとん。
肩越しの眼光におもわず
……角を持ったまま?
私の手にはまだしっかりと角が握られている。一緒に何故か萃香の頭も付いてきてる。
目の前には萃香の体が立っている。しかし、首から上がそっくりそのまま無くなっていた。
私は首、体、首、体と交互に見て、最後に首。萃香と目があった。
ここでようやく私のポンコツブレインが状況を把握して……だからさらに混乱して。
うん、取り敢えず叫ぼっか。
だが私が叫ぶよりも早く、今度は小傘が拘束していた萃香の首が飛んだ。それと同時に萃香の体が力を失って倒れ込み、小傘は咳き込みながら四つん這いになった。
まさか、小傘がこれを!?
「す、凄いわ小傘! こんな技を持ってたなんて!」
「かはっ、けほっ……こ、これはわちきの能力じゃないよ。だけど心当たりはあるわ。───遅いよ蛮奇!」
「悪かったわ。ちょっと酔いが、ね」
ちゃっかり残っている鳥居をくぐって現れたのは、赤いマント、赤い服、赤いスカート、赤いリボンと全身一色の着こなしをした妖怪だった。
なるほど彼女が小傘の言っていた『お友達』か。
私はこの妖怪を知っている。蛮奇……確か赤蛮奇って名前だったっけ? 風貌から妖怪だって即バレなのに、人里に住み着いて真昼間に大通りを闊歩する変わり者の妖怪。
たびたび噂には聞いてたわ。そういえばさとりの用意してくれた吸血鬼異変攻略メンバーリストの中にも彼女が入ってたわね。藍曰く「素っ気なく断られた」らしいけど。
そういうわけで、赤蛮奇は一応知っている存在ではあるけど、あまり深くも知らない中途半端に未知なヤツって認識ね。
ちなみに何故か人里からの評判は案外良かったりする。小傘の連れ合いだし別に驚かない。
小傘が呆れた様子で話しかける。
「酔いって……真昼間からお酒を飲んでたの?」
「そりゃあ神社に殴り込みって聞いたからなあ。巫女と戦う時は酔いが有効だと巷で有名でさ」
「戦うのは巫女じゃなくて鬼だよ」
「うん。この状況を見れば一目で分かるわ」
小傘が赤蛮奇と話している間に手に持っていた萃香の首印をそっと地面に置いた。不気味だし、重いし、なんかグロいし……ね?
それにしても一体どうやって萃香の首を落としたんだろう。何の前兆もなく首が落ちたから皆目見当がつかない。
ちょいちょいと小傘のスカートの裾を引っ張って、場の状況に取り残されていることをアピールした。解説お願いします。
「ああそっかメリーは知らないよね。蛮奇はろくろ首だから首を飛ばすことができるんだ」
「へぇーあの有名なろくろ首。……で?」
「だから首を飛ばせるの」
「いや、どうやって飛ばしてるの!?」
「さあ?」
理論なんて存在しなかった。しかし幻想郷ではなんでもアリなのだ! 懐疑なんて認識の偏差で片付けられる、そんな世界なのよちくしょう!
「……それはまた、可笑しな能力ね」
「うん。だけど首が飛んだらまず人間はアウトだからね、驚かす暇もないから滅多に使わないみたいだよ。ついでによく使い道が分からないけど頭を分裂させることもできるよ」
「ふふん、カッコいいだろ? 私の恐ろしさに慄くがいい」
赤蛮奇はマントをはためかせて、尚且つ自分の首を浮かせながら決めポーズらしきものを取った。慄くも何も、私が最初に抱いた感想は至極簡単で当たり前のもの。
貴女、本当にろくろ首ですか? そんなの首狩り族さん涙目じゃない! しかも能力が地味に強力だし!
全く、ロクな能力じゃないわね。……ろくろ首だけに!
……ゲフンゲフン。正直悪かったって思ってる。けど逆に言えば今の私には冗談を(心の中で)言う程度には平静を保ててるということ!
だって強力な能力持ちの妖怪が新たな助っ人として参上したんだもの。この調子で分身萃香の首を全部飛ばしちゃって、最後に本体との対話に持っていければ或いは……。
「気を抜いたらダメだメリー君!
「へ?」
初めて聞いた霖之助さんの大声。その方向に首を向けると何人もの萃香に囲まれて……俗に言う袋叩きにあっている霖之助さんの姿があった。剣を振るって萃香を霧散させても、その隙に他の萃香が霖之助さんを攻撃する。まさに数の暴力。
あ、あれはいけない! 文系男子の霖之助さんがあんな攻撃を受け続けていたら怪我じゃ済まなくなっちゃう!
「小傘とそこのイカした妖怪さん! 霖之助さんを助けてあげてちょうだい!」
急いで小傘と赤蛮奇に霖之助さんの救出をお願いした。しかし、それは霖之助さんの望むことじゃなかったようで。
「僕の事はいい、それよりもその伊吹萃香たちだ! 源頼光が切り落としてもなお、酒呑童子の首は飛行したそうだ。分身とはいえそれだけで勝負が着いたと考えるのは早計すぎる」
「あっ、どっかで聞いたことあるわその話」
いつの日か萃香が憎たらしげにそんなことを言ってたような気がする。その日を境に萃香は人間を信じるに値しない存在として格付けて、嘘と真実に敏感になっちゃったのよね。
つまり、この状況は源頼光と渡辺綱と藤原保昌……その他諸々の以下略のせいね。私は悪くないことがまた再確認されてしまった。
って、責任転嫁してる場合じゃない! 霖之助さんに言われた通りに、置いていた萃香の首に視線を向けて……固まった。
そこに首はなかったのだ。
肝を冷やした私はカラクリ人形のようにぎこちなく小傘たちの方を向き、異常を伝えようとした、その時だった。
右足に凄まじい引っ張る力を受けて私は前のめりに転倒した。そしてそのまま引っ張られて勢いよく地面を引き摺られる。悲鳴すら上げる暇のない急な展開だった。恐怖と動揺で涙しか出ない。
足に掛かる力の正体は、勿論萃香の首によるものだった。浮遊するそれは、なんと白ニーソに喰らい付いてぐいぐいと引っ張っているのだ。その先に居るのは、本体萃香と縛られた霊夢。
オイオイオイ、死ぬわ私。
「た、たす、助けて!」
「あぁメリーが! すぐに───うわぁ首ナシ!?」
「頭だけで飛行するなんて……これじゃ私の能力がほぼ完封されてるじゃないか! くっ、接近戦は得意じゃないんだけど……」
走り出そうとした小傘と赤蛮奇の前に、むくりと立ち上がった首ナシ萃香が立ち塞がる。もうね、どこのB級ホラー映画かっての!
赤蛮奇:頭を飛ばせる程度の能力
文字通り、頭を飛ばせる。以上
資本主義の豚と土砂は許さない
超撥水だから水分を含むものなら必ず弾き固定するという、うどんげの「幻覚は光よりも速い論」みたいな変なアレ。常識を捨てろ、ここは幻想郷だ
ちなみに鬼太郎の唐傘お化けは目から土をも溶かす怪光線を放つというなんでもありな設定があったりなかったり。凄いねぇ偉いねぇ
注)
ネタバレ、萃無双は夢オチ