幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで 作:とるびす
レミリアは不機嫌だった。
紫と時を同じくして失踪したフランドールの捜索が一向に進まないからである。約500年の亡失が生み出した反動はレミリアを妹煩悩な姉へと変貌させていた。ちなみに能力を多用しなくなったこともまた起因する。
フランに万が一はないはず。レミリアが思っている以上にフランはしっかりしていることは、他ならぬレミリアが承知している。しかし、それでも心配してしまうのが姉としての
そして咲夜も不機嫌だった。
理由は簡単。また”八雲”か、である。
咲夜にとって八雲紫とは不倶戴天の敵である。敬愛するレミリアとフランドールを誑かし、自分を散々な目に合わせてくれた忌むべき存在。
今回は訳のわからないことをほざいた挙句に幻想郷から姿を消し、そしてその影響を紅魔館は少なからず受けている。
妹様がいないのは紫のせい、レミリアが不機嫌なのも紫のせい、博麗神社の宴会に行くと妖夢にしつこく絡まれるのも紫のせい、霊夢と顔をあわせると気まずい雰囲気になってしまうのも紫のせい、美鈴がシエスタに明け暮れるのも全て紫のせいである。
八雲紫、断じて許すまじ。
次にパチュリーも不機嫌だった。
近頃図書館にやってくる魔法使いが多いのだ。静かに知識を蓄えることをわざわざ阻害しにやってくる連中などパチュリーにとっては害悪でしかない。
アリス・マーガトロイドはまだいい。頻繁に大図書館にやってくることを除けば非常に扱い易いし、話し易い。中々有益な魔法を使っていることや興味深い魔導書を持っていることも評価点である。
面識のない可笑しな魔法使いもまだ許せる。馴れ馴れしいことやふわふわした言動が一々癪に触るが彼女もまた面白い魔法を使うので、まあ精一杯の慈悲で見逃してやろう。
だが霧雨魔理沙、てめーはダメだ。
最後に美鈴。
シエスタ中。何故か傷は増えている。
そして今日のアフタヌーンティーは異質なムードで始まった。レミリアとパチュリーが机を挟んで向かい合わせに座り、両者の傍に咲夜と小悪魔が控える。
ビクビクする小悪魔を除く三人は一見澄まし顔。紅茶はその名の通り紅いお茶で、日頃出てくる緑、青などの紅茶ではなかった。
テラスから門前の美鈴を日光浴見。そしてレミリアはポツリと思わしげに呟いた。
「……忌々しい霧が晴れてるわね。ククク───”奴”が動き出した……か」
「奴? 誰よ」
「いや、そこまでは考えてないわ。ちょっと待ってて今考えるから」
「……妄想してる暇があったら能力を使えばいいのに。はっきり言って最近のレミィって役に立たないわよね。主に能力的な意味で」
「ウチの穀潰しに言われちゃおしまいね。まあ、私の偉大さに漸く気がついたってことかしら? ふふ、遅かったじゃないの」
かつてのレミリアとは比べようもないほどの無能っぷりにパチュリーの頭が重くなる。能力を頑なに使わなくなったのには何か理由があるに違いないのだが、どうにも危なかっしい。
春雪異変を境にどんどん力を増している咲夜とは実に対照的。しかしそのおかげか否か、彼女たち主従の関係はより一層強固になったように見える。これをレミリアが狙っていたのなら彼女は頗る有能。しかし偶然であるので残念な無能である。
「霧の件に話を戻すわ。アレを覆ってたのは多分ここ土着の者……それもかなり古そうな。恐らく宴会が度々開かれてたのもそいつが原因ね」
「ほう、つまり私たちはそいつにまんまと乗せられていたというわけか」
「今更白々しい……ワザと、でしょ?」
「クク……まあね。そいつの狙いを見極めるためにフランの捜索と並行して毎日神社に行ってたんだ。奴さんもこっちの思惑にはとっくに気付いてるだろうさ」
「それで? 今日晴れて霧が無くなったわけだけど……どうするの? やっと霧の主が本格的に行動を開始するんだから、動くなら今よ。とは言っても、流石に『フランの捜索』『異変への介入』『月の監視』を同時に行うのは難しいわ」
「フランに分身スペルを複製してもらうべきだったかしらね。まあ、足りない人手は根性と内容で補えばいいわ」
「根性と内容が一番足りてないんだけど」
「捻り出す」
「あのねぇ、それ根性……」
呆れた様子のパチュリーは口を開きかけるが、とっさにそれを噤んだ。
そして返答の代わりに本のページをめくる音が返ってくる。レミリアとの会話をパチュリーが無理やり断ち切ったのだ。
つまらなそうにレミリアは紅茶を口に含むと、爬虫類のような双眸を細めた。
「──……なるほど招かれざる客、いや、渦中の客人か。やれやれ泥臭い未開な空気が流れ込んできたね。───咲夜」
「……小悪魔よろしく」
従者へと簡潔な命令を下したその瞬間、鈍い音が空気の弾みとともに紅魔館へ響き渡る。そしてテラスへと勢いよく何かが飛んできた。
飛んできたそれは咲夜がエネルギーをゼロにしてキャッチ。大破したテラスの残骸は全て小悪魔の魔力が飲み込んだ。
飛んできたその物体は我らが頼れる紅魔館の門番だった。苦痛の声を漏らしながら未だに寝息を立てている。
咲夜は無言で美鈴をテラスから放り投げた。
紅魔館を一瞬で覆った妖霧は凝縮され、元の形へと萃まる。
咲夜とパチュリーは静かにナイフと魔導書を携え、レミリアは興味深くその姿を見遣った。
「遊びはおしまいってわけね、おチビさん。それで本日はどのような件で紅魔館へ?」
「いやなあに。一つ協力してもらおうと思って」
────────────
「幽々子様! 斬ってもよろしいですか!?」
「まあ待ちなさい、一応知った仲よ。───昨日ぶり。鬼が出るか仏が出るかと思えば、これはこれは随分と小汚い小鬼が」
「言うねぇ」
楼観剣に手を当てる妖夢を制しながら毒舌を決める幽々子。霧の主は苦笑するしかなかった。
幽々子は静かに激怒していた。
理由は(霧の主曰く)威嚇攻撃によってがっついていた西瓜を白玉楼の縁側ごとダメにされてしまったからだ。
表面上は穏やかに無表情を保ってはいるが、手に持っている扇子がビキビキと崩壊の音を立てていた。能力を闇雲に使っていないだけまだ持っている方だ。しかしいつ爆発するかは分からない。
妖夢は泣きたかった。
幽々子と霧の主は旧知の仲。しかしとても親しい仲、というわけではない。ふたりの関係は所謂親友の親友であり、紫の仲介があって二人の接触は成るのだ。そんな奴がアポなしに威嚇攻撃となれば幽々子も悠長に構える必要はない。
場の主導権は相手に取られた。なれば話を上手く誘導してゆくしかない。まずは気軽に世間話でもして話の掴みを────。
「おっと、お前さんと話す気はないよ。流石にあんたにゃ話術で勝てるとは思ってないからね。ペースを引き摺られちゃ言いたいことも言えない」
「……」
「幽々子様……あの方は客人なのですか? いや、それ以前に斬ってもよろしいですか?」
目の色を変えてうずうずし始めた妖夢を幽々子は目で抑えつける。争うことは簡単だが、彼女相手ではそれに見合った結果は決して訪れないことを、幽々子は重々承知していた。だから彼女もまた食べ物の恨みを必死に己の内で抑えつけているのだ。
結局、話のペースを幽々子は握らなかった。
「……ふう。今日は遺憾の意を表明するだけで勘弁してあげるわ。さっさと用件を言って頂戴な。早くしないと私の優秀な従者が貴女の立派な角を斬るわ」
「……(うずうず)」
「全く、物騒な連中だなぁ。あの世の者がしていい目じゃないよそれは」
幽々子の遺憾砲を華麗にスルーし、存分に主従をなじる。そして彼女たちが本気で怒るラインの引き際を見極め本題へと入った。
「実はね、親友のツケ払いを頼みたいんだ」
────────────
忙しく鳴り続ける蝉の声が博麗神社を満たす。
今日も今日とて宴会の準備を始める霊夢だったが、流石に疲れの色を隠せない。二日酔いと夏バテが体を容赦なく追い立てる。
片付けは一応咲夜やアリスが手伝ってくれるのだが、準備は霊夢一人で行う。時折気づかぬ間に飲んだことのない酒が注がれた杯が人数分用意されていることもあるが、最近はそれもない。
いつも苦労するのは自分ばかりだ、と霊夢はしきりに思いながら淡々と準備を進める。
今日の宴会参加人数はそれなりだと覚えている。
フランドールを除く紅魔館の住民や、冥界の二人は安定した頻度で参加する。逆にほぼ毎日参加するのは霊夢と魔理沙、そして藍。時々やってくるのがアリスと幽香である。誘っても頑なに参加しないのは霖之助のみ。
ちなみにチルノやルーミアに文、名前を覚えられていない三人の妖精は乱入という形での参加になっている。
どうやら今回は霖之助が雇ったという外来の妖怪が参加するようだが、まあどうでもいいかと霊夢の頭から2秒でその存在は消えた。
名前を挙げた全員がもはや宴会に飽きてきているのは暗黙の事実だ。
レミリアに至っては生活習慣病に悩まされている。昼夜両刀の吸血鬼と里では持て囃されているようで本人は満更でもない様子ではあるが。
話を戻して、全員が宴会に飽きている。しかし誰も止められないのだ。自分の意思とは関係なしに体と心が動いてしまう。
そのことを不審に思っている者もいるし、すでにその原因を作り出した黒幕と対峙した者もいる。そして結論に行き着くのだ。
この異変を止めることはできない、と。
そして霊夢は黒幕の存在を感じつつもそれを敢えて放置していた。いずれ解決しようと思いつつ流れに流れて二ヶ月が経過。未だに動こうとしない。
空に感じる妖力の濃さは決して侮るべき妖怪でないことを物語っているが、今の霊夢には心底どうでもよかった。お酒を時々持ってきてくれる善良な存在である。
「今日は藍と幽々子が食材を持ってくるんだっけ? ならお酒は……」
ちらりと台所を見る。そこにあったのは中身のない空瓶が散乱している光景だった。
酒の貯蔵はない。すなわち霊夢が取らなければならない行動は大きく三つ。
一つに、木花之佐久夜毘売をその身に降ろして酒を一気に作り上げる。
一つに、人里まで下りて酒を買う。
一つに、誰かから
さてどうしようかと霊夢は考える。ばてている状態での神降ろしは何かと面倒臭い。酒を買うという案は……懐事情につき却下された。
略奪……もといお裾分けも連中がそう簡単に酒を手放すとは思えない。魔理沙やアリスに頼めば快くくれるかもしれないが得体が知れない。
ここで一人の男が霊夢の捜査線上に上がった。その男の名は、森近霖之助。
「……香霖堂に行きましょうか。霖之助さんなら何か手頃なお酒を持ってるよね」
大抵霊夢は困った時は紫を呼ぶか香霖堂へ行く。最近は紫もいなければ香霖堂にも行く気がしなかったので少しばかり懐かしく思う。
さあ思い立ったが吉日、と霊夢は散歩のような気分で出発しようとした。
だが前方に見えた陽炎に揺らめく人影に動きを止めた。霊夢は眉をひそめる。
その人影は神社の鳥居に内側から寄りかかっている。鳥居と大きさを比べてみるとその人影はとても小さい。幼児サイズほどしか身長はなかった。
瓢箪を呷っているように見える。
「……誰?」
声をかけると人影はこちらを向いた。
そして霊夢は気づいた。頭から生え出ている二本の長い鋭角に。太古より人間と相対してきた最強の存在の証に。
「鬼、ね」
確かめるように呟き、お祓い棒をどこからか取り出し空を叩く。
子供の頃に紫から語り聞いた数々の逸話。友人だという鬼たちが巻き起こした奇想天外な災厄。
腕を振るうだけで紙のように吹き飛ぶ山々、足を踏み込むだけで国を叩き割るほどの亀裂を生み出し、一喝するだけで生ける者共を死に追いやる。
またその妖術は極めて特殊かつ強大で、まさに鬼に金棒。あの紫でさえ正面からの対面は避けたいと言わしめる豪の者。
「ああ───……私が見えたか。待っていたよ、博麗の巫女。ようやくの邂逅だね」
小さくステップを踏んで鬼は重心を鳥居から自分の足腰へと戻す。そして軽く歩きながら霊夢へと一歩、一歩と近づいてゆく。
警戒心も、敵対心も全く感じられない。しかし霊夢は決して油断しない。鬼の内に蓄えられている瀑布の如き妖力──それだけで目の前の存在は十分な脅威になり得る。
そして数メートルもない位置まで鬼は近づいた。霊夢は気怠げに札を構える。
鬼は口の端を持ち上げ嗤う。
「さて自己紹介といこうか? 私の名は伊吹萃香……見ての通り、鬼だ」
「しかもただの鬼じゃない。今回の異変の黒幕なんでしょう? 幻想郷を覆ってた妖霧の正体もアンタ、宴会を開かせていたのもアンタ……」
「やっぱり気がついていたんだ。そしてそれを敢えて放置していたと? どうも、紫から聞いていたのと全然違うね、博麗の巫女ってのは」
霊夢は紫、というワードに微弱な反応を見せる。だが気怠さと警戒が混ざったよく分からない雰囲気は未だに変わらず。
はぁ、と霊夢はため息を吐いた。
「異変であって異変じゃないからよ。アンタの戯れに少しだけ付き合ってあげた……それだけよ。まずそもそもだけど、鬼に仕事を言われる筋合いはない」
「そうだろうがねー……お前の落ち度を私の所為にするのは感心しないな。吸血鬼も、幽々子も藍も……魔法使いたちもずっと気にかけていただろう?」
確かに彼女らが霊夢の様子見のために神社へ訪れていた、ということはある。なんだかんだで霊夢のことが心配だったのだ。
また霊夢の態度で紫の安否が分かるということもある。いつまで経っても宴会を繰り返す霊夢は───まあそういうことだろうと。
「煩いわね。それで今更なんの用? もしかしてお酒を分けてくれるの?」
いつも知らずのうちに酒を用意してくれていたのは萃香だ。彼女から酒をもらえればわざわざ香霖堂まで出向く必要はない。鬼ならばその豪胆さゆえに酒を快く譲ってくれるかもしれない。
「お酒、かぁ……」
萃香はヒクつくと伊吹瓢を呷る。目がギラついて、尚且つ据わっているのは酔いのせいだけではないだろう。じわじわと流れ出す妖力に神社の石畳が捲れ、蝉たちは一斉に命の謳歌を停止する。
晴天だった夏の青空はいつの間にか分厚い積乱雲が覆い、ポツポツと雨が降り始め…やがて暴風雷雨が吹き荒れる。これは萃香の能力による産物かと、霊夢は結界で雨を弾きながら思う。
幼さと古さを同時に感じさせる声音で萃香は言う。
「残念だが、宴会はもうナシだ。人妖を萃めるのは今日を最後にする」
「あら、宴会に飽きたの?」
「いいや。宴会は続いた方が楽しいでしょ? 私は賑やかなのが大好きなの。今回の宴会も楽しかった……ここまで多様性に富んでいた宴会は長く生きてきた中でも初めてよ。紫の望んだ世界が出来つつあるんだろうねぇ。───……見ていてとっても楽しかった」
「……の割には随分と不服そうね」
「ああ不服さ。親友に約束を違われた。───あいつは私を頼るし私はあいつをよく頼る。たくさんの約束事も取りかわしてきた。……もちろん私は一度もあいつを裏切ったことはない。そしてあいつも私を裏切らなかった」
ポツリポツリと語る。そしてだんだんと語尾が強くなっていた。
体が小刻みに震え空気が振動し、地面に亀裂が広がってゆく。血が滲むほど拳を握り締める。
「私は紫だけは信じてたんだ……ずっとずっと信じてたんだッ! 何百年も、何千年も! これから先の数万年も信じ続けようと、心に決めていた……!」
紫に対する深い信頼と友情、それは今や萃香を取り巻く憎悪へと変貌していた。
キレた鬼ほど怖いものはそうそうない……と、かの八雲紫はよく呟いていたそうだ。偏愛と大義では妖怪トップクラス、それが鬼である。
「あいつを信じて宴会を開き続けたんだッ!! なのにあいつは……あいつは、嘘をついて私を裏切ったんだぁー!! 八雲紫ぃぃぃッ!!」
癇癪を起こした萃香が地団駄を踏む。ドン、ドンッ、と爆弾が落ちたような仰々しい音ともに博麗神社を支えていた小山が崩落する。
雨と酒と涙に溺れて萃香の顔はぐしゃぐしゃだった。地面が崩れ落ちてゆく景色を背景に、萃香は嗚咽を酒とともに喉へと流す。
霊夢は呆れてものが言えない。
萃香は握りこぶしを眼前で握り、上へと突き上げ高々と宣言した。
「私は鬼だ……約束は守る。紫ぃ、お前と違えた約束……私はしっかりと守るぞ!」
突き上げられた拳が雨を割り、雷を割り、そして雲を割る。拳ひとつで幻想郷に渦巻いた異常気象が霧散した。
「そういうわけで今日が幻想郷最期の日だ! 私は盟友との誓いに則り幻想郷を徹底的に破壊する。それが私と紫の約束だ。そうだね、まずは
鬼と人間……物語は大抵が人間の勝利で終わる。だが、現実では如何程か。
源頼光や渡辺綱をはじめとした鬼退治に功のある者たちも、百パーセント自身の力だけで戦ったわけではない。神仏の加護、鬼達の慢心、そして騙し討ち、さらには幾つかの幸運があった。
きびだんごを食べただけでひっくり返るような力関係では決してない。
さらに、相手はその鬼たちの中でも隔絶された力を持つ伊吹萃香である。普通の鬼ならお祓い棒一本で討伐してしまうだろう霊夢でも、目の前の鬼はいささか相手が悪いように思える。
はっきり言って『予想外』──紫に関係する妖怪たちの歪さは十分に理解していたつもりであったが、その霊夢の認識はまだまだ甘かったと言わざるを得ない。前回の異変時には霊夢の力は幽々子と横並び状態であった。夢想天生が不完全だったとはいえかなりの遅れを取ってしまっていた。
いや、よくよく考えればレミリアも藍もフランドールも、状況によっては自分が負けてしまう可能性もないわけではなかった。夢想天生は絶対無敵、しかし霊夢は───あくまでも人間なのだ。
幽々子と萃香を比べてみれば、危険度はおそらく幽々子に軍配が上がるだろう。だが、総合的な厄介さは萃香の方が勝る。
危険だ。
しかし霊夢は博麗の巫女。まだ前回の異変よりそう時間が経っていないため完全な夢想天生は使えないだろう。だが逆に言えば夢想天生を使わずとも規格外の妖怪達とやり合えるだけの力を持っている。
さらには魔理沙と咲夜の手助けがあったとはいえ、別の八雲紫に勝利するという快挙も成し遂げている。今更鬼如きに臆するものか。
さらに霊夢の心中は穏やかでなかった。
原因も原因が全て紫。溜まっていた鬱憤が萃香という理不尽の前に爆発した。
「……黙って聞いてれば……! 何が紫との約束よ、そんな胡散臭いもの信じるもんじゃないわよ! おまけに色々とぶっ壊してくれて……挙句には私を倒す? いいわ、アンタは徹底的に退治してあげる。 いや、アンタを磔にでもすれば紫は出てくるかもしれないわね!」
「私を倒す!? あーはっはっはー。ここまで酷い
「舐めんじゃないわよッ! 巫女が妖怪に負けて幻想郷が回るもんですか!」
「私を妖怪だと思ってる時点で勝負にならないよ。我が群隊は鬼の百鬼夜行、私の集まる所に人間も妖怪も居れるものか!」
萃香が腕を振りかぶる。
パワーに特化した一撃はただの空圧でさえも最凶の武器へと化す。人間どころか妖怪でさえも受けきれないほどの衝撃。
対して霊夢はお祓い棒を薙いだ。
迸る霊力が鬼の剛力を空へと有耶無耶にする。怒りのあまり放出される霊気によってヒラヒラと震える紅白のスカートと巫女袖。
その姿はまさに鬼巫女。
互いの姿を認め、二人は衝突した。
*◇*
「暇ねー。そうだ、なにかゲームをしない? ルールはなんでもいいわ。互いの二番目に大切なものを賭けて、勝負するの」
『──────。』
「……そうね。賭けにもなりやしない」
フランドールはやさぐれた様子で虚空へと語りかけた。赤いソファーが彼女の重みでギシリ、と僅かな音を立てる。
虚空は答え、歪みをフランドールへと伝える。それによってフランドールの脳裏に浮かんだのは、姉のレミリアが血眼になって幻想郷中を駆けずり回ってる姿だ。他ならぬ自分を探し出すために。
「過保護よねー」と、フランドールは笑みをこぼした。
「私はいーのよ。お姉様がなんと言おうと自分のすべきことをやり遂げる。それに私が帰ったらこいしが困るんじゃなくて?」
『──────。』
「素直でよろしい。けどこのままお姉様を野放しにして幻想郷中に喧嘩を売らせるわけにもいかないし、なにより私は我慢の限界を迎えようとしているわ。これ以上時間をとるのはゴメン」
うずうずしながら妖力を漲らせる。パンッ、という音とともに壁に掛けてあった死体が破裂し、灰になってそこらへ散った。
『───! ───……』
「あぁわざとじゃないのよ。こいしといるんだからしょうがない。またあの猫ちゃんに盗ってもらってきて。……そんなことよりも紫よ紫。紫はまだ見つからないの?」
『──────。』
「ふぅん。こいしに見つけられないんじゃあ仕方ないかな。けどそろそろ面倒じゃない? いっそ私が直々に出向いてやろうかしら。紫の目はないけど、逆にそれが紫の証になるわ。もっともそれじゃ途方のない時間がかかるだろうしくだらない戦いも避けられない。建設的ではないなぁ」
つらつらと案を述べるもののはなから実行する気はないようで、フランドールは期待の眼差しをこいしへ向ける。虚空が揺らいだ。
ガツ、ガツ、と壁が刃物でえぐられる。この行為に何か意味があるように思えるが、実は全くない。ちなみに癇癪でもない。
「あーうんうん。夢かぁ。なるほど、試してみる価値はあるかもね! ナイスアイディア! 首尾は……あっ、お願いできる? よろしく」
納得したフランドールは机に置かれていたティーカップを呷る。そしてティーカップを砕き空間に歪みを壊した。歪みの先はいつもの地下室。
「じゃあ目処がたったら教えてね。世界の裏側にいてもすっ飛んでくるわ!」
『───。』
「はいはーいそんじゃね! あっ、あと一つ言っとくけど、最近こいしが何言ってるか分かんないや。はは、今度こそじゃーね!」
フランドールはスキップしながら歪みへと消える。虚空はゆらゆらと揺れる。
そして扉は開かれた。三つの目が歪みを見る。
「……フランは、帰ったのね。せっかく夕飯を用意したのに。だけど───……ええそれがいい。紫さんがいないことにはこれ以上の発展は望めない。だけどまあ、一応紅魔館の方に連絡は入れておきましょうか。あちらの当主とは一度も交わしたことがないし」
『──────。』
「好きにおやりなさい。深く入り込み過ぎなければどうということはない。……全くフランったら能力を愉しんで使ってるわね。このティーカップ高いのよ?」
手を翳すとバラバラに砕け散ったティーカップがみるみるうちに再生を始める。
そして復元されたティーカップを拾い上げ、何もないテーブルに置き直す。
満足げにそれを見やると、話を紫の件へと回帰させる。
「それに紫さんの復帰はできるだけ早いほうがいい。彼女にもしものことはないだろうけど、彼女の思い通りにならないことも多いと思う。私たちがサポートしても紫さんの邪魔にはならないはず。
ただ……貘には気をつけなさい。夢の世界でアレと戦うのは得策ではないわ。妖力は無限大、そして後ろ盾には舌禍をもたらす月の賢者。……地底と幻想郷に間違いなく災いと不利益をもたらす」
そこにいるはずの妹へ独り言を喋る。例えその場に居なかったとしても、例えその言葉を聞いていなかったとしても言うことに意味がある。
幸いにもこいしはいるようだ。不安定に虚空が揺れる。空気が少しだけ張り詰めた。
『──────? ───…』
「その場合は………どんな手を使ってでも殺しなさい。後先を考える必要はないわ。……難しいだろうけど、あなたもあんな紫さんを見たくはないでしょ? 」
『……───。』
「それが彼女のためなのよ。どういう巡り合わせかフランも協力してくれるみたいだし、あなたたち二人ならどんなこともやってのけることができるはず。もちろん紫さんを活かすことも、ね。……頼んだわよ、こいし」
ゆかりん→6頭身
メリーちゃん→3頭身
紫→7頭身
綺麗な紫→6.5頭身
注)あくまで雰囲気です
萃香は何をしでかすんでしょうかねぇ。
突然ですが手術することになりました。左腕がうごがねぇんだちくしょう……!
まあ、エタることはありませんが(壮絶な死亡フラグ)もしも続きが万が一投稿されなければ
オオオ
イイイ
死
ん
だ
わ
あ
い
つ
と思ってくだせえ。
でも相手はあのマミゾウ先輩だぜ?(幻聴)
けどやはり怖い。オラに勇気と元気を分けてくれ……!
あ、あぁ……会長…(幻視)