幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで 作:とるびす
・致命傷を受けた時点で試合終了。過度な追い討ちは禁止とする。
・武器の過度な複数携帯は原則禁止。銃火器類に使用する銃弾等、幽々子の裁量次第では認可とする場合有り。
・能力は対象を対戦相手にのみ制限し戦う事。
・シード枠を除き、全七回戦の勝ち抜きで優勝を争う。
・準決勝で再度くじを引き、再組分けを行う。
八雲紫とは無敵にして最強の妖怪である。
ただ一点、彼女をスキマ妖怪たらしめる要素がその地位を確固たるものにした。
規格外の異能を行使する存在は幻想郷において大して珍しいものでもないが、その中でも最強と呼ぶに相応しいものこそ、この八雲紫の能力。
その認識に旧き者、新しい者の隔てはない。
境界を操る事とはそれ程までに尋常ならざる力である。如何なる事象であっても本質そのものを別つ境目に抗うことはできない。攻防一体、無限の汎用性を誇る。
一介の妖怪の意思一つで質量、熱量、総量はおろか、この世の理さえも書き換えてしまう。
八雲紫と敵対しただけで、相手はまな板の上の鯉と化すのだ。
当然、紫の桁外れの妖力や森羅万象を熟知する明晰な頭脳を以って最強と呼ぶ者もいるが、それはあくまで紫が見せる遊びの側面でしかない。
彼女とまともに相対できる敵など存在しない。故に無敵なのだから。
とまあ、以上が紫に対する一般的な想像図である。イメージが先行し過ぎている点については最早指摘するまでもない。
しかし紫に脅威性や危険性を感じている、もしくは感じていた者達にとっては至極大真面目に対策を考えなければならない第一の壁であった。
まず紫の境界操作をどうにかできなければ勝負の土俵に立つ事すらできないからだ。
故に注目されたのは、完全無欠とも謳われる能力の弱点。境界に対し一方的な優位を誇る力。
即ち、四季映姫・ヤマザナドゥの権能である。
一足早い決勝戦。そんなワードが全員の脳裏をよぎる。
ここで八雲紫を止められるか、否か。それがこの大会の行末を占う分水嶺になるだろう。それが出場者と観衆問わずして共通する答え。
そんな傍迷惑な期待を一身に背負う稀有な存在。冥府の水先案内人、小野塚小町は身長以上の尺を誇る巨大な鎌を軽々振り回し、刃を全面に押し出すことで油断なく相手の出方を伺う。
対して紫は対照的に切先を地面に接着させ、脱力の構えを取る。全てを見通す冷たい目が小町の挙動の悉くを見透かしていた。
(参ったねぇ……。四季様の手前、いっちょ格好いい所を見せてやりたいんだが。生憎そう簡単に許してくれるような奴でもないか)
張り詰める緊迫感を誤魔化すように、今も来賓席から死合を見守る上司へと思いを馳せる。
広い武舞台の上、少なくともこの全域が2人の射程範囲である。謂わば互いに喉元へと刃物を突き付けた状態であり、隙を晒せば瞬間お陀仏だ。
そんな極限状態で己を保つ為の、一種の逃避策。
だが小町に悲観は無かった。腕を伸ばせば、そこには勝利が首を擡げて待っている。
勝てるのだ。小町と紫の間には絶対的な相性差が存在しているが故に。
三途の川で船頭をやっている小町は、生と死の境界が曖昧となっている場所を常に活動の拠点としている死神。境界を見定める技量を持たずして務まらない。
彼女が持つ距離を操る能力とは、言い方を変えれば即ち、境界へと介入する技術。さらに踏み込むのなら、境界を消失させる権能なのだ。
同じく曖昧な境界の一切を否定する四季映姫の一番の部下らしい能力である。
小町は今大会において最も紫を倒す可能性が高いと見込まれたある種の対抗馬筆頭だった。
勝敗は一瞬で決まるだろう。時間の経過とともに加速度的に圧が強まる。周りの者達など声を発するどころか、息すら忘れている。
紫にとっても、小町にとっても、距離は存在しない。互いが互いの命に手を掛ける事を可能とする存在。
刹那の駆け引き。
故にこうして、小町が鎌を振るえば──。
「……ッ!」
「……」
──刃が砕け、意味を持たぬ残骸となり武舞台へと降り注いだ。
須臾の時すら用さず、2人は接敵していた。
薄命を断つ生魂流離の鎌は粉砕された。残ったのは、傷一つない刃を死神の首へと当てる紫と、生殺与奪を握られた敗者のみ。
誰の目にも理解できない、単純明快な決着の姿が其処にはあったのだ。
小町は観念したように肩を竦めながら両手を宙に揺蕩わせる。「それまで」と、幽々子にしては珍しい芯の通った声が稗田邸に鳴り響いた。
そして一斉に沸く大衆を尻目に、鞘へと刀身を収めて武舞台を後にしようとする紫を呼び止める。
「どういう絡繰なのかな、今のは」
「答え合わせをする迄もない。理解している相手に態々説明してあげるほど暇ではないのだけど」
「理屈では分かる。アンタならやりかねない事にも納得している。でもやっぱ俄かには信じられないんだよ。それはあたいが頑固だからかな?」
「さてね。でも惜しかったわ」
「何がだい?」
「貴女とあまり斬り結べなくて」
さも残念だと言いたげに笑みを浮かべると、紫は武舞台を降りていった。
そんな後ろ姿を眺めながら、小町は気怠げに愛用だった鎌の残骸を拾い集めるのだった。
先述したように小町の能力は紫に対し、一方的に有利を取る事のできる稀有なものである。
彼女の振るう距離を無視した凶刃は境界を断つ力が付与されていた。それどころか、肉体は距離の否定まで纏っており、万が一のカウンターも小町には届かないようになっていたのだ。
しかしそれらは全て覆された。
境界を断つ鎌は一撃で破壊され、無限の距離を踏み越え紫は易々と小町の領域へと侵入してきたのだ。
簡単な絡繰だ。
小町の距離を操る力とは、大雑把に言い表してしまえば三途の川が持つ性質の再現。生前の行いによって変化する川の長さそのもの。
紫は小町の能力の正体を接敵の一瞬で完全に看破し、それに対応する性質へと自らを作り替えた。──否、この領域は既に通過していた。
三途の川の長さを求める公式など、何十年も前に解き明かしてしまっているのだから。
『境界の力を扱う八雲紫と戦う準備』を進めていた小町が勝てる道理など微塵もなかったのだ。
小町、引いては彼女を送り出した四季映姫の目論見は対八雲紫という観点では最適解に近い。
しかしたった一つの予期せぬ計算違いが此度の決着に繋がってしまった。
気付いた時には後の祭りである。
それは、戦っていた相手はそもそも八雲紫ですらなく、境界の力を扱う可能性などなかった、という事。
今も観客席の一画に向かって謎のウインクを飛ばしている八雲紫の正体が、まさかその式神であるとは。
*◆*
「藍さんが必死にアピールしてますよ。応えてあげなくていいんですか?」
「そんな事したら目立つでしょうが!」
「報われないですねぇ」
他人事だと思って呑気なことを宣うさとりは無視である。ていうかこの状況を楽しんでやがる……!
はぁい! とにかく周囲からの注意を浴びないよう人混みに姿を隠しながら縮こまってる本物のゆかりんですわ!
毎試合勝つ度にこっちに向かって手を振ったりウインクを飛ばしたりとアピールしてくる藍を躱しつつ、何とか正体が周囲に露呈しないよう頑張ってるの。
ほらほらほら四季映姫がこっち見てる!
「映姫様は
「な、ならいいんだけど……」
「まあいいじゃないですか。晴れて私との蜜月を周りに知らしめる事もできますし」
「どのみち救いが無い話ですわ」
笑顔で手を振り返しているさとりにげんなりした。ついでに藍も顰めっ面になってた。
さとりは地底引き篭もり陰キャの世間知らずだから知らないかもだけど、これって滅茶苦茶恥ずかしい事なのよ。そう、俗に言う悪目立ちってやつね。
ていうか、どちらにしろ明日から表通り歩けなくなるじゃないのヤダー!
現在、剣術大会でも弾幕コンテストでもない珍妙な催しは4回戦まで進行している。
幻想郷各地から集った100人を超える猛者達は次々と数を減らし、今となっては8人を残すのみとなった。
興味本位で参加したような身の程知らずはとうの昔に淘汰されており、ここまで勝ち残ったのは紛れもない幻想郷屈指の戦巧者という事になるだろう。
で、ここまで大会を観察してきた身として感想を述べさせてもらいますけども。
これってもしかして私を虐めるのを目的とした大会なのではなかろうか? 私は訝しんだ。
何が酷いって、明らかに対戦相手に偏りが生じているのよね。くじ引きでトーナメント表を決めたらしいけど、
一回戦は本来シード枠という事で免除されていたのだが、大会の存在をギリギリで知った魔理沙の飛び入り参加で急遽八雲紫が宛がわれる事になったのだ。
範馬○牙の最大トーナメントでも見ているのかと思うくらいガバガバな審査基準である。あとわざわざ私にぶつける所とか悪意を感じるわね。
まあ結果として弾幕、スペルカードが使用できない今大会のルールは魔理沙向けではなかった。彼女の武器なんて箒でしたし。
首元をを狙った藍の一太刀を持ち前の回避力で躱したはいいものの、ついでとばかりに放たれた強烈な前蹴りで場外まで吹っ飛んでしまったわ。瞬殺。
金髪の子かわいそう。
女の子のお腹を蹴るの、良くない。
で、試合が終わった後、お腹を押さえて蹲りながら凄い恨めしそうな顔で
二回戦の相手は本大会一番の問題児、河城にとりだった。何が酷いって、持参した武器が明らかに銃火器系統のものなのよ。
一回戦では対戦相手の名もなき妖怪を蜂の巣にしてたわ。永琳からの発表では死んでないらしいけど、どうだかね。脳味噌にマイクロチップでも埋め込んで遠隔操作してるんじゃないの? 月の技術ってそんなんばっかでしょ(偏見)
そんな危険人物であるにとりだが、彼女とは一応友好関係を築いているつもりだ。昔から対天狗での抑えとして色々と優遇してたし。
だから手心を期待してたんだけど、あの野郎容赦なく残弾全て使い切る勢いで一斉射撃しやがりましたわ畜生。
銃火器が変形したと思えば砲口が分裂し、銃弾レーザー各種弾幕ウォーターカッター等々が殺到した。私が受けたならきっと木っ端微塵になっていただろう。マジで許せねえですわ。
しかしそこは藍の方が数段上だった。
にとりの放った攻撃の悉くを切断しながら接近、銃火器ごとにとりの身包みを細かく引き裂いたのだった。装備といつもの作業着を失い、文字通り丸裸になってしまったにとりは泣きながら降参したわ。
あのメカキチにも恥じらいの精神があったとは驚きですわ。……恥を知らない貴女より全然マシ? さとりシャラップ!
ああ、あとにとりからは恨めしそうな涙目で睨まれてたわ。大衆の前でひん剥かれちゃったんだから当然と言えば当然よね。畜生。
で、三回戦の相手が犬走椛ね。
正直結果は分かりきってると思うけど、まあ藍の勝ちだったわ。そもそも藍と椛の戦闘スタイルって畜生的でかなり似通ってるから、地力の違いがモロに出ちゃった感じ。
ただ本大会にしては珍しい正々堂々とした素晴らしい死合ではあったわね。
互いの優れた五感と卓越した戦闘IQのぶつけ合い。素人目で見てもとんでもない水準の技術が鎬を削る分かりやすい展開だった。
最後は藍が息も切らさず勝利したけど、ようやくまともな剣術勝負が見れて私も満足でしたわ。
まあその後、感服した椛からまたの再戦を希望されて快諾してたのはどうかと思うけどね! だってさ、それって戦うの私でしょ!?
この辺りから気付いたんだけど、藍ったら演技にのめり込み過ぎて八雲紫と八雲藍の境界が曖昧になってきてたみたいなのよね。某鎧の巨人かしら。
流石にこれ以上の暴走は不味いと思い藍との接触を試みているのだが、選手の中で突出して悪目立ちし過ぎているせいで近付く事すらできない。
念話を使おうにも微弱な妖力波に反応しそうな連中が会場にひしめいてるし……。
「まあこれ以上大事にならないよう祈るしかないんじゃないですかね。紫さんが保身に走らなければまだ手はあるかもしれませんけど」
「なら打つ手無しですわ。祈ります」
「でしょうね」
目的は既に達成された。
めちゃんこカッコいい私の姿はもう十分見れたから、後はいい感じに負けて欲しい。明日からの幻想郷内での私の立ち位置が危うい事になってしまう前に。
ていうか一々勝負の仕方が綺麗なのよね、藍って。戦闘スピードに目が追い付かない一般大衆に考慮して分かり易い方法でしか決着に持っていかないし、相手の手札をなるべく開示させてから潰している。
エンターテイメントというものを理解してる戦い方ですわ。流石ね。
そのせいで偽りの八雲紫像がとんでもない事になりつつあるのは看過できないんですけども。
「と、ぼやいてる場合じゃないですよ。五回戦も順次開始してるみたいです。さてベスト4決定戦、誰が勝ち上がってくるのか楽しみですね」
「純粋に楽しんでる貴女が羨ましいわ」
「自業自得でしょうに」
それはそうだけど。
……しかしここまでくると誰が勝ち上がってくるかは大体予想が付くわね。
段々とその動作すら見えなくなって、少年漫画の効果音みたいな凄まじい打撃音だけが聞こえる。久しぶりのヤムチャ視点ですわ。
しかし肉弾戦で藍に勝つのは不可能。一応門番さんの土俵ではあるみたいだけど相手が悪かったわね。
あ、試合終了。
妖夢は槍を振り回す虎女ちゃんを相手に優位に立ち回っている。二刀流は槍に対して有利って宮本武蔵先生が言ってた気がするわ! 多分!
しかし虎女ちゃん……名前は確か
ここはどちらが勝つかまだ分からない。
私はどちらか片方を贔屓するような応援はしないからね。2人に目一杯エールを送りますわ! 星くーん! しっかりー! ヴェイ!
さて、お次は……。
「あ、すみません紫さん。ちょっと呼び出しが掛かったので席を外しますね」
「あら珍しい。どちらから?」
「映姫様からです。一応上司になりますので」
嫌な名前を聞いた。
「えっと、今?」
「火急の用事らしいです」
「……分かったわ」
「はい」
「くれぐれも」
「言いません」
話が早くて助かる。
いや、しかし油断はできない。四季映姫は嘘を見破る能力を持ってるからね。
さとりにその気がなくても変なところでボロが出ればズルズルと今回の件が露呈する可能性がある。
閻魔は誘導尋問のプロですわ。
「大丈夫ですよ紫さんじゃあるまいし」
「いや、念には念を入れましょう。ちょっと此方へ」
「……」
いつものジト目だ。
どうせ「保身の事になるとすぐ必死になる」とか思ってるんだろう。その通りですわ。
さとりの手を握りスペルを発動。私と彼女の境界を取り払い狭間の力を流し込む。
いつぞやの召喚スペル『トリニタリアンファンタジア』の応用ですわ。失われた実体を顕現させる事は力量不足でできないけれど、ほんの一部なら再現できる。
いっぱい訓練した成果ですわ!
選択したのはこいしちゃんの無意識を操る能力。これをさとりに譲渡して隠れ蓑にしてもらうのだ。あくまで一部なのでステルスみたいな事はできないけど、精神に対しての介入を妨害する程度なら問題ない。
四季映姫やさとりなどの精神攻撃を得意とする存在に対してめっぽう強いこいしちゃん、頼りになるわ。
さとりからは「そこまでするか」と呆れられていたが、まあ愛する妹の力なので満更でもなさそうな様子だった。このように私の技量が上がればこいしちゃんの復活も夢物語じゃなくなるしね。
そんなさとりを見送って、ふと武舞台の方を見ると五回戦全ての試合が終了していた。
あと、飛鳥のじゃ亡霊ちゃんがレミリアの来賓席に頭から突っ込んで揉めてたけど何があったのだろうか? 面白そうな試合を見逃してしまって残念ですわ。
「期待していたよりもずっと面白いものが見られて満足だけど、ここまではあくまで前座。各々の持てる技能全てを発揮し、最後まで健闘してちょうだい」
「はいっ!」
「更なる盛り上がりを期待しているわ〜」
おおよそ主催者のものとは思えない有難いお言葉が並び立つ4人に掛けられた。
ただ元気良く返事したのは妖夢だけだった。
他3人は無言。ていうか何を考えてるか分からないというか、注意が別に向いているというか。
勝ち残った4人の印象をざっと並べるのなら、順当、そして意外という感想が一番に浮かぶ。
順当とはつまり、当初の予想通り勝ち残るべくして勝ち残った猛者のみだという事。
次に意外とは、1人だけ幻想郷において全く知名度のない者が居たからだ。
かく言う私もその者の事は何も知らない。
まず優勝候補と目されているっぽいのが
圧倒的なフィジカルと如何なる小細工も看破し己の力に変えてしまう対応能力。この大会を通して剣術の腕も相当仕上がってきてるみたいだし、負けるヴィジョンが思い浮かばない。
ガワが私である事を除けば完璧で究極の剣客ですわ。
……明日から私どうなるんだろ。
次に数多の激戦を乗り越えてきた妖夢。もう既に満身創痍一歩手前だけど、持ち前の爆発力と今大会でも一、二を争う剣才で勝利を手繰り寄せここまで辿り着いた。
あの子が負けたらこの大会のコンセプトそのものがぶち壊しだからね。良かった良かった。
幽々子の目の前で無様に負ける訳にはいかないって考えてるだろうし、何とか優勝を目指してもらいたいものですわ。
その次が我らが天人様、比那名居天子さん! やっぱり今回も勝ち上がってきたわね!
これまでの試合の殆どで致命傷になってもおかしくない攻撃を貰っているにも関わらず大した傷は無し。全ての敵を破壊力全振りの一撃の下に葬り去った。
天子さんには悪いけど、彼女こそ剣術大会のコンセプトから最もかけ離れた存在でしょう。技量も糞もなく、純然たる暴力で勝ち上がったのだ。
そして一番の問題が、
で、最後の4人目。
深編み笠を被った虚無僧さん。当初持っていた尺八は何処へやら、バカ長い野太刀を変幻自在に操り神技を連発。数多の幻想少女を撃破した恐るべき誰かさんである。
……いや誰!? 誰なの!?
あまりにも謎の存在過ぎて観客どころか選手達まで困惑している。藍や妖夢もチラチラ横目で見ていた。彼女達ですら無関心を貫けていない。
何せこの虚無僧、五回戦で十六夜咲夜を破っている。時を切り裂き時間停止を真正面から攻略しているのだ。投げナイフの持ち込みに制限が掛かっていて鬼畜メイドに不利だった事を鑑みても、恐ろしい実力の持ち主だ。
身長や肩幅から推測するに恐らく男性ですわね。女尊男卑というか、実力者が女性に集中している幻想郷には珍しいわ。ていうか初めて見たかもしれない。
ただまあ、あり得ない話ではないのよ。
私達の知らないような災厄級の化け物が幻想郷に潜んでいる可能性は否定しきれないの。
前回大会だって、アフリカ出身の猛者『レーセ・ンウドゲイ・ンイナバ』さんが優勝してるしね。在野にとんでもない奴が紛れてても驚かないわ。
……そういえば、ンウドゲイさんったら前回大会から見掛けないわね。今どこで何をしてるのだろう?
とまあ、そんな4人が優勝を争っていく訳だ。なんだかんだで刀持ち揃いね。
ちなみに山城たかねとかいう緑髪の河童擬きが優勝予想の賭け金を受け付けていたが、一番人気はやはり八雲紫だった。うふふ照れちゃいますわね! 人気者は辛いですわー! (ヤケクソ)
その後ろに天子さん、虚無僧さん、妖夢の順で続いている。
天子さんは前回大会の実績と華々しい試合内容からして納得の位置なんだけど、後の2人はうーん……何とも言えないわね。
虚無僧さんはあまりにも未知過ぎるし、妖夢はここに至るまでの試合内容がギリギリ過ぎた。まだ余裕の勝利を重ねた虚無僧さんの方が観客の目には強そうに映ったらしい。
主役の筈なのに……妖夢不憫!
「準決勝と決勝は御夕飯休憩の後に開始するわ。皆様暫しお待ちを〜」
これは多分、幽々子の個人的な事情ね。
幽々子の食事が一日三食に留まる筈がないのは皆さん周知の事実だと思う。少なくとも八食は食べてるわね。夕飯と晩御飯は別枠ですわ。
お腹が空いたから一旦進行を中断したんだろう。
主催席でも色々食べてたように見えるのは気のせいよ。忘れましょうね。
観客は離散し、ベスト4の面々も準決勝用の振り分けクジを引くと解散してしまった。
私も何処かで暇を潰していましょうか。なんか周りから「紫の野郎絶対許さねえ」「夜道で服ひん剥いてやる」「椛様に恥をかかせた恨み」とか色々聞こえてきて気が気じゃないしね。
ふふ……蓮子、メリー、AIBO。私がそっちに行く日も近いかもしれないわね。(白目)
この時、私は自分の境遇に悲観して絶望するあまり、注意が散漫になって気が付かなかったのだ──。
「なぁ紫。ちょっと付き合ってよ」
「あら腐れ天人。馴れ馴れしく話し掛けないでって控え室で申し上げたばかりでしょう? 何か言いたい事があるならこの八雲紫に完膚無きまでに敗北し、地べたを這い蹲った状態で言ってもらいますわ」
「ふ、ふふ……相変わらず人をイラつかせるのが上手い奴だな」
武舞台の裏で天子さんと
「そう言うな些細な事だ。いや、アンタにとっては大事かもしれないけど」
「はい?」
「上手く周りを化かしているようだが私には通用しないぞ。畜生の臭いが消せてないからな。それに戦闘の癖がまんまだ。何度お前と戦ったと思っている」
「……貴様」
溜まりに溜まった鬱憤を爆発させ──。
「ハッ、尻尾を出したな女狐め! よくもこの私を謀ってくれたな!? もはや試合まで待つ必要もなかろう……斬り殺してやるッ!」
「良かろう手間が省けた。大勢の前で恥をかかせて紫様との繋がりを断ち切ってやろうと考えていたが、どうやら回りくどかったようだ! 知られた以上は消す!」
「ぬかせッ! 主人の威を借る下賎な狐がッ!」
今この瞬間、最悪を更に加速させる最悪の出来事が起こりつつある事に。
長いので分割しました。
次回は既に半分ほど書き上げているので、多分早めに投稿できると思います。
【挿絵表示】
前回に引き続きゆかりん好感度ランキングのワーストを置いておきますね♡
10位までしかないのは、そこから先は結構団子になってるからです。ちなみに最終章前だとさとりとかレミリアが入ってました。
次回は幻マジ時空最強ランキングでも作ってみます。みんなでゆかりんの順位を予想してみよう!