幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:とるびす

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心が一つになれば、悲しみを全て無くせるのかな?

2023.8.21 設定集を追加しました。


私が選ばれた理由(わけ)

 

 悲しい、あまりにも残酷な物語。

 

 綺羅星のように煌めく2人の人生。それは走馬灯という形で朧げながら私の中に残っていた。

 心にずっと染み込んでいた二つの想い。

 

 瞬間、八雲紫に蘇る在りし日の記憶ッ! 

 押し寄せる奔流は、容易く我が情緒の悉くを灼き尽くしたッ! 脳味噌大爆発ッ! 

 

 アあ゛い゛っ! 

 はぁはぁ、蓮メリは劇薬ですわ……! 

 

 脳を駆け抜けた記憶が強い衝撃となって襲い掛かる。強い眩暈と吐き気を覚えるほどのそれは、私が次の段階に進もうとしている証なのだろうか。

 とってもビリビリする。とんだ副作用よ。

 

 氷嚢で頭を冷やしながら、スキマをソファーにして仰向けに寝転んだ。身体の消耗は一切ないけど、心はそうはいかない。適度な休養は大切よ。

 

 感覚的にはあれだ、過去の黒歴史が唐突に蘇ってきた時の負荷に近いわね。日常生活に支障をきたすレベルのあれ。くっ、鎮まれ私のハート! 

 

 過去の例としては、何も無いところで視線を感じると「貴様見ているなッ!」なんて事を叫んでた時*1とか、香霖堂で暮らしてたメリーちゃん*2時代を思い出した時によく起こる現象である。

 

 くそぅ……蓮子とメリーの甘々な過去を見せつけられて私の心はボロボロですわ! 「2人は短い生涯をあんなに一生懸命に生きてたのに、私ときたら800年も何やってんだか」みたいな嫌悪と羞恥が! 

 

 惰眠を貪り、人様に迷惑をかけ続け、何を為すこともなく漫然と生きるだけのダメ妖怪。しかも恋愛経験ゼロ! 

 

 ごめんなさい! ごめんなさい! 

 私なんかが生まれてきちゃって申し訳ない! 隙間があったら入りたい! 

 

「どうした紫。敵襲か?」

「うぅ……お、お気になさらず。それよりも貴女(隠岐奈)は万が一の失敗もないよう、全力で事に当たってくださいな。全ては貴女の腕にかかってるわ」

「ほぉ私を疑うか。お前に頼まれた以上、雑な仕事はしない。期待して待っていると良い」

 

 発作を雑に誤魔化しつつ、オッキーナに抜かりが無いよう念押しする。究極の絶対秘神である彼女にミスなんてあろう筈がないのは私自身よく知るところではあるけれど、やはり内容が内容なので過敏にならざるを得ない。

 

 気怠げに向けた視線の先には、これまたぐったりした様子で項垂れている菫子。立っているのも辛いようで、座り込んで終わりを待っている。

 その原因は私のような身から出た錆ではなく、外的要因により体調を著しく損ねているからだ。その下手人こそがオッキーナであり、彼女に命令(お願い)した私である。

 

 彼女の背中に仕掛けられたバックドアー。そこから菫子を菫子たらしめる力が流れ出し、余す事なくオッキーナが回収していく。

 超能力と呼称されるそれこそが、本来の私に備わっていた力。()()()()()()()()()()()()()()である。

 これが私の手に渡った時、形はどうであれ最強超妖怪パーフェクトゆかりんが誕生するのだ。

 

 力の放出、回収という面ではオッキーナの右に出る者は居ない。蓮子を余す事なく受け入れなきゃならないこの状況において、彼女の力を借りないという選択肢はハナからなかった。

 まあ段取りを考えてくれたのは藍なんだけどね。

 

「あとどのくらい待てばいいの?」

「そうだな……全てを抜き出すまであと3時間といったところか」

「ふむ、それなりに時間がかかるのね」

「それだけ緻密な操作を行なっているという事だ。菫子自身の潜在能力が途轍もなく大きい、というのもあるがな。まあ、一番の理由については敢えて言及しまいよ」

「助かりますわ」

 

 オッキーナの含みある笑みに嫌なものを覚える。彼女が最後に言葉を濁したのは私への配慮に他ならない。

 というのも、現在進行形で私の目の前に居るオッキーナは本人ではない。これは諏訪子やぬえ、こいしちゃんにも言える事だけど、少々存在の定義が異なる。

 

 後者の3人娘は故人であり本質的には『存在しない者』だ。幻想そのものと言える。

 しかしオッキーナは死んでは居るけれど、実体を失っている訳では無い。

 

 これが『トリニタリアンファンタジア』での召喚と『擬似式神』での召喚による違いね。ゼロから生み出すか、再利用するかの違いだ。

 言わずもがな、私に依る部分が少ないほど制御が難しくなる。中でもオッキーナは曲者中の曲者。無理に使い倒そうとすればバグが酷い事になるわ。

 故に様々な縛りを設けている。

 

 どんなバグが起きても我が永遠の盟友(という設定の)オッキーナなら私を害すような事はしないと思うが、万が一変な方向に思考が進んで「死こそが救済!」なんて言って襲い掛かられたら一大事だ。

 いやまあ、それはそれで望むところなんだけどね。多分負けないし。

 

 そうそう、オッキーナの再現の為に私も色々と手を打っててね。

 例えば配下の二童子ちゃん達に分けていた力はしっかり回収しておいたわ。秘神亡き後、機能を失って人里に拘留されてたけれど、私にかかれば多少の境界なんてそよ風も同然ですわ。

 慧音が居なくなってたのも大きいわね! 彼女の拘束には実のところ深い意味があったのだ! ……ま、まあ結果オーライですわ。

 

「悠長にしてた割には、さっさとやれ、疾くしろ、とやけに急かしてくるじゃないか。やはり懸念しているのは、アレのせいか?」

「……アレ?」

「擬きの事だ。逃しただろう」

「ああAIBOねぇ。型落ちとはいえ、前世界の希望を一身に背負った八雲紫ですもの。そう易々とやられはしないでしょう。次はしっかり消しますけど」

「AIBO……? アテム気取りか?」

「元ネタが分かる人に初めて会えたわ」

 

 勝手に感激していると、オッキーナは呆れたのか自分の作業に戻ってしまった。ほらなんていうか、こういうノリが無意識で出てしまう仲は大切だと思うのよね! 

 早苗も多分乗っかってくれるけど、やり過ぎて引かれるとダメージが大きい。一応彼女のお師匠様で通ってるみたいだし……。

 

 まあそんな話題はさておき、AIBOについてだ。

 みんなは偽物とか擬きとか言ってるけど、なんか可哀想だから私だけはAIBO呼びで続行ですわ。もう協力関係じゃなくてただの敵だけど。

 

 そもそも彼女の生まれも中々特別。どうも彼女自体は前世界の産物であるようで、ループの破壊を使命として送り出された式神なのだ。

 

 蓮子を経由して八雲紫に取り憑いたんですって。

 

 私の追憶にもあったけど、八雲紫が橙*3を遣わせてまで死の間際に蓮子と接触してたわよね。

 あの時に紫が蓮子に渡していた物。

 八雲紫の『名前』『能力』。

 この二つが八雲紫の意思を持った式神を時空を超えて存在させているのだ。

 

 本当は『身体』も渡して常時動けるようにする予定だったらしいけど、保持を託されていた藍が死んじゃってそれどころじゃなくなったとか。

 当初こそ「何処の何奴がうちの藍に手ェ出したんじゃ!」と憤って犯人を調べたんだけど、諸々の経緯を知った私はそっと回れ右をした。

 

 ……やっぱ辛いですわ。

 思い出したくもない。

 

 この話をAIBOから読み取った時、悲しくなったと同時に納得したわ。

 AIBOの力の源泉は藍なのだ。春雪異変や永夜異変で私に成り代わった時だって藍に何らかのアクションを取ってたようだし。

 ちょっと前に『妖力のチャージ方法』なるものをAIBOが仄めかしてたんだけど、あれは要するに藍から妖力を引っ張る方法だったのだろう。

 

 成り立ち、経緯、結果。全てが血塗られた呪われし式神。それがAIBOだ。

 そしてその本懐は成し遂げられた。

 

 AIBOの暗躍とかつての八雲紫の決断が私の誕生に結び付き、蓮子とメリーの悲劇を根底から破壊した。

 この世界に『本物の』八雲紫は居ない。つまり、八雲紫が2人存在するなどという馬鹿げた現象が是正されたのだ。世界は微睡からの目覚めに進んでいる。

 

 

 ……。

 

 

 私にとって、宇佐見蓮子という存在はやはり特別なものだったようだ。

 記憶が無くても彼女に対する想いは、夢や菫子へと無意識に表出していた。

 

 それはきっと幼子が母を求めるのと同じことなんだと解釈している。

 自分の一部だった者に対する哀れみだとか、メリーとしての何かが反応している訳ではない。決して。

 私の中に蓮子は居ない。あるのはメリーの死骸と、私だけだ。

 

 私の身体は秘封倶楽部の墓標なのよ。

 その事実が私を苦しめる。

 

 このままでは終われないと、私を暗闇へと引き摺っていくのだ。

 

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 

 八雲紫とは元来、検討と思案を重ねて慎重に物事を進めていく傾向が強い妖怪だったようだ。

 無鉄砲な行動で大切な何かを失った経験がそうさせるのだろうか。それとも、ヘタレなメリーとしての側面がそうさせたのかもしれない。どちらにせよ保守的な一面があったのは間違いないだろう。

 

 それを踏まえた上でかつての私──敢えて本当の八雲紫と呼ぼうか。

 紫は、これまでの八雲紫には強く見られない一つの性質があったらしい。

 それは、酷く無責任であるという事。長い年月を紫と共に存在していたAIBOからの評価である。

 AIBOは真逆のタイプだから余計そう思えたんでしょうね。

 

 月勢力との殺し合いは良い娯楽。言葉も分からないほど幼かった藍を溺愛してたのも娯楽。気まぐれに数多の妖怪と親交を持って、それらが自分に対して何を想い消えていこうが、紫はその様子を興味深く観察していた。

 

 所詮、この世は夢幻。自分のせいで何が起きようが知ったことでは無いとでも思っていたのだろうか? 

 私に彼女の全貌は分からない。しかし唯一、確実に言えるのは、紫は善い妖怪ではなかったという事。どこまでも自分本位な女だった。

 

 AIBOから世界の仕組みと、これから起こり得る未来を教えてもらっても、少なくとも表面上、紫の態度は変わらなかった。関心が無かったようにも思える。

 

 或いは……自分の妖生を秘封倶楽部の活動の延長と考えていた? 幻想郷成立への熱意は本物であったようだし、()()の記憶もかなり鮮明に残っているような言動が多かった。

 

 あの八雲紫は、私やAIBOでさえ本質を掴みきれないブラックボックス。温和な性格をしているように見えて、何重にも策謀を張り巡らせているようなタイプ。

 強さや格においても、恐らく最強の存在であった筈。私もAIBOも、彼女が苦手だ。

 

 

 

 ぬえは、そんな紫を慕っていた。紫の未知な部分というか、正体不明なところに惹かれていたんだと思う。何処に行くにも引っ付いていたようだ。

 楽しい毎日だった。戦乱に塗れた日本中を巡って、時にはマミさんを交えて色々なお酒を呑んで。

 たくさん笑った。

 

 そして殺した。

 妖すら寄り付かない墓場にぬえを誘い出し、こいしちゃんによる背後からの一撃。無敵の大妖怪といえど、心を破壊されてしまってはどうにもならない。

 紫は喜んでぬえを食した。

 

 どんな神経をしていれば姉のように慕ってくれていたあの子を殺すことができるのか、私には分からない。少しでも葛藤するそぶりがあれば、ぬえにも救いがあっただろう。でもそんなものはなかった。

 

 正体不明の能力は()()()()八雲紫の性質に合致している。貧弱な私でも自然に扱えていた事から、親和性の高さは当時から目を見張るものがあったのだろう。

 でも、たとえ私を活かす為の措置だったとしても……ぬえを犠牲にしたのは全く納得できない。

 

 

 

 妖怪の山を弱らせた時の手段も酷かった。

 密かに天魔の右腕、大天狗の飯綱丸龍と接触して取引(恫喝)を仕掛けていた。

 簡単な話が「お前の能力を差し出せば天狗に力を貸すし、少なくとも五世紀は取り潰さないでいてやるよ(意訳)」だった。

 

 飯綱丸さんの能力は『星空を操る能力』であり、これがループの突破口になるのを期待したのだと思われる。更に王佐の天狗と持て囃された彼女を潰せば天狗は伸び悩む。幻想郷の成立もスムーズに進むというもの。

 

 飯綱丸さんに選択肢は無いようなものだ。

 

 当時、天狗は時の覇権を巡りリグル・ナイトバグとの決戦に臨んでいた。

 今でこそ幻想郷のバランスブレイカーの中でも控えめな妖怪として細々と暮らしているリグルだが、この時の彼女は強かった。というより強過ぎた。

 

 本人の絶大な妖力もそうだが、配下がヤバい。蟲妖怪は『飢え』を司る存在なだけあって一匹一匹が大妖怪並の力を持つ。それが津波のように押し寄せるのだ。

 アレらが通った後は草木一本残らない。

 

 さらに姫虫百々世と黒谷ヤマメの存在。ヤマメの凶悪さは世間の知るところであるが、更に酷いのが百々世ちゃん。ハッキリ言って、アレは当時の萃香や勇儀より強かったと思う。

 当時の最強といえば、それは蟲妖怪を指すのだ。

 

 そんな連中との戦いに勝機など存在しなかった。

 天狗の中には悲観的な雰囲気が漂い、みな死にに行く亡者のような有様。

 

 勝つ為に己の身を差し出す事を厭うほど、飯綱丸龍という天狗は弱く無かった。実に天狗らしく、天狗社会の成長維持発展の為に死んでいったわ。

 見届人は管狐ね。例の典ちゃん。

 

 結果として天狗は戦争に勝利した。時の覇権妖怪を斃した事もあって名声は天を衝くほどに高まり、それが現在の賢者としての求心力に繋がっている。

 でもそれは決して天狗にとって幸運な事ではなく、凋落の始まり。悪夢が産声を上げた瞬間だった。

 

 飯綱丸さん亡き後の天狗に覇権を維持する能力など無く、後は知っての通り。

 

 こいしちゃんが殺され、天魔は狂い、文とはたては夢を失った。沢山の妖怪が絶滅した。

 最後に紫が天魔を始末して終わりだ。妖怪の山は今に至るまで浮上できずにいる。

 

 私が幻想郷を滞りなく運営できるよう、数多の妖怪が無為に命を落とし、未来を狂わされたのだ。

 八雲紫に目を付けられた時点で、山に住まう妖怪達の命運は尽きていたのだろう。

 

 

 

 

 この世界でのマエリベリー・ハーンとの邂逅もまた、計画された出来事である。

 メリーの夢は時空を超越する。中でも幻想郷との同期が最も強くなるのが、迷いの竹林を彷徨い藤原妹紅と遭遇する時のものだ。今から約800年ほど前の事よ。

 

 メリーとして存在していた時の記憶。AIBOから予め聞かされていた未来知識とその重要性。

 それらがあれば時期の特定は容易い。

 あの瞬間こそ、全てのターニングポイントであり、延々と巡る夢を破壊する唯一のチャンスだった。

 

 八雲紫は邪魔立てする妹紅を排除し、メリーを喰らう。それは一度身体に取り込むことで、自身の内にある物を無理矢理定着させる為の処置。

 

 自分の中にある宇佐見蓮子を、丸ごとマエリベリー・ハーンに移譲したのである。

 星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる能力。自身の境界を見失わず、導へと誘引する力。それら全て、丸ごと。

 

 蓮子を得たこの世界のメリーは、私の元になったメリーのように暴走する事なく、擬似的な八雲紫として、ただの人間の女の子として生涯を全うするのだろう。

 最愛の相方と、最期の時まで。

 

 

 そして蓮子──己の半身を失った紫は死亡する。

 

 

『貴女の事が憎らしい。羨ましくて、妬ましい。私が貴女であっても良かった筈』

 

『……ごめんね蓮子。私達の冒険、終わっちゃったわね』

 

 

 そう言い残し、彼女は消えた。

 残ったのは残骸と名前だけ。

 

 八雲紫はこの日、終わりを迎えた。

 

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 

 で、私が生まれたってわけ!!! 

 

 空の器に芽生えた新たな心。それが私! ナウでヤングな八雲紫ですわ! つまるところ肉体年齢はともかくとして、私の実年齢は800歳くらいって事。

 私のことを耄碌したババアとか言ってた人達には即刻反省してもらいたい。

 

 いやーホント傍迷惑な話よね。

 あんな厄の塊みたいな事をしまくった挙句、私に丸投げだもの。もう少しなんというか、こう……手心というか!

 

 ちなみに記憶が戻った時、一番に抱いた感想だけど。

 

 誰が生めと頼んだ! 

 誰が造ってくれと願った……! 

 私は私を生んだ全てを恨む……! 

 

 という悲しきモンスターのようなものだった。

 絶対に許さねえですわ! 

 元ネタよろしく、私のやろうとしてる事は創造主への逆襲みたいものかもしれないしね。

 

 

 AIBOの目論見通り、八雲紫の自死によってループは決着した。

 ……結局、偉大なる八雲紫の真意は分からず終いであるため、何を思い、何を成す為に命を投げ出したのかは闇に葬り去られてしまったのかもしれない。

 

 記憶の全てが戻ったわけじゃないから、いずれ判明するかもだけど、どうせ大した理由ではないのだろう。世界を救うとか高尚なものじゃなくて、きっと自分本位な動機だ。

 

 ただ何はともあれ、これで世界の全てを巻き込んだ歪みは是正され、何も知らない間抜けな私が生き続ける限り幻想郷と秘封倶楽部は存続する。

 数多の犠牲と上に立つ愚者により世界は在るべき姿を取り戻したのだ!

 

 めでたしめでたし。

 

 

 そんな終わり、私は納得できない。

 八雲紫とAIBOの唯一の誤算。それは、私が生まれてきてしまった事。

 

 冷酷で何を考えてるのか分からない貴女(八雲紫)

 使命に縛られて過去を省みようとしない貴女(AIBO)

 成り行きで私に無いものを全て手に入れた挙句、私の半身ごと相方を引き離した貴女(メリー)。自分の弱さに咽び泣くだけだった貴女(メリー)

 どいつもこいつも嫌いよ。大嫌い。

 

 逆恨みだろうがどうだっていいの。

 私は私だ。私の心が、お前達の望んだ未来を否定してやれと叫んでいるから、それに従うだけ。

 

 

 

 私の身体はみんなの亡骸で出来ている。

 

 気が遠くなるほどの年月、ずっと昔の、それこそ消えていった時間も含めて、私は一体どれほどの犠牲の上に生きているのか。

 考えただけで身が竦む。生きていた頃の、知人たちの変わらない顔が思い浮かぶたび頭が割れそうだ。

 

 許せないのは、そう、ヘカちゃんとの問答まで彼女達のことを忘れていた事もよ。

 アレらが生きた証は、もはや私の心にしか残っていない。けれど私は自らの保身のためにそれらを忘却の闇に葬ろうとしていた。

 彼女達を忘れる事で自身の心を守っていた。思い出すと心が壊れてしまうから。

 

 本当に思い出せて良かった。

 私は鬱な物語が嫌いなの。ハッピーエンド以外は断固拒否ですわ。

 

 せめて私の手が届く限りの場所を救ってあげたい。私は、私が望んだ永遠を塗り替える。

 そうすればきっと、この世界とみんなに迎え入れられて、死ねる筈。

 

 

 所詮私は不純物ですわ。

 八雲紫ではなく、妖怪ですらない。この世に存在する筈のないバグそのもの。

 

 だから運命なんてものに縛られず、生物として当然の権利である死すら与えられない。

 資格がないから意味を持たない。心を実感できない。

 

 そんな私が作った幻想郷は紛い物だ。蓮子が望んでいたものには決して成り得ない。

 だって、私の中のメリーは死んでしまったから。旅の果てを見届ける筈だった蓮子が居なくなってしまったから。残ったのはただの悪夢でしかないわ。

 

 だから頑張るの。

 なるべく本来の幻想郷に近付けて、赦しを乞うの。

 

 その時になれば私はこの悪夢から覚めて、死という眠りにつく事ができる。全てが自己満足だ。

 ね、どこまでも自分本位でしょう? 

 

 私は、自分が救われたいからみんなの想いを無碍にするのだ。

 

 

 幻想郷に受け入れられなかった者の末路。それはそれは残酷な話ですわ。

*1
はたての念写

*2
幼女

*3
めっちゃ成長してて吃驚した






タイトルロゴがドーン!!!


かつての八雲紫について長々と語られていましたが、そもそもAIBOもゆかりんもかなり極端なものの見方をするので正確性については何とも言えないやつです

次回から最終章に入ります。上手くいけば今年中に完結となるやもしれません
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