幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:とるびす

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東方血冷殿*

 

 

 ずっと生きた心地がしなかった。

 

 脳髄を切り付けられるように絶え間なく襲ってくる不快感に怯え、恐怖と怒りで一睡もできなかった。身体を蝕む激痛に喘ぎ苦しみ、頭を地面に叩き付けた。数え切れなくなるほど、何度も何度も。

 

 その痛みが私を確固としたものにする。何百年もの時を経て風化しそうになる屈辱をありのままの姿で蘇らせてくれる。この惨めな姿が鬼人正邪の本当の在り方なのだと。瞼の裏に張り付いた記憶があの夜の悪夢を想起させた。

 

 この世界は呪われている。

 私が天邪鬼として穢れた大地に産み落とされたのもそうだし、なにより、八雲紫を誕生させてしまったのだから。

 何故アレを存在させてしまったのか。

 私を存在させるに足る理由があったのか。

 どうして二人は出会ってしまったのか。

 

 私は天邪鬼。生まれついての天邪鬼だ。

 叛逆を宿命づけられているのだから誰かの下に付く事なんできないし、上に立つ事もできやしない。未成熟なイデオロギーを破壊して混沌を呼び込むのが仕事。今の私とは全てにおいて真反対。

 

 きっと、身体の叫びは天邪鬼としての本能が鳴らす警鐘なのだろう。「このままだと消滅するぞ」と、懇切丁寧に教えてくれてるんだと思う。

 実際その通りだ。忌々しいお袋の細胞(稀神)がなければ、今頃死んでたかもしれない。少なくとも、今よりよっぽど狂っていただろう。

 だから天邪鬼としての生き方を犠牲にして、私は時間を得る必要があった。

 

 生きてさえいればいつか報われる日が来ると信じていた。泥水を啜ってでも生き永らえて、機を待つ。それが数百年、数千年、数万年の時を要そうと。

 八雲紫から全てを奪うチャンスは必ず巡ってくる。それまで耐え抜いた。

 

 その結果がこれだ。

 如何に稚拙な夢物語だろうが、裏付けられた私の足跡が決して夢では終わらせないと伝えてくれる。実現してしまえばこちらのものなのだから。

 

 

 幻想郷を確実に落とす為の絶対条件は、紫の動きを完全に封殺することにある。力を失っているとはいえ野放しにするにはあまりに危険。どんな窮地からでも盤面をひっくり返してしまうあの爆発力が恐ろしい。それに、()()()力を失っているかも、私は懐疑的に思っていた。

 だから奴を月に隔離したのだ。お袋(サグメ)に月面戦争の計画とマヨヒガの座標を伝え、完勝できるように手配した。その苦労は報われ、紫どころか博麗の巫女まで封じる事に成功したのは予期せぬ幸運だった。

 

 後は各自、用意していた手段で各々の目的に向け行動を開始したり、導火線に火を点けてやればこの通り、幻想郷は滅茶苦茶だ。

 私が担ったのは草の根妖怪による一斉蜂起と、【打出の小槌を使った力の再分配】であり、作戦の根幹ともいえる部分である。

 

 幻想郷──いや、この世は不平等だ。

 富と同じく、力が一部の存在に偏り過ぎている。昔からそうだった、ある日前触れもなく現れる突然変異のような妖怪達に時代は引っ掻き回され、弱者達は涙を飲んで逃げ回るか、塵芥の如く消えていくかの二択だった。

 

 だから小槌の力で全部ひっくり返してやった。力に胡座をかいた馬鹿共から没収してやった。奪ってやった、分からせてやった! 

 打ち出の小槌は小人族の宝物。ありとあらゆる願いを叶える素晴らしいモノだ。それを『使い手』と一緒に盗み出した。幻想郷転覆のキーになると早いうちから目星を付けていたのだ。

 

 勿論、本来なら如何に小槌の魔力といえども幻想郷の猛者どもの力を没収するに足る出力はない。適当にレジストされてしまうのがオチだ。

 そこで幾つか工夫を加えた。

 

 まず奪う対象を制限、絞ることにより、小槌の魔力を限られた対象に最大限使えるようにした。その対象とは『紫に与する妖怪』である。これで厄介な吸血鬼に天狗共や鬼など、残された紫の余力を徹底的に破壊する。

 次が重要である。それでも小槌の力は到底足りないから、不足分を私が補うのだ。私はこの800年、一度として戦闘を行わなかった。ひたすら妖力を貯めに貯めて、今ここで解放した。

 お袋の細胞を身体に馴染ませた事により、私の妖力は激減した。拒否反応か何かだろう。だがその代わり、能力を一点強化し続けたのだ。

 

 今、幻想郷を下剋上の力が満たしている。

 この潮流に抗う術はない。力を持つ者が古き権力者を打ち倒し、新たなる世を切り拓いてやる。

 

 

 

 

「──以上が報告となります。お師匠様からの支援はこれにて終了となりますけれど、それでよろしかったでしょうか?」

「ええ構いません。その盤面は全て摩多羅様の尽力による賜物で御座いますれば、ここからは私が仕切る番になります。徹底的に幻想郷の旧勢力を叩きましょう」

「左様でございますか! ところでお師匠様は正邪様の事をとても好ましく思われていたようでして、勝利を祈念してエールのダンスをお贈りするようにと申しつかっております。それではいざ……」

「結構です」

「ありがとうございます! では失礼いたしますね〜」

 

 ホッとしたように息を吐いた爾子田里乃は、嬉しそうな様子で後戸の国へ戻っていった。全くもって悪趣味な神だこと。

 

 これから先、摩多羅隠岐奈と馴れ合うつもりはない。互いに利用し合う仲だっただけで、盟友だと思った事など一度もないのだ。神格の性質からして紫ほどの拒否反応はなかったが、それでもアレには近寄り難い。

 

 当然、旧勢力を一掃して紫の始末が確認できた後は、奴の番だ。最後に摩多羅隠岐奈を打ち倒すことが幻想郷における下剋上の完成なのだと考える。

 いや隠岐奈だけではない。寅丸星も、霍青蛾もみんな始末する。あの二人が復活させたがっていた連中も全員だ。元から相容れないのだから容赦も不要。

 

 小槌の魔力により蘇った『輝針城』の天守で幻想郷を見下ろす。魔力の渦から垣間見える地獄絵図は全て隠岐奈が作り出したものだ。

 

 毘沙門天を信仰する面汚し共の目的は、魔界とやらに封じられた尼僧を救い出す事。

 モラルも糞もない邪仙一派はかの聖徳太子の信奉者であり、幻想郷に封じられていた依代を経て蘇らせる事を目的にしていると聞いた。

 地底の騒動は隠岐奈が焚きつけた。詳しいことは何も知らない。

 

 この三つの異変は副次的な効果を見込んで共闘を呼び掛けたのが発端だったようだ。

 似非仏教徒共が魔界へのゲートを開けばたちまち魔界の軍勢が幻想郷に押し寄せ、更なる混沌を齎すだろう。地底も然り、紫が死んだと分かれば地底の妖怪達は地上へと溢れ出てくるに違いない。

 そして復活予定の聖徳太子は、紫亡き後の幻想郷を統治する為政者とするヴィジョンを隠岐奈は描いていた。アレにかかればメチャクチャになった幻想郷でも治めるのは容易いと自慢げに豪語していたのを思い出す。

 

 よく考えたものだ。

 だから私はその悉くを否定する! 

 

 頭をすげ替えただけの革命など何の意味もない! 私は八雲紫が作り上げたものを一つたりともこの世に残したくないのだ。奴の痕跡の全てを消し去ってようやく鬼人正邪の安寧は達成される。

 

 愚かだと思え摩多羅隠岐奈。未来を見るような殊勝な奴が革命なんて起こす筈がないだろう? アイツなりに幻想郷を想っての魂胆なのだろうが、それを踏み台にして目的を叶えてやる。

 

 最後に笑うのは私だけで十分だ。

 

 

 ふと、魔力渦の先に人影が見えた。一定の軌道を描いてグルグルと輝針城の周りを揺蕩っている。きっとこの城への突破口を探っているのだろう。

 なんて名前だったか。十六夜咲夜だったか? 

 

 此処が異変の大元であることを嗅ぎ取った嗅覚は大したものだ。私を倒しちまえば『逆さまの術』が解けた主人の吸血鬼を始めとして、燻っている大妖怪達が異変鎮圧に向けて一気に暴れ出すだろう。しかし判断としては完全な誤り。

 私の下に到達する事など決してできやしない。

 

 私の能力によって小槌の魔力を敢えて暴走させて、更に隠岐奈や邪仙、便利なネズ公に協力させて作り出した境界だ。

 距離の概念、時間の概念、探知の概念が私の意のままにひっくり返り続ける特殊な空間。たとえ紫だろうと突破はできない筈だ。

 

「安全圏から他所の不幸を眺めるのが一番の楽しみなんですよねぇ。どいつもこいつも必死こいて郷を護ろうとしているのが滑稽で仕方ない。……あいたた」

 

 お腹に鋭い痛みが走る。どうやら私の発言が気に入らなかったようだ。

 独り言もままならない生活にもそろそろ嫌気が差してくる頃だというのに。この腹痛と一緒にいる間は、きっと稀神正邪のままでないといけないのだろう。

 

「私たちの野望はもうすぐ成就する」

「私たちのやる事は幻想郷にとっては悪。しかし虐げられてきた者達にとっては純然たる善。ならば勝者である私が何を言おうが何をやろうが、それは意に反するモノではないのです。価値の物差しは私たちが決める」

「きっとご納得いただけますよ。考えるべき事は、また後で考えればいい。時間はたっぷりとあるのですから」

 

 若干胃がもたれた気がする。

 もうすぐ頑張りが報われて、この腹痛から逃れられると考えれば舌もよく回るものだ。密かに中指を立てながら、廊下を闊歩した。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

「ようこそ地霊殿へ。よくお越しくださいました。貴女とは常々会いたいと思っていましたよ、霧雨魔理沙さん」

「お、おう……取り敢えず水くれ! 水!」

「乾きが苦しいのですね。確かにこの温度に加え地底に潜ってからは連戦続き。これではまともな飛行もままならないですよね」

「水!」

「……お燐」

「あいよ水一杯」

 

 燐の持ってきた冷水をひったくり、浴びるように飲み干す様を見てさとりは諦めに似た感情を抱いていた。異変に対して、ではなく、来客者のジンクスについてだ。

 やはり地霊殿にまともな来客が訪れる事はないらしい。どれもこれも開口一番に自分に対して無礼をぶちかましてくれる。

 

 しかし流石は海千山千の地霊殿館主。既に慣れたとばかりに魔理沙の復活を待つ。

 彼女がやって来た理由は心を読まずとも分かる。「地底に潜って困った時は地霊殿に押しかけろ」という紫からの教えのせいだ。

 

 コップ片手に来客室の椅子にどっかりと腰掛ける。これまた無礼ではあるが、魔理沙の事情を鑑みれば致し方ないだろう。流石にこれには目を瞑ってあげた。

 

「いやあ助かったぜ。ここで補給できなきゃ最悪乾涸びてたな。いくら水を生成してもすぐに蒸発しちまう。とんでもない暑さだぜ」

「此処は怨霊だらけですので幾らか暑さが緩和されてますからね。まあ、いずれそれすらも役に立たなくなってしまうのでしょうが」

「そんなに深刻なのか?」

「そうですね。しかし貴女が思っている『それ』とは深刻さのベクトルが違います」

「……紫の言う通りだな。覚妖怪とはどうにも話しづらくて敵わん」

 

 心に秘めても無駄なのなら口に出すしかあるまい。さらに紫の名前を出して反応を窺ってみる。

 紫が蛇蝎の如く嫌っている噂の覚り妖怪だ。純粋に興味がある。

 

 そしてわざわざ露骨なリアクションを取ってやるほどさとりは寛容ではなかった。

 

「いいですか、この異変で危惧すべきは地底の高温化ではありません」

「ほう。なら……間欠泉ってやつか? アレが一気に噴き上がって幻想郷を押し流してしまうとか」

「地底ではなく幻想郷、というならそうですね。間欠泉はただの合図に過ぎません。この異変はまさしく幻想郷の危機なのです」

 

 このくらい仰々しく語っておいた方がこの魔法使いは焚きつけやすい、そうさとりは見ていた。実際その通りである。

 ただ、いま地上で起きている大騒動については伏せておいた。さとりが魔理沙に優先させたいのは地底での異変解決。それ以外は足枷になってしまう。

 

 先を促す。

 

「なら地底の妖怪が地上に侵攻でも始めるのか? さっきそこらで遭った妖怪共はみんな好戦的だったからな。橋に居た水橋なんとかって奴なんか酷いもんだったぜ」

「確かにそれもある。紫さんが居ない今、アレらが恐れる者は地上に居ませんので。しかし、それが起こるのは異変が完遂された後です」

「参ったよ。頼むから勿体ぶらずに教えてくれ」

 

 降参とばかりに魔理沙は手を振る。探究心旺盛な魔理沙の為に話を振ってあげていたさとりもまた肩を竦める。心が読めるくせに対人関係が壊滅的なのは、こういうところのせいなんだろうと燐は密かに思った。今日のおやつが水で決定した瞬間である。

 

「実を言うと私のペットの一人が盛大に暴走しておりまして。この熱波も間欠泉も、全て幻想郷の破滅を願うあの子が原因なんです。申し訳ない」

「……お前が黒幕か?」

「違います。しかし私がヘマをしたことにより起きた異変であるのは事実です。なので謝らせていただきました」

 

 向けられた八卦炉に呼応して、燐が危険な気配を醸し出す。実は魔理沙と燐は弾幕コンテスト【総合部門】一回戦で(弾幕)を交えたことのある知り合いである。

 故に互いの実力を高い次元で把握している。もっともお燐は現在、妖力を上手く行使できない状態であるが、死んでもタダでは転ばないのが火焔猫燐という妖怪。もしここで衝突すればどちらもタダでは済まないのは明白だった。よってさとりは即座に仲介に入った。

 紫の処世術が役に立った瞬間である。

 

「私ではあの子と戦えません。それは此処にいるお燐も同様。力を封じられてしまったのもそうですが……身内としての情が邪魔をするでしょう」

「だから代わりに私に叩きのめして欲しいってわけか。いいように使われるのは気に入らんが、それで異変が解決するなら仕方ないな」

「ありがとうございます。やはり魅魔さんの言う通り、とても頼りになる」

「……」

 

 魅魔の名前を出したことでさとりを探る目がより強くなる。腹の探り合いはさとりの方が何枚か上手だったようだ。仕返しに成功してご機嫌なのか、軽く一笑。

 

「魅魔さんとは一度仕事を依頼しただけの関係でしたが、それでも大変お世話になりました。いつのことか気になりますよね? 吸血鬼異変の時ですよ」

「あん時か……。そういや紅霧異変の後しばらくレミリアからの当たりが強かったのはそのせいか」

「野望とプライドをへし折られてしまいましたからね。今でも密かにリベンジを狙っているようなので気を付けるよう言っておいてあげてください。愛弟子の貴女からなら多少は聞く耳を持つでしょう」

「あー分かった分かった! 私が悪かったよ。お前と紫の関係が気になっただけなんだ、もう詮索しないから勘弁してくれ」

「では話を戻しましょうか」

 

 微笑みとともに雰囲気がいくらか弛緩した。

 

「ペットの地獄鴉……名を霊烏路空と言うのですが、あの子は心に少し問題を抱えていました。そう、並外れて素直なんです」

「おっ、ペットの自慢大会か? 私にも色々いるぞ。ツチノコとかICBMとかな」

「決して自慢ではありません。あの子は素直過ぎるが故に思い込みが激しい。そしてそれが劣等感と憎しみを生み出す結果となった。そこにつけ込まれたのです。奴は力を持たぬ空に異形の力を……」

「そいつが黒幕ってわけか」

「その通りです。そして、貴女とも無関係ではない。いや、むしろ貴女だからこそその危険性を身に染みて分かっている筈」

 

 空も魔理沙の共通点。それはとある者に無理やりに近い形で謎の力を植え付けられた事だ。その手法も、行った人物も、全てが一致している。

 その名を伝えられた魔理沙は苛立ちに奥歯を噛み締め、動かない膝を叩いた。

 秘匿されていた"それ"を聞かされた事で忘却に埋もれていた記憶が次々と蘇ってくる。魔理沙の心を燃え上がらせるには十分なカンフル剤だった。また同時に、的確なタイミングでの情報開示の手腕は流石と言うべきだろう。

 今後、さとりとは争わない事を肝に銘じる。

 

「お空の下へは此方の火焔猫燐を同伴させます。恐らく説得は通じませんし、お燐が攻撃すればあの子の心に致命的なダメージを負わせてしまうので道案内くらいしか役に立ちませんが、それでも貴女の体力を少しでも温存できれば十分でしょう。快適なマントルへの旅を提供します」

「猫車に乗ってくれればあっという間だよ! ささっ、乗っておくれお姉さん」

「死体運ぶやつだろそれ……」

「特等席です我慢してください」

 

 さとりは細身の魔法使いを担ぎ上げると、問答無用で猫車に押し込んだ。抵抗は時間の無駄だと悟ったのか、魔理沙は渋々ながらそれに従うのだった。

 

「取り敢えず、そのお空とやらを大人しくさせたらすぐ幻想郷に向かう予定なんだ。異変が終わるまでに出口作りは頼むぜ! お前に役割がないのはそういうことなんだろ?」

「まあ……そうですね。私も多忙の身ですが恩人様予定の方にそう言われては仕方がありません。そのくらいはしておきますよ。あと、貴女のアシストのアシストもね」

「アシスト……のアシスト?」

「貴女の実力を見くびるわけではありませんが、勝率は高ければ高いほどいい。それにお空の力がどの程度まで高まっているのか私も見当が付きませんので、備えはあって困るものではないでしょう」

「内容が気になるところだが、まあいい。兎に角時間がないからもう行くぜ!」

「あいよ! では行って来ますねさとり様!」

 

「お願いします二人とも。地底と幻想郷の未来……託しましたよ」

 

 

 

 

「らしくない台詞じゃん」

「一回言ってみたかったんですよ。それに私も少々、昂っているみたいでして」

「キレるのは別にいいけど、もうあらかた方針は固まったんだろうね?」

貴女(てゐ)が考えている事と同じです」

「なるほどそりゃ名案だ」

 

 話を変に拗らせないため別室で待機していたてゐは早速さとりを揶揄うものの、返答の声はやけに上ずっていた。

 

「それでも勝率は……1割くらいですかね」

「そうかな? 私はもっと高いように思うけど」

「私単独なら、の話です。なのでこれから貴女には勝率を3割にまで持っていく役割を担ってもらう。しくじりは許されない」

 

 残りの7割は地上の動向による。今も必死に全体の指揮を執っているであろう藍なら4、5割くらいには持ち直してくれるものだと信じている。またの名を丸投げである。なんだかんだで紫の影響を(悪い方向で)濃く受けているのかもしれない。

 

「地上に出たらすぐに蓬莱山輝夜と接触し、そして共に八意永琳を説得してください。いいですか。なんとしても紫さんをフリーにさせます」

「正直土蜘蛛の通った道なんかゴメンなんだけどなぁ。色々と未知の病原体が引っ付いてそうじゃん」

「全身の皮剥き出しで塩を塗りたくられるのに比べればどうって事ないでしょう」

「その話はやめて!?」

 

 マジで嫌な奴である。

 

 てゐが利用する脱出口とは、黒谷ヤマメが幻想郷弾幕コンテストの【美術部門】に乱入した際に使用していた抜け穴である。あんな得体の知れない抜け穴を無傷で抜けられるのは世界屈指の超健康オタクであるてゐをおいて他に居ないだろう。

 

 ちなみにヤマメを始めとする過激な大妖怪達は勇儀が目を光らせてくれているおかげで今のところは大人しい。しかし空の起こした異変の動向次第ではまた新たな異変の火種になりかねない。依然危険な状況である。

 

「で、アンタはお休みなのか。私もドレミーも必死に働いてるっていうのに」

「ええ……恥ずかしながら、それくらいしか今の私に出来ることはありません。何処ぞの天邪鬼に力を奪われてますし、消耗が許されない身ですので」

「事情は分かるけどね」

「それに私が中継しないと地上からの支援が受けられませんしね。これでも結構忙しいんですよ? 地味ですけども」

「アシストのアシスト、ってやつ?」

「嬉しい誤算でしたよ。……他者との繋がりとは己の行動を縛る鎖となる。しかし、時にこうして起死回生の一手となり得る救いを与えてくれるんですよ」

「ほーん。勉強できて良かったねえ」

 

 互いに長く生きてきた身だ。それも悪意に満ちた世界を力だけでなく、頭で生き抜いてきたタイプの妖怪。故に思想は似通う部分があった。

 繋がりを煩わしいと思い続けてきた妖生だったが、いつからかその思考は無くなってしまった。紫との出会いが良くも悪くも、二人に変化を齎してしまったからだ。

 

 繋がりは毒にもなるし、薬にもなる。

 さとりは薬としての使い方を見出した。てゐは毒として自らの力とした。しかし、一方で空には劇薬になってしまったようだ。

 

 難しいものだ、と。さとりは妙な倦怠感を覚えた。

 

 全ての因縁に決着がついたなら。

 紫といつものようなギスギス言葉の応酬でなく、普通に話せるような時が来たのなら。是非ともそのあたりを教えてもらいたいものである。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

「覚り妖怪の族滅、ねぇ。聞けば聞くほどとんでもない話だな。寺子屋で齧る程度には習っていたが、そこまで凄惨なものだったとは」

「多分、さとり様は今でも幻想郷を恨んでる。だから私らも幻想郷に対して良い感情を持つ余地なんてなかったのさ。まあ、その親玉同然の八雲紫をなんで憎まないのかは分からないけどね」

「主人がそんな目に遭ったのを知って幻想郷にヘイトを向ける気持ちは分からんでもない。ただ、それで幻想郷を丸ごと吹っ飛ばそうなんて思想に行きつかれても困るんだよなぁ」

 

 マグマが煮えたぎり、壁には一面煉獄が燃え盛っている。時折噴き上がる火の粉を弾幕で払いつつ、マントルの更に奥深くへと突き進む。

 凄まじい熱波、有毒ガスに薄い空気。何を挙げても人間には生存不可能な死の世界。当然、そんな過酷な環境も想定していた魔理沙は対策を施してはいるものの、なにかと煩わしいのは確かだ。何よりコールドインフェルノを自らに向けて使用しないといけないので八卦炉が失われているに等しい。

 

 戦闘の際はどう立ち回ろうかと頭を捻る。それにはまず相手を知る事が大切だ。

 そしてお燐と話していく中で、霊烏路空を知るには地霊殿の成り立ち、更にはさとりの過去を知る必要があった。そして幾分重いその内容にゲンナリしたのだ。

 

 空の目的は幻想郷への復讐だった。

 大好きな主人を苦しめて、今もなお心労の原因となっている地上が憎くて仕方なかったらしい。さとりが空を強く制止できなかった一因だろう。

 だからって幻想郷を丸々吹っ飛ばそうなんて、気が狂ってるとしか思えない。過去類を見ないレベルの脳みそ空っぽ馬鹿野郎である。

 

(やるなら妖怪の山に限定してもらうよう説得するのもアリだな)

「おおう悪どい顔してるねぇお姉さん。地獄の罪人がよく浮かべてるタイプの表情だよぉ」

「失礼だな。平和的な解決方法を模索しているだけだぜ。ていうかお前、頭の後ろに目でも付いてるのか?」

「いやいや、アタイは怨霊の声を聞けるだけさ」

「周りに浮いてるコイツらか」

 

 猛スピードで洞穴を疾駆する猫車に不自然な速さで追随してくる怨霊の正体も、判明してみればなんて事のない只の肉壁であるという。

 ただ、今はお燐の妖力が低下しているため、貴重な命綱として機能している。もっともお燐が弱っていると判れば問答無用で反旗を翻してくることは容易に想像できる。人徳の無さ故のリスクだった。

 

「一応怨霊を使ってお姉さんの援護をしようと思うけど、正直言ってどこまで役に立てるかは分からないからアテにするのは無しで! さとり様が言ってた通り、お空がどんだけ強力になったかが不明なままだからね。天変地異を起こすほどの妖力だから『弱い』ってことはまずないだろうけど」

「けどそのお空は生まれ付き身体と頭が弱かったんだろう? それなら妙な洗脳が入っててもたかが知れてるんじゃ……」

「甘い、甘いよお姉さん。アタイらが戦う秘神の力は侮れない! コソコソと暗躍する神なだけあって、加護を与える技能は幻想郷のどんな存在よりもずば抜けてる。永く生きた妖怪にとって奴の悪行の数々はもはや語り草さ」

 

 確かに、あの秘神が真っ当な倫理観を持ち合わせているとは到底思えない。奴が上に君臨した分だけ様々な悲劇が齎されたのだろう。

 あと幻想郷中の死体という死体を掻っ攫いまくった火車に邪悪と言われるのもちゃんちゃら可笑しな話ではあるが、まあ異変を起こした側に人権は認められないので仕方あるまい。

 

「何よりっお空の純粋無垢な心に付け込んだ卑劣極まりない所業が許せない! アタイは絶対に許さないよ! 力が戻ったら奴をぶち殺して塩シャブ漬けにして四肢を捥いで! エントランスに飾ってやるっ!」

「物騒極まりないが、許せないのは私も同意見だぜ。存分に協力してやるよ」

「お姉さん……!」

 

 差し出された手を強く握りしめる。

 これが後の世にまで続く『摩多羅隠岐奈絶対ブチ殺す同盟』発足の瞬間であり、また魔理沙とお燐の間に奇妙な友情が生まれた瞬間でもあった。そもそも盗人同士相性が良かったのかもしれない。

 

 しかしながら、そんな蜜月の時間は唐突な終わりを告げる。

 僅かな地響きが合図だった。外壁を破壊し、真横から飛来した巨大な火球が瞬く間に空間を塗り潰し、進路を飲み込んでいく。

 あまりに急な先制攻撃に全ての動作が遅れた。魔理沙ですら、まだ箒に跨った段階であり、飛行に移ろうという時には既に破壊が鼻の先まで到達していた。

 気を抜いていた。油断していた。

 

 避けきれないそれが眩い光と耳を劈く爆発音とともに去来する。身を焦がすほどの熱に焼かれ、前後左右に視界が飛び回りながら、しかし魔理沙は生を握り締めていた。

 壁に叩きつけられ炎に炙られながらも、魔理沙は状況の理解に努めた。

 

 ふと周りを見ると、魔理沙を囲うようにして真っ青な色をした妖精たちが飛んでいる。これも怨霊の一種だろうと、感じ取った妖力から分析した。

 つまりこれはお燐の仕業だろう。

 

 箒越しに下を見た。

 バラバラに砕け散った猫車の破片がマグマに沈んでいる。その所有者の姿は見えず、程なくして魔理沙を守っていた妖精たちも消滅した。妖力の残骸が熱波に飲まれ、灼熱地獄へと溶けていく。

 魔理沙は聡い人間だ。

 あの一瞬で何が起きたのかを瞬時に理解した。

 

「とっても大切に想ってたんだよな……親友(お空)の事を。お前一人だけならまだ逃げようはあっただろうに、私を託すに足る人間だと判断したのか?」

 

 弱体化したお燐では戦闘の役に立てない。だから咄嗟にまだ希望のある魔理沙の安全を優先したのだろう。事実、あの火球をマトモに受けていれば負傷は免れなかった。苦肉の策で動かない足を盾にして被害を軽微にしようと試みていた程だ。

 

 お燐は己の役目を果たしたといえる。

 

「仲間を想って起こした異変じゃなかったのか? あの火車は幻想郷とそんなに関係なかったと思うが」

 

 改めて箒の柄を握り締め直し、攻撃源へ挑発的に呼び掛ける。熱波に煽られ思考が加熱していくのを感じていた。自らの油断、ブランクの為に命を失わせてしまった悔恨からくるものでもある。

 

 液状に融解した外壁が崩れ落ち、一つの道となる。その先から現れたのは神々しく、それでいて危うい光を全身から放ち、旧地獄を眩く照らす一羽の鴉。

 異形の右手、異形の右足。そして虚な瞳が今の空の状態を分かり易く表していた。

 

「もう何も分かっちゃいないんだろ? 何の為に力を望んだのかすら」

「……」

 

 無言で放たれた熱線を八卦炉からの『ノンディレクショナルレーザー』で撃ち落とす。保冷が切れた事により魔理沙の身体への負担が一気に重くなった。

 ジリジリと焼け付く肌が赤黒く変色する。

 

「さとりから聞いたぜ。お前、元々弱かったんだってな。自分に力が無いからお燐との差に劣等感を抱いていた……だからあの秘神の話に乗った」

「フュージョンに理由なんていらない。むしろこの気持ち良さはようやくって感じなの。貰い物の力なのに何故か心が落ち着く」

「余計な物まで貰っているんだろうよ」

「余計? それはお前だ。私はこれより神様から賜った究極の力で地上を焼き尽くす。それが私たちの悲願。夢を邪魔する不純物は排除する」

「馬鹿野郎がっ!」

 

 怒号が引き鉄となり、凄絶な撃ち合いが開始された。互いに超火力の弾幕を放つ事で封殺を試みる。魔理沙はいつもの極太レーザー、空は不純物を消し飛ばすに足る火球が明確な殺意の応酬となる。

 弾幕が弾け合う事で狭い洞穴はどんどんその規模を広げて、広大な空間へと変貌を遂げていく。上部から滴り落ちるマグマも、崩落する岩盤も、瞬く間に粉微塵となり破壊の妨げにはならない。

 

 空の核熱により肺が焼き尽くされても、魔理沙は詠唱を止めなかった。死滅した細胞を次から次に再生し、死線を何度も掻い潜る。

 幽香との戦いの中で得た経験が無ければこのような芸当を即座に考え付くことは無かっただろう。忌々しいあの時間も改めて考えれば糧になるのだ。ありとあらゆる経験を次に活かす力こそ霧雨魔理沙の真骨頂であると、当の魔理沙本人は思い知った。

 自分もまだまだ捨てたもんじゃない。

 

 しかし逆に言えば、今の状況は幽香との戦いと同等か、或いはそれ以上の苦闘であるという事。魔理沙の消耗は加速度的に増していくばかりだ。

 

(これが核融合、あのメルヘン苺教授が言っていた科学における究極の力ってやつか。貰ったICBM(ミミちゃん)……もっと真剣に研究しとくんだったな)

 

 紫や藍から酷く叱られた為、紅霧異変以来お蔵入りとなってしまったペットに思いを馳せる。もっとも、今この場でアレを使用してもどうにもなりそうにないが。

 核融合の力とは、破壊力や途方もない膨大なエネルギーもそうだが、魔術の学徒である魔理沙にとって未知の部分が多い分野である。時々河童から話を聞いたりもしたが、いまいちピンとこなかった。

『メルトダウンって何だろうな。もの凄く熱いのかな。その名の通りとろける位甘いのかな。核融合って凄いな、メルトダウンが出来るなんて』*1

 このくらいの知識である。

 

 ハッキリ言って、空の振るう力は魔理沙の予想を遥かに上回っていた。彼女の身体から放出される神力を伴う核熱は、魔理沙のマスタースパークを受けてもその中を平然と動き回る荒技を実現している。この時点で空の耐久力は紫擬きに近いレベルに底上げされていると見ていい。

 だが空の火力はそれすらも霞んでしまう程に全パラメータをぶっちぎっている。世界を滅ぼす力というのもその通りなのだろう。

 仮に咲夜、もしくは妖夢と二人がかりで戦っていたとしても、完全な勝ちの目が見えないと思ってしまう程の圧迫感。

 自分一人では……。

 

「いや、違うな」

 

 目、鼻、口から流れ出る血液を拭う。力場の崩壊により魔理沙への重力負担が大きくなっている証だが、それでも彼女を止める理由にはなり得ない。

 止まれないのだ。止まってたまるもんか。

 

「魔空『アステロイドベルト』……!」

 

 迫り来る火球をなんとか躱しながらスペルを詠唱。魔理沙を中心に魔力嵐が吹き荒れ、空の弾幕を見当違いの場所へと弾き飛ばす。

 空の短所は次弾装填間隔、弾幕のインターバルであることは見抜いている。これだけ強大な力を扱うのなら、それだけ取り扱いが難しくても不思議ではない。

 なんにせよ好都合。アステロイドベルトの切り拓いた道が空と魔理沙を線で繋いでいる。

 時間経過は魔理沙を追い詰めるばかりであり、短期決戦を狙う他ない。全力を出せる『僅かな今』が最期の勝機なのだと判断した。

 

「いくぜッここが勝負の天王山だ! 彗星『ブレイジングスター』ぁぁ!!!」

 

 スパーク系統のレーザーでは仕留める前に抜け出されてしまうだろう。ならば自分自身を弾幕として空を追尾すればいい。ただそれには自ら核融合炉に飛び込む程の危険を前提とする。勿論魔理沙への負担は段違いに高まるが、それは今更な話だ。

 

 八卦炉をブースター機能としてのみ使用し、自らを包むエネルギーは自前の全てを注ぎ込んだ。正真正銘、全身全霊の一撃。

 鳥頭の空でも魔理沙の狙いは簡単に見て取れた。故に弾幕の展開を中止し、最高濃度の核エネルギーを内に溜め込み魔理沙を迎え撃つ。

 

(これは流石に、死ぬかもな?)

 

 僅かに残留していた火球を箒星が薙ぎ倒す。魔理沙の猛烈な突進を止める術はなく、しかし空の纏う核エネルギーはその充填を切り上げ、敵へと牙を剥く。

 

「『アビスノヴァ』」

 

 空はスペルカードを使わないと、事前にさとりから聞いていた。実力が劣ることもあり弾幕勝負に一切の興味を示していなかったからだ。つまり、これも秘神の差し金かと奥歯を噛み締める。

 だが、そんな考えも一瞬で吹き飛んだ。

 

 眼前が白色に染まると同時に、身体中を凄まじい衝撃と熱が襲う。負けてたまるかと魔理沙は突撃を続けるものの、底なしのエネルギーの前には無力。段々と押し返されていく感覚だけがあった。

 鍔迫り合いは長くて十数秒ほどだっただろう。魔理沙を覆う魔力がけたたましい音を立てて崩れ去るのが聞こえた。当然、その後に待つのは破滅だけだ。

 

 

 

【水符『プリンセスウンディネ』】

【水符『河童のポロロッカ』!】

 

 数年ぶりに水分に触れた気がした。

 核熱に炙られる筈だった魔理沙を護ったのは、羽衣のように優しく包み込む純正の水。僅かな猶予を魔理沙は見逃さず、即座にアビスノヴァの射程から逃れる。

 また降り注ぐ洪水が一時凌ぎではあるが、あたりの気温を著しく低下させた。

 

 唐突な横槍に空は酷く困惑していたが、それは魔理沙とて同じだった。どちらとも自分の見た事ある術式だったものの、まさかそれに救われるとは夢にも思っていなかった。

 それに遥か地底の奥底まで助太刀に来てくれる者など居るはずがないと半ば諦めていたから。

 

【相変わらず、魔術をコケにしたような戦いばかりしているようね? 魔理沙】

「お前、パチュリーか!? どうして……」

【私だって好きで助けたわけじゃない。寧ろ恨みしかないからね。……レミィからの頼みよ。孤軍奮闘してる低級魔法使いを助けてあげて、ってね】

「そうかい。……ありがとな」

 

 パチュリーには焼き殺されてもおかしくない仕打ちばかりしてきたが、まさかその彼女にすんでのところで助けられるとは。

 それに不思議なのは彼女が助けてくれた事だけじゃない。

 

「けどどうやったんだ? こんなに距離が離れてちゃサポートどころかスペルの発動すら難しいだろ」

【レミィが最近友達になった……地霊殿の友達が協力してくれてるのよ。彼女の読心術を中継して貴女と魔力のリンクを繋いでるの。いま小悪魔に追加の魔力を送らせてるから感謝して補給しなさい】

「なるほど、そういう事。もう一人の河童の方も同じくってところか?」

【やっと触れてくれた! いつ会話に入らせてもらおうかと窺ってたんだ。なにせ河童は臆病だからね! 人間と話すのには勇気がいるのさ!】

 

 声の主は恐らく最近知り合った河童の河城にとりだろう。あれだけの規模の水スペルを使える妖怪はパチュリーの他には彼女ぐらいしか知らない。

 ふと横を見ると、奇妙な六角錐の物体が浮いている。何やら奇怪な電子音を発しており、それが傍にあるだけで幾分か呼吸が楽になった気がする。

 

【人間には厳しい環境だろうと思って前もって地底に送っておいたんだ! それがあれば一定の気温と酸素濃度を保てるし、放射能を心配する必要もない! しかも私が設計して里香が制作した試作品! 名付けて『まじかるしぐま〜ちゃん1号』】

「よく分からんが助かるぜ。けどお前も急だな」

【こっちは命知らずな天魔様からの依頼でね。いま妖怪の山は大変な状況だけど、それよりも魔理沙を始めとした異変と戦ってるみんなのサポートをお願いしたいってさ。正直河童も厳しいんだけど……はたては天狗の中でも相当マシな奴だからね、断れなかったよ】

「悪いな、政治の話はよく分からん。でも助かったよ、パチュリーも……本当にすまん。ありがとう」

 

 念話の向こうで妙な感情が湧き上がった。さとりの能力を介しているので、ある程度相手の気持ちが分かるのだろう。この感情は、そう。『気色悪い』というやつである。間違いなくパチュリーのものだろう。

「感謝の言い甲斐のない奴だ」と、魔理沙は毒づいた。

 

 でも少なくとも、本当の気持ちだ。

 湧き上がる勇気とともに改めて空へと向き合う。怪訝そうな顔をしながらも、アビスノヴァを受けて生還した事に警戒を示しているようだ。

 

【それにしても中々の相手と殺り合っているようね。瞬間的な最大火力は私でさえ実現し難いレベル……地底を灼くもう一つの太陽ってところかしら】

【原子力を利用しているようだね。ここら辺は私ら河童の専売特許さ! うまく生け捕りまでの道筋を立ててみせるよ! ふへへ、あの鴉さえいれば幻想郷のエネルギー問題は解決したも同然……!】

「そんな悠長に構える余裕はないぜ、正直。お前達が来てくれたおかげでなんとか五分五分ってところだ」

【貴女にしては随分と気弱ね】

「そうでもないぜ」

 

 未だに絶望の暗雲は晴れない。

 だが魔理沙の心に暗澹とした不安はなかった。

 

「──もし私がコイツに負けちゃったら、多分幻想郷は無くなる。けどあそこには私の命よりも大切な物がたくさんあるんだ。なら私の命に代えても阻止しなきゃな」

【……死ぬ気?】

「そんくらいの心構えじゃないと勝てないって事だ。勿論死にたくなんかないさ。地上の異変も解決しなきゃいけないしな」

【呆れた】

【うぅむ……素晴らしい気迫だ。やっぱり人間は凄いなぁ流石は盟友だ!】

 

 決意表明はこのくらいでいいだろう。

 サポートに使う必要のなくなった八卦炉を掲げる。

 

【相手はパワーに偏重してるわ。……その攻略法は当然解ってるわね?】

「勿論だ」

【安心したわ。なら存分に頭脳を使って頂戴】

 

 そして魔理沙はいつも通り太々しい笑みを浮かべるのだ。

 

「弾幕に頭脳? 馬鹿じゃないのか?」

【は?】

「弾幕はパワーだぜ!」

 

 魔理沙の魔砲と空の核熱レーザーが衝突し、本日幾度目かの破壊を撒き散らした。それは戦いが折り返し、ないし佳境に突入した合図となる。

*1
魔理沙の日記帳より抜粋




魔理沙「弾幕はパワーだぜ!」←言ってない
パチェ「そこまでよ!」←言ってない
にとり「相撲って言ったじゃないか!」←言って欲しい

影も形もないくせにちょくちょく存在感を出してくるゆかりんはなんなの…?

幻マジお空は神奈子様ではなくオッキーナ経由で八咫烏をインストールされてるので、まだ原子力施設とかそういうのは無いです。よって地獄マントルでの決闘となります。
ついでに後戸パワーマシマシ状態なのでめちゃくそ強いです。金髪の子可哀想……。

異変のバーゲンセールで収集がつかないかと思いきや、味方もそれなりに多いのでガンガン進むのです。
次回『小傘 死す』コチヤスタンバイッ!

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