比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
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目を覚ますとそこは俺の部屋のベッドの上だった。俺は覚醒してきた頭で昨日の出来事が全て夢だったら良いのにと思いながら、弁当勝負の事を思いだしていた。事の原因と言えば、神崎が俺に弁当を作ってきたことだろう。一言で言うとめちゃくちゃ美味しかった。眉目端麗、才色兼備、料理も出来る。『神崎大和撫子』とはよくいったものだ。神崎の性格を知らないやつなら、うっかり惚れても仕方ないだろう。
そして火種を作ったのは間違いなく一色だろう。あんな挑発に簡単に乗った雪ノ下も雪ノ下だが、あいつの性格を考えれば乗っても仕方ないかと思う。
俺は一色が何を考えているのかサッパリ分からなかった。てかあいつ、最初葉山の事が好きとか言ってませんでしたっけ?
まぁそんなわけで何故か弁当バトルが始まってしまった。勿論三浦と海老名さんは断ったが。
俺は目が覚めたので朝御飯を食べるため自分の部屋からでる。
部屋から出ると朝御飯の良い匂いが....あーこれ昨日の残りの肉じゃがだ。と日常あるあるを思いながら少しやる気が落ちたなーと、1階に向かった。俺が階段を下りて台所に向かうと小町が朝御飯を盛っているところだった。
俺と目があった小町は「あっ!お兄ちゃん、おはよう♪」と言ってくる。俺も「おはよう。小町」と返して盛られた皿をテーブルの上に運ぶ。
「「いただきます」」といつもと同じく言い、食べようとすると小町が俺の方を見て「何かあった?」と聞いてきた。
「何がだ?」
「んーなんだろ?でもな~んか怪しいし、何かあった?」
「別に何もない。まぁあれだな、俺の人生何も無さすぎるまである」
「どしたの?お兄ちゃん」
「いや...だからあれだよ。なんでもねえよ」
こいつにだけは絶対に言いたくなかった。後輩と同じクラスの女子から弁当作ってもらうんだーなんて。言えるはずがない。
「ねえ、お兄ちゃん知ってる?」
「何?豆しば?」
「お兄ちゃんが朝、小町の前にカラーコンタクト付けてくるときは何かしら隠し事があるときだよ」
「・・・なんでそんなこと知ってるんだよ」
「ふっふっふ。小町を誰だと思ってるの?お兄ちゃんの妹なんだよ?」
「・・・はあ」と俺は諦めて事の顛末を全て小町に話した。
「お、お兄ちゃんが...ラブコメってる!!」
「おい。今の説明でどうしてそうなる」
「えー?だって今の話を聞いてたら自慢してるのかなーって小町思ったよ?」
「は?いや何でだよ」
「はあ...。まぁお兄ちゃんには分からないかー。……で、お兄ちゃんは誰が本命なの?」
「・・・は?」
「いやいや。は?じゃなくて複数いるんでしょ?誰が本命なの?」
「後輩と同じ部活ってだけだ。それ以上でもそれ以下でもねえよ」
ましてや友達ですらないまである。
「ふーん。まっいいや。明日土曜日だし誰かうちに連れてきてよ、お兄ちゃん♪」
「いやなんで?」
「ん?そんなの小町が会ってみたいからだよ?」
「だから何でだよ」
「そんなの未来の小町のお姉さんになるかも知れない人だよ?小町だって知りたいじゃん!」
「決めた。絶対に連れてこない」
「えー!」と小町は最後まで渋っていたが、俺はご飯を口のなかに掻き込み支度をするために自分の部屋に戻る。すると諦めたようでそれ以上声が聞こえなかった。
「レッツゴー!」
支度を終えて玄関の扉を開けると俺の自転車の荷台に小町が乗っていた。
「いや何やってんの?お前」
「何って、ほら早くいくよ!遅刻しちゃうよお兄ちゃん!」
お兄ちゃんという言葉に何処か弱い俺は自転車に跨がり少し重くなった自転車をこいで学校へ向けて走り出す。
「お兄ちゃん、今朝は小町乗ってるから事故らないでね?」
「俺一人の時はいいのかよ?」
「お兄ちゃん、あの時は心配したんだよ?」
「悪かったよ」
そう。俺は高校に入った入学式の日。学園生活を送るに当たって一番大切な日である今日、車との接触事故で入院しているのだ。生まれたときから人の黒い部分を聞いてきた俺は、高校に入っても同じだと諦めてわざわざギリギリに行こうとしていたのだ。だが小町が初日は大切だからといつもより1時間も早く家から出されたのだ。いつもより早すぎる時間に家を出ることになった俺は自転車ではなく徒歩で行くことにした。徒歩で学校に向かっているときにある信号で止まっていたのだが飼い主の鎖を外したのか、まだ赤だというのに犬がわたってしまった。犬がわたっているときに右から高級車と思われる車が犬と衝突しようとしていた。俺の体は考えるよりも先に動いており、犬を突き飛ばすと走ってきた高級車と激突したのだ。
そして開幕ボッチの完成と言うわけだ。
「元はと言えば小町が無理矢理お兄ちゃんを早く学校に行かせたのが問題なんだし...」と小町は俺の腰に腕を回しながら言ってくる、小町の腕は震えていて今でも気にしてくれていることが分かる。
「別に小町のせいじゃねーよ。ただ俺が不注意だっただけだ」
「でも...」
「それに逆に言えばあの時俺があの場所にいなければ間違いなく犬は死んでただろ?」
「そうだけど...」
「終わり良ければ全て良しって言葉を知らないのか?俺も暫く学校サボれたし良いことずくしだったよ」
「ぷ、何それ。・・・お兄ちゃん」
「どうした?」
「ありがとう」
「おう」
小町を中学校まで送り届けると、小町の周りにはすぐに数名の女の子が近寄ってきて話しかけている姿が見えた。おそらく小町の友達なのだろう、このハイブリットボッチがと思いながら俺は総武校に向けて自転車をこぐのだった。
教室に入るといつもと空気が違っていた。というか男子生徒からの視線が痛い、いつもなら俺が教室に入ったところで誰も気にしないのだが今日は違った。殆どの男子生徒が俺をずっと睨み続けているのだ。俺にはなぜこのような状況になっているのか皆目見当がつかないので立ち尽くしていると戸塚に話しかけられた。
「おはよう。比企谷君、今日は遅かったね」
「ああ、ちょっと妹を学校まで送っててな」
「そうなんだ」と言って席に戻ろうとする戸塚を止めて何故こんな空気がギスギスしているのかと聞いてみた。
「あー...。それはね、ついさっきなんだけど。この教室に神崎さんがまた来たんだよ」
「・・・それで?」
「比企谷君を探してたみたいだから、まだ来てないよって言ったらね」
「おう」
「そうですかって帰ろうとしてたんだけど...小金井君がね」
ん?小金井君って誰?そんな人いたっけ?
「えーと。すまん、戸塚。小金井って誰だ?」
「えーと...。ほら後ろの入り口から一番近い席に座ってる」
あー。あいつ小金井って言うんだ。
「てか、スッゲー睨んでるんだけど...俺何かした?」
「うーん...比企谷君が何かしたと言うよりは....。神崎さんかな?」
「・・・取り合えず、さっきの続きを聞かせてくれるか?」
「うん。えとね、小金井君があんな男より俺と一緒にご飯食べませんか?って言ったんだよ」
「・・・それで?」
「そしたら....えーと。ごめんなさい、私比企谷先輩以外の男性に興味がないので....って」
ハッハー!小金井ざまぁあああ!!....じゃない!だから三浦も睨んでるのか!止めて!俺のせいじゃないから!
「それでこんな状態に...」
「そ、そうか...」
キーンコーンカーンコーン。
心は晴れなくても授業は始まる。
1時限目の授業が終わると小金井が俺の机の前まできた。
「おい、比企谷。ちょっとこい」
あーこいつ、あれだ。ドラマの見すぎだ。そんな台詞で付いていくやつなんていない。
「嫌だ」
「っ!てめえ!」
「おい!小金井!」
俺が聞く耳もたずにスルーしていると小金井は俺に掴みかかろうとしてきた。俺は痛いの嫌だなーとか思ってると意外な....でもないな。葉山から助け船が出された。
「んだよ!葉山!お前には関係ねえだろ!」
「あるさ!同じクラスの仲間じゃないか、それに君はフラれたんだ、大人しく諦めるのも大事だと思うよ」
「女子にモテモテだからって調子にのんなよ?葉山!」
「ちょっと、あんた煩いんだけど?」
出ました。女王三浦の登場です。
「ああ?女はだま「あぁ?」...」
三浦怖すぎだろ...小金井黙っちゃってるし。
「んでヒキオ、あんたはちょっと、あーしと来な」
「は?」
「2度も言わせる気?」
「・・・はい」
キーンコーンカーンコーン。
2時限目が始まるチャイムの音が聞こえる。なのに何故か俺は三浦に連れられて別館に三浦と二人で来ている。
「あーしさ、あんたに言ったよね?結衣泣かせたら許さないって」
「・・・」
俺は何も言うことが出来ない。
「無言....か。なんで結衣はこんなやつのこと...はぁ」
「なんて「なんでもない」...はい」
「それであんたは誰が好きなの?」
「誰がって?」
「だから、結衣と雪ノ下さんだっけ?あと一色ってこと神崎って子」
「・・・お前には関係ないだろ」
パシン。
別館に甲高い音が響き俺の頬がジンジンと痛み。痛みが無くなると今度はどんどん熱くなっていき自分が言葉にしてしまった喪失感に襲われまるで自分がスローで動いてるような気分になった。
「あんたなんかに...結衣は渡さないから」そう言って三浦は教室に戻っていった。俺は暫くそのまま動くことが出来ず、もう何回目のチャイムがなったのか分からなくなった頃教室にカバンも取りに行かず家に帰った。
家に帰ってお風呂に入って、ご飯も食べずに布団の中にうずくまるように入る。今日学校で何をしていたのか覚えていない、唯一覚えていたのは三浦から頬を叩かれたことだけ。
「なにやってるんだ、俺は...」という独り言で夢に落ちていった。
朝、目が覚めるとこれでもかというほどに体が重かった。力も入らずただただ布団の上から天井を見上げるだけ。
ふと横を見ると朝御飯だろうか。俺の机の上にベーコンハムエッグがのせられていた。今更だが俺は昨日授業をサボり、勝手に帰ってきてしまったことに気付いた。色々と頭に浮かんでくる顔。それは由比ヶ浜や、雪ノ下、一色に神崎の顔だった。急に痛くなる頭を押さえながらベーコンハムエッグに手を伸ばすと1枚の紙が乗っていた。
その紙には数字が11個だけ書いてあった。
080-0000-0000。
どこから見ても電話番号だろう。だが誰の電話番号なのかは分からなかった。昨日の今日でかけるのも嫌だったが、これをかけないと一生後悔すると思い震える手を押さえながら携帯でかける。
ボタンを押して耳に付けるとプルルルルと普段聞きなれた音が聞こえてきた。だが俺の心臓はいまだかつてないほどに跳ね上がり唇は乾燥している。
プルルルぷっ....「はい、もしもし?」という声を聞いて俺は電話の相手が誰なのか分かった。
「えと....もしかしてヒッキー?」
電話の相手は、今一番話したくない相手だった。
まだヒロインは決めてません。もう少し進み具合を見ながら決めようと思います。