比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
葉山達とテニス勝負をした翌日。
三浦は思っていた以上に普通で由比ヶ浜もいつも通り話していることから昨日のことが問題になり由比ヶ浜が孤立するという最悪の状況になることは回避できていたと分かった。だが葉山は今日1日俺を意識して避けていたようだが元々話をする仲でもないので気にせずに授業を受け、放課後に部室に向かった。
「さて。それじゃあ躾を始めましょうか」
淡々と雪ノ下は俺を床に正座させて言ってきた。何故このような状況になっているのか分からないと思うが大丈夫、俺にも分からない。だが事の顛末は20分ほど前のことだ。俺が奉仕部に入ると雪ノ下はいつも通り先に来ており1人読書にいそしんでいた。ただ本を読んでいるだけなのにやけに絵になるなとか考えながらいつも通り自分の椅子に座ろうとしたら雪ノ下が急に「あなたの座る場所はそこじゃないわよ」と言ってきて口論になった末にこうなった。つまりだ...。雪ノ下に口喧嘩を挑んだ俺が浅はかだった
「えーと。雪ノ下さん?俺は何故ゆえ、こんな冷たい床の上で正座しているんでしょうか?」
勿論大体の検討はついている。どうせ昨日のテニス勝負のことだろう。だがあれは三浦が犠牲になってくれたおかげで終わったはずだ。
「ほんとに分からないのかしら?それとも分かっていてわざと言っているのかしら?後者だとしたら今のうちに謝罪しなさい。今ならまだ許してあげるわ」
「・・・テニス勝負の事か?」
「なんだやっぱり分かっているじゃない」
「もうすんだ話ではなかったですかね?」
「私は三浦さんとの勝負の前に躾をしなくてはならないと言ったはずだけれど、それに勝手に帰ったのは誰だったかしら?」
確かに言っていた。だがそれなら俺にも言い分はある。
「俺は1度部室に戻ったぞ?だけど中々戻ってこないから帰っただけだ」
だから俺は悪くない。中々戻ってこなかったお前らが悪い。
「はぁ。由比ヶ浜さんは、泣いている三浦さんに付いて、私は保健室から借りてきていた救急箱を返しにいってから制服に着替えていたのだけれど」
「・・・」
「何か他に言いたいことはあるかしら?」
「・・・無いです、すいません」
「まぁでもいいわ。椅子に座りなさい」
俺は「はい」と頷いて椅子に座りなおす。何故そこまで上から目線なの?って言いたいがここは我慢だ。
「それでどうやって三浦さんの球筋を全て完璧に読んだのかしら?いえこの場合は葉山くんのも含まれるわね」
どうやら雪ノ下は、あの試合で俺が三浦と葉山の球筋を全て見切っていたと思っているらしい。別に球筋を見切っていたわけではないが同じようなことなので、あの試合でそこまで理解した雪ノ下に純粋に驚嘆する。だがほんとのことを言うわけにもいかないのでここは誤魔化すことにする。
「俺にあいつらの球筋なんて読めるわけないだろ?」
「ええ。私も直接三浦さんと勝負してそれは思ったわ。大したことはなかったけれど、たったあれだけの時間で球筋を完璧に見切れるほど優しい球ではなかったと思ったのだけれど」
「つまりお前は俺に何が聞きたいんだ?」
「・・・さあ、なんでしょうね」
いや質問に質問で返すなよ。次なんて答えればいいのか分からなくなっちゃうだろうが。
「ただ、姉さんなら出来ると思ったからあなたにも姉さんと同じような何かがあると思っただけよ」
「ん?姉さん?雪ノ下、姉がいたのか?」
「ええ。・・・ごめんなさい。話が脱線してしまったわね」
姉の話をした途端に急にしおらしくなった雪ノ下に俺が戸惑っていると奉仕部をノックする音が聞こえた。由比ヶ浜が来ていないので由比ヶ浜かと思ったが由比ヶ浜がわざわざノックして入ってくるとは思えなかったので誰か依頼に来たのだろうと思った。
雪ノ下の「どうぞ」という一言で入ってくる。
「し、失礼します」
「っ!....」
俺は現れた相手を見て驚愕した。奉仕部に入ってきたのは神埼彩月だった。別にあの事件以来おかしなことがないのでビビる必要もないのだが一番最初の印象が強すぎて反射的にビックリしてしまうのだ。
「彩月さん、今日は依頼できたのかしら?」
「い、いえ!あ、あの...いろはちゃんから伝えてくれるようにと頼まれまして。今日は危ない気がするのでサッカー部の方に行ってきます!先輩骨は私が拾ってあげるので心配しないでくださいね♪と」
一色のやつ、逃げやがった。てかそれ知らせるためにわざわざ奉仕部に来たのかよ...。
「はぁ...。一色さんには後で話をした方が良さそうね。それでもう用事はすんだのかしら?」
神埼彩月は「い、いえ...」と言って顔を急に俯かせてごにょごにょと聞き取れないが喋っている。気のせいか顔もほんのりと赤くなっている気がした。
「あ、あの先輩...」
「どうした?」
「私と..つ「やっはろー!あれ?彩っちどしたの?」」
由比ヶ浜が来たことで彩月が何を言いかけたのか分からなかったが「そ、それでは私はこれで!」と逃げるように奉仕部から出ていったので最後になんて言おうとしたのか結局分からなかった。
「ど、どしたの?」
「さあな」
「それで由比ヶ浜さん、今日は遅かったみたいだけれど何かあったのかしら?」
「えーと...ね。なんていうか」
由比ヶ浜が言いずらそうに奉仕部の入り口で口ごもっていると由比ヶ浜の後ろからもう一人入ってきた。
「やあ。こんにちは」
「葉山....」
「それで葉山君がなんのようかしら?」
「今日は依頼があって来たんだ」
「は?お前が?お前なら何でも自分で解決しちゃうんじゃねーのか?」
「もう!ヒッキー!」と由比ヶ浜が言っているが実際こいつに必要とは思えなかった。
周りの期待に常に答えようと自分を偽る葉山は常に周りを騙している。皆各々で人言えないことなどは絶対にあり偽るがそれはあくまで自分の為だ。だが葉山の場合は違う。こいつは完全に周りの為に合わせて自分を偽っている。そんな生き方はいままでの俺の生き方を否定されているようで気に入らなかった。結論を言おう。俺はこいつが大嫌いなのだ。
「はぁ、取り合えず話を聞かせてもらえるかしら?」
「あ、ああ。すまない」
葉山は椅子に座りポケットの中から携帯を取り出して俺達に見せた。
「実はこんなメールがクラスで出回るようになったんだ」
葉山から見せてもらったメールは謂わばチェーンメールというものだった。内用としては、葉山といつも一緒にいる、戸部 と大和と大岡の3人が裏で良くないことをしているというものだった。
「これが出回るようになったのはつい最近なんだけど、こんなものが出回ってから皆の空気が悪くなるし、友達の事をこんな風にかかれれば腹も立ってくる。それで最初結衣に相談してたんだ。」
どうでもいいがこいつらは何で名前呼びなの?付き合ってるの?
「うん、あたしの所にも来てたから気にはなってたし...てか調べてみたらうちのクラスの大半にはメールが来てたみたいなんだ」
え?俺そんなメール知らないんですが?あー俺のメールアドレス知ってるの小町とamazonだけだった。あれ?なんか涙出てきた。
「そう。依頼を受けましょう」
えー受けるのかよ。俺帰りたいんだけど。
「ゆきのん!やってくれるの!」
「チェーンメール。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も顔も出さずただ傷付ける為だけに誹謗中傷の限りを尽くす止めたいならその大元を根絶やしにするしかないわソースは私」
「実体験かよ...」
「根絶やしにしたんだ...」
雪ノ下は椅子から立ち上がると「私は犯人を探すわ。私が一言、言えばピタリと止まるはずそのあとはあなたの裁量に任せるわ、それでいいかしら?」と言った。
「あ、ああ。それでいいよ」
「メールが送られ始めたのはいつからかしら?」
「先週末からだった筈だけど、だよな結衣?」
「うん」
「クラスで何か合った?由比ヶ浜さん、葉山君」
「特に無かったと思うけどな」
「うんいつも通り...いやヒッキーのテニス勝負以来。他のクラスの女子がわざわざ教室まで来てヒッキーに話しかけてたかも」
由比ヶ浜が少し怒った様子で言ってくる。だがあれはどう考えても葉山を人目見に来て三浦のせいで話にくいから俺を利用して教室に入ってきているだけだろう。なのにこの言いぐさ解せぬ。
「へえ。それは中々面白いことを聞いたわね」
「ばっか、お前等あれは葉山を見に来てたんだよ」
「いやいやどう考えてもヒッキーに話しかけてたじゃん!」
「三浦が睨むから葉山に近付けないだけだろ?だから教室に入るために俺を利用したんだよ」
「ヒッキー....」
「はぁ、あなたは変わらないわね」
「君はそう思ってたんだね」
「実際そうだからな。それで結局どうするんだ?」
「こういう類いの行為が起こるときは何かとあるものだけれど。一応聞いておくわね、比企谷君、ここ最近で何かあったかしら?」
「一応ってなんだよ。俺も一応同じクラスなんだが。ここ最近ねー、職場見学とかあるな」
「それだ!班分けだよ。ああいうイベントでの班分けは後々に響くから」
うわーいちいちそんなことまで気を使わなきゃいけないのかよ。ほんと俺ボッチでよかった。
「班分けは3人一組。そりゃ誰か1人蹴落とすよな、てことは犯人は戸部か大和か大岡で決まりじゃ「それは違う!」」
いままで黙っていた葉山が急に声を張り上げて怒鳴った。普段の葉山からは考えられないことで由比ヶ浜がビックリしてたが俺は右目のコンタクトを外して葉山を見る。
・・・・・。
あー、そういうことか。やっぱり俺はお前が嫌いだ。
俺は葉山を見て、聞いて改めてこいつの事が嫌いだと思った。
少し短いですが調度区切りにはいいのでここまでにします。