比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
少し荒っぽい表現や嫌な思いをする表現が含まれるのでダメな方はバックをお願いします。
危ない子という言葉がこれでもかと似合う女の子から告白?をされた次の日の放課後に奉仕部に二人の女の子が訪ねてきた。
「結衣先輩がここにいるなんて意外でしたよ~」
「あはは、ちょっと色々あってね、でもいろはちゃん今日はどしたん?」
「実は友達から頼まれちゃってある人を探してほしくて来たんですよ」
「その友達って?」
「一緒に来てるんで紹介しますね」
そう言って一色という女の子の後ろにいた女の子を掴んで俺達の前に引っ張ってきた。俺はその時、戦慄という言葉が似合うほど寒気を体全体で感じていた。
「あ、あの……神埼彩月って言います。ヨロシクお願いします」
その女の子は礼儀正しく挨拶をして頭をペコっと下げた。由比ヶ浜は「可愛い!」と叫んでいるが俺の心中はそれどころではなかった。
「な、なんで……」
俺は独り言のように小さく呟いていた。それもそのはず神埼彩月という少女を俺は知っているからだ。静かに付けたカラーコンタクトを片方だけ外して神埼彩月を見た。
「ヒッキー?」
「比企谷君?」
俺が取り乱しているのを見て由比ヶ浜と雪ノ下が声をかけてくれているがそんなものは耳に入ってこなかった。
[あ、見ぃつけた★]
俺には神埼彩月の心の声しか聞こえていなかった。
俺が放心状態に陥っていると雪ノ下が「取り合えず話を聞くので座ったら」と促して二人とも俺達に向かい合うように席についた。
「それでどんな依頼で来たのかしら?」
「それがですね~さっちゃんが人を探して欲しいって私に頼んで来たんですけど中々見つからなくて~それで頼みに来たんですよ~」
俺は一色の人を探してと聞いた瞬間に心臓が飛び出しそうになるくらいに心臓の音が速くなるのを感じていた。徐々に呼吸がしずらくなっていき、目線も自然と下にさがってしまう。
「で、でもねいろはちゃん……」
神埼彩月の声がして俺の体が大袈裟に反応する。額には変な汗をかき拳を握る力は少しずつ強くなっていく。
「実はその人見つかったの」
静寂。一瞬だっただろう。すぐに一色が「ええ!そうなの!?じゃあ私が来た意味は!?」みたいなことを言っていたからとても一瞬のことだったのだろう。でも俺にはとても長く感じていた。ここにいたくないという不快感に襲われて今すぐにでもここを飛び出して家に帰りたかったが足が固まってしまって動くことも出来ない。
「はぁ、それでは依頼は終わっていると思うのだけれど……何故きたのかしら?」
雪ノ下の疑問は至極当然と言えるだろう。だが俺は探している人物を知っているだけに雪ノ下に対しての返事も予想できる。そしてそれは俺が一番聞きたくない言葉でもあった。
「私は、そこに座っている先輩を探してたんです」
「え?ヒッキーを探してたってこと?」
「はい、昨日少し失礼なことをしてしまったので謝りたくて……」
さて昨日のあれは少し失礼な事で済ませてもいい事なのだろうか?俺の目をなんの躊躇も躊躇いもなく指で刺そうとしてきた事が少し失礼な事で済むのなら警察は要らない気がするというものだ。
「あ、あの比企谷先輩……」
神埼彩月は俺の名前を呼ぶ。俺は先程からずっと顔を伏せているので、こちらに顔を向けて欲しいという意味が含まれているのだろう、そして謝罪をしてくるのだろう。だが断る!
正直怖くて顔を見れる状態じゃない。
「ひ、ヒッキー……何があったか知らないけどさ、謝ろうとしているみたいだし許してあげたら?」
由比ヶ浜は優しいな、だが今回は無理だ。何故って俺の全神経が警告の鈴を鳴らしているのだ。
「比企谷君、顔をあげなさい」
Oh……。命令ですか、俺の味方はここにはいないのん?うん、ここ以外にも何処にもいないね!まじ泣きたくなってきたわ……。
「…………はい」
「てゆうか先輩、普通さっちゃんみたいに可愛い子からこんなこと言われたら嬉しいと思うんですけど?」
いや、全然嬉しくないし。むしろ公開処刑されている気分ですらある。
「いえ、皆さん本当に私がいけなかったことなので……比企谷先輩本当にすいませんでした」
俺は今神埼彩月という女の子が頭をこちらに下げている姿を見ながら謝罪を聞いているという風に周りには見えているだろう。だがそれは大きく異なっていた。
[ふふふ、あの目……目目目目目目目目目目目目目この前は嫌だったけどなんかいいかも]
「…………」
俺は無言でその姿を見ていることしか出来なかった。
神埼彩月がしばらくして頭を上げてきたことで俺と目が合うとにこっと笑った。
「あ、ああ……」
俺はなんとか声を振り絞った。俺がそれ以上何も言わずに空気がおかしくなりそうになると由比ヶ浜が「そ、それじゃあ!これで仲直りしたってことで!!」と言ってその場の空気を変えてくれた、流石トップカーストだけはあると思いながら由比ヶ浜に感謝して椅子に座り直した。
「それでさっきから気になっていたんですけど、先輩何で右と左目で目の色が違うんですか?」
出来るだけ話しかけて欲しくなかった俺は少し間をあけたが由比ヶ浜が「それはねー」と全部話してしまいそうだったので由比ヶ浜を制止して俺が言葉を続けた。
「俺はオッドアイなんだ」
「へぇ~」
特に知りたかったわけでも無かったようで空返事が返ってきた。
そのあとに一色から「それじゃあそろそろ私達は帰りますね~」という言葉を言った後帰っていった。
「……気に入らないわね」
雪ノ下が不意に呟いた、そのひとことは俺の今考えている事と少し似ている気がした。
「え?ゆきのん、どうしたの?」
「あの神埼彩月さんって人、彼に何をしたのか分からないけれど、あの目は反省している人の目じゃないわ」
俺は少なからず驚愕した。雪ノ下は俺と同じような力はない。俺だってこんな変な力が無ければ彼女の違和感に気付けないと思うしそれだけ彼女の演技は迫真なものだった。
それに俺は最後神埼彩月から信じられない事を聞いてしまっている。
「雪ノ下の言うことには俺も賛成だ」
「何か思うところがあるのかしら?」
「ああ。それよりも少し気になることがあってなこれから少し行かなきゃならない、だから話は明日でもいいか?」
「……ええ。構わないわ」
雪ノ下は俺の目を見ると1度何かを考えるように目を閉じて、肯定した。
「ええ!私何も分からないんだけど!?それにどこか行くなら私も一緒に「それは駄目だ!」」
俺の怒声にも似た声で由比ヶ浜が少したじろぐが今回は譲れない。あんな言葉を聞いてしまったからには誰も連れていくわけにはいかない。
「すまない、大きな声を出して。それも明日説明するから待っててくれないか?」
「……分かった。でも絶対だかんね!」
由比ヶ浜は、涙目からなんとか笑った顔を見せてくれた。心の中で感謝しながら俺は急いで奉仕部から出た。
[やっぱりいろはちゃんは邪魔かな♪]
俺は今ひたすらに走っていた。自転車通学で自転車があることも忘れて一色達を追いかけていた。
「はっ、はっ、はっ、確かこれからゲームセンターに寄ってくって言ってたな」
勿論言っていたのを聞いたのではなく、心の声を聞いたのだが、ここら辺でゲームセンターがあるとすれば駅前に1つしかない。
ようやくゲームセンターが見えてくると一色達が丁度ゲームセンターに入っていくところだった。俺は安堵してその場で立ち止まり深呼吸をして息を整える。普段の運動不足がたたったのか息は切れ切れで肺には酸素が足りていないのか若干、喘息にも似た感覚に陥るがそれもしばらくすると良くなり落ち着いたところでゲームセンターに入って一色達を探すことにした。
ゲームセンターに入って探しているうちにこれが初めてのゲームセンターデビューだなと少し悲しくなったが、その後も見つからないように探しているとプリクラから出てくる、二人の姿を発見した。
[さっちゃん、何か様子がいつもと違うけどどうしたのかな?]
[はぁ~いろはちゃん、ほんとに邪魔だなぁ~もうこうなったらーーーーーでもいいかな]
俺は二人の心を聞いて、いや神埼彩月という女の子の心を聞いて言葉を失った。それと同時にこれからどうすればいいのか震える足を必死に止めて見つからないように物陰からコッソリ尾行することにした。
それから別段特に何もせずに二人はゲームセンターから出て一緒に歩いている。
[やっぱり、今日ーーーちゃうか~、はは楽しみ♪]
ここまで息が詰まりそうになる心の声を聞いたのは初めてだと思いながらも必死で帰りたいという衝動と闘いながら尾行を続けた。
二人を尾行して小1時間が経って周りも大分薄暗くなってきた時急に何もない路地裏で神埼彩月が立ち止まった。
[ここどこだろ?さっちゃん本当に今日はどうしちゃったのかな?]
俺は心の中で一色にバカ野郎と叫んでいたがそんな叫びが聞こえるはずもなく一色はただ神埼彩月の隣で「どうしたの?」と立ち止まっていた。
[さーて、始めよっか♪]
神埼彩月は懐から果物ナイフを取り出して一色に向けた。
一色は訳がわからないといった様子で「え?え?」とただ少しずつ後ろに後ずさっていた。
「私ね~貴女のこと前から嫌いだったの」
酷く感情が抜けている言い方だと思った、まるで人間に話しかけているようではなくもう死者に話しかけているような言い方だった。
「さ、さっちゃん?」
「くすっ……その呼び方やめてくれない?ほんとに耳障り」
そう言って神埼彩月はナイフを構えて少しずつ一色に近付いていく。
「な、何でこんなこと……」
「えー?なんで?分からないの?」
「…………」
一色は無言だった。
「わかるわけないよねー?男子に良い格好ばっかりして女の子とは仲良くしないでさー、まぁそれならそれで良かったんだよ、誰とも仲良くしないならさーなのに……」
神埼彩月の手は震えていた。怒りで我慢出来ないと言った風に。
「なんで、私と仲良くしたの?」
「…………え」
今日会った一色からは考えられないほど弱々しい声だった。
「まっ、そんなのはいいや。私が陰でどれだけ虐めに合っていたか知ってる?」
「…………」
一色はまた無言だった。
「知らないよね、知ってるはずがないよね?そう、だって貴女にとって私なんてその程度の価値でしかないんだから、それに私と仲良くしてから貴女に対する被害って減ったって思わなかった?」
一色はその場で俯いてもう下がることもしなくなった。
「やっぱり…………もう……死んで」
一色はその言葉を聞くと涙でグシャグシャになった顔をあげてーーー。
[ごめんねーーーー]
俺は一色の最後の言葉を聞いて思わず走り出していた。そして神埼彩月により振り上げられたナイフが一色に降り下げようとした瞬間に神埼彩月に後ろからおもいっきりぶつかり神埼彩月を突き飛ばした。
「きゃっ、な、何?」
神埼彩月はいきなりの事で混乱しているようだったが、俺は果物ナイフを拾い神埼彩月を見た。
[な、何でここに……いやそんなことよりも見られたんだ、はは……全ておしまいじゃん]
「あ、あのさ……まだ終わってねえよ」
「!?」
神埼彩月は、心底驚いたような表情になり俺を見てくる。
「お前がやったこと、許せるなんて言えない。でも一色は恐らく心の底から反省して謝ってる。だからお前がもうこんなことしないって言うなら大事にしなくていいと俺は思う」
一色は腰が抜けたのかその場にへたりこんでいたが、今はそっちまで見ている暇はない。
「なん……で?」
[何でそこまでしてくれるの?]
なんでか……それはたぶん俺自身、神埼彩月の気持ちを理解出来てしまうからだろう。理解は出来ても今回のことは納得出来ないし肯定出来ないでも、同じような事を思ったことがあるから手を差し伸べてしまうんだろう。
「なんでか……それは一色に聞けよ。俺はあいつの意見を尊重しただけだ」
「え?」
一色が涙を拭いながら未だ止まることのない涙を流しながらこちらにきた。
「さ、っちゃん……ごめんね……。私、私自分のこと、ばっかりで……でもさっちゃんと仲良くなったのは別に私の代わりに周りの被害を押し付ける為なんかじゃないよ」
「…………」
今度は神埼彩月が黙って一色の話を聞いていた。
「私、こんな正確だから……昔から女子と仲良くなれなくて、そんなときに話しかけてくれたのが、さっちゃんだった……。私、あの時本当に嬉しかった、だから……一緒に遊びたいって思って誘ったの……」
「…………バカ」
「さ、っちゃん?」
「いろはちゃんのバカ!バカ!バカ!バーーーーカ!!なんで言って……言ってくれないん、だよぉ……」
「ごめん、ごめんね……」
「もう、バカ……謝って欲しいんじゃないよ……」
神埼彩月は一色に抱きついた、一色は目を丸くしていたが少しずつ目からまた涙が溢れていった。
「後少しで……私の大切な親友を無くしちゃうとこだった……怒ってよぉ……」
「ううん、怒れないよ」
「いろはちゃん……」
「さっちゃん……」
二人は抱きついたまま涙を流してそのまま眠ってしまった。
…………えーとお二人さん?良い雰囲気のところ申し訳ないんですが、ここ路地裏なんですが?もう夜の7時くらいなんですが?俺の携帯めちゃくちゃなっているんですが!?と叫びながらコンタクトを付けるのだった。
次の日。
俺と一色と神埼彩月は、今絶賛土下座中である。
「それで?おバカ3人組に私はなんて言えば良いのかしら?」
雪ノ下の怒気が含まれている声に三人とも震えながらただ無言で下を向いていた。
何故このような状態になったのか、それは神埼彩月が奉仕部に来て昨日の出来事を全て雪ノ下と由比ヶ浜に打ち明けたからだ。
話をしていくうちに何故か俺まで巻き添えをくらい、来るのが遅れていた一色までも標的になり今こうして三人で雪ノ下さんのお説教を土下座で聞いているのだ。
[死んでいたかもしれないのよ?]
こんな言葉を聞いてしまった俺は何も言い返す事が出来ず絶賛反省中である。
「でも、三人とも無事で良かったよ」
由比ヶ浜の一言でなんとか雪ノ下が引いてくれて椅子に座ることを許してもらえた。
因みに神埼彩月が俺に向けていたおかしなことも今では聞こえなくなり、ただ感謝の言葉しか聞こえてこなくなった。
だが1つだけ問題が増えた。
それは・・・。
「せーんぱい♪また来ちゃいました!」
あれ以来一色が奉仕部に度々訪れるようになってしまったのだ。
難しい...の一言で。