比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~   作:@まきにき

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俺達の奉仕部はこうして始まった。

成り行きで奉仕部の一員になってしまった俺の初仕事の相手であろう人物が奉仕部の扉をノックして入ってきた。

 

「し、失礼しまーす....。平塚先生に言われて来たんですけど...な!何でヒッキーがここにいるの!?」

 

「いや俺ここの部員だし」

 

つうかヒッキーって俺のこと?その前にこいつ誰?こんな友達みたいなニックネームで呼ばれる関係のやつ俺にいたか?それに仮にいたとしてもこんないかにもトップカーストにいそうな友達なんて俺にはいない。

 

「2年F組由比ヶ浜さんよね。とにかく座って」

 

雪ノ下は由比ヶ浜の為に椅子を1つ後ろから持ってくる。ずいぶん俺とは態度が違うことだな、おい。

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ」

 

「全校生徒を覚えてるんじゃねえの?」

 

「いいえ。あなたの事なんて知らなかったもの」

 

「そうですか...」

 

そういえばそうでしたね。ええ、分かっていましたとも。

 

「気にすることないわ。あなたの存在から目を反らしたくなってしまう、私の心の弱さが悪いのよ」

 

「お前それ慰めてるつもりなの?」

 

「只の皮肉よ?」

 

「なんか...楽しそうな部活だね!」

 

この状況を見て楽しそうとかこの子頭の中大丈夫なの?俺がただ虐めを受けてるだけなんですが?

 

「それにヒッキーよく喋るよね?」

 

「は?」

 

「ああ、いやなんていうか!その、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。なんつうか...いつもは、もっとクールって言うかあんまし喋らないから」

 

そりゃな、女子ってものがどれ程怖いか俺は知っているからな。知ってるか?いつも楽しそうに友達と笑顔で話してるのに心の中では[こいつうぜー、てかあたしらと対等とか本当に思ってるの?まじ受けるんですけど]とか思ってるんだぜ?まじあの時はトラウマレベルでやばかった。

 

「別に俺の自由だろ?」

 

「で、でも!たまに見せるキョドりかたはキモいよ!」

 

何?今俺を何かからフォローしたつもりなの?友達いないという事を察して話を変えようとしたの?逆効果だって気づいてる?  

 

「このビッチが」

 

初対面の相手にビッチと言ったのは初めてだな。うん、でも何故か後悔はしていない。

 

「はぁ!?ビッチってなんだし!あたしは、まだしょ....う、うははは、な、何でもない!」

 

「別に恥ずかしいことではないでしょう?この年でバージン...「うううはぁは!」」

 

「ちょっと!なにいってるの!?高2でまだとか恥ずかしいよ!雪ノ下さん女子力足んないんじゃないの?」

 

「くだらない価値観ね」

 

「にしても女子力って単語がもうビッチ臭いよな」

 

「また言った!人をビッチ呼ばわりとかあり得ない!ヒッキーまじでき...キモい!」

 

「ビッチ呼ばわりと俺のキモさは関係ないだろ?つか一瞬なんで言うの躊躇ったんだ?」

 

「た、躊躇ったわけじゃないし!え、えと...そ、そう!溜めただけだし!」

 

何を溜めたんだよ...そしてお前は俺に向けて何を討つ気なんだよ。

 

「溜めて何を討つんだよ、ビッチ」

 

「こ、の!ほんとうざい!キモい!てかまじあり得ない!」

 

つうか今更だが雪ノ下程ではないがこいつも俺に対して普通表に出さない事まで言ってくるよな、いや俺が言い過ぎたのか?それに心の中ではどう思ってるかなんて分からないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、クッキー?」

 

「手作りクッキーを食べて欲しい人がいるのだそうよ。でも自信がないから手伝って欲しい、というのが彼女のお願い」

 

俺達は由比ヶ浜に料理作りを教えて欲しいと言われて家庭科室に移動してきた。俺は料理が出来ないので帰ろうとしたが、雪ノ下に「味見をするだけでいいからきなさい」と言われたので仕方なくここにいるわけだが。

 

「ふっ、そんなの友達に頼めよ」

 

「あ、そ、それは....あの、あんまり知られたくないし。こんなマジっぽい雰囲気友達とは合わないから」

 

いろいろ大変なんだなー友達。良かったー俺ボッチで。

 

「そうですか」

 

「それに平塚先生から聞いたんだけど、この部って生徒のお願い叶えてくれるんだよね?」

 

え?そうなの?何それ八幡そんなこと知らないんだけど?

 

「いいえ」

 

ほんとこいつ誰に対しても即答で否定するな。むしろ清々しいまである。

 

「奉仕部はあくまで手助けするだけ。飢えた人に魚を与えるのではなく、捕り方を教えて自立を促すの」

 

へえ。初めて奉仕部の活動方針を聞いたな。

 

「な、なんかすごいね」

 

「曲がってるわ。あなたエプロンもまともに着られないの?」

 

「ごめん、ありがとう」

 

まじ俺空気だわ。このまま帰ってもバレないんじゃないかってレベルで。このあとに俺は帰らなかったことを後悔する出来事が起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木炭。

由比ヶ浜が料理?を終えてクッキーを見て俺はそう思った。

 

「何故あれだけミスを重ねることが出来るのかしら?」

 

「ホムセンで売ってる木炭みたいになってんぞ。もはや毒味だ」

 

「どこが毒だし!」

 

・・・・・・。

「やっぱり毒かな?」

 

考えたが毒に至ったらしい。

 

「死なないかしら?」

 

材料的には死なない筈だが....死なないと言えないことがリアルで怖い。

 

「さて、どうすれば良くなるか考えましょう」

 

「由比ヶ浜が2度と料理をしないこと」

 

「それで解決しちゃうんだ!やっぱりあたし料理に向いてないのかな...才能ていうの....?そういうの無いし」

 

「解決方法は努力あるのみよ。由比ヶ浜さん、あなたさっき才能が無いって言ったわね?」

 

「え?あ、うん」

 

「その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能があるものを羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者の積み上げた努力を想像できないから成功出来ないのよ」

 

「で、でもさー最近皆やんないって言うし、こういうの合ってないんだよ」

 

「その周囲に合わせようとするの辞めてくれるかしら?酷く不愉快だわ。自分の不器用さ無様さ愚かしさの影印を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」

 

雪ノ下の性格から考えて恐らくだが努力をしていままで乗り越えてきたのだろう。だから由比ヶ浜が諦めて、その諦める要因を人のせいにしたことに雪ノ下が怒るのは俺にも何となくだが分かる。だが人間は皆完璧なわけじゃない、人は皆自分に甘い生き物だ。ズルをして先に進めるならズルをする、楽をして先に進めるなら楽をする。そういう生き物だ、そして俺もその一人だ。

確かにいままで頑張ってきたやつに対してそいつの頑張りを否定するような言い方は正直良くないと思う、だが完璧ではない人間に自分の理想を押し付けても何処かで壊れてしまう。だから俺はどちらも間違っていないと思うしどちらも正しいと思う。だが平塚先生が言っていた「大切な嘘」とはこの事なのだろう、矛盾しているが間違った本当の気持ちを言ってしまった溝はもう元に戻ることはないのだから。

 

「か、カッコいい」

 

「は?」

 

「は?」

 

俺と雪ノ下が初めてハモった瞬間だった。いや恐らくこれから先ないだろう。

 

「建前とか全然言わないんだ。なんてゆうか、そういうのカッコいい!」

 

俺は今まで見て聞いてきたことで人を信じられなくなっていたが由比ヶ浜の今の言葉が嘘であるとは思えなかった。普通ならあり得ないような言葉だが何故かそれだけは右目で聞かなくても分かってしまった。

 

「は、話聞いてたのかしら?結構キツイこと言ったつもりだけど」

 

「確かに言葉は酷かった。けど...でも本音って感じがするの。あたし人に合わせてばっかだったから、ごめん次はちゃんとやる!」

 

「正しいやり方教えてやれよ」

 

「ふぅ...1度御手本見せるから、その通りにやってみて」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木炭・・・では無くなった。まぁ初めてクッキー作りをして失敗してしまったくらいには良くなった。

 

「全然違う...」

 

雪ノ下が作ったケーキ屋さんで売っていてもおかしくない程のクッキーを見ながら由比ヶ浜が自分のクッキーと見比べて言っている。

 

「どう教えれば伝わるのかしら?」

 

このままじゃ終わるはずがない。というか1日で木炭だった物がクッキーになるはずがない。そこで俺は考えた。

 

「あのさ、何でお前ら旨いクッキー作ろうとしてんの?」

 

「はあ?」

 

「何が言いたいの?」

 

「10分後ここに来てください。俺が本当の手作りクッキーてやつを見せてやりますよ」

 

これで勝負は俺のターン。

 

 

 

 

 

ーーー10分後ーーー

 

由比ヶ浜と雪ノ下が戻ってきて俺はクッキーを二人の前においた。

 

「これが本当の手作りクッキーなの?」

 

「んっ、あんま美味しくない!」

 

「そっか。わりい捨てるわ」

 

「ま、待って!別に捨てなくても言うほど不味くないし!」

 

「まっ、お前が作ったクッキーなんだけどな」

 

「ふえ?」

 

「どう言うことかしら?」

 

「これは俺の友達の友達の話なんだが」

 

そうこれは俺がまだ小学生の時カラーコンタクトで右目の力を抑えられると知らなかった時の話。

 

「何かある度に話しかけてくる女子がいたそうだ。もうこれ絶対自分のこと好きだよ!と俺、じゃなくてそいつは思った。で、意を決して聞いてみることにしたんだ。好きなやつ教えてよ、イニシャルでいいから。でその返答がHだったんだ。だからそいつはこう言ったんだ。それって...俺のこと?そのあとのことは想像に任せるが翌日学校に来たときに黒板にでかでかと俺のキャラみたいなのをかかれて、吹き出しにそれって俺のこと?とかかれていた」

 

ああ、勿論言ったあとに聞こえたさ。なんて聞こえたかなんて言いたくもない。ただ時々今でも夢に出てくるとだけ行っておこう。

 

「ちょっと待って。あなたのその経験談から」

 

「ちょ、バカお前!俺の友達の友達だ!」

 

何?やっぱり雪ノ下も俺と同じ能力あるの?俺の考えてること読まれるとか...やばい死にたくなる。

 

「で、そこから何を導けば良いのかしら?」

 

「つまりあれだ、男ってのは単純なんだよ。話しかけられただけで勘違いするし、手作りクッキーてだけで喜ぶの。だから美味しくなくてもいいんだよ」

 

「美味しくない?う、うっさい!」

 

「まぁお前が頑張ったんだって姿勢が伝わりゃ男心も揺れるんじゃねえの?」

 

一般的にはな。心の声が聞こえてしまう俺は嬉しくはあっても揺れないだろうな...。そこまで俺は色々失っている。

 

「そう言うものかしら....」

 

「ヒッキーも揺れるの?」

 

「は?....あ、ああ。超揺れるね、てゆうかヒッキーて呼ぶな」

 

「で、どうするの、由比ヶ浜さん?」

 

「うん、あたし自分のやり方でやってみるよ。ありがとね、雪ノ下さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜の依頼を終えてから1週間過ぎたが由比ヶ浜以外に奉仕部に来るやつは誰もいなかった。もう俺こなくても良いんじゃないの?ってレベル。てか来ても御互いに本読んで時間になったら解散だし、ハッキリ言って時間の無駄だ。だが俺は何故か足しげくこの場所に通ってしまっていた。

 

「本当に良かったのかしらね、先週の由比ヶ浜さんの依頼」

 

雪ノ下がいきなり俺に話しかけてきた。確かに俺もあれでよかったのか?という疑問はあるが、本人が納得した以上他人がこれ以上口を挟むことでもないだろうと思っていた。

 

「なんだよ急に」

 

「私は自分を高められるなら限界まで挑戦すべきだと思うの。それが最終的には由比ヶ浜さんのためになるんじゃないかと」

 

「努力は自分を裏切らない、夢を裏切ることはあるけどな」

 

「え?」

 

「努力しても夢が叶うとは限らない。むしろ叶わないことの方が多いだろ、でも頑張った事実がありゃ慰めにもなる」

 

「ただの自己満足よ。甘いのね気持ち悪い」

 

トントン。

 

1週間ぶりに奉仕部の扉がノックされて誰かが入ってきた。

 

「やっはろ~」

 

由比ヶ浜だった。よく分からない挨拶をしながら入ってきた。

 

「なにか?」

 

「え?なにあまり歓迎されてない?雪ノ下さん、あたしのこと嫌い?」

 

「別に嫌いじゃないわ、ちょっと苦手かしら」

 

「それ女子言葉じゃ同じことだからね!」

 

「で、何か用かしら?」

 

「あ、この間のお礼ってのクッキー作ってきたから」

 

「私あまり食欲が」

 

「いやーやってみると楽しいよね♪今度お弁当とか作っちゃおうかな~。あ!でさゆきのん!部室でお昼を一緒に食べようよ」

 

「いえ、私は1人で食べるのが好きだからそういうのはちょっと...それからゆきのんって気持ち悪いから「あ、でさゆきのん」」

 

「あたしも放課後とか暇だし部活手伝うね!」

 

 

相手の本当に思っていることを知らないから友達になれる、俺はそう思っていた。だが御互いが本音でぶつかってもこんな風に友達みたいになれるのかと俺は思った。だが俺にはまだ眩しくて自然と奉仕部から出ていっていた。

 

「ヒッキー?」

 

「ん?」

 

廊下で由比ヶ浜に呼ばれ俺が振り返るとクッキーを投げられた。なんとかキャッチしたクッキーは、まだ焦げた所もあったが何回も挑戦して失敗を繰り返したと分かるくらいに形になっていた。

 

「一応お礼の気持ち。ヒッキーも手伝ってくれたし」

 

由比ヶ浜は俺にクッキーを渡すと笑顔で奉仕部に戻っていった。

俺は由比ヶ浜から貰ったクッキーを食べるために学校の中庭に移動して袋のリボンを外してクッキーを出した。袋越しからも見えていたがやはりまだ黒くて美味しそうではないけれど俺にはどこのケーキ屋で売っているクッキーよりも美味しく見えた。

 

「うっ...あぐっ」

 

でもやっぱり味は苦くて美味しくはなかった。けど不味くもなかった。

 

 

 

 

 

 

 




御指摘で教えていただいたので活動報告のほうで書くことにします!

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