比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
「お願い?」
夏休み。何故か千葉村で小学生のボランティアをすることになった俺は雪ノ下の親戚という女の子からお願いされていた。
「うん。でも、お願いっていうのとはちょっと違うかも」
鶴見は、カメラに視線を落としながら淡々と話を続ける。
「相談、かな。うん。人生相談」
何かに納得したように目線を俺に移してくるが、人生相談って完全に人選ミスってるだろ。
「俺に人生相談なんかしたって何も得るもんなんかないと思うぞ?」
「やっぱり、雪乃お姉ちゃんの言った通りの返事だね」
俺は雪ノ下に何を言ったのか睨む事で聞こうとしたが逆に睨み返されて鶴見に視線を戻した。
「はぁ。それで俺にどんな人生相談をしたいんだ?」
「うん。私実は....皆と仲良くして遊びたいんだ」
その一言だけ言ってまたカメラに視線を落とす鶴見を見て何かがあったことは理解した。
「鶴見は昔から1人だったのか?」
「ううん。小学4年生までは普通だったよ。友達もいたし.....。でも、4年生の夏頃に問題が起きたの」
「問題?」
「うん。先生が算数の小テストを抜き打ちでやるって言い出したんだけど」
それあるー。ほんとあれ嫌だよな、テストの点数が良くなかったので小テストやりまーす。とか言う先生いるけど、生徒からの人気急降下だからね?
「それでその時の問題なんだけど.....。図形の角度と長さを求める問題が幾つか出題されたんだけど....」
図形の角度問題か~、俺も苦手だったなぁ。意味わかんないんだよな、あれ。線が垂直で重なってできる角度は90度とか分かるわけがない。1度ずれてるかもじゃん?目分量の垂直なんだからってことを長々と回答用紙に書いたら職員室に呼び出されたっけな。
「比企谷君。あなたしっかり聞いているのかしら?」
俺が自分の思い出を振り返っていると雪ノ下がジト目をしながら聞いてきた。
「聞いてる。それでその図形の問題で何が問題だったんだ?」
「うん....なんか三角形の角度を求めるときに線を1本引っ張って90度を作って角度を求めるらしかったんだけど」
「ああ、あるな。そんな意味分からん問題」
「私はsin cos tan を使って解いたんだけど....」
「・・・ちょっと待て」
「どうしたの?」
「なあ、雪ノ下」
「なにかしら?」
「sin cos tan って中学生で習う範囲だよな?」
「そうね。高校で初めて習うところもあるから中学校によるらしいけれど」
「それを何故、小学生が使えるんだ?」
「私が教えたからよ?」
こいつか....。なんだろう、こいつが一人でいる理由が何となく分かってきた気がする。というかボッチである雪ノ下から色々と教わっているとなれば、自然とボッチになると言うものだ。
「な、なあ。鶴見」
「何?」
「それで結果はどうだったんだ?」
「答えはあってたんだけど・・・全部×にされた」
だろうな....。今時の小学校は、習っていない公式を使って問題を解くと教師によってだが×にされることが多い。それは授業中に話をしっかり聞けているかのチェックをするためと言われているが、恐らく教師が知らない公式を使われると困るからだろうと俺は思う。
鶴見は、その時の事が悔しいのか手を力強く握っている。
だが1つ分からない事がある。小テストで全部×にされたから鶴見はハブられているのか?それだったら今時の小学生怖っ、になるけどいくらなんでもそれはないだろう。何か他に原因があるはずだ。
「なあ鶴見?」
「何?」
「お前は小テストで×にされたからハブられているのか?」
「・・・違う」
「なら原因はなんなんだ?」
鶴見は原因が言いにくいのか目線を逸らして下を向いてしまう。無理矢理聞くわけにもいかず雪ノ下に目線を移すと溜め息を吐きながら俺に近づきながら話始めた。
「私も詳しいことまでは分からないのだけれど、知ってることだけでいいかしら?」
「ああ」
「鶴見さんから、テストの話を聞いて驚いた私は、翌日。鶴見さんの小学校まで行って採点をした先生を呼び出したわ」
「・・・は?」
あまりの内容に聞き返してしまった。お前は鶴見の母親か!って思わずツッコミそうになったわ。
「あら?聞こえなかったの?」
「いやいや聞こえなかったわけじゃない。ただ、何故先生を呼び出したんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。間違っていないのに間違いにした、と言うことは採点をした先生が答えを理解出来ていなかったと言うことでしょう?それなら教えに行ってあげるべきでしょ?」
雪ノ下は、当然のように言ってのける。ただ雪ノ下の瞳からは少し怒気が含まれている気がした。
「・・・。な、なあ雪ノ下」
「なにかしら?」
「それでお前はどうやってその先生に間違いを指摘したんだ?」
「そんなの簡単な事よ。私が授業をしてあげたのよ」
「先生に代わってか?」
「何を言っているの?その先生に授業したに決まっているじゃない」
あー....分かった。これ絶対こいつのせいだ。概ね怖いお姉ちゃんがいるから関わりたくないとでも思われたんだろうな。
「鶴見。お前が皆と仲良くする方法がひとつだけある....」
「ほんと?」
「ああ。だがやるかどうかはお前次第だ」
「・・・やりたい。このまま一人は嫌、だから」
「そうか。雪ノ下」
「なにかしら?」
「お前にも協力してもらう」
「構わないけれど....あまり良い予感はしないわね。何をさせるつもりなの?」
「大丈夫だ。ちゃんと上手くいくはずだ、たぶん」
「八幡頼りない」
「うっ.....小学生に言われると意外と効くな....」
「それでロリ谷君。私の質問に答えて欲しいのだけれど」
「おい変なアダ名をつけるんじゃねー。ちゃんと説明するよ」
「雪乃お姉ちゃんと八幡は仲良いね」
この子は何を言ってるんだ?俺と雪ノ下が仲が良い?今の会話を聞いて何故そう思えるんだ。俺がディスられてただけなんですけど?
「鶴見さん。私にも怒るときがあるのよ?だいだいこんな変態谷君と仲良くしたい人なんてこの世に......。数人しかいないわ」
ちょっとー。今何を考えて間を取ったの?いやその数人分かっちゃうから何も言えないけどさ。勝手に人をロリ谷やら変態谷やらとアダ名を増やすのは止めてね?
「でも雪乃お姉ちゃん、何時もはそんなに喋らないから」
「・・・比企谷君。ちょっと待っててくれるかしら?大丈夫よ、15分程ですむと思うわ」
雪ノ下は目を細めて笑顔のまま鶴見に近付いていく。鶴見は恐怖心からかその場に動けず涙目で俺に助けを求めてきた。動けなくさせるとか....これからは雪ノ下に氷の女王というアダ名をつけよう。
「落ち着けって。説明もしたいし、眠い」
「はぁ....分かったわ。それでは、比企谷君説明を」
「ああ。俺の作戦はカレーを食べ終わった後の胆試しで行おうと思う」
「胆試しで?」
「ああ。それでお前らにやってほしいのはーーーーーーーーーーー。
頼めるか?」
「なんかあまり気は乗らない」
「そうね。でもやってみる価値はあると思うわ」
「それじゃ、よろしくな。さてご飯だ、雪ノ下。俺達も今日はカレーなのか?」
「ええ......。カレーになっていればいいわね」
「え....何その言いかた怖いんですけど」
「由比ヶ浜さんがあなたの為に作ると張り切っていたわよ」
「なん、だと.........。で、でも一色や神崎。それに葉山達もいるんだ。流石にそこまで酷くはならないんじゃないのか?」
「だと良いのだけれどね....」
俺と雪ノ下は甘かった。いや俺が甘かった。作るのが由比ヶ浜だけじゃない。だから大丈夫だと思っていた。だが由比ヶ浜クオリティーと言うべきだろうか。俺が雪ノ下に連れられて俺達が食事をとるであろうスペースに着くとそこは地獄絵図と化していた。
「こ、これは....」
「流石.....由比ヶ浜さんね」
一人残らず机に頭を突っ伏しており戸部辺りは泡を口から垂れ流していた。概ねはしゃいで一気に大量の物体Xを喉にいれたせいであろう。
「この状況どうする?」
「私にそれを聞かれても困るのだけれど...」
「そもそも由比ヶ浜が料理を作るのを何故止めなかったんだ?」
「それは.....。私だって止めたのよ。でもあんな顔で頼まれたら....」
「あんな顔?」
「あなたは知らなくても良いのよ。それよりも由比ヶ浜さんは、この物体Xをあなたに食べてほしいと言っていたのよ?」
俺は背筋に寒気がはしり、一歩ずつ後ろに下がっていく。雪ノ下からは目が離さず少しずつ後ろに下がっていくと何かに躓いて転んでしまう。
「痛っ.....。なんだこれ、は。・・・・・。なあ雪ノ下」
「え、ええ。これはそうとうまずい状況のようね.....」
俺が躓いたのは我らの国語担任兼奉仕部の顧問の平塚先生だった。口からは物体Xを出しながら目は焦点があっていない。
「はぁ.....。雪ノ下は何か食べれそうなものを余り物で作ってくれ」
「それは構わないのだけれど、あなたは?」
「皆を起こしてみる。水でも被せれば簡単に起きるだろ」
「だと良いのだけれどね.....」
「戸部は起きないかもだが他の連中は微量の摂取しかしてないし大丈夫だろ」
「はぁ.....。何か薬物でも飲んだかのような表し方ね」
「薬物というよりは毒物だけどな」
「由比ヶ浜さんが聞いたら何て言うかしらね」
「さあな。というか自分の作ったもんで倒れてるんだ、何も言えないだろ」
「それもそうね」
俺はグラスに水を汲み一人一人順番にかけていくことにした。勿論最初は平塚先生だ。あまり教師が倒れている姿なんて生徒には見せたくないだろうし、何だかんだ言ってお世話にもなってるので配慮ということで一番最初に。
ピチャッという音をたてながら平塚先生の顔に少しずつグラスを傾けて水を顔にかけていく。時々「んっ」とか「あ......ん.......」とか聞こえてきていけないことをしているような気持ちになって来たので思いきってグラスを一気に傾けると気道に入ったのか噎せながら目を覚ました。
「ゲホっゴホッ.......。比企谷、か?」
「あ、はい。大丈夫すか?」
「ああ。というか何が........。あの物体のせいか」
「俺からしてみれば平塚先生が何故あの物体Xを食べたのかが謎でしたよ」
「ああ、それか。なんか皆楽しそうにカレー作って青春してたから邪魔しようとした」
うわ、さいてーだこの人。それで横槍をいれようとして逆に倒れたと?この人本当に先生なのか疑いたくなるな。
「・・・。さーて、他の奴等もお起しにいくか」
「おい。比企谷、連れないじゃないか。どうして直ぐに私から離れようとする?」
「(離れたいからだよ!なんなんだ、さっきからこの先生は.....暇なの?寂しいの?多分両方なんだろうな......)」
「おい、比企谷。どうした?黙りこんで」
「い、いえ......。ああ、そうでした。そう言えば、雪ノ下が平塚先生を探してましたよ?」
「雪ノ下が?」
「はい。ご飯を作っているんですけど、何でも“若い”大人の女性の意見を聞きたいらしくて」
「ほう。そうか、“若い”か。そうだな私は“若い“からな!分かった!」
平塚先生は”若い”を強調してから唾を返して調理場に向かっていった。雪ノ下に心の中で合掌をして俺は今から起こさないといけない奴等を見て溜め息を盛大につくのだった。
「はぁ.......」