比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
奉仕部には今、加害者と被害者がいた。
嫉妬により頭のブレーキが外れ被害者を傷付けてしまった加害者。
自分のせいで嫉妬し哀しみや悔しさを知らずのうちに与えてしまった被害者。
二人は暫く無言で御互いを見ながら最初の言葉を言いたくても中々言い出せない状況が続いていたが、その静寂は外から聞こえてくる虫の音が止むとともに終わりを告げた。
「あ、あの....神崎さん」
「・・・はい」
「その....すいませんでした。謝って済むことではないのは理解しています。それなりの罰も覚悟しています。ですが....本当にすいませんでした」
私は古市さんが素直に頭を下げて謝罪してきたことに驚いていた。古市さんと話をしたことがない私だが、古市さんが誰かに対して頭を下げて謝罪する姿を見たことは無かったし、今回の件について少なからず自分の事を恨んでいると思っていたからだ。
私の大好きな先輩と何を話したのか.....とても気になるけど私はその内容を知らない。詳しくは途中しか知らない。それも雪ノ下先輩が出ていった時に私も出ていって少し聞いただけ....でもあの状況では少なくとも古市さんの心の中では私に対して恨みや憎しみといった感情しかないように見えた。あの時の古市さんの瞳は以前の私に良く似ていたから誰よりも理解できる。先輩に告白してフラれて.....いろはちゃんを手にかけようとしたあの時の私その物。
でも、私は先輩のお陰で変われた.....変わることが出来た。もし古市さんもそうなら....先輩のおかげで変われたのだとしたら少し意地悪な質問かも知れないけど確かめたい事があった。
「古市さんは.....何に対して謝っているんですか?」
おかしな質問なのかもしれない......。
聞く人が聞けば私の精神が病んでしまったというのかもしれない。
普通なら写真の事だって分かるから....でも私が謝って欲しいのは別に写真の事なんかじゃない。
先輩がもし、私と同様に古市さんも変えてくれたならきっと私の望む答えが返ってくるはずだと思ったから。
「・・・・あなたを傷付けてしまったこと....それにあなたの周りにいる人や一色ちゃんのことも傷付けてしまったこと......」
流石先輩だと思った。あの人はどんどん周りを...いえ、関わった人を変えていく。
「古市さんの謝罪しっかり伝わりました。私自身については今回の謝罪でもう怒ってはいません。でも....いろはちゃんや先輩達の事はやはり許すことは出来ないです」
「・・・・はい.....」
「でも。時間はかかるかもしれないけど.....古市さんとも、その....お友達になれたらいいなと今では思ってます」
きっと先輩がいなかったらこんな解決にはなっていなかったと思う。
「・・・・はい!」
そう。だから....私は先輩の事が大好きで、そしてそんな先輩がいるこの場所も大好きで......言葉にしてしまえば簡単に崩れてしまうこの状況がいとおしくて.....先輩に私の気持ちを再び伝えるのはもう少し先でも良いと心の中で言い聞かせる。
翌日。
放課後になり何時ものメンバーと平塚先生が奉仕部にいた。
「さあて、全員聞きたい事があるだろうが先に言わせてもらう。古市は転校することになった」
「っ!?な、どうして!」
「落ち着きたまえ。本来今回の件はお前たち全員が問題にしないでくれと昨日言ってきた時から、古市が責任をとらなくて良いように私の方でも動いていたんだ。今回の件を知っているのは神崎のクラスの奴だけだ。しかも古市はあの写真は嘘だと自供もした。学校側だって何かしらの処分を与えれば評判が落ちるからな、大丈夫だと思ったんだ」
「結果を見れば駄目だったってことですか?」
「そんなぁ.....」
「由比ヶ浜さん....」
「先輩なんとかならないんですか?」
「・・・こればっかりは」
「誤解しているみたいだから言っておくぞ。古市は学校から処分を受けたのではなく自ら転校していったんだ」
「え?」
「それって....」
「ああ。別に転校する必要はないって言ったんだがな。古市自身が.....ここからがスタートなんです。初めからやり直して....そして出来るだけ星を流れさせないといけないですから。だとさ。星の話はいまいち分からんがな。あんな顔されれば止められんさ」
「それって....ヒッキー?」
「星の話は比企谷君が知っていそうね」
「先輩~わたしー超気になるんですけど」
「古市さんと何話していたんですか?」
「いやいやお前ら....さっきまでそんな雰囲気じゃなかったよね?そして俺の心をさりげなく抉ろうとするのやめてくれない?」
「えー!聞かれて困ることなんだー!ヒッキーサイテー!」
「比企谷君が最低な人間なのは今に始まったことではないわよ、由比ヶ浜さん」
「お前ら酷くない?」
「大丈夫ですよぉ~先輩にはわたしがいますから♪」
「え?何が大丈夫なのん?死刑宣告なの?」
「いろはちゃん、先輩は私のですよ!」
「さっちゃん!これだけは譲れませんよ!」
「くそう!リア充が爆発しろぉ!!」
「ぐはぁ.....教師が生徒殴って泣きながら走って行くなよ!」
「それでヒッキー何があったの?」
「諦めていいなさい」
「そうですよぉ!先輩!」
「私も気になります!」
「・・・・・はぁ」
今日も1日平和で良く分からない俺の日常は過ぎていく。
「はぁ......はぁーーーーー」
俺は家に帰るなり風呂に入り、今至福の時を過ごしながら体の力を抜き溜まっていたものを全て吐き出すように深呼吸をしていた。
「お兄ちゃんが珍しく疲れた時の声出してる。何かあったの?」
洗濯物をたたみ終えた小町が脱衣所から声をかけてくる。
「あー?ああ。小町ーお兄ちゃん疲れたよ。こんなに世の中の為に働いたお兄ちゃんには何かご褒美があってもいいと思うんだ」
「なーに言ってるんだか....お兄ちゃんは生きてるだけで世の中の害悪にしかなってないんだからたまに良いことしたってプラマイゼロにもならないんだよ?むしろマイナスだよお兄ちゃん」
「常時マイナスって.....なんかカッコ良くない?」
「はぁ....今のは流石にキモいよお兄ちゃん。小町的にマイナス2000点だよ」
「それって何点満点なのん?」
「勿論100点満点に決まってるじゃん♪」
「オーバーしすぎで俺の体力をオーバーキルしすぎなんじゃないですかね?俺何回死んじゃうの?というか2000点ってどう考えても100点オーバーしてんじゃねえか」
「やだなぁ~お兄ちゃん。100点が上限とは小町言ったけどマイナス100が一番下なんて言ってないよ?」
「・・・そうでした....はぁ........」
「それでお兄ちゃん何があったの?」
「なんでもねえよ」
「えー、絶対嘘だよ!まーた女の人が絡んでいるんでしょ?今度は誰かな~?雪ノ下さんか結衣さんかいろはちゃんかーそれとも...あ!今日朝うちに来てた神崎さん!?あの子も可愛かったよね!」
「別に.....というか、どうしてお前は俺のプライベートのことをそこまで詳しいの?」
「え?そんなのお兄ちゃんの妹だからに決まってるじゃん!」
「答えになってねー........」
「さーてと。あっ!お兄ちゃんそう言えば後1ヶ月で夏休みだけど予定開けといてね!」
「は?なんで?俺の夏休みのスケジュール全部埋まってるんだけど?」
「どうせ一日中家でゴロゴロしながら予約したアニメの観賞会でしょ?」
「ぐっ.....だ、だからなんだ。それだって立派な用事だろ?むしろ予定が無いってことを書いておけば予定が無い事が予定になるまである」
「うわー.......」
「おいこら小町。風呂場からでもお前の声聞いたらどんな顔してるか分かったぞ。おっ!今の八幡的にポイント高いよな?」
「いやーさっきから低すぎだってゴミぃちゃん」
「おい、ゴミぃちゃんとか言うなよ。いくら本当の事でも言って良いことと悪いことがあるんだぞ」
「自覚はあるんだね.....まぁでもいいや。夏休みそのまま予定開けといてね!」
どうせ俺に予定とか入るわけないしな。
「うーい」
次回はいきなり1ヶ月ほど進み夏休みに入りますです。