比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
一色に依頼をされ受けると言えないまま俺は家に帰った。
「お、お兄ちゃん!どこ行ってたの!?朝起こしにいこうと思ったら部屋に誰もいないし!携帯鳴らしたら小町の隣で鳴ってるし!」
「お、おお悪い悪い。少し外の空気が吸いたくてな」
「やっぱり昨日ことまだ気にしてるの?」
「・・・」
「お兄ちゃんに何があったのか小町には分からない。けど、けどね、"何かが"あったのは分かるんだよ?」
「・・・凄いな、何で分かるんだよ?」
「だってお兄ちゃんの妹だもん!」
「そっか...」
真っ直ぐ俺の目を見てくる小町に俺は昨日由比ヶ浜と何があったかを話した。
「お兄ちゃん....最低」
「うっ...」
分かってはいたがここまで直球でこなくてもいいんじゃないかな?俺のライフはすでに削りきれてポーションも無いんだからね!
「はぁ...ごみぃちゃんだとは思ってたけどここまでだったなんて」
「えーと、小町?ごみぃちゃ「それでお兄ちゃん」ん?」
小町は真剣な表情になり俺に言ってくる。
「お兄ちゃんはどうしたいの?」
「どうしたい、か」
「うん」
どうしたいか、分かっているなら相談なんかしていない。・・・いや違うな。分かっているけど俺自身がその答えを認めることに躊躇っているんだ。
だってその答えを認めてしまうと言うことはーーー。
由比ヶ浜と友達になりたいってことじゃないか。
「・・・分からない」
情けないの一言だろう。
妹にすがってしまい尚且つ自分を偽っている。
「そっか。なら小町からお願いがあるんだお兄ちゃん♪」
小町は笑顔で俺に言ってくる。
「小町も由比ヶ浜さんとは仲良くしたいから"小町の為"に仲直りしてくれないかな?」
「っ...!」
小町は昔から俺の事を気にかけてくれていた。嫌なことがあって家に帰った日があれば、ずっと一緒にいて話しかけてくれた。悩んでいれば俺から言わなくても相談に乗ってくれた。
ははは....。これじゃあどっちが歳上か分からないな。
気付いたら俺は笑っていた。昨日今日と、憂鬱にしか感じてこなかったのに、今は1秒でも早く行動したいと心臓の鼓動が早くなる。
「可愛い妹の頼みならしょうがないな」
俺は恥ずかしさをまぎらわせるために小町の頭を少し強めに撫でながら言う。
「あははは。うん♪お兄ちゃんの妹だからね、仕方ないよ♪」
ほんとに俺は小町には敵わないな。
「小町...」
「ん?」
「ありがとな」
「良いよ」
翌日。俺が早めに学校に行って教室に入ると、既に由比ヶ浜がいた。由比ヶ浜は俺と視線を1度合わせると目を大きく見開いたが直ぐに目線を斜め下にして手を震わせていた。
そんな由比ヶ浜の表情を見た、三浦と目が合い、やはりというか椅子から立ち上がり俺の方に来る。
俺の目の前まで来た三浦は一層俺の事を睨み、今にも殴りかかってきそうだった。
「ヒキオさ!よく堂々と教室に入ってこれたよね?」
「その煩い口を閉じなさい。騒ぐことしか能がないのかしら?」
「ゆ、ゆきのん?」
由比ヶ浜が反応してまた此方を見るが、俺と目が合うと直ぐに逸らしてしまう。
「雪ノ下さん、あんさー。何であんたまでいるわけ?」
「貴女には関係のないことよ、三浦さん。それに貴女邪魔なのよ」
「はぁー!!」
「比企谷君、いきなさい」
「ああ、悪いな。雪ノ下」
「依頼はしっかりこなすわ」
雪ノ下が何故俺と一緒に教室にいるのかといえば昨日まで時間は遡る。
小町からお願いを受けた俺はどうすれば由比ヶ浜と二人で話が出来るのか考えていた。
「やっぱり問題は...三浦だよな」
由比ヶ浜に何かあれば三浦が出てくるであろうということは簡単に予想できたので、三浦をどうすれば由比ヶ浜と離すことが出来るのか考えていた。
葉山に頼んで...いや無理だな。絶対無理だ。即却下だ。
戸部に頼んで...そもそも話したことないし却下だ。
なら海老名さんに頼んで...女子に頼むとか無理だな。却下だ。
あれ?俺ってこんなに頼れる人いなかったっけ?
俺がどうしようかと考えていると携帯が鳴った。
「誰だ?・・・平塚先生、か」
そりゃ連絡も来るか。無断で帰り、その後の連絡も無し。こりゃ久しぶりにセカンドブリットくらいは覚悟しないとな...。
「はい、もしもし。比企谷です」
電話に出ないと後が怖いので素直に出ることにした。
「おお、比企谷。私が何故電話したのか分かるか?」
受話器からでも聞こえてくる指の鳴らす音にびびりながらも答える。
「はい。無断で帰ってしまってすいませんでした」
「まあ、それもあるが。そんなことはどうでもいいのだよ」
は?どうでもいいの?ならなんでかけてきたのん?
「では何故かけてきたんですか?」
「なあ比企谷。そもそも無断で帰ったことなら帰ったその日に連絡がいってると思わないか?」
確かにそうだ。今日は日曜日でしかも夜だ、こんな時間を電話を掛けてくる必要なんてない。
「君が帰った原因は由比ヶ浜から大体聞いた」
「由比ヶ浜、から?」
「ああ。三浦と何かあったようだな。それにお前の妹からも謝罪の電話があった」
小町から....。
「なあ比企谷。もう一度聞くぞ、何故私が電話をかけたと思う?」
「・・・」
「まあいい。君が悩んでいるんじゃないかと思ったからだ」
「っ!」
「君のことは理解しているつもりだ。2年間も受け持った生徒だからな。ひねくれてはいるが誰よりも優しい奴だ」
「・・・俺は優しくなんてないですよ」
現に今由比ヶ浜を泣かせて傷付けてしまっている。
「君がやろうとすることは毎回君自身が傷付いている。私はそう思うよ」
「そんなこと、無いですよ...」
俺は俺自身がこれでいいと思ってやって来たことだ。だから自分を犠牲になんかしていない。
「そうか。でもな比企谷、もう少し他人を頼ってはどうだ?」
平塚先生の言葉は、自分でも驚くほど響いてくる。
「でも、頼る相手が...」
「いるじゃないか。今の君には奉仕部があるんだ」
「っ!?」
「さて!あんまり説教してもな、明日は学校に来いよ?朝から私の授業だからな遅れずに「あ、あの!平塚先生」なんだ?」
「雪ノ下の連絡先を教えてもらってもいいですか?」
「え?知らなかったのか?」
「・・・はい」
「あははははは!なんだお前らお互いの連絡先も知らんのか、雪ノ下には了承を得てないが、まあ問題あるまい」
「ありがとうございます」
平塚先生から雪ノ下の連絡先を教えてもらい俺は雪ノ下に連絡をした。
「はい。雪ノ下雪乃です」
「雪ノ下か、悪い。比企谷八幡だ、お前に依頼がある」
そして今雪ノ下は俺と一緒に教室に来てくれている。
俺は由比ヶ浜の席まで行く。
未だに俺とは顔を合わせようとしないし体は震えている。
「な、なあ由比ヶ浜」
「・・・」
由比ヶ浜は無言だった。あれだけ由比ヶ浜の方から話しかけてくれていたこともあり、心臓が握られているんじゃないかって思うほど痛くなって声も出ずらくなっていく。
「この間は本当に悪かった。お前のことも考えずにあんなこと...本当にすまなかった」
由比ヶ浜は少しずつ顔をあげてくる。
由比ヶ浜の目には涙が溜まっていた。今にも溢れてしまいそうになるほどの。
「ヒッキー...」
「由比ヶ浜さん、このごみ谷君に何を言われたのかは分からないけれど、そんなに気にする必要はないわ」
「ゆきのん...」
いつの間にか三浦を泣かした雪ノ下が此方にきていた。
「それに...由比ヶ浜さんがこれからも奉仕部にいてくれればなって..」
「ゆき....のん....」
「由比ヶ浜さん」
由比ヶ浜は雪ノ下に抱きついてその場で泣き出した。それを雪ノ下は優しく頭を撫でている。
あれ?俺忘れられてる?
「ヒッキー....」
「あ、ああ」
「今回は許してあげる」
「ありがとな」
由比ヶ浜の笑顔を見て俺と一色の依頼、小町のお願いは無事に達成された。