比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~   作:@まきにき

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比企谷八幡とあざとい後輩

 

 

由比ヶ浜と出掛けた翌日。俺は日曜日だというのに普段より2時間も早く起きていた。

 

「・・・まだ5時、か...」

 

もう一度寝ようと改めて横になるが一向に眠くなる気配がない。そればかりか思い出したくないことまで思い出してしまう。

俺は寝ることを諦めて腰を起こして立ち上がる。

まだ誰も起きていないようでとても静かだ。だが今の俺にはこの静けささえも憂鬱に感じてしまう。

 

「はぁ、散歩でもしてくるか」

 

普段なら絶対にしないが、今はその場で横になっても気分が曇っていく一方なので、寝間着から着替えコンタクトを付けて、誰も起こさないように玄関の扉を開けて外に出た。

どこにいこうかと悩みながら歩いていると、公園があったのでベンチに腰かける。太陽が昇り始めて今の時刻を確認するためポケットから携帯を取り出そうとするが、携帯どころか財布も持ってきていなかった。

 

「・・・はぁ」

 

自然とため息が出た。空を見ると雲ひとつない快晴で太陽が昇り始めており癒されるように空を眺めていた。

 

 

・・・・・・・・・。

 

「セーンパイ」

 

誰かの声が聞こえる。ああ、そうか。俺、散歩に外に出て公園のベンチの上で空眺めてたら寝ちまってたのか。

 

「先輩!!」

 

俺が目を覚ますとそこには一色がいた。

 

「何でこんな所にいるんだ?」

 

「それはこっちのセリフですよ~」と一色は言いながら俺の隣に座ってくる。

 

少しの静寂の後。

 

「どうして部活にこなかったんですか?」

 

「・・・・」

 

俺はまた答えられなかった。

 

「はあ...そうですか。ならいいです」

 

呆れられたかと思ったが一色は黙ったままでいくら待っていても俺の隣から離れようとしない。

 

「・・・何で何も言わないんだ?」

 

これは一色に言ったのではなく自分に言ったのかもしれない。俺はどうして何も言えないんだ?と答えを求めるかのように。

 

「だって」と一色は足を両手で抱き締めるように抱えて頬を染めながら言ってきた。

 

「先輩が言いたくないって顔してましたから」

 

その顔に、いつものあざとさはなく純粋に可愛いと思ってしまった。一色の顔に見惚れていた俺に「どうかしましたか?」と一色が聞いてきて我に返る。

 

「・・・あざといんだよ」といつもより小さい声で言い訳をしてしまう。

 

「え?先輩何かいいました?」

 

「何でもねえよ。それで一色は何でこんな所にいるんだ?」

 

「あーとですね、私友達から一緒に図書館に行こうって誘われてまして、向かってたら先輩を見つけたって感じです」

 

「・・・つまりお前は、図書館に行かなきゃ行けないんじゃないのか?」

 

「いやいやいいですよ。先程やっぱり用事できたので辞めまーす♪って連絡したので♪」

 

「あっそ...それじゃその用事に戻れよ。大切な用事なんだろ?」

 

「何いってるんですか?」

 

「は?」

 

「その用事は今してるじゃないですか♪」

 

この時の一色の笑顔は、いつものあざとい笑顔に戻っていた。

 

「・・・帰る」

 

「ちょ!ちょっと先輩!女の子にドタキャンさせて自分は帰るって酷くないですか!?」

 

「いや頼んでないから、てかほんとに良いのかよ行かなくて」

 

「はい、どうせ男しかいませんから♪」

 

あーこいついつか絶対刺される。

 

「でも、ギュルルル....」と昨日の夜から碌に何も食べれてなかったなーと思い出しながら今の状況に羞恥で顔が熱くなっていく。

 

「ぷ!ふふふ、せ、先輩お腹すいてるんですか?」

 

「・・・朝何も食べてないんだよ、悪いか。だから家に「わたしが何か作ってあげましょうか?」・・・は?」

 

「いえいえ、は?ではなく。わたしが何か作ってあげますよ♪」

 

「いや流石に悪いし」

 

「大丈夫ですよ、家もこの辺りなので遠くないですし」

 

いやいや。女子の家に俺が入れるわけがない。てかいままで友達がいなかったから友達の家にいくなんてイベント、俺には皆無だったのだ。そんな経験値0の俺にいきなり後輩女子の家に朝御飯食べに行くとか無理。

 

「いやそういう問題じゃないだろ...ほら」

 

「は?もしかして家にいってわたしに何かする気なんですか?すいません、まだちょっと覚悟とか出来てないし早いと思うので今回は諦めてご飯だけ食べていってください」

 

ものすごい早口でとんでもないこと言った気がするが、そもそも行く気がないのでこんなことを言われるのは心外である。

 

「・・・心配するな。俺は帰る」

 

帰ろうとする俺の肩を一色が掴んでくる。なんかこの前もこんな状況あったなと思いながら一色の方に顔だけ振り向いた。

 

「帰すと思いますか?」

 

すごい笑顔で....怖かった。

ご飯だけ食べて帰ればいいわけだし、と考えながら俺は一色の家にお邪魔することにした。

 

「・・・分かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「先輩、ここがわたしのお家です♪」

 

「へえー」と一言返して一色についていく。

 

「それだけですか!?」と言われたが言い方があざとすぎて正直どうでもよくなってきていた。

 

「ただいま~♪」と一色は家の扉を開けて...開けてって事は家に家族がいるのか?家の中から此方に向かってくる足音を聞きながら、俺は一気に血の気が引いていくのを感じていた。

 

ああ、俺今日死ぬのかな。

 

俺と一色の前に現れたのは、一色のお姉さんと思われる、若くて綺麗な女の人だった。一色も大きくなったらこうなるんだろうなというくらい一色に似ていた。だが一点だけ違う所があった。それは由比ヶ浜よりも大きく豊満な胸だった。部屋着というラフな格好のせいなのか服では隠しきれてない谷間が見えてしまっている。俺はそれを見て目をそらし一色と目が合い凍りついた。

 

「いろは、お帰りなさ~い。早かったのね?あら、その人は?」

 

俺を睨んでいた一色は目線をやっとお姉さん?の方に移してくれた。

 

「途中で帰ってきたから♪お母さん、この人はね……」

 

「え?...お母さん?」

 

「あら?見えなかった?」

 

俺は思ったことが口に出てしまっていた。

 

「い、いえその...お姉さんかと」

 

「あら♪嬉しいこと言ってくれるじゃないの♪それであなたはいろはの彼氏さんかな?」

 

「違います」

 

ここだけは、ハッキリと違うと言わなければいけないと思った。俺なんかが一色の彼氏で、あっていいはずがない。別になりたいとも思っていないが。勿論思われるのもよくないだろう。

 

「はぁ...」

 

「あらあら♪」

 

そんな俺の反応にため息の一色と、面白そうに俺と一色を見比べる一色のお母さん。

 

「えと、それじゃあ先輩、リビングにいきましょう」

 

「あ、ああ」

 

「その前に一色、その人のお名前は?」

 

「あ、忘れてました、比企谷先輩でわたしの1つ上だよ」

 

「そう、頑張ってね♪」

 

最後のお母さんの言葉がよくわからない俺を、一色はリビングまで連れていきソファーに座って待っているように言ってきた。

一色が料理を作り始めて30分くらいしたところで、俺のために作られた料理が並べられる。

 

それにしても...「上手そうだな....」と、どれも美味しそうでつい言葉に出してしまっていた。

 

「ありがとうございます♪では食べてください」

 

「ああ」

 

俺は一色が作ってくれた、鮭のムニエルとキノコのお味噌汁、ごはん、サーモンのカルパッチョを残すことなく完食した。

 

「ふぅ....ほんとにありがとな。一色、全部旨かった」

 

「先輩が素直に誉めるなんて珍しいですね...明日は雨ですか?」

 

酷い....。

 

「まぁでもいいです。これでようやく本題に入れます」

 

「・・・本題?」

 

「はい、先輩にお願いが、いえこの場合は依頼ですね。わたしから依頼があります」

 

「・・・断る」

 

「な、何でですか!?てかまだ内容すら聞いてなくないですか!?」

 

「だからこそだ、今のうちに断る!それに俺はまだ葉山の依頼すら達成してないんだぞ?それで次の依頼なんて出来るはずないだろ」

 

今の状況で葉山の依頼をどうにか出来るのか?

由比ヶ浜がもし、明日部活に顔を出さなかったら?

いやそもそと学校を休んだら?

俺はどうする気だ?

 

「由比ヶ浜先輩とそんな状況で葉山先輩の依頼なんて上手く出来るんですか?」

 

「・・・知ってたのか?」

 

「いえ、私はたまたま昨日デパートの前を通りかかった時に由比ヶ浜先輩が泣きながら走って行くのが見えただけです」

 

「でもそれだけなら俺じゃないかもしれないだろ」

 

「いいえ、先輩しかいません」

 

「何でそんなことが分かるんだ?」

 

「だって」と一色は言葉を紡ぐ。

 

「由比ヶ浜先輩をあんな風に泣かせられるのは先輩だけですから」

 

「っ....それは....」

 

どういうことだ?とは聞けなかった。いや、言葉が出なかった。俺は自身の瞳から流れてくる涙で上手く言葉を発する事が出来ずにいた。

一色は、静かに俺の隣に来る。一色のしてくれそうなことが分かった。

 

でも辞めてくれ、俺には、俺にはそんなことをしてもらえる価値なんてないんだと。心の中で叫ぶ...でも。

 

一色は優しく俺の頭を己の胸で抱き締めるように包み込んでくれた。優しく頭を撫でてくれ俺は嗚咽が漏れ、顔が涙でぐしゃぐしゃになっていく。一色は温かく俺はどこか安心したのか泣くのに疲れたのか眠ってしまっていた。

 

「・・・このあとどうしましょう...」

 

 

 

 

 

ーーーー3時間経過。

 

俺が目を覚ますとそこは知らない天井だった。辺りを見回すとピンクで彩られた可愛らしい部屋で俺はベッドのうえにいた。

 

「何故...」

 

俺が目を覚まして何があったのか思い出そうとしていると、部屋の扉が開いて一色が入ってきた。

 

「あ、先輩よく寝られましたか?」 

 

うん、ビックするほどすこぶる快調だけど寝る前の事を思い出してきた俺は一色から目線をそらす。

 

「あ、ああ」

 

「でもほんと困りましたよ。あんな格好で寝られて...お父さんまで帰ってきて」

 

え?まじで?....娘が知らない男を抱き締めている...もし小町だったら俺はそいつを殺してるな。....小町~お兄ちゃん、もうダメかもしれない。

 

「え、えと....あ、あれは...」

 

何か言い訳を考えたが何も思いつかない、いつものひねくれた考えすら出てこない。これは...詰んだ。

 

「ふ、ふふふふ」

 

俺が真剣にどうしようか考えていると急に一色が笑いだした。

 

「せ、先輩分かりやすすぎです、ふふふ。それにお父さんが帰ってきたというのは嘘です♪」

 

「・・・洒落になってないぞ?」

 

「すいません♪」

 

全く反省してないな....。でも。

 

「そのすまん。一色、色々と楽になった。ありがとな」  

 

「いえいえ。あとは依頼の話です」

 

「・・・ああ」

 

「わたしの依頼は……」と一色は真剣な目になり俺に言ってくる。俺も依頼ならしっかりとやろうと覚悟を決めて一色の話を聞く。

 

「由比ヶ浜先輩としっかり仲直りしてください」

 

一色からの依頼は俺が想像していたよりも困難だった。

 

 

 


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