比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
「ひ、ヒッキーだよね?」
「ああ...」
「あはは、ごめんね....ヒッキー」
「何がだ?」
「優美子のこと....あ、あのね!優美子も悪気があって言ったんじゃないと思うんだ!・・・昨日ヒッキーだけが戻ってこなくて...優美子に聞いても何も答えてくれなくて...ヒッキー部活にも出てこないし」
「昨日は...少し具合が悪くてな慌てて帰ったんだ。悪いな」
下手くそな言い訳だと自分でも思った。でも由比ヶ浜ならこの言葉で納得してくれると思った。これ以上この話をしたくない、これ以上あの時のことを思い出したくない、だから早くこの話を止めたい、だから俺は由比ヶ浜の優しさに甘えることにした。
「そ、そうなんだ...ははは...。ぐ、具合が悪かったなら仕方ないよね!うん!あたしもよく具合悪くなるときとかあるし!そ、それじゃあヒッキー今日は学校休みだからゆっくり休んでね!またね!」
由比ヶ浜の笑い声は元気がなく枯れていた。由比ヶ浜が許容してくれることを分かってて甘えたことなのに先程よりも心が締め付けられる感覚に陥った。
「な、なあ。由比ヶ浜」と由比ヶ浜が切る前に呼んだ。
「な、何?」
こんなことを言っても、俺は後悔する。でも言わないと恐らくずっと後悔したままになる。だから由比ヶ浜に。
「今日空いてるか?」
「う、うん!!」
俺は由比ヶ浜を誘った。直接会って何を話せばいいのか、どんな態度や顔で由比ヶ浜の前に出れば良いのか分からないが誘ってしまった。卑屈にも嫌われるのは慣れていると思った瞬間に心が少し楽になった。だが代わりに三浦にぶたれた頬が痛くなる。実際に痛いわけではないが自然と右手が頬にいきあの時の光景が頭の中でフラッシュバックする。その時1つの結論が俺の中で出た。これが合っているのか間違っているのかは分からない。でも心のつっかえは全て取れて肩も何だか軽くなり三浦の言葉もあれほど響いてこない。
そうだ。由比ヶ浜に嫌われればいいんだ。
★☆★☆★☆★☆★☆★
俺は今由比ヶ浜と待ち合わせたデパートの前に来ている。時刻は11時10分前。約束の時間より10分ほど前に着いて由比ヶ浜を待っている。
時計の針が11時を指そうとしたとき遠くから見慣れた人物が慌てながら走ってきた。
「はぁ、はぁ...ひ、ヒッキー!ごめんね!またせちゃった?」
今の由比ヶ浜の服装は夏手前だと言うのに大胆に胸元が空いているTシャツに短いショートパンツ、おまけにブラが片方大胆に見えている。というか息を切らして前屈をしているので谷間が大胆にも見えてしまっている。俺は慌てて顔を反らして「そ、その...ブラ見えてんだけど?」と聞いた。
「な、ななななな!!」と由比ヶ浜の顔はみるみる赤くなっていく。
自分でも聞いといてなんだが、これは俺の意思じゃない。いきなりこんな光景を見てしまって谷間が見えてますなんて言えないからブラを言ってしまっただけだ。だから俺は悪くない。そんな格好をしているお前が悪い。
「こ、これは!見せブラって言うんだし!」
いやブラ見せるってどんだけお前ビッチなんだよ。
「このビッチが」
「もう!また言った!!こんなんみんなしてるでしょ?」
いやそんなの俺が知ってるわけないじゃん。女の子と出掛けるとかいままで無かったんだから。
「知らねえし、てかどうしたんだ?遅かったな?」
俺は今回、由比ヶ浜に嫌われるために来ているので昨日Yahoo!さんに聞いておいた。彼女と待ち合わせて言ってはいけないベスト10!をチェックしておいたのだ。その中でもこれはベスト3!
「あはは。ごめんごめん。ちょっと道に....み、道で倒れているお婆さんを助けてから来たから」
こいつ今道に迷って遅れたこと(遅れたと言っても2分ほど)を架空のお婆さんのせいにしやがった!こんなときの対処法、Yahoo!さんには載っていなかったぞ!由比ヶ浜恐ろしい子!
「お前...それ嘘だろ?」
「えー!?何で分かったの!?」
しかも簡単に認めちゃうのかよ!
「はぁ...それじゃあ行くか」
「あ!ま、待ってよ!!ヒッキー!」
俺達はデパートの中に入っていった。俺達の会話を聞いていた人物には気付かずにーーーー。
「ふーん。あれがそうなんだ~。くす、おもしろそ♪」
ふふふふん♪と鼻歌混じりに俺と由比ヶ浜にその人は着いていった。
「それでヒッキー?どこ見るのー?」
ここで再度投入Yahoo!さん!こんなとき何て言えばいいか。
「悪いな。何も考えてなかった」
これで8割りの女は帰るらしい。何がいけないの?と思ったがそこは、まぁいいだろう。
「だよね!ねえねえ!だったらさ!ヒッキーここにいこ!」
あれ?おかしいな...ここで由比ヶ浜は俺に嫌気をさして帰るはず...何で?
「・・・それで何故ここ?」
俺は由比ヶ浜に言われてランジェリーショップの目の前まで連れてこられていた。
「何でって、そろそろ買っておきたいし....その古いやつはそろそろきついって言うか...も、もう!なに言わせるし!」
その大きなものは、まだ成長中だったんですね...雪ノ下、憐れ....。さて自分で勝手に喋って自分で墓穴をほった由比ヶ浜はおいといて、少し離れた所に休憩する椅子が見えたので移動しようとすると由比ヶ浜に手を捕まれた。
俺の心臓は急激に高鳴り「にゃにゃんだよ...」とおもわず噛んでしまった。
由比ヶ浜も照れ臭いのか顔を赤くしている。由比ヶ浜は慌てて俺の手を離すと。
「ご、ごめん....でもヒッキー、またどこかに行っちゃうんだと思って」
「・・・ちげえよ。ただここは入りずらいし、そこに椅子があるだろ?そこで座ってようと思ってな」
由比ヶ浜は「そ、そっか!」と言ってランジェリーショップの中に入っていった。
由比ヶ浜がランジェリーショップに行っている間、俺は1人考えていた。Yahoo!さんに聞いた彼女が嫌がること沢山しているのに何故由比ヶ浜は帰らないんだ?・・・あっ..由比ヶ浜、俺の彼女じゃないじゃん....。俺はそれがわかると椅子のすぐ近くにある机に突っ伏した。
「ねえ?君君、何してるの?」
すぐ近くで女の人の声が聞こえるがこんな声は知らないので無視してそのまま机に突っ伏すことにした。俺の隣にあった椅子が引かれて誰かが隣に座ってきた、すごく良い匂いがするので恐らくは女の人だろう。突っ伏しているので足下は見えるのだが隣の女の人が椅子ごと少しずつ此方に近付いてくるのが見えた。俺は慌てて起き上がると目の前に芸能人ですか?と思うほど綺麗な人がいた。
「ふふ、こんにちは♪」
「だ...誰ですか?」
「んー?わたし~?誰だと思う?」
いや知らねえよ。知らないから聞いたのに何で質問で返してくんだよ。
「知りませんよ」
「あはは。そうだよねー私の名前は雪ノ下陽乃って言うの、よろしくね比企谷君♪」
俺は自分の名前を知っている事に驚き立ち上がるが名前を口に出して言って何かが一致した。
「雪ノ下...まさか雪ノ下の」
「そ♪雪乃ちゃんは、わたしの妹」
そういえばテニス勝負の後、雪ノ下と話したときに姉がいるって言ってたな。この人がそうか。
「・・・それでその雪ノ下のお姉さんが「やだなー♪そんな他人行儀じゃなくていいよ?陽乃でも陽ちゃんでも、あっ!お姉ちゃんでもいいよ、むしろ推奨♪」はは....雪ノ下さんは」
「もう!他人行儀じゃなくていいのに~」
「何故俺に話しかけてきたんですか?」
雪ノ下さんは、俺に更に近よってくる。そして「何でだと思う~?」わざと誘惑するように耳元で言ってくる。俺はため息を吐いて立ち上がり、右目に付けてあったコンタクトを外して雪ノ下さんを見た。
[そんなの~雪乃ちゃんが興味ある子だからに決まってるじゃない♪]
「雪ノ下が?」
「んー?どうしたの?」
[コンタクトを外した?何故?それに今の雪ノ下は雪乃ちゃんのこと?もしかしてーーーーーかしら?]
俺は慌ててコンタクトをし直した。
「ねえ?比企谷君、あなたもしかして」
雪ノ下さんの手が俺を逃がさないぞと言うかのように肩におかれる。その手はとても細く簡単に振り払えそうなのに何故か動くことが出来なかった。
「わたしの思っていることが分かるの?」
心を全て聞く前にコンタクトをいれて、聞かなかったが、まさか今の一言でバレるとは思っていなかった。だがまだ半信半疑なはずだ。
「・・・分かるわけないじゃないですか」
俺は未だ雪ノ下さんに肩を掴まれたまま顔を見れずに答える。
「ふーん。そっか、ふーん」
そう言って俺の肩から雪ノ下さんの手が離れた。
「それじゃあ、わたしは帰るね♪比企谷君、今度会ったときはお茶しようね♪」
俺は肩から手が離れたというのに未だに動けずにいた。そして雪ノ下さんその場をあとにした後も暫くそのままで動けなかった。
「ヒッキー!」と買い物を終えたのだろう、由比ヶ浜が戻ってきた。だが俺は雪ノ下さんの登場でもうほとんど力尽きた状態だった。だからもう言ってしまおうと思った。これは本当に言いたくなかった。出来ればYahoo!さんの意見で全て終わらせたかった。
でも俺も色々と限界だった。
「なあ、由比ヶ浜」
「ん?何?ヒッキー」
「由比ヶ浜は優しいよな」
「え!?いや、そんなこと急に言われても..」
本当に言ってしまって良いのか?
後悔はしないか?
これを言えば間違いなくリセット、いや最初からには戻らないな。全てが終わる。
それでもいいか?
俺は俺自身に問いかける。
そして....ああ。と結論は出た。
「由比ヶ浜は優しいから俺なんかと一緒にいてくれるんだろ?本当は嫌だったんだろ?今日だって、分かってたよ、途中から....」
何が分かってるんだ?お前は何も分かっていない。
「そうだろ?俺なんかと一緒なんて誰だって嫌なはずだ」
結論をだしたはずなのに未だにこんなことを思っているんだ。分かっているフリをしているだけだ。
「なあこたえ....」
「ばか」と由比ヶ浜は一言だけ言って俺の隣を走っていってしまった。
俺は1人なったデパートの天井を見上げる。先程の由比ヶ浜の顔が目を閉じても目の前に出てくる。涙を流しながら「ばか」と言ってきた由比ヶ浜が。
俺はそのまま家に帰る。小町が出迎えてくれたが俺の顔を見た小町は一瞬にして顔を曇らせて「小町...余計なことしちゃった?」と弱々しくき聞いてきた。
「小町は悪くねえよ」
「でも...」
「お腹空いたからご飯頼むよ」
「うん...」と言ってリビングに向かう小町。
本当に悪いのは俺だ。
葉山の依頼をそろそろ解決しなければ....。