ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第六十話

 

 

ジャンヌ・ダルク・オルタ。ジル・ド・レェによって生み出されたクー・フーリン・オルタ同様に本来は存在しないサーヴァント。

自分を裏切ったフランスへの憎悪と憤怒しか持たない存在ゆえに、性格は元の聖女とは似ても似つかず、苛烈、冷酷、残忍。まさに魔女と呼ぶに相応しい人物だ。

 

だが、それはカルナが知る別世界の知識であってこの世界の住人達の認識は違った。悪名が轟いているという点では変わりないが。

 

「ジャンヌ・ダルク⁉︎」

「馬鹿な、【竜の魔女】だとッ!」

 

フィルヴィスの呼んだ名前に誰もが驚愕した。何故なら彼女はーーー

 

 

 

「彼女は死んだはすだッッ‼︎」

 

 

 

そう、彼女は『27階層の悪夢』で死亡が確認されたはずの人物だった。

 

「し、死んだって………?」

 

彼女をこの場で唯一知らないレフィーヤが隣のフィルヴィスに疑問を投げかける。

 

「ジャンヌ・ダルク………推定Lv.5、【竜の魔女】の二つ名を付けられた賞金首。そして『27階層の悪夢』に加担した闇派閥の主要幹部の一人………あの事件で死体が確認されていた筈だ」

「ーーーっ⁉︎」

 

フィルヴィスの言葉にレフィーヤは驚愕する。

 

『27階層の悪夢』。闇派閥が敢行した最悪の事件。闇派閥が行った捨て身の『怪物進呈(バス・パレード)』により、階層中のモンスター、果ては階層主さえ巻き込んだ敵味方乱れての混戦。

数多くの冒険者が亡くなり、フィルヴィスも参加していた同じ【ファミリア】を全滅させていた。

彼女にとって怨敵と呼んでいい者の一人だ。

 

「何よ、私を知ってるってことはあの事件の関係者? 他の奴らと違って私の顔はあまり知られてないはずなんだけど」

「生きていたのか………」

「ああ、そういえば私って死んだことになってたっけ。あの事件は死を偽装するための隠れ蓑よ。闇派閥は随分廃れてたから、仕方なくね」

「………ッッ‼︎」

 

フィルヴィスの憎悪を含んだ声に、ジャンヌは何でもないように言い切った。

あの大量の犠牲者を出した事件が、闇派閥の幹部の計画通りだったと。

その言葉にフィルヴィスの中で何かが切れた。大切な人をたくさん失ったあれがジャンヌ達が身を隠すための囮だったと知って。

 

「ーーーぁぁぁぁあああああああああああああッッ⁉︎」

「フィルヴィスさん⁉︎ 駄目!」

 

レフィーヤの制止も聞かず、フィルヴィスは短剣で斬りかかった。

憎悪を糧に過去最高といっていい一撃はジャンヌの喉を斬り裂かんと迫り、

 

「うるさいわね」

「ぐぅッ⁉︎」

 

ジャンヌが振るった棒にアッサリ叩き落とされた。

いかに憎悪の炎を燃え上がらせようともフィルヴィスはLv.3、ジャンヌはLv.5。感情だけでは覆さない能力差があった。

 

「そんなに死んだ仲間に会いたいなら会わせてあげる。あの世でね」

「がぁ……!」

 

ジャンヌは倒れたフィルヴィスを踏みつけ、止めを刺さんと棒を振りかぶった。

 

「そうはさせないよ!」

「ちっ………しつこいわね!」

 

それを阻止せんと猛スピードでアストルフォが急接近。全身に火傷を負いながらも馬上槍でジャンヌを牽制し、ヒポグリフが鉤爪でフィルヴィスを掴んだ。

 

「いただき!」

「待ちなさい!」

 

フィルヴィスを確保したアストルフォはそのまま離脱。ジャンヌが追撃するも、既にアストルフォは攻撃範囲外に避難していた。

 

「追いなさい、イル・ワイヴィーン!」

 

ジャンヌの呼び掛けにイル・ワイヴィーンの群れがヒポグリフを追う。

 

「その程度じゃ、僕は落とせないよ〜」

 

しかし、ヒポグリフを自在に操るアストルフォは笑いながらイル・ワイヴィーンを振り回す。火傷した顔で笑われてもすこし怖いが。

 

「アストルフォ、そのまま【竜の魔女】を! 他の者も敵を殲滅次第、アストルフォの援護に! 私は【凶狼】とあの男を討ちます!」

 

ポーションで傷を癒したアスフィが指示を出し、ベートと白装束の男が交戦中の場所に向かった。

 

「わかったよ、アスフィ! よーし、皆で悪い魔女を倒そう!」

 

アストルフォはレフィーヤの近くにフィルヴィスを下ろし、すぐさまイル・ワイヴィーンを迎撃するために飛翔した。

【ヘルメス・ファミリア】のメンバーもアスフィの指示に従い、残敵の掃討に移る。

ヴィオラスはベートに、イル・ワイヴィーンはアストルフォに集中しており、闇派閥のメンバーもかなりの数がベートに倒されていた。

自爆する死兵といえど残り少ない人数では【ヘルメス・ファミリア】になす術もなく掃討された。

 

「よし。アストルフォ、そのままイル・ワイヴィーンを引きつけてくれ! 【竜の魔女】は俺たち仕留める!」

「わかった! でも、気をつけてその魔女は強いよ!」

 

声を張り上げるフェルガーにアストルフォが警告する。

ジャンヌの強さは先程まで戦っていたアストルフォがよくわかっている。

ヒポグリフと連携しながらも攻め切れなかった。見た目の細腕からは考えられない剛力をその身に秘めている。『力』はLv.5でも上位に入るだろう。

普通に考えればLv.4のアストルフォが主軸となり、他のメンバーがサポートするのが定石だが、イル・ワイヴィーンを野放しにすれば制空権を支配され、爆撃をされてしまう。

そのため、飛行手段を持つアストルフォにはイル・ワイヴィーンの相手をしてもらうしかない。

Lv.3の団員が殆どとはいえ、Lv.5の猛者を相手にするには不安がある。だが、やるしかない。

 

「いくぞ!」

「「「「応っ!」」」」

 

フェルガーの声に、全員が応じ、ジャンヌを囲むように布陣する。

 

「あらあら、雑魚共が群れてきた。ーーー踏み潰したくなっちゃう」

 

囲む彼等を嘲笑うようにジャンヌは呟いた。

 

 


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