ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五十九話

 

 

「何よ、道連れにもできないなんて、ゴミ以下ね」

「所詮は神に縛られる愚者ども………期待はしていなかったがな」

 

丘の上から見下ろす男女は、猛烈な勢いで迫るベートを眺めならが、仲間に向けるとは思えない言葉を吐く。いや、実際に彼等にとっては命懸けで戦うローブの者達はその程度にしか映っていないのだろう。

 

「イル・ワイヴィーン! 爆弾どもに火を付けなさい!」

「ヴィオラス。お前たちも行け」

 

少女がイル・ワイヴィーンを、男がヴィオラスを操り、ベートへ攻撃する。

 

先制はイル・ワイヴィーン。火球による遠距離攻撃が放たれる。しかし、狙いはベートではない。火球が当たったのはベートに首を折られ自爆することもできなかった死体だ。

 

「ちぃっ!」

 

ベートは死体から大きく飛び退いた。瞬間、火球が『火炎石』に発火、爆発した。

イル・ワイヴィーンの群れは次々と火球を放ち、死者・生者問わず発火させ、連鎖爆発を起こす。

更にヴィオラスも爆炎をものともせず、突進する。

一人突出したベートはモンスター達の集中砲火を受け、身動きが取れなくなった。

 

「アスフィ、【凶狼】が!」

「わかっています!」

 

ルルネの報告にアスフィが駆け出した。

 

「ファルガー、指揮を! 全員かき集めて持ちこたえなさい! アストルフォは私と一緒に頭を潰しなさい!」

「応っ!」

「任せて!」

 

混乱を打破する為に敵の指揮官と思わしき男女の元に向かう。

仲間が密集して防衛に徹し、モンスターがベートに集中している隙に【ヘルメス・ファミリア】で最もLv.が高いアスフィとアストルフォで頭を潰す作戦だ。

アスフィはアストルフォのヒポグリフに飛び乗り、上空から指揮官に一気に近づいく。

 

「ヴィオラスに大人しく喰われていればいいものを………」

「まったくよ。余計な手間を取らせてくれるわ」

 

指揮官の男女はそれぞれのモンスターに命令してヒポグリフを撃墜しようとする。しかし、地面から離れないヴィオラスはもとより、飛行能力に優れたイル・ワイヴィーンですらアストルフォのヒポグリフに追いつけない。

モンスター達を避けたヒポグリフは瞬く間に距離を詰めた。

二人の真上に到着したところでアスフィが爆炸薬を投下し、複数の爆薬が起こる。

 

「アストルフォは女を、私は男の方をやります!」

「うん! それじゃあ突っ込むよ。しっかり掴まって、アスフィ!」

 

二人とも、いまので敵を倒せたとは欠片も思っていない。爆煙を目眩しに強襲を仕掛けた。

煙の中にいる敵目掛けてアスフィは短剣を、アストルフォは馬上槍を振るう。

 

「やれ」

「甘いわよ!」

 

予想通り煙から現れた彼等は無傷だった。

男の命令に地面より夥しい緑槍が飛び出す。それを回避する為にアスフィは攻撃を中断された。

女も何かの布が巻きついた棒で馬上槍を弾き、アストルフォの攻撃を退けた。

 

「いい動きをするな、冒険者………いや【万能者(ペルセウス)】。だが死ね」

 

ヒポグリフに騎乗していたアストルフォは一撃離脱ができたおかげで追撃をされなかったが、アスフィは別だ。彼女に無数のヴィオラスが襲い掛かる。

全方位から大口を開けたヴィオラスに包囲されたアスフィに逃げ場がなかった。

しかし、アスフィは足に装着したサンダルを指で撫で、呟いた。

 

「『タラリア』」

「なにっ?」

「空中に………」

 

サンダルから生えた白翼を広げ、アスフィは浮遊した。

その光景に白骨の兜をかぶった男も、黒衣の少女も、戦闘中のローブの死兵たちの視線も集める。

 

飛翔靴(タラリア)。【万能者】が作り出した傑作の魔道具。

二翼一対、左右合わせて四枚の翼を広げることで装備者に飛行能力を与える。

【万能者】の発明の中でも天外の能力故に秘匿されてきた『神秘』の結晶だ。

 

「飛翔靴まで使わされたんです、完璧に仕留めさせてもらいます」

 

アスフィは爆炸薬を予備もつぎ込んで全て投下。ぱらぱらと一面に落ちた小瓶は炸裂し、爆撃が始まった。

 

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ⁉︎』

 

爆炎の華が咲き乱れ、ヴィオラスを手当たり次第に吹き飛ばし、ヴィオラスで防護壁を形成していた男にも炎が迫る。

その隙にアスフィはタラリアで背後に飛び、強襲した。無論、敵も急接近するアスフィに気付くがもう襲う。

彼女の短剣が丸腰の胴体に突き出された。だが、

 

「⁉︎」

 

剣身を素手で掴まれ、止められた。

 

「なっ………⁉︎」

 

アスフィは瞠目した。彼女の全力の一撃は腕一本で押さえ込み、握った手は出血しているが皮膚しか切れていない。

その上、Lv.4のアスフィが引いても押しでもびくともしない。

信じられない強靭さと怪力だ。

この至近距離にいては危険だとアスフィは退避しようとしたがーーー遅かった。

 

「ぬんッ!」

「ぐあっ⁉︎」

 

胸ぐらを掴まれ、地面に叩きつけられた。

凄まじい怪力に何度も転がりながらも、距離をとろうとした時、敵の姿が消えた。

 

「どこへ⁉︎」

「忘れ物だ」

「ーーーづっ!」

 

アスフィの疑問に答えるように背後から声。そしてアスフィの胴体からおぞましい音と共に彼女の短剣が生えた。

 

「ああああああああああああぁぁぁぁッッ⁉︎」

 

突然の痛みにアスフィは悲鳴を上げた。

 

「アスフィッ⁉︎」

「余所見してる場合?」

「うわッ!」

 

アスフィに気を取られた一瞬の隙をつかれたアストルフォは、少女とは思えない『力』で振るわれた棒にヒポグリフごと弾き飛ばされた。

そこへ追撃とばかりにイル・ワイヴィーンが火球を叩き込む。

 

「うわああああああああああああぁぁぁぁッッ!」

 

無防備を晒したアストルフォは火球をもろに喰らい全身に火傷を負った。

 

アスフィとアストルフォ。【ヘルメス・ファミリア】のトップ二人の危機に仲間にも動揺が伝播する。

このままでは総崩れが起きてしまう。何としても持ち直さなければならないと思うも、【ヘルメス・ファミリア】やレフィーヤ達は死兵に囲まれて救援に向かえない。

 

「虫の息といったところか? だが、安心しろ。冒険者のしぶとさは身に沁みている………確実に息の根を止めてやろう」

 

白装飾の男がアスフィに止めを刺そうとしたその時、

 

 

 

「俺を忘れてんじゃねええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ‼︎」

 

 

 

ベートが疾走した。

ヴィオラスとイル・ワイヴィーンの指揮をする敵二人がアスフィとアストルフォの戦闘に入ったことで連携がなくなり、闇雲に襲い掛かるモンスターなど彼の敵ではなかった。

ベートはあっと言う間にモンスターを殲滅し、敵の首魁二人へ一気に詰め寄り、蹴りを繰り出した。

 

「何ッ⁉︎ ーーーぐぉッ!」

「えッ⁉︎ ーーーきゃあぁ!」

 

予期せぬ攻撃に二人は大きく蹴り飛ばされ、アスフィ達から引き剥がれた。

特に黒装束の少女の方は軽いせいか、【ヘルメス・ファミリア】が密集している近くまで吹き飛ばされた。

 

「あの駄犬が! 私を蹴りやがったわね、ズタズタに引き裂いて殺してやる‼︎」

 

少女は痛みよりも蹴られた屈辱に激昂した。だが、彼女の怒気よりも顔を見て言葉を失う者がいた。

 

「ぁ………な、何故だ………」

「フィ……フィルヴィス、さん?」

 

フィルヴィスは彼女を知っていた。先程までは距離があり、気付けなったが彼女の顔をフィルヴィスが見間違えるはずかない。

あの自分から全てを奪った『27階層の悪夢』。それに参加していた敵の顔を。

 

 

 

「ジャンヌ・ダルク……」

 

 

 

その名に周囲の者達が騒めく。

当然だ。彼女は『27階層の悪夢』で死亡が確認された闇派閥の一人なのだから。

 

 

だが、カルナがいれば別の意味で驚いたろう。名前から察せる通り、彼女も別世界でサーヴァントだった存在。

それも、ルーラーとして召喚される聖女ではなく、アヴェンジャーとして召喚される復讐の念に染まった魔女、ジャンヌ・ダルク・オルタであった。

 

 

 




第三弾はジャンヌ・ダルク・オルタ。
闇派閥【タナトス・ファミリア】所属のLv.5。
闇派閥の主軸幹部の一人で、竜種を支配するレアスキル【竜操魔女(ドラゴン・ウィッチ)】により竜の軍勢を従えます。
その危険性からブラックリストの中でもトップクラスの賞金首ですが、彼女と敵対した者は殆どの人が死亡しているため、彼女自身も参加した『27階層の悪夢』の生き残りしかジャンヌの顔を知られていません。

因みにカルナと関わりがあるのは聖処女の方なのですが、ジャンヌ・オルタを参戦させたのは【紅蓮の聖女】とか使ったら死ぬ宝具を持ってるので出しづらかっただけです。

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