ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五話

『ーーーァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼︎』

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ‼︎」

 

カルナとヴォルガング・クイーンが激しくぶつかり合う。

本来のヴォルガング・ドラゴンは砲撃に特化しているので接近戦の術を持たない。しかし、ヴォルガング・クイーンは剛腕を得たことでその弱点を克服していた。

その硬質な鱗とカドモスを上回る力で振るわれる剛腕はカルナのシャクティ・スピアと互角に渡り合うほど。

驚愕するべきはどちらか。

方や槍一本で階層主を凌ぐ怪物の猛攻と拮抗、いや徐々にだが押し返すほどの連撃を放つカルナ。純粋なステイタスで劣るにも関わらず、超絶した技量と洞察力でヴォルガング・クイーンの攻撃を先読みし、封殺している。

方や階層主さえ単騎で屠るカルナに技量も無く『力』の暴威だけで渡り合い、必殺の槍撃を幾度も受けながら傷一つ付かない硬度の鱗に覆われたヴォルガング・クイーン。その上、

 

『【火ヨ、来タレーーー】』

 

激しい攻防をしながらヴォルガング・クイーンは呪文を奏でる。

 

『【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ豪火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エルそら燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ英雄(カレ)ノ命(トキ)ノ代償ヲーーー】』

 

『並行詠唱』。魔法発動の失敗や魔力の暴走を防ぐため停止して行う詠唱をヴォルガング・クイーンは戦闘をしながら展開している。一握りの魔導士しか使えない離れ技をモンスターが実現していた。

 

「ーーーまずいな」

 

カルナは状況を分析して分が悪いと悟る。白兵戦ではカルナの方が押している。強固な鱗は時間を掛ければ破壊可能だ。しかし、それよりもヴォルガング・クイーンが詠唱を完成させる方が速い。

『超長文詠唱』。魔法は詠唱の時間が長いほど威力が増す。超長文ともなればその威力は絶大。

『日輪具足』は絶対の鎧だがカルナを無敵する訳ではない。直撃すればカルナといえども只では済まない。

 

『【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)炎ノ化身炎ノ女王(オウ)ーーー】』

 

魔法は完成間近。絶望的な状況だがカルナに焦りはない。どんな状況でも冷静な判断力を失えば終わりしかないと知っているから。例えそれが大砂漠の中から一粒の希望を見つけるような事でも。

そしてカルナはその希望を掴み取った。

 

「ーーーそこだっ‼︎」

『⁉︎』

 

詠唱を終えヴォルガング・クイーンが自身の最大魔法を発動させようとした瞬間、カルナ渾身の突きが精霊の胸部に刺さる。

先程まで槍撃を防いでいた鱗が砕け、精霊を背中まで貫通する。

信じられないことにカルナはあの激しい攻防の中で寸分の狂いもなく同じ箇所に槍撃を叩き込んでいたのだ。

どれだけ堅くとも同じ箇所に何度も衝撃を与えられれば壊れるのは自明の理。

 

『ーーーアアアアアアッ⁉︎』

 

防御力に絶対の自信を持っていたヴォルガング・クイーンは予想外の痛みに叫ぶ。そして莫大な魔力の手綱を手放してことで魔力暴発(イグニス・ファトゥス)が発生する。

これがカルナの狙い。敢えて魔力を極限まで高めさせ、その莫大な魔力を利用して自爆させる。例え倒せなくても大ダメージは免れない。弱体化したヴォルガング・クイーンならばカルナは問題なく倒せる。

しかし、今回はヴォルガング・クイーンが一枚上手だった。

 

『アハッ』

「ーー何っ⁉︎」

 

精霊が笑い、シャクティ・スピアを掴む。身を乗り出し、顔をカルナに近付けた。

後少しで顔が触れ合うほどの至近距離。精霊はその唇を一杯に開けーーー口内の奥で暴走し、いまにも破裂しそうな魔力の塊を見せつけた。

 

「しまっーー」

『【ファイヤーストーム・イグニスファトゥス】』

 

『魔法』が発動する。正確には暴走した魔力を制御するのではなく方向性を持たせ一点ーーーカルナ目掛けて暴発させたのだ。

制御を手離したことで暴走した魔法は術者であるヴォルガング・クイーンにさえダメージを与えてたが、制御する必要がない分、威力が上昇。

至近距離の直撃ともなれば『日輪具足』を装備したカルナさえ消し炭にされる威力である。

この魔法が直撃したカルナの生存は絶望的。だが、これで安々とやられるカルナではない。

 

「【我を呪え】」

 

超短文詠唱を引鉄にカルナが封印していた『魔法』を解禁する。

 

「【アグニ】」

 

世界を紅蓮に染める炎嵐。その中に炎の渦が生まれ、安全地帯が出来上がる。

その安全地帯を生み出したのはカルナの使用する強力な付与魔法(エンチャント)。

【アグニ】。

体や武器に炎の力を纏わせることで炎の破壊力を武器に宿し、炎を推進力に速度を上昇させ、炎の衣は触れるだけで敵を焼く防御力を発揮する攻防一体の魔法である。

だが、それでもカルナの全身は焼け、片目は失明さえしていた。それだけの状態でありながら黄金の鎧は焦げ目さえなく輝き、カルナの有様と相まって異彩な姿となっている。

 

「思ったよりダメージを受けたか、この程度で済んで良かったというべきか」

 

重傷を負ったがそれは【アグニ】で軽減したため重傷で済んだのだ。もし【アグニ】を発動させるのが後一歩遅ければカルナの命は焼き尽くされていたかもしれない。

だが、生きていれば問題ない。何故なら、どれだけ重傷を負っても、体のどこが欠損しても、カルナは存命してさえいれば治せるのだから。

 

「さぁ、続きを始めようか」

 

『魔法』で強化されたカルナ。本当の意味で全力となったカルナの戦いが始まった。

 

 


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