ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五十六話

 

 

強力な攻撃魔法に匹敵する必殺技の激突。爆音と衝撃が通路全体を震撼させ、床や壁の肉壁を引き剥がし、岩壁を剥き出しにした。

威力を相殺された双方の槍は弾かれ、持ち主の元に戻った。

 

「威力は互角か………」

「カルナ、大丈夫?」

「ああ、問題ない」

 

背後に庇ったアイズの声にカルナは視線を向けずに返答する。クー・フーリンを前に目をそらすなどできはしないからだ。

 

「以前とは見違えるほど強くなったじゃねぇか」

「当然だ。それだけの強さと覚悟を得てきた」

 

カルナは自身の中の《英霊カルナ》を消し去るという覚悟を持って力を得た。

これでクー・フーリンに劣っていては《英霊カルナ》に合わせる顔がない。

 

「アイズ。クー・フーリンは俺が、お前はーーー」

「分かってる。私はもう一人と戦う」

 

アイズが《デスペレート》を抜いた。それに合わせるようにクー・フーリンの背後、暗闇の奥から赤髪の女性が姿を現した。

 

「ーーーそちらから出向いてくれるとはな。願ったりだ」

 

レヴィスの緑色の双眸がアイズを睨みつける。

 

「ーーーやっぱり、いた」

「また会ったな『アリア』。お前を連れていく」

 

レヴィスは片手を地面に突き刺さし、天然武器ーーー長剣を引き抜いた。話すことなどないと言うように臨戦体勢に入る。

アイズも《デスペレート》を構えて、いつでも戦える準備に入った。

 

「アイズ」

「?」

「いまのお前なら勝てる。18階層の雪辱をはらせ」

「ーーーうん!」

 

カルナの言葉に頷いたアイズはレヴィスに接近。そのまま二人は激しい戦闘を始めた。

 

レヴィスは以前、アイズを圧倒した身体能力にモノを言わせた凶暴な勢いで攻めかかる。

しかし、【ランクアップ】したアイズの身体能力はレヴィスに引けを取らない。そして一度敗北したことで魔法に頼りすぎていた彼女は剣技を鍛え直した。

その実力はレヴィスと互角以上に渡り合ってた。

 

「ちっ、面倒な」

 

その事実にレヴィスは悪態を吐いた。そして戦法を変えた。

 

「手足はもげても構わないな………生きてさえいれば」

「………⁉︎ 守りを………捨てた?」

 

アイズが呟いた通り、レヴィスは守りを捨てた。長剣を両手で持ち、上段に大きく掲げた構え。非常に攻撃力が高いが、胴体が無防備になる戦闘スタイルだ。

 

「二、三撃はくれてやる」

 

レヴィスは上段に構えたままアイズに突進した。モンスターの強靭さにものをいわせた捨て身の攻撃。

 

 

それは回復不能にして防御不能な渾身の一撃となる。

 

 

だが、アイズは動かない。ただ静かに剣先を添えた。

 

受け流しすえ許さない必殺の一刀を剣全体で僅かにズラし、アイズは一歩も動かずに攻撃を避けて見せた。

 

「さて、こちらも始めようか。クー・フーリン」

 

アイズの戦いを見て問題ないと判断したカルナは目の前の敵に集中する。

 

「ああ。待ってたぜ。この時を」

 

クー・フーリンの殺意が膨れ上がる。彼もカルナとの再戦を待ち望んでいたのだ。それこそ敗北したクー・フーリンはカルナ以上に。

 

「行くぞ!」

 

クー・フーリンが殺意を爆発させ、一瞬で間合いを詰めた。

並の冒険者なら反応もできない速度だが、カルナは平然と反応し、《ゲイ・ボルグ》を弾いた。

カルナも弾いた直後に《シャクティ・スピア》で反撃するがクー・フーリンに打ち返される。

両者は槍を突き、薙ぎ、払う。持ち得る技と力の全てをぶつけ合う。

 

「ーーっ」

 

激しく打ち合う最中、カルナの表情が怪訝なものに変わる。

カルナはクー・フーリンとの戦闘で得た【経験値】と《英霊カルナ》の【経験値】によって短期間ではありえないほどアビリティの【熟練度】を上昇させた。その身体能力は以前の比ではない。

 

それでもカルナが押され始めている。

 

徐々に速くなっていくクー・フーリンの槍速はカルナでも対応できない速度になっていき、以前は勝っていた純粋な『力』でも押されている。

 

その異常なまでの身体能力を見抜くべくカルナは【貧者見識】でクー・フーリンの【ステイタス】を確認した。そして瞠目する。

 

全アビリティオールA以上。クー・フーリンは【ステイタス】で完全にカルナを上回っていた。

 

いくらなんでもありえない数値だ。クー・フーリンが冒険者よりもアビリティを上昇させやすい強化種といえどどんなモンスターの『魔石』を喰らえばここまで、それも短期間で………。

 

「オラッッ!」

「ぐっ……!」

 

クー・フーリンの凄まじい『力』で振るわれた一撃にカルナは耐えきれず防御もろとも吹き飛ばされ、壁に激突した。

 

「………なるほど、階層主か」

「ほう。いまの攻防だけで俺が喰ったモンスターを理解したか」

「それほどの強化できる『魔石』を持ち、この時期に産み落とされた階層主はーーーバロールか。深層の階層主を喰らったのなら、納得できる力だ」

 

カルナは窮地に追い込まれながらも、クー・フーリンが狩ったモンスターを言い当てた。

階層主の魔石は、通常のモンスターの魔石とは純度も、大きさも桁違いだ。階層主を喰らうなど聞いたこともないが、それならば納得する答えた。

だが、それを言い当てた所で意味はない。どうやって強くなったのかが分かっても引き離された身体能力の差が埋まる訳ではないのだ。

 

ーーー仕方ない。使うか。

 

クー・フーリンは未だ怪物化していない。その状態で此方だけ手札を切るのは後々不利になるが、使わなければ敗北してしまう。

認めるしかない。クー・フーリンは強くなりないという渇望はカルナを上回っていたと。だが、カルナも負ける気は欠片もない。

 

「【我を呪え】」

 

戦力差を埋めるべくカルナは詠唱した。

 

「【アグニ】」

 

『魔力』のアビリティが上昇したことでより凄まじさを増した業火がカルナの身を包んだ。

 

「いいね。そうこなくちゃ張り合いがねぇ」

 

炎で戦闘能力を劇的に向上させたカルナを見てクー・フーリンは《ゲイ・ボルグ》を構えた。

カルナが自身を強化したにも関わらず、クー・フーリンは『クリード・コインヘン』は使用しない。魔法を使ったカルナでようやく互角という意思表示だろうか。

 

「ならば、全力を引きずり出すまでだ!」

 

今度はカルナが攻めに入った。《シャクティ・スピア》と《ゲイ・ボルグ》がぶつかり、激しい攻防を繰り広げた。

 

 

 


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