ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五十五話

 

 

「また分かれ道か………」

 

道中、二つの道を前にパーティーが止まった、

 

「アスフィ、今度はどっちにーーー」

「いえ………います」

 

アスフィの声を合図にするように左右の通路から、ヴィオラスの群れが現れた。

 

「両方からかよ………」

「残念ながら、後ろからもだ。それに飛竜共もお出ましだ」

「げっ」

 

呻くルルネに、カルナが後ろを指し示した。そして翼を羽ばたせながら、イル・ワイヴィーンの群れも姿を現した。

左右後方、三方向の挟み討ち。退路を断たれた。

 

「アスフィ、【ヘルメス・ファミリア】で右を頼みたい。左は俺とアイズ、後ろはベート達がやる」

「おい、何で俺がエルフ共お守りをしなきゃなんねぇだ? で、何でてめぇがアイズと一緒なんだ?」

「誰がお守りだ。有りもしないことを言うな」

「フェルヴィスさん。落ち着いて!」

「俺は【白巫女(マイナデス)】の事を何も知らず、連携が取れない。ならば一時のパーティーとはいえ共に戦ったベートとレフィーヤの方が連携が取れるだろう。後、俺はアイズをそんな目で見ていないら、嫉妬するな」

「嫉妬じゃねぇ!」

 

嫉妬していることにベートが噛み付くが、正論故に反論はしなかった。

だが、この三組に分けたのはそれだけが理由ではない。左右後方にそれぞれいるヴィオラスとイル・ワイヴィーンは左通路の数が群を抜いて多い。ザッと見た限りでは他の通路の三倍はいる。

これは誘いだ。最も敵が多い所に最大戦力を投入するのは定石。カルナとアイズがそこに投入されると敵は予想して左通路に大多数の敵を配置した。そしてそれを理解しながらもカルナは行くしない。

 

「話は纏まりましね。では、各員、かかりなさい!」

 

アスフィの号令にそれぞれの敵へカルナ達は疾走した。

左通路に疾走したカルナとアイズがモンスター達と接敵した次の瞬間。

巨大な柱がカルナ達の元に落下した。

 

「っっ⁉︎」

「突っきれ、アイズ!」

柱をすぐに察知したカルナ達は柱を回避した。

次々と落下する巨大な柱は通路を完全に塞ぎ、カルナ達はアスフィ達と分断された。

 

「………やはりな」

「引き離された………」

 

 

◆◆◆

 

 

「分断⁉︎」

 

巨大な柱に塞がれた通路を見て、ルルネが叫ぶ。

 

「おい、カルナ、【剣姫】、聞こえるか⁉︎」

 

慌て塞がれた通路に駆け寄り、向こう側にいる二人に呼び掛けた。

しかし、そんな隙を見逃すかとばかりにヴィオラスが二体、イル・ワイヴィーンが三体、襲い掛かった。

 

「ルルネ、頭上に注意しろ」

 

柱の壁の向こうから声が響く。同時に壁に五つの穴が穿たれた。

 

『ーーーーーーッ⁉︎』

「どんな事態に陥ろうとモンスターは待ってくれない」

「カ、カルナ………?」

 

穿たれた穴から槍を構えたカルナが姿を現す。彼はルルネに襲い掛かるモンスターを壁ごと槍圧で貫いたのだ。

 

「と、とりたえず良かった。分断されなくて」

「そうはいかないだろうーーーやはりな」

 

穿たれた穴を塞ぐように新たな柱が落ちて来る。

それをカルナは片腕で受け止めた。ヴィオラスさえ粉砕した柱はカルナを押し潰せず、ビクともしない。

 

「合流は無理だな」

 

壁はこうしている間にも修復され、穴が塞がり始めている。

柱を破壊するの簡単だが、何百と柱が落ちてくれば破壊するよりも分厚い壁ができる方が早い。何より背後から殺気を放つ者がそれを許してはくれないだろう。

 

「アスフィ、俺達は別ルートから食料庫(パントリー)を目指す! アスフィ達はそのまま進んでくれ!」

「わかりました! 気をつけてください!」

 

カルナのアスフィは彼等なら問題ないと判断し、自分達の進行を優先する。

 

「ベート!」

「何だ! とっとと行きやがれ!」

 

最後にカルナはベートに声を掛けたが、いつも通り口が悪い。

 

「俺達が抜ける以上、このパーティーで一番強いのお前だ。ーーー強者の務めを果たせ」

「ーーーッ」

 

ベートにはカルナの言いたい事が一瞬で分かった。一番の強者である自分にカルナは全員の命を託す。ベートだからこそ皆を頼みたいと。

 

「言われる間でもねぇんだよ! 何が出ようと俺が全部倒してやる!」

「それを聞けて安心した。頼んだぞ」

 

カルナは抑えていた柱を離し、壁の向こうに消えた。阻むものが無くなった柱は穴を塞ぎ、道は閉ざされた。

 

 

◆◆◆

 

 

「アイズ、俺達も先に進もう」

「………皆、大丈夫かな?」

「あちらはベートに任せて大丈夫だろう。ーーーそれより来たようだ」

 

カルナが通路の奥を見据え、アイズも気付く。自分達に突き刺さる獰猛な殺気を。

闇の先にいる気配に二人が進もうとした時、

 

 

「ーーーまずは再会の祝砲だ。受け取れ」

 

 

殺気が先程とは比べ物にならないほどに膨れ上がった。

 

「アイズ、下がれ! ーーー【我を呪え】」

 

尋常ならざる殺気に敵が仕掛けると察したカルナは魔法を発動し、炎を纏う。

そして敵を目視した。闇の先、朱槍で投擲の構えをしたクー・フーリンを。

朱槍からは禍々しいオーラが放出され、強力な呪いを帯びているとカルナはすぐに理解した。

正確には彼の優れた観察眼がその能力を読み取った。

 

「ーーーなるほど、ただの武器ではないと思っていたが、『呪道具(カースウェポン)』だったか」

 

『呪道具(カースウェポン)』。魔法の中で相手を呪うものを『呪詛』と呼び、この『呪道具』はその『呪詛』が込められた『特殊武装』だ。

作成するには『鍛冶』だけでなくアスフィと同じ『神秘』が必要なのでオラリオにも作れる者はほとんどいない。

カルナは改めてクー・フーリンが投擲しようとしている朱槍を観察する。

 

 

ーーー初見の時、あの朱槍では自分の鎧を貫けないと判断したが、それは間違いだったようだ。

 

 

あの朱槍は通常の槍として使うときは何の力も発揮しない。だが、投擲する時のみその呪いが発動するようになっていたのだ。

 

『心臓必中(アガナベレア)』。クー・フーリンの朱槍に込められた『呪詛』。

追尾属性(ホーミング)という照準対象を自動追尾する属性が存在するが心臓必中(アガナベレア)は照準対象を心臓に限定したことで即死率を上げ、投擲する際の『力』が強ければ強いほど貫通力を増大させる回避不能・防御無視を併せ持つ一刺一殺の呪い。

カルナは直感する。あの朱槍は自分を殺しうる槍だと。クー・フーリンの人外の怪力が生み出す『貫通力』はカルナの鎧さえ貫くだろう。

 

「穿つは心臓。狙いは必中。であれば正面から受けて立つ他にない」

 

カルナは《シャクティ・スピア》に炎を収束させ、クー・フーリン同様の投擲の構えをした。

 

「ゲイーーー」

「ブラフマーストラーーー」

 

カルナとクー・フーリン。互いに敵を排除すべく必殺の一撃を放った。

 

「ーーーボルク‼︎」

「ーーークンダーラ‼︎」

 

呪いの朱槍と豪炎の大槍が轟音を響かせ激突した。

 

 




《ゲイ・ボルク》
・『心臓必中(アガナベレア)』の朱槍。
・クー・フーリンが彼の所属【ファミリア】の団長にして師匠である女性から贈られた槍。
・凶悪な『呪詛』だけでなく武器性能も『最高の鍛治師』が作成した武器に劣らない武装。

余談。
『心臓必中(アガナベレア)』の元ネタ。
『アガナベレア』はギリシア神話に登場する『優しい矢』という意味を持つ武器です。
アポロンが射抜けば男性を、アルテミスが射抜けば女性を即死させる能力を持っています。

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