ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五十四話

 

 

戦闘はそう時間も掛からずに終了した。

ヴィオラスはアスフィ達が連携して撃破し、新手のイル・ワイヴィーンもカルナ達が瞬く間に殲滅してしまった。

 

「あらかた片付げしまね………」

「ああ、イル・ワイヴィーンが予想より強かったのが気になるが………被害状況は? ポックはどうなった?」

 

カルナは戦ったイル・ワイヴィーンが通常より強かったことが気にかかった。一体や二体なら強化種ということで話が付くが襲いかかったイル・ワイヴィーン全てが通常種より強力なのはおかしい。まるで意図的に強くされたようだ。だが、いまは咥え込まれたポックの安否を確認するのを優先した。

 

「オレならここだ」

「! 大した怪我は負ってないようだな」

 

ポックの全体を見渡し、目立った外傷がないことをカルナは確認した。

 

「こんなとこでくたばってたまるかよぉ。こいつで『魔石』を砕いてやった」

 

そう言ってポックは手に持った短剣を見せた。

 

「あれ………? その短剣………」

「フィンが持っている物と同じように見えるな」

 

短剣を見たアイズが疑問に思い、カルナもフィンの短剣と酷似していると判断した。

 

「レプリカですよ。【ランクアップ】の記念に弟が【勇者】のものをマネて作らせた」

「………嫌んなるよな。頼んでもねえっつーのに、いつの間にかオレ達の英雄になってんだからよ」

「………えっと、今度フィンを紹介しようか?」

「「‼︎」」

「いい提案だ、アイズ。ポック達のような努力する小人族を知ればフィンも喜ぶ」

 

紹介すると言われた時の二人の目の輝きは憧れているというのを理解するには十分な反応だった。

 

「………いや………‼︎ 今は………まだ、やればできるってとこ見せらんねぇし………で、でも、サイン………とかなら、受け取ってやっても………いいぜ」

「ポック、お前なりに精一杯勇気を出したのだろうがーーー後ろで仲間がニヤついているぞ」

「てめーらっ‼︎ くそっ、見てんじゃねーよ‼︎ 殴るぞ‼︎」

 

ニヤニヤとした笑みをしていた【ヘルメス・ファミリア】はポックの怒鳴りに蜘蛛の子を散らすように去った。

「今の戦闘で敵を呼び寄せたかもしれません。すぐに移動しますよ」

「イル・ワイヴィーンが出た時点で手遅れな気もするがな」

 

余計なことを言うカルナをアスフィは視線で黙らせた。

武装の点検を素早く済ませたパーティーは進行を再開した。

 

「聞いてはいましたが、あれが例の新種のモンスターですか………」

「固くて、速くて………しかも数が多い。いやになるよなー」

「カルナ、貴方達はあの新種の性質を熟知しているようでしたが、知っていることがあれば今の内に教えてもらっていいですか?」

「そうだな、情報共有はしておこう」

 

カルナはヴィオラスが打撃に強く、斬撃に弱いこと。『魔力』に過敏に反応し、魔導士が狙われやすいこと。『魔石』を求めて他のモンスターを襲う習性があることを伝えた。

 

「共食いのモンスターってことか? 珍しいな」

「なるほど。殺されたモンスターの死骸、『ドロップアイテム』はあっても『魔石』がなかったのはそういうことですか」

 

カルナの言葉にルルネは意外そうに、アスフィは納得したように頷いた。

 

「通常見た目の異なるモンスター同士でも争うことはありません。そのモンスターがモンスターを襲う行動には、大きく分けて二つの可能性があります」

 

アスフィが指を一本立てる。

 

「一つは突発的な戦闘。偶然、あるいは何らかの事故で被害を受け、逆上したモンスター同士が争い合う。群れ同士で戦う場合もあります」

 

アスフィが二本目の指を立てる。

 

「そして二つ目。モンスターが、魔石の味を覚えてしまった場合。別のモンスターの『魔石』を摂取すると、モンスターの能力には変動が起こります。【ステイタス】を更新される我々のように」

「『強化種』………だな」

 

冒険者歴が浅いカルナは天然の強化種にはお目に掛かった事はないが、異端児(ゼノス)であるリド達がこの強化種に当て嵌まるモンスターだ。

 

「ええ。過剰な量の『魔石』を取り込んだモンスターは、本来の能力とは一線を画するようになります」

 

モンスター達は無意識に同胞であることを自覚しているので、同士討ちを避けるが、中には逸脱したモンスターも現れる。

『魔石』のもたらす力と全能感に酔ってしまったモンスターは同胞の核を食い漁るようになり、弱肉強食の法則によって己の力を引き延ばす。

厄介なのが冒険者の【経験値(エクセリア)】に比べ、モンスターが『魔石』を摂取する方が簡単に強くなれることだ。

例としては十匹をゴブリンを倒したLv.1の冒険者より、同胞の魔石を五つも取り込んだゴブリンの方が遥かに強くなる。それだけ強化種は簡単に強くなることが可能なのだ。

 

「有名なのは『血塗れのトロール』………多くの同業者を手にかけ、討伐に向かった精鋭のパーティーまで返り討ちにした化物」

「ああ、いたなぁ………上級冒険者を五十人くらい殺ったんだっけ?」

「ええ。最後は【フレイヤ・ファミリア】が討伐したのは、記憶に新しいですね」

「俺は知らない」

「………何で第一級冒険者が知らないんだ、ってそういえばお前まだ冒険者になってから三、四年しかたってないんだっけ?」

 

『血塗れのトロール』は三年以上前に出現した強化種なのでカルナは話でしか聞いたことがなかった。

第一級冒険者ならば普通は【神の恩恵】を授かって十年以上になるものだが、Lv.7に至りながら三年しか立っていないカルナが異常なのだ。

 

「ってことは、あの新種も『魔石』を目的に他のモンスターを襲ってるってことか?」

「と、私は考えますがね。共食いに走るということは、何らかの理由があって然るべきです。それに先程の戦闘の中でも、能力差の著しい個体が数体存在していました」

「そう言われてみれば、あのモンスターって力がバラバラだな。楽に始末できたやつもあれば、相当手こずったやつもいる。………でも、群れ全体で『魔石』を狙うって、そんなのアリか? 最初から『魔石』の味を占めるって、冗談じゃないぞ」

 

………正確には味を占めてるのではなく、『精霊の分身(デミ・スピリット)』誕生のために『魔石』を蓄えているんだがな。

 

原作知識によりその理由を知っているカルナは内心でそう付け加えた。

だが、それはいまはいい事だ。いま問題はヴィオラスが出たということは奴等がいるという事だ。

 

「………アイズ」

「?」

「気を引き締めろ。この先に奴等がいるはずだ」

「………!」

 

カルナの言葉から誰が待ち受けるのか察したアイズは手を握り締めた。

クー・フーリンとレヴィス。あの二人に対抗できるのはカルナとアイズだけだ。

対峙すればカルナ達が戦うしかない。

 

「待っていろ、クー・フーリン」

 

待ち受ける強敵にカルナは静かに闘志を燃やした。


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