ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五十二話

 

 

「全員止まりなさい」

 

モンスターの遭遇もなく静寂に包まれた通路を進んでいた時、先頭を歩いていたアスフィがパーティーを制止した。

彼女の視線の先、開いた通路の中心には不自然に散乱した灰があった。

 

「モンスターの、死骸か?」

「ええ。間違いなさそうです」

灰の中にはモンスターが残す『ドロップアイテム』があった。

 

「恐らく、例の『門』を破ることのできた複数のモンスターが、ここまで侵入してきたのでしょう………そして、何か殺された」

 

アスフィの言葉に全員が武器を構えた。食料庫(パントリー)への通路を塞いでいた肉壁。それを突破できた強いモンスター達を食い荒らした敵が潜んでいるのだから。

 

「カ、カルナ………これ、敵がやったんですか? 他の冒険者が先に入って仕留めたってことは?」

「それはない。冒険者なら『ドロップアイテム』を回収するはずだ。仮に他の冒険者が侵入していたとしても、このモンスター達同様、食い荒らされた肉片になっているだろう」

「ひっ………!」

 

張り詰めた空気に耐えられずレフィーヤがカルナに話しかけるが、余計に怖がることを言われてしまった。

 

「じゃ、じゃあ誰が………」

「決まってんだろ。あの食人花だ」

 

怯えるレフィーヤにベートが吐き捨てる。彼の優れた嗅覚がヴィオラス特有の臭いを嗅ぎ取ったらしい。

 

「来るぞ。上だ」

 

そしてカルナも天井から暗闇に隠れながら此方を狙うヴィオラスを捉えた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』

 

破鐘の咆哮を上げ、ヴィオラスの群れが落下した。

 

「各自、迎撃しなさい!」

 

アスフィが叫び、全員が戦闘を開始した。

 

 

◆◆◆

 

 

「レヴィス、侵入者だ」

 

緑壁のダンジョンのある場所で、男が警告する。

 

「モンスターか?」

「いや、冒険者だ」

 

レヴィスの問いに、男は憎々しげに答えた。

 

「中〜大規模のパーティー………全員手練のようだ。しかも、30階層の宝玉を持ち去った者もいる」

「カルナか」

 

レヴィス達が見る肉壁の蒼白い水膜には、カルナ達とヴィオラスの群れの戦闘が映し出されていた。

そして水膜にアイズが映し出されてた時、レヴィスが呟く。

 

「『アリア』だ」

「なにっ?」

 

男はアイズを見て、信じられないと顔を歪ませた。

 

「【剣姫】が『アリア』………? 信じられん」

「確かだ」

「へぇ、貴方達の狙いは【剣姫】なの?」

 

二人が食い入るようにアイズを見ていると第三者が声をかけた。

 

「何だ? 後ろで慌てふためいている残党共を纏めなくていいのか?」

 

男が侵入者に浮き足立ち、駆け回っている闇派閥(イヴィルス)を一瞥して告げた。彼女は彼らを指揮する立場にあったはずだ。

 

「別にいいわ。どうせ連中は捨て駒だから。敵を道連れにできれば上出来ってところね」

 

同じ【ファミリア】の者を仲間もと思わない意地の悪い笑みを少女は浮かべた。

 

「それにしてもヴィオラスはやられちゃってるわね」

 

少女の言う通り、水膜には次々とヴィオラスが屠られているのが映し出されている。中には魔石を捕食したことでLv.4を超える潜在能力(ポテンシャル)を誇るヴィオラスもいたが、カルナ、アイズ、ベートなどの第一級冒険者の前には手も足も出なかった。

 

「ヴィオラスだけでは不足のようだな」

「ああ、特にカルナ相手にはな」

 

 

「ーーー当然だな」

 

 

「「「!」」」

 

底冷えのする声に三人は息を飲み、声のした方向に顔を向ける。

そこには先程まで自分には関係ないとばかりに魔石を貪っていた禍々しい甲冑を纏った男がいた。

中層域のモンスターの魔石などいくら捕食しようがこの男の【ステイタス】には微々たる変化もないはずだが、少しでも強くなろうとする貪欲さが伺える。

 

「アイツをやれるのは俺だけだ」

 

それだけ言い最強の怪人(クリーチャー)、クー・フーリンは水膜に映るカルナを見据えた。

 

「………まぁいいわ。このまま食料庫(パントリー)に来られても面倒ねぇ。数は減らしておきたいし、手伝ってあげる」

 

少女は残忍な笑みを浮かべ、指を鳴らした。それを合図にするよいに待機していたモンスター達が翼を羽ばたかせ、飛び立つ。

 

「行きなさい、私のペット達。奴らを始末するのよ」

 

主の命令にモンスターの群れが敵を殺すべく、飛翔した。

モンスターが飛び去ったのを見届けて、レヴィスも動き出す。

 

「私は行く。『アリア』を周りの奴等から引き剥がせ」

「俺も行くぜ。リベンジってやつだ」

「………わかった」

 

男の返事を待たずにレヴィスとクー・フーリンは大空洞を出て行った。

 


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