ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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読者の皆様へ。最近、仕事が忙しくなり、小説のストックが少なっております。後、衝動に駆られて新しい小説も書き始めてしまったので。
読んでいる皆様には申し訳ないのですが、来週から更新を週一に落としたいと思います。


第五十話

ベート達と合流した後、他の経路に行っていたファルガー、セインのパーティーが戻っていた。

 

「やはりどこも塞がれてましたか」

 

アスフィも予想していたのだろう。他の経路も肉壁で塞がれているというファルガー達の報告を聞いても納得したように頷いていた。

 

「………アスフィ、ここからは?」

「………行くしかないでしょう」

 

尻込みするルルネにアスフィは溜息を吐いた。

問題解決の為には行くしかない。後はどうやってこの肉壁を突破するかだ。

 

「一応、『門』みたいなものはあるけど………」

 

肉壁の中心には大型級のモンスターでも通り抜けれそうな『門』、あるいは『口』のような器官があるが、開口する気配はない。そもそも真似かねざる客であるカルナ達を敵が通す理由もないからだ。

 

「やはり、破壊するしかなさそうですね。植物型モンスターならば炎が有効そうですが………」

「斬りますか?」

「穿つこともできるが?」

「蹴り破るでもいいぜ?」

「発想が脳筋だよな、【ロキ・ファミリア】………」

 

アイズ、カルナ、ベートに、ルルネが呆れた視線を送ってくる。どうせ力尽くで突破するしかないのだから、脳筋も何もないと思うが。

 

「アスフィ、メリルにやらせたらどうだ?」

「そうですね、炎が有効か試したいですし」

 

先程アイズに突っかかったポックがそう提案し、アスフィも承諾する。

 

「メリル、『魔法』を」

「でっかい方ですか?」

「ええ、長文詠唱で」

 

アスフィに命じられ、小人族(パルゥム)の魔導士、メリルが前に出る。

短いロッドを構え、魔法円(マジックサークル)を展開した上級魔導士が詠唱を始めた。

 

「メリルは『魔導』の発展アビリティを習得しているのさ。珍しいだろ? 小人族(パルゥム)の上級魔導士なんてさ」

 

メリルが詠唱する中、ポックが語り始めた。

 

「未来を嘱望される才能ある小人族(パルゥム)ってわけ」

「確かに………臆病で白兵戦は無理だが、魔法はかなりのものだ。『並行詠唱』はできないみたいだが小人族(パルゥム)という小柄な体格がそれをカバーしている」

 

カルナが言うようにメリルはアイズの腰ほどしかない小柄な少女。担いでも重量は然程でもなく、サポーターに乗れば立派な移動砲台と化す。

強力な魔導士である彼女はどこのパーティーでも活躍できるだろう。

 

「オレらとは違うね。気付いてんだろ。前衛・中衛の中でオレらだけがLv.2だって」

「えっ………と」

 

図星を突かれてアイズは言葉に詰まる。先程、アイズが他の経路を調べるのに同行しようとしたのは、他のメンバーに比べても弱い双子の小人族(パルゥム)を心配したからだ。

 

「白々しいんだよ。いらない気を使って付いて来ようとしやがって。けど、この先、付くならメリルにしろよな。オレらとは違ってアイツは代えのきかない貴重な小人族(パルゥム)なんだからよ」

「正しい判断ではあるな。強力な上級魔導士と力不足な前衛。同じ小人族(パルゥム)でもどちらが優れているかは明らかだ」

「カルナ、いくらなんでもそんな言い方は!」

「だが、事実だ」

 

カルナの容赦ない物言いにレフィーヤが止めに入るが、彼はそれでも断言した。

本来は壁役がいなければいけない魔導士が、仲間に担がれ移動砲台となることでパーティー全体の負担が軽減できるメリル。対してモンスターの攻撃を引き受ける前衛には不向きな小人族(パルゥム)。それも『力』に優れている訳でもないのに武器はメイスとハンマー。小人族(パルゥム)は小柄な体格を活かすナイフやリーチの短さを補う槍を使う者が多いが、それらを武器にしないということは双子は武芸の才能も乏しいのだろう。ハッキリといえば冒険者には不向きだ。

 

「本当のことだけどよ、ハッキリ言いやがる。まぁ、メリルが貴重つっても、あんた等んとこの団長さん程じゃないけどな」

「フィンを知ってるの?」

「当たり前だ、アイズ。フィンの目的を考えれば彼を知らない小人族(パルゥム)はいない」

 

フィンは衰退した一族の復興の為、自身が小人族(パルゥム)の希望になるよう名声を得た。同族の小人族(パルゥム)に名前が知られているのは当然だ。

 

「どんだけ才能に恵まれてたんだか知らねーけど、勝手に小人族(パルゥム)の英雄になりやがって、頼んでねぇつーの」

「ふむ………英雄と呼べる小人族(パルゥム)はフィンだけではないだろう。同じ【ファミリア】のアストルフォも英雄と呼べる逸材だと思うが?」

 

何せ英霊の座に至った正真正銘の英雄だ。いまはLv.4の第二級冒険者だが、アストルフォの気質を考えればそう時間もかからずにLv.5に【ランクアップ】するだろう。

 

「確かにアイツはスゲーよ。オレらより後に入団したのにいまじゃ、【ファミリア】内でアスフィしかいなかったLv.4だ」

 

ポックは自虐的に笑った。まるで格の違いを思い知ったように。

 

「あんた等の団長といい、アストルフォといい、小人族(パルゥム)でもやればできるみたいなことされると、まるでオレ達が何もしてこなかったみてえじゃねーか」

「あの………もしかしてフィンのこと………嫌い?」

「けっ、くだらねぇ。要は自分の実力不足を棚に上げて僻んでるだけじゃねぇか」

 

アイズの質問にポックが答える前にベートが口を挟む。

 

「てめぇは努力が実らねぇのに、フィンやピンク髪の小人族(パルゥム)が大成していくのが気に食わねぇだけだ。負け犬の遠吠えだな」

「ベートさん、言い過ぎです!」

「口を慎め、狼人(ウェアウルフ)」

「それにベート。犬はお前だ」

「俺は犬じゃねぇ、狼だ!」

 

ベートの罵倒にレフィーヤとフィルヴィスが咎め、カルナは的外れなことを言う。

 

「ベート。お前が高みを目指しているからこそ、努力すれば成果が出る知っているからこそ、途中で立ち止まる者を認めたくないのはわかる」

「………はっ、諦めた奴らなんか知るか」

 

ベートは否定したが、言葉を口にするのに間があった。カルナに心の奥底、ベート自身でさえ指摘されなければ気付かないことを見透かされ、一瞬動揺したのだ。

ベートはいつも走り続けてきた。強者となるため、努力し続けた。ガレスにボコボコにされたこともある、フィンにあしらわれたこともある、敵対派閥の強者と死闘をしたこともある、モンスターとの戦闘で重傷を負ったこともある、そしていまは何度挑もうと勝てないカルナを追い続けている。

いまでこそLv.5だが、かつて彼は死にかけたことも、地を這ったこともある。それでも諦めなかった、立ち上がってきた。だからこそいまのベート・ローガが在る。

ゆえに努力すれば強者になれるのに立ち止まる者達がベートには受け入れられなかった。

 

「だが、お前は誤解をしている」

「誤解だぁ?」

「ポックはお前が嫌う者達とは違う。フィンに追い付こうと死地に自らを置く冒険者でーーーフィンに憧れていることを素直な気持ちにできず、皮肉で誤魔化してしまう捻くれ者なだけだ」

「だ、誰が捻くれ者だ! デタラメほざくな!」

 

図星を突かれ、大声を出すポック。だが、彼は気づいているだろうか? フィンに憧れているという事を自分が否定しなかったことを。

 


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