ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第四十九話

北の食料庫(パントリー)を目指すカルナ達の道中はカルナ達が疑問に思うほど順調だった。先程まであれほどいたモンスター達は見る影もなく、静寂に包まれている。

そしてカルナ達は食料庫(パントリー)に続く通路の道半ばでそれを目撃した。

「か、壁が………」

「………植物?」

 

食料庫(パントリー)へ続く通路は、本来なら存在しない壁に塞がれていた。

ぶよぶよと膨れ上がった気色悪い緑色の肉壁。周囲の石壁とは性質が全く異なり、鼓動にも似た律動がこの肉壁が生きていることを証明していた。

こんなものは、『深層』でも見た事がない代物だ。ただ一人、30階層の食料庫(パントリー)で同じ物を目撃したカルナを除いては。

 

「カルナ、これが貴方の言っていた?」

「ああ。30階層で見た植物型モンスターのモノと一緒だ。だが、規模は此方の方が大きいな」

 

食料庫(パントリー)まではまだ距離がある。にも関わらず、もう植物の肉壁に出くわした。此処からはモンスターの腹の中を進む事になる。

 

「おそらく他の経路も同様に塞がれていると思うぞ」

「………そうですね。ですが念の為、他の経路も調べます。ファルガー、セイン、他の者を引き連れて二手に分かれてください。深入りは禁じます、異常があった場合は直ちに戻ってきなさい」

「なら私もーーー」

「待ちなって」

 

アイズも同行を申し出たが、それを小人族(パルゥム)のポックが止めた。

 

「強いからってあんまり出しゃばらないでほしーんだけど。オレ達にはオレ達のペースってもんがあるんだよね」

 

アイズの善意に対して容赦無い物言い。あれだけ圧倒的な力を見せつけたアイズにここまで言える事にカルナはむしろ感心した。

 

「アイズ。ポックの言う事は尤もだ。彼等のやり方に余所者の俺達が首を突っ込むべきじゃない。アイズが双子に気を使ったのはわかるが、ここはアスフィ達に任せよう」

「………うん」

 

カルナの言葉にアイズも納得した。フィルガーとセインが団員を連れて他の経路を調べている間。カルナ達は休息をとる事にした。

 

「それにしても見れば見るほど嫌悪感が催す壁ですね………」

「モンスターが肥大化させた体をダンジョンに貼り付けているようなものだ。生理的に受け付けないのは無理もない」

 

アスフィの呟きにカルナが返答する。

 

「うぇ〜、そんなとこにあたし等入らなちゃいけないのか………この奥にカルナが言ってるモンスターが住み着いてんだろ?」

「『リヴィラの街』を襲った花型モンスターに似ているな。ただし、階層主を上回る超大型の、と付くが」

「その情報、全然嬉しくないよ!」

 

これから行かなければならない所に馬鹿みたいに巨大なモンスターがいると言われ叫ぶルルネ。事前に戦う敵の情報を知れたのに何故悲観するのかカルナにはわからなかった。その疑問をルルネに尋ねようとした時、

 

「ーーー! 誰か来るな」

 

此方に向かって走る足音にカルナが立ち上がった。

 

「フィルガー達でしょうか?」

「いや、足音は三人分。フィルガーとセインのどちらかのパーティーが帰ってきたにしても、人数が少ない」

「ならば、敵ですか?」

 

パーティーが分散している間に各個撃破する。単純だか有効な手だと思い、アスフィは敵が襲撃してきたのかと予想する。

 

「いや、違う。その逆だ」

 

だが、カルナはアスフィの予想を否定した。薄暗い通路の奥でもカルナの眼は向かって者達がハッキリ見えていた。

待っているとまず狼人(ウェアウルフ)の青年、続いて二人のエルフが姿を現した。

 

「やっと追いついたぜ。カルナ、アイズ」

「ああ、待っていたよ。ベート」

 

ベート・ローガ、レフィーヤ・ウィリディス、フィルヴィス・シャリア。カルナ達の援軍が到着した。

 

 

◆◆◆

 

 

ーーー食料庫(パントリー)に到着する前に合流できたか。

 

合流したベート達を見てカルナは安堵した。

原作ではベート達が合流するのはアスフィ達が食料庫(パントリー)に到着した後。それも死者が出てからだ。

それをカルナ自身で阻止できればいいが、おそらくカルナとアイズは分断され、レヴィス達と交戦することになるだろう。そうなれば救援は不可能。だから、対策としてベート達が早期に合流できるように『リヴィラの街』で目的地が分かるように伝言を頼んだのだ。

 

「よく来てくれた、ベート。『リヴィラの街』で俺の伝言は受けとってくれたようだな」

「何言ってんだ、てめぇ。あんだけ爆音と更地になった地形見れば、居場所教えてるようなもんだろうが」

「………………………………………………なるほど」

 

カルナの努力は関係なく、意図せぬことが手掛かりになっていたらしい。ただモンスターを蹴散らす目的だけだった攻撃が目印になるとは。………まぁ、合流できたんだから良しとしよう。

 

「アスフィ。見ての通り俺の仲間だ。心配しないでくれ。………そこの【白巫女(マイナデス)】もベート達と一緒ということは戦力と考えて問題ないか?」

「そうだ。デュオニュソス様からお前達を助けるように仰せつかってきた」

 

カルナが【白巫女(マイナデス)】と呼んだエルフの女性は彼の質問を肯定した。

フィルヴィス・シャリア。【デュオニュソス・ファミリア】団長のLv.3。純白の衣装を纏ったエルフの美女。自身が前衛で戦いながら『並行詠唱』を行使することで『魔法』の火力を併せ持つ『魔法戦士』。

『魔法を使う剣士』と違い、魔法戦士は『魔導』のアビリティにより『魔法を使う剣士』とは桁違いな火力を誇り、

レフィーヤのような純粋な後衛魔導士と違い壁役も必要ないので、非常に重宝される上級中衛職(ハイ・バランサー)である。

しかし、フィルヴィスは所属したパーティーが次々と彼女のみを残して全滅するため、本来の二つ名ではなく『死妖精(バンシー)』と冒険者から呼ばれ、団長という立場にありながら同じ【ファミリア】の者達からも忌避されていた。

 

「『魔法戦士』ーーー速度重視の魔導士か。重くて動けないレフィーヤからしたら【白巫女(マイナデス)】は憧れの存在なんじゃないか?」

 

まぁ、周囲がどう評価されてようがカルナは気にもしない。

 

「重いってなんですか! 太ってるみたいに言わないでください!」

「動けなければ同じようなものだろう。良かったじゃないか、憧れのバトルスタイルを間近で見られるんだ。少しでも身軽になれるようによく観察しておけ」

「言われなくてもそうします!」

 

カルナの相変わらずな言い草にレフィーヤは頬を膨らませて怒った。

 


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