ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか 作:ザイグ
24階層を目指す道中、カルナとアイズは全く戦闘をしていなかった。
同行する【ヘルメス・ファミリア】の実力が申し分なく、索敵能力も高いお陰で遭遇するモンスターを迅速に片付けてしまうからだ。
「個人の実力に問題はないな」
「うん。できれば連携も確認しておきたいけど………」
「ーーーそれはいまから確認できそうた」
カルナは進路方向を見据えた。
「アスフィ! 前方から敵、大型が複数。多いぞ!」
「左通路からも飛行音3! 接触まで20‼︎」
カルナに遅れて聴力に優れたフィルガーとホセも敵の接近に気付いた。
「アスフィ、前方はバトルボア1、バグベアー8。左通路はガン・リベルラ3だ」
「この密林の中から見えるんですか? 本当に常識外れですね………総員、戦闘態勢‼︎」
前方は密林、左通路は真っ暗にも関わらず、カルナの眼はモンスターの姿を捉えていた。
「前衛は前方の敵の足止め、中衛は目標左上空、後衛は詠唱開始! ツボの用意も!」
アスフィが次々と指示を出し、団員達が行動わ開始した。
「俺達はいいのか?」
「我々の戦力を見ておきたいでしょうから。貴方達はここで見ていて下さい」
「承知した」
カルナとアイズは静観の姿勢に入り、【ヘルメス・ファミリア】の戦闘を観察した。
『ふんッ!』
前方の盾役、ファルガー、エリリー、ゴルメスの三人が複数の大型モンスターの突進を防ぐ。
「やーい、こっちだー」
左通路から出てきたガン・リベルラをルルネが挑発して注意を集め、
「アストルフォ!」
「任せて! いくよ、ヒポグリフ‼︎」
アストルフォが騎乗したモンスター。『ヒポグリフ』が飛翔した。
『ヒポグリフ』。上半身は鷲、下半身は馬の姿をしたモンスター。中層に生息する希少種(レアモンスター)でLv.3に匹敵する潜在能力(ポテンシャル)を誇る。
因みにテイムしたモンスターはギルドに登録する必要があるが、アストルフォがそんな事気にするはずもなく、非合法で飼っている。
「普通のヒポグリフより速い………⁉︎」
「ああ、おそらく強化種だな。潜在能力(ポテンシャル)はLv.4を超えている」
カルナ達がヒポグリフの分析をしている間も、アストルフォは馬上槍でガン・リベルラを墜としていく。
「ルルネ、セイン、キークス! こちらは任せて、ツボ前衛敵‼︎」
『了解‼︎』
ガン・リベルラを掃討したアスフィが仲間に指示を出す。アスフィの言葉にルルネ達が移動し、
「はい、ツボ!」
「サンキュ!」
ルルネ達はネリーからツボを受け取り、前衛に向かう。
「あのツボは………?」
「ああ。アスフィが作った可燃性の液体だ。火の威力を増大させる」
カルナも炎魔法を使えるのでアスフィ達と冒険をしたときに使用したことがある。
ただし、カルナの炎は付与魔法なので攻撃魔法と違い、使い所が難しかったが。
「今です、メリル!」
「リウォ・フレア‼︎」
カルナ達が話している内に、液体を浴びたモンスターがメリルの炎魔法で焼き払われた。
「速い。瞬く間に倒し切ってしまった」
「無駄のない効率重視が【ヘルメス・ファミリア】の特徴だ」
実力はカルナ達主力を除いた【ロキ・ファミリア】中堅より上だろう。これだけ戦力を持つ【ファミリア】が未だに注目も集めずに無名でいるのだから恐ろしい。
特にアスフィは指揮能力、実力共に飛び抜けている。Lv.4の実力に数々のマジックアイテムを用いればLv.5にも届きそうだ。
「カルナ、この先のルームで休憩しようと思いますが、構いませんか?」
「俺達に気にせず、アスフィの采配に任せる。せめて見物していた俺は見張りくらいはしよう」
「そうですか。なら、お言葉に甘えましょう。ーーーこれから休憩に入ります。壁を壊すのを忘れないように!」
ダンジョンの壁は無限にモンスターを産み出し、壊れても時間が経てば修復する。
ただし、ダンジョンは壁の修復を優先する為、モンスターを産まないという特性がある。
その特性を利用して冒険者は休憩する前に予め壁を壊して、休憩中に突然、壁からモンスターが産まれるという事態を防いでいる。
「ルルネさん達、すごいですね………」
「ルルネ、でいいよ。私達、結構歳近いだろ?」
休憩中、アイズがルルネに話しかけていた。
「ルルネ、【ファミリア】の到達階層は何階ですか?」
「37階層。モンスターがえらい強いし、流石に深入りはしてないけど」
公式での【ヘルメス・ファミリア】の到達階層は19階層。倍近い『深層』に足を踏み入れているのは詐欺としかいいようがない。
「よくそんな深い階層に潜って、他の冒険者にバレないね………?」
「普通ならバレるな。だが、【ヘルメス・ファミリア】にはアスフィがいる」
上級冒険者でもごく僅かしか至れない『深層』。そんな階層にいれば何処の【ファミリア】の者かなど簡単に判明してしまう。だが、それでバレないのはアスフィがいるからだとカルナは言う。
「そうそう、あの【万能者(ペルセウス)】だぜ? 凄いマジックアイテムがあってさ、誰にも見えなくなってーーー」
「ルルネ。一緒のパーティーとはいえ他派閥の者に軽々しく手の内をバラすものではない。俺達は他者に漏らす気がなくともーーーお前の後ろにいる団長が黙っていない」
カルナの指摘にルルネが振り向けば、半顔を浮かべたアスフィがいた。
「ご、ごめん。アスフィ」
「全く………」
ルルネに嘆息したアスフィは、カルナ達の方に歩み寄る。
「カルナ、【剣姫】。貴方達の率直な意見が聞きたいのですが、この依頼についてどう思いますか?」
「………どういう、意味ですか?」
「今回の騒動が危険なものかどうかということか?」
「ええ。カルナから危険なものとは聞いています。ですから、具体的な危険度を知りたいんです」
「………先日、起きた18階層の騒動は知っているか?」
「? はい。大型モンスターの襲撃によって群昌街路(クラスターストリート)が崩壊した事件ですね」
「表向きはそうなってるな」
あのカルナ達と怪人達の激戦はギルドによって揉み消されている。極彩色の魔石を持つモンスターやモンスターを進化させる『宝玉』の存在をウラノス達は隠したかったようだ。
カルナは18階層の戦闘の全容をアスフィに説明した。騒動の真実を聞いたアスフィは溜息を堪えるような表情になる。
「本当に、厄介なことに巻き込まれてしまいましたね………」
「すまない、こんな事に巻き込んで」
「カルナが気にすることではありません。私達を巻き込んだのはフェルズという人物です。ーーーさぁ、休憩はこのくらいにして出発しましょう」
団長の言葉に全員が行動を開始した。
◆◆◆
カルナ達は遭遇するモンスターを撃破し、次々と階層を降りていく。
「お、白樹の葉(ホワイト・リーフ)。アスフィ、ちょっと採取していかないか?」
「止めなさい。取りに行ってモンスターに囲まれるのか落ちです。依頼の前に無駄な労力を費やさないでください」
アイテムの原料を採取したいというルルネ。この階域の薬草はそのまま食べても即効性の体力回復や解毒効果があり、ポーションの原料として重宝されている。
特にいまは24階層のモンスター大量発生のせいで、大半の冒険者が18階層に留まっており、価格が沸騰気味だ。金に目のないルルネが採取したいと言い出すのも頷ける。
無論、合理的なアスフィが許すはずもなく、ルルネが嘆くことになる。
しかし、アスフィ達は知らない。この後、次々と希少素材の誘惑が待っていることに。
「………また宝石樹だ」
「何度目だよ、見つけたの………」
「いまほど貴方の幸運を恨めしく思ったことはいですよ、カルナ」
「樹を見つけただけで、恨まれても困るんだか?」
カルナ達が見つけたのは宝石樹。赤や青の美しい宝石の実を宿すまさに金のなる樹だ。だが、彼の樹を守護するのは階層最強、Lv.4に匹敵する潜在能力(ポテンシャル)を誇る『グリーンドラゴン』。任務の前に戦いたい相手ではない。
非常に希少な宝石樹も一度目なら泣く泣く素通りできた。しかし、その希少なはずの宝石樹をカルナ達が発見したのはこれで三度目。単純に一階層で一本見つけていた。宝を目の前に何度も素通りしなければならないのは精神的に来るものがある。
「いいや、カルナが悪い! 何で滅多に見つからないはずの宝石樹がこんなホイホイ見つかるんだよ! 他にも希少鉱石が壁から剥き出してあるわ! さっきなんて『ヴィーヴル』がいたんだぞ!」
あまりに取り逃がした金額の大きさにルルネが喚く。
『ヴィーヴル』とはダンジョンの中でも群を抜いて絶対数が少ない最上位の希少種(レアモンスター)だ。発生するドロップアイテムは爪や牙でも破格の額で取引される。
長く冒険者をやっている者でも滅多に遭遇できない幻のモンスターを取り逃がしたのは悔しいのは分かるが、何故その矛先がカルナに向くのか。
ーーーいや、俺の【幸運】が引き寄せたのは理解しているが。
これだけ立て続けに希少素材や希少種(レアモンスター)を見つけるのは彼のレアアビリティが原因だった。
これだけ希少素材を見逃さなければならないのを皆が泣きそうな思いになっていた。
「なぁ、アスフィ。本当に採取しゃダメぇ……?」
「ダメです」
訂正、ルルネは実際に泣いていた。
数々の試練を乗り越え、カルナ達は24階層に踏み入れた。
オリジナルモンスター
ヒポグリフ
公式推定Lv.3の潜在能力(ポテンシャル)。
グリフォンの下位種だが、絶対数がグリフォンより少ない希少種(レアモンスター)。
アストルフォのヒポグリフは過剰な『魔石』を摂取したことでLv.5に近い潜在能力(ポテンシャル)となっている。
因みに、宝具のヒポグリフが持っていた「次元跳躍」能力はありません。