ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第四十六話

「アスフィ、血肉(トラップアイテム)を買ってきたよ」

「隠蔽布(カムフラージュ)も人数分、揃いました」

 

カルナ達は『リヴィラの街』を出る前にアイテムの購入をしていた。

いまから向かうのは食料庫(パントリー)は階層中のモンスターが集まる。そのモンスターの大群との戦闘を回避するためにアイテムを使うのだ。

血肉(トラップアイテム)はモンスターの食欲を刺激して設置した周囲に誘き寄せる。

隠蔽布(カムフラージュ)は風景と同化する布で、各階層に合った色と装飾が施されている。今回、購入した隠蔽布(カムフラージュ)は食料庫(パントリー)である赤い石英型だ。

最もそれらが使う機会がないとカルナは原作知識で知っているが、それをカルナが知っているのはおかしいので黙っておくことにした。

【ヘルメス・ファミリア】がアイテムを揃えている間にカルナとアイズは、

 

「ボールズ。景気はどうだ?」

「ボチボチだ。だから、金を落としていけ。カルナ」

 

街のトップであるボールズの所に来ていた。

 

「悪いが、用があるのはアイズで俺ではない」

「ん? 【剣姫】が俺の所に来るなんて珍しいな」

「………預かってほしい物がある」

 

アイズはベルのプロクテクターを差し出した。『リヴィラの街』には冒険者のかさばる武器の予備などを保管してくれる倉庫が存在する。無論、高額で。

ボールズも倉庫を一つ所有しており、そこにプロクテクターを預かってもらうのだ。

これから行く24階層は危険だ。だから、大切な物であるベルのプロクテクターをここで預けることにしたのだ。

 

「くれぐれも無くさないようにしてください」

「金を弾む。街を放棄することになってもそれだけは守り通せ。もし無くせば………また俺は暴れるかもしれない」

 

普段なら言わないことを口走るカルナ。この男、弟のことになると見境なしのようだ。

 

「洒落にならねぇこと言うな! お前ならマジでやりかねぇだろ‼︎ ちゃんと預かるから安心しろ」

 

強ぇだけで好き勝手やりやがって、とコイツだけは一番言ってはいけないことを吐くボールズ。

 

「ならいい。それから伝言を頼みたい。俺達を探しに【ロキ・ファミリア】の誰かが来たら、『24階層の北の食料庫(パントリー)に行った』と」

 

カルナは18階層に来るまでに入手した魔石をボールズに投げ渡した。

 

「おっ、こりゃ良い魔石だ。最初からこういうモンを出せよ、へへへ」

「行くぞ、アイズ」

「うん」

 

アッサリと機嫌を直したボールズから離れ、カルナ達はアスフィ達と合流した。

 

「そちらはもう良いのですか?」

「ああ。そっちも準備できたのか?」

「アイテムの補充は済ませました。では、出発しましょう」

 

カルナ達、臨時パーティーは18階層を出て、24階層を目指した。

 

 

◆◆◆

 

 

『大樹の迷宮』。安全階層18階層を抜けた19階層から24階層の層域を冒険者はそう呼ぶ。

巨大な樹の中のような空間、奇妙な形と色をした葉、大きな茸、銀の雫を垂らす花々など、地上には存在しない植物群。発光する青光苔に照らされた森林は幻想的な光景を作り出す。

だが、この階層に出現するモンスターは一癖も二癖もあり、冒険者を死へと誘う。

例えば『大樹の迷宮』に群生する巨大茸の中に擬態する茸型モンスター『ダーク・ファンガス』。

『大樹の迷宮』の代表格モンスターであり、絶大な効果範囲を誇る毒胞子をバラ撒く。

このようにただ襲いかかるのではなく、待ち伏せなどの17階層以前では考えられない戦法を取るモンスター達が多数生息しているのが『大樹の迷宮』である。

 

「おっ、巨大茸発見。どーだ一つ賭けてみない? あれがモンスターかただの茸か」

「いーね! やるやる!」

「アスフィさんもどーっすかぁ? オレが勝ったらデート一回みたいな!」

 

キークスが提案し、ルルネが乗った。そしてキークスは好意を寄せるアスフィも誘う。

 

「あれはただの茸だ」

 

だが、カルナが賭けの対象を無害な茸だと断言した。

 

「おいおい、英雄様よ。なんでモンスターじゃないってわかるんだ?」

「俺は眼が非常に良くてな。擬態かどうかは見ればわかる。後、俺は英雄と呼ばれるほど大した者じゃない。普通にカルナと呼んでくれ」

 

カルナは元々、超視力を誇っていたが【貧者見識】による補正を受けたことで擬態していようとモンスターの見分けがつくようになった。

いまならアスフィがマジックアイテムで『透明状態(インビジリティ)』になろうと完全に視認することが可能だろう。

 

「それからダーク・ファンガスはこちらだ」

 

カルナは皆が見ていた茸とは反対にある茸を示し、

 

「はぁッ!」

 

大槍の突きを放つ。槍圧が遠方のダーク・ファンガスを消し飛ばした。

 

「片付いた。先を急ごう」

「いやいやいや、おかしいだろ⁉︎」

「なんで突きだけであんな事が出来んだ!」

「鍛錬だ」

 

ルルネとキークスが喚くがカルナは一言で切り捨てた。

 

にぎやかだなぁ………、と騒がしい【ヘルメス・ファミリア】を見てアイズはそう思った。騒がしい中心には同【ファミリア】のカルナがいるがそれは考えないでおく。

 

「それ以上近づかないで」

「………?」

 

アイズの近くにいたエリリーが警告する。

 

「【剣姫】………貴方強いわね。比べるまでもないわ。私じゃ腕力でだって貴方に負ける………なのに」

 

エリリーは大粒の涙を流しながら叫ぶ。

 

「ーーー何でそんなにスタイルいいのよ⁉︎」

 

嫉妬の言葉を。アイズは美貌だけでなくスタイルも女神に劣らない見事なプロポーションをしていた。ロキのようなのがいるのを考えれば女神の肢体が全て至高とは言えないかもしれないが。

 

「………」

 

どう言葉を返していいかわからず、アイズは沈黙した。

 

「………毎晩、シェイプアップ体操とかしてる?」

「え………何ですか、それ?」

「シェイプアップ体操。美容・ダイエット目的で行われる体操だ。女性を美しいスタイルにする体操と聞いているが………」

 

アイズの疑問にカルナが答え、エリリーを頭から爪先まで観察する。

大柄な体躯、極太の腕、ガッシリした脚、鍛え上げられた筋肉、力自慢であるドワーフを体現するに相応しい重量級の肉体である。

 

「………どうやら、虚偽のようだ」

「バカァァァァァァァァァァァァァァァァッッ‼︎」

 

ドワーフの少女、エリリー。外見は筋肉質でも中身は乙女である。彼女は泣きながら駆け出した。

 

「………何か悪い事を言ったか?」

「本当だろうと言って良い事と悪い事があります」

 

真実でも、女性に対して言うべきでないことを平然と口にしたカルナにアスフィは溜息を吐いた。

 


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