ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第四十一話

「神ヘファイストスと話はついたかい、ロキ?」

 

アイズが来るのを待つ間、カルナ達は『遠征』についての話し合いを始めた。

 

「おー、鍛治師を連れていきたいっちゅう、あれな。ばっちしや。『深層』のドロップアイテムを回すっちゅう条件付きやけど、ファイたんは呑んでくれたで」

 

前回の『遠征』ではヴィルガの腐食液で武器の大半を損失し、撤退を余儀なくされた。だから、フィンは武器の修復をできる鍛治師の同行を求め、他【ファミリア】の協力要請をロキに頼んでいた。

協力要請をした【ヘファイストス・ファミリア】は鍛冶の大派閥であり、Lv.3以上の第二級冒険者が多数所属する鍛冶の腕、戦闘能力ともに理想的な【ファミリア】だ。

団長の椿に至ってはLv.5。未到達領域に進出する際のメンバーが増えるのも大きなメリットになる。

 

「鍛冶師が武器を整備すれば、同じ武器で戦い続けることができる………予備の必要がなくなるな」

「ああ、浮く荷物の容量の分は、全て『魔剣』にあてる。カルナ、いま何振りできてる?」

「三十振り……『遠征』までには五十振り仕上げておく。それより、作るのは炎属性の『魔剣』だけで本当にいいんだな?」

「ああ。『魔剣』は武器破壊を招く芋虫型と直接接触を避けるための対策だ。だから、多彩な属性より火力重視でいく。期待してるよ、『アグニの魔剣』」

「心得た。文句を言われないくらいものを作ろう」

 

本来は本物の鍛冶師に発注するはずの『魔剣』を『鍛冶』のアビリティを持つとはいえ生粋の鍛冶師でないカルナが作っているのか?

それはカルナがある一品を作ることに関してはオラリオ最高の鍛冶師、椿の上回る物を作り出せるからだ。

『魔剣』の作成、それも炎属性に限定すればカルナはあの海を焼き払ったとまで言われる『クロッゾの魔剣』にも劣らない威力の『魔剣』を作り出せる。その桁外れな威力ゆえにカルナが作る『魔剣』は畏怖を込めて『アグニの魔剣』と呼ばれている。

無論、それほどの『魔剣』を買いたいという人はごまんといるが、カルナは武器に頼り切ってはその者が成長できないと考え、同【ファミリア】の者にさえ滅多に作ることはない。

その『アグニの魔剣』が拠点防衛のため下級構成員達に持たせられる。これで第一級冒険者達が未到達領域に行っている間に全滅しているということはありえない。

 

「後は………カルナ、リヴェリア、アイズを除いた主戦力に、『不壊属性(デュランダル)』の武器を用意する」

「言っておくが俺は無理だ」

 

カルナは『不壊属性(デュランダル)』の特殊武装(スペリオルズ)を作成できる。ただ遠征までに残りの『魔剣』を仕上げなければならず、全員分の特殊武装(スペリオルズ)を作るのが時間的に不可能なのだ。

 

「わかってるさ、『不壊属性(デュランダル)』の武器は椿に頼んでる。カルナを一日自由にしていいって、言ったら快く引き受けてくれたよ。それも割引で」

「初耳だぞ、フィン。………まぁ、椿なら抱き着くくらいか、承知した」

「私も聞いていないぞ、フィン! カルナも、承諾するんじゃない!」

「さて、話の続きをしよう」

「いい性格しとるな、フィン」

 

リヴェリアの怒りの矛先がカルナに向かったことを、これ幸いとフィンが話し合いを続ける。ロキの呆れた声を無視して。

 

「未到達領域進出の為ににはあの芋虫型モンスターを往なさなければ不可能だ。だから、第一級冒険者全員に『不壊属性(デュランダル)』の特殊武装(スペリオルズ)を絶対に持たせなければならない」

「人数分の特殊武装(スペリオルズ)………ははっ、わかっとったけど、こりゃ相当金が飛ぶなー」

 

『不壊属性(デュランダル)』の特殊武装(スペリオルズ)は途方もなく高額だ。

魔導士であるリヴェリアや元から『不壊属性(デュランダル)』の特殊武装(スペリオルズ)を持つカルナとアイズを除いても、フィン、ガレス、ベート、ティオナ、ティオネの五人分の武装を準備すれば、割引して貰っても【ファミリア】が貯めた資産をかなり切り崩さなければならない。

せめてもの慰めは上級鍛治師顔負けの『魔剣』が出費なしということだろうか。

 

「すまない、ロキ」

「フィン達に全部任せとるのはこっちや、好きにしたらええ………それに、博打をするならトコトンつぎ込む方が、うちは好みや」

「他人の好みにとやかく言う気はないが………博打でへそくりを使い果たして俺に泣き付くのはやめてくれ。リヴェリアにもう貸すなと言われている」

「ああ〜ん、カルナのいけず〜」

「当たり前だ! カルナから借りた金額がどれだけになっていると思っている⁉︎」

 

ロキは博打で大損するとよくカルナに泣き付く。カルナ本人が金に無頓着で、文句も言わずに貸すのでロキは調子に乗って借金に借金を重ねてしまっている。

それに頭を痛めたのはリヴェリアだ。無制限に餌(かね)を与えるカルナと、遠慮なく食べる(かりる)ロキを見て、私が管理しなければならないと判断したのだ。

結果、カルナの個人資産はリヴェリアが管理するようになり、借金の総額を算出したリヴェリアは絶句した。

何せ、軽く十桁になろうという金額を貸して、カルナは全く気にしていなかったのだ。

 

「という訳だ。今度から俺に金を借りたければリヴェリアに言ってくれ」

「うげっ、リヴェリアが貸してくれる訳ないやん。妻に財布を握れたお父さんか、お前は」

「ロキ、カルナへの借金はきっちり払って貰うからな。しかし………後は調教師の女の動きが気になるな」

 

話を戻したリヴェリアが懸念を口にする。

レヴィスはアイズを執拗に狙っている。もし『遠征』の時にヴィオラスの群れを率いて襲撃されては手に負えない、と考えたからだ。

 

「ンー………確かに今回の『遠征』を見送るのも、一つの選択肢かもしれないけど」

「今更中止、なんて言い出せば、ベートかティオナ辺りがうるさそうじゃのう………」

「アイズが【ランクアップ】して士気は最高潮と言っていい。中止すれば不満は大きい」

 

フィンの言葉にカルナとガレスは中止するのはやめた方がいいと意見する。

 

「それに、極彩色の『魔石』ついて、遠征先で何か手がかりが掴めるかもしれない」

「ふむ……」

「ひとまず、準備だけはこれまで通り進むていく、ということでいいんじゃないかな」

 

フィンが締めくくり、全員が頷いた。そして、話の区切りがついたところで扉がノックされた。

 

『団長、ティオネです。よろしいでしょうか?』

「おっと、来たようだね」

 

フィンが許可して扉が開かれる。しかし、そこにいたのはティオネ、ティオナ、レフィーヤだった。肝心のアイズの姿はなかった。

 

「あれ、アイズたんは?」

「えーっと………」

 

三人はばつが悪そうな顔をし、レフィーヤが代表して口を開く。

 

「ダンジョンに、言ってしまったようです………一人で」

『………』

 

その言葉に【ファミリア】首脳陣は沈黙した。

 

「ダンジョンから帰ってきたばかりだと言うのに………」

「随分と塞ぎ込んでおったようじゃが、気晴らしにでも行ったか?」

 

ウダイオス撃破からまだ一日しか空いていないと憂えるリヴェリアと呆れるガレス。

 

「話し合ったばかりのせいもあるけど、少し心配だね」

「杞憂のような気もするがのう………Lv.6にもなったんじゃし」

「なら、俺が探してこようか?」

「当てがあるのかカルナ? 広大なダンジョンから見つけ出せる保証もない」

「あれだけ塞ぎ込んでいるんだ。歩みは怠慢でせいぜい『上層』………下手をするとまたダンジョンに入ってない可能性もある」

「なるほど、じゃあ、カルナにお願いしようか。頼んだで」

「承知した」

 

Lv.7のカルナならアイズに追い付けるかもしれないとフィン達も判断し、彼に頼んだ。

 

「あとなぁ、フィン。ギルドにはバレンように、地下水路の方を調べてもらってもええか? カルナの話を聞く限りはギルドは白やろうけど一応な」

「さっき言っていた、例の下水道かい?」

「そや、前に行った時は隅々まで調べられたわけやないし。うちがいると足引っ張るし、指揮、任せてええ?」

「ンー、わかったよ。せっかくだし、今から行ってこよう」

「すまんな。広いから人数連れていって構わん。ただ、魔法使いの子はあまり抱えん方がええかもしれん」

 

地下水路にいたヴィオラスは『魔力』に反応する、それを理解していたフィンは承諾した。

 

「ティオナ、ティオネ。今から都市の下水道を調査する、付き合ってもらうよ」

「はい、お任せを!」

「何かよくわかんないけど、わかった!」

 

ティオネ、ティオナが手の空いている者を集めるために駆け出し、

 

「私達も『遠征』の準備に取りかかるか」

「うむ。儂は下っ端どもの様子を見てくる」

「俺はアイズを探してこよう」

 

リヴェリア、ガレス、カルナと執務室を出て行き、残ったのはロキとレフィーヤのみだった。

 

「あ、あれ? えーと、私は………」

「んー、レフィーヤは、うちとお留守番でもしよか」

「あぅ」

 

置いていかれたレフィーヤは首を前に折った。

 


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