ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十九話

「じゃ、そろそろ始めようか、極彩色の『魔石』にまつわる話。最近どたばたしとったし、詳しい情報を交換しとこ」

「ロキ、何故椅子があるのに机に座っているんだ? 行儀が良くないから止したほうがいい」

「カルナは堅いなぁー。気にせんといて」

 

行儀悪く机に座ったロキはカルナに指摘されても聞き流して話を始めた。

ここは団長フィンの執務室。フィン、ガレス、リヴェリアの三大首領に主神のロキ、そしてカルナは事件の中心人物であり、優れた洞察力を持った者なら何か気付いたことはないか聞く為に同席していた。

 

「極彩色の魔石………50階層の新種と、フィリア祭に出てきたと言っとった、食人花じゃな」

「この二種類のモンスターの関係は今は置いておくとして………地下水路の方はどうだったんだい、ロキ? ベートと一緒に向かったんだろう?」

「モンスターは出てきおったけど、碌な手がかりは見つけられんかったなぁ。胡散臭い男神には面倒事を押し付けられるし………」

 

ロキは地下水路で見たもの、調査中に遭遇した男神ディオニュソスから提供された情報、最後にウラノスと接触したことを語った。

 

「ギルドは白と見ていいのか?」

 

リヴェリアはギルドがヴィオラスの地上進出に関わっていないかロキに尋ねる。

 

「なんかは隠してそうやけど、今回の騒動には直接関係してないような気はするなぁ………勘やけど」

「その勘、間違っていないぞ」

 

ロキが根拠のない神の直感だと告げると、意外にもカルナがそれを肯定した。

 

「何故、そう言えるんだい? カルナ」

 

全員が目を見開く中、フィンが疑問を口にした。ウラノスがヴィオラスに関わっていないと何故断言できるのかと。

 

「フィリア祭の真の目的、それを俺は神ウラノスから直接聞いている。その上で俺は目的達成の為に神ウラノスに協力している」

 

今度こそ全員が驚愕した。自分達の身内が知らない間に中立を保つギルドの主神、ウラノスと協力関係にあると暴露したのだから。

 

「………はぁ、カルナ。それは本当かい?」

「こんな嘘をついてどうする? それに俺達、『下界』の子の嘘ならロキがわかるはずだ」

 

フィンが溜息を吐きながら、カルナに確認した。カルナは肯定し、ロキに話を振る。

 

「そうやなぁ。確かにカルナは嘘をついとらん。頭の痛い事になぁ………」

「全く、お前はどれだけ面倒事に首を突っ込んどるんじゃ」

「いまはそれは置いておけ。カルナ、どうせ目的を聞いても喋る気はないのだろう? なら、これだけ答えてくれ。ギルドは無関係なんだな?」

「それは保証しよう、リヴェリア。協力している俺も、そしてフィリア祭を開催していた神ガネーシャも神ウラノスから全てを聞かされている。そしてすまない、神ウラノスの目的をいまは明かすことはできない。本来なら協力関係にあることも秘密にするべきだが、共闘すべき者達が疑心暗鬼になっても無意味と思い、打ち明けた」

「………………わかった、カルナがそこまで言うなら、それ以上は聞かん。………それにしてもガネーシャまで知っとんのか、あのアホが知っててうちがなんも知らんて、なんか腹立つ」

「ははは、この話はここまでにしよう。次は僕達が18階層で起こった事を説明するよ」

 

フィンが話を戻し、当事者であるフィン、リヴェリア、カルナの三人が説明を始めた。

18階層『リヴィラの街』で起こったカルナとレヴィスの戦闘、敵を誘き出すために実行した作戦によるヴィオラスの大群強襲、レヴィス、クー・フーリンとの激戦。

そして敵の狙いであるカルナが入手したモンスターを変貌させる『宝玉』。

 

「なんや女買うたんかカルナ。どやった? 巨乳やったんやろ? おっぱい揉み揉みしたんか⁉︎」

「残念ながら、裸体を互いに晒した程度だ」

「かぁーっ、うらやましいー! うちもボンキュッボンな姉ちゃんの体見たかったぁーっ‼︎」

「………………カルナ、ロキ」

「うおっ、リヴェリアすまん! 謝るからそんな般若の顔せんといて‼︎ モンスターも真っ青の形相しとるで⁉︎」

「火に油を注いでいるぞ、ロキ。謝罪しよう、リヴェ。女性の前でする話ではなかったな」

「そういう事が言いたいわけではないッッ‼︎」

「? じゃあ、何が言いたいんだ?」

「………カルナ、いい加減、気づいたり………リヴェリアが可哀想や………」

 

リヴェリアの怒る理由がわからず熟考するカルナに、ロキの呟きは聞こえなかった。

 

「それくらいにしておけ、話が進まん。それにしてもモンスターを変異させる、とは………にわかに信じられんのう。あの50階層の女性型も、その宝玉とやらで生まれ変わったということか?」

「恐らくな。カルナとアイズしか目撃した者はいないが………どうなんだ、カルナ?」

「間違いない。あの宝玉はモンスターを上位存在に進化させるものだ。付け加えるなら58階層で俺が倒したヴォルガング・クイーンも同類だ」

 

ヴォルガング・クイーンは『デミ・スピリット』に進化していたので強さが桁外れだったが。

 

「うちはその二人組っちゅうやつの方が気になるなぁ。女はフィン、男はカルナでようやく辛勝って………フレイヤんとこの【猛者】やないんやから。次も勝てそうか、フィン、カルナ」

「負けるつもりはない………とは言いたいけど、真正面からやり合いたくない相手であることは、確かかな」

「次も勝つと言いたいが………世の中に絶対はない。あれほどの強者なら尚更だ」

「フィンとカルナにそこまで言わせるつーことは、女はLv.6。男に至ってはLv.7やろな………どこの派閥の者や、オッタルとカルナ以外にLv.7なんていないはずやで」

 

ロキが頭を抱えるが、思い当たらないのは当然だ。レヴィス達はそもそも冒険者ですらないのだから。

 

「………これは、先日アイズに聞き出したばかりなのだがーーー調教師の女は、あの娘を『アリア』と呼んだそうだ」

 

その発言に、レヴィスの言葉を聞いて知っていたカルナ以外の全員が目を見張った。

 

「間違いないのかい、リヴェリア?」

「ああ。アイズの魔法を見て、直後のことだそうだ。そこからは執拗にあの娘のことを襲い続けた。まるで探し物が見つかったかのように」

 

敵の狙いにはアイズも含まれているのか? とフィン達が思い始めた。その時、

 

「ーーーカルナ」

 

ロキが静観を決め込んでいたカルナに話しかけた。

 

「『アリア』について何か知っとるんやないか?」

『!』

 

ロキの言葉に全員の視線がカルナに集まる。カルナはアイズの事情を知らない。だから、話についてこれず成り行きを見守っていると思っていた。実際、ロキもそう思ってカルナの静観の姿勢に疑問を持たなかった。ーーーだが、彼女の神の直感が、それは違うと告げたのだ。カルナは何かを知っているから黙っているのだと。

全員の注目を集めたカルナはゆっくりと口を開いた。

 

「何かを知っている、か………定義が広過ぎて何を聞きたいのか判断に困るが、それは『アリア』が迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)に登場する風の大精霊のことか? それともーーー」

 

一呼吸置いてカルナは爆弾を投じた。

 

「ーーーアイズが英雄アルバートと精霊アリアの子供ということか?」

『ッ!』

 

フィン達は絶句した。この場の四人しか知らない筈の出生。それはカルナはあっさりと述べたのだ。


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