ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三話

通路を埋め尽く芋虫型モンスター『ヴィルガ』の大群。そこに突入したカルナは次々とヴィルガを駆逐する。

第一級冒険者でも通常攻撃では倒せない耐久力を持つモンスター達が一撃で屠られていく。

Lv.6の『力』で繰り出される超大型武器の攻撃は全てが必殺。並のモンスターでは避けることも防ぐことも不可能な槍撃の嵐。

ヴィルガも最後の悪足掻きのように死に間際に破裂し、腐食液を撒き散らすがカルナには効果がない。

黄金の鎧を纏っていない部分にも腐食液が当たっているにも関わらず、薄皮一枚溶けない。

鎧の加護がカルナを守り、腐食液程度は完全遮断しているのだ。

 

「残念だがその程度では俺の守りは超えられない」

 

彼の鎧はただの防具ではない。あのオラリオ最高の鍛治師、椿・コルブランドでさえ同等の作品を作るのは不可能な至高の鎧。

光そのものを形にした神々でさえ破壊困難な鎧を作り出す前代未聞のレアスキル『日輪具足(カヴァーチャ・グンダーラ)』。

余談だが、このスキルが発現した時、ロキはホームどころかオラリオ全体に響き渡るほどの歓喜の叫びを上げた。

 

「これで、最後だ!」

 

必殺の攻撃力と絶対の防御力を誇るカルナに、ヴィルガは成す術もなく最後の一匹が屠られた。

 

「思ったより数が多かったな。それに大分奥まで来てしまった」

 

フィンに並ぶほど記憶力が良いカルナは51階層の広大な迷路を把握していた。その上、戦いながらも道筋を覚えていたので、ここが52階層に続く通路だと分かっていた。

ヴィルガが下の階層から登ってきたのを考えればここに行き着くのは当然なのだが。

 

「フィン達はアイズ達と合流して拠点に戻っている頃か? 俺も早く加勢にーーー」

 

カルナは呟きは途中で掻き消された。

 

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』

 

なぜなら、真下から突き上げる轟炎に呑まれたからだ。

全身を蒸発させようと大爆発、そして竜の咆哮が轟き渡る。

 

「馬鹿な、ヴァルガング・ドラゴンの階層無視攻撃だと⁉︎」

 

大爆発の中、カルナは無傷だった。黄金の鎧による完全防御。

爆発に呑まれながらカルナはいまの状況を瞬時に理解した。

しかし、それは信じられないことだった。ダンジョン58階層に居座る砲竜『ヴァンガング・ドラゴン』。

その口から放たれる大火球は幾多もの岩盤を破壊し、何層も上の階層へ攻撃が可能だ。

しかし、ヴァルガング・ドラゴンが敵を捕捉できるのは

52階層まで。それ以上はまだ安全圏のはずだった。だから、カルナは直撃を受けてしまったのだ。

何よりカルナの原作知識にこんなものはなかった。

 

「原作に変化が出始めた? 俺という異物がいるせいか?」

 

何層もの階層をぶち抜いた大穴を落下しながら、カルナは思案する。しばらくして答えは出ないと判断し、口元を釣り上げる。

 

「真の異常事態(イレギュラー)か、それもまた良し! 冒険とはこういうものだったな!」

 

冒険してこその冒険者。原作知識を持つゆえに久しく忘れていたことを思い出す。

原作知識というアドバンテージにかまけて味わてっていなかった未知の冒険。初心を取り戻すためにカルナは58階層に向かうことを選択する。

だが、これは冒険欲を満たす為だけの選択ではない。ヴァルガング・ドラゴンの砲撃が51階層まで拡大したとなればそれはこれまでの常識が崩れることになり、ダンジョン攻略にも大きな影響が出る。ファミリアに貢献する為という合理的な思考もあり、カルナは58階層への単独攻略(ソロ・アタック)を決断したのだ。

 

「来い、竜共!」

 

大紅竜が開通させた縦穴を通じて多くの飛竜『イル・ワイヴァーン』がカルナに襲い掛かる。

58階層に居座る大紅竜と縦穴から出現する飛竜の群れ。数多、出現する竜種こそがこの階域の特徴。名付けられた名はーーー『竜の壺』。

下からの大火球と全方位から襲い掛かる竜種の大群。第一級冒険者といえど単独では返り討ちにあってしまう組み合わせだが、カルナは鉄壁の守りと槍捌きでものともせずに壺の最下層、58階層に到達した。

 

「……これは予想外な光景だ」

 

58階層。広大かつ単一の視界を遮る仕切りのない巨大『ルーム』。ヴァルガング・ドラゴンの他、夥しいモンスターが蠢くはずの階層は異彩を放っていった。

十体を超えるヴァルガング・ドラゴンは数こそ多いがこの階層にいて違和感はない。しかし、蠢くは58階層のモンスターではなく地面を埋め尽くすヴィルガの大群。加えて、

 

「女性型ヴィルガが、四、六ーー十二体か」

 

通常のヴィルガを遥かに大きく女性のような上半身と芋虫の下半身した女性型ヴィルガ。それが十二体。

魔力に反応してモンスターを襲うはずのヴィルガがヴァルガング・ドラゴンを襲わず、それどころか共闘するようにカルナに敵意を向けている。

だが、それよりも、カルナが注目したのはルームの丁度、中央にいるヴァルガング・ドラゴンだった。

 

「なるほど、51階層まで攻撃してきたのはこいつか」

 

『ーーーァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎』

 

異彩なヴォルガング・ドラゴンが叫ぶ。

まず通常のヴァルガング・ドラゴンより一回り大きい巨躯。しかし、女性型ヴィルガのようなその線の細さから女性を連想させ、無いはずの腕も生えている。何より決定的に違うのは本来頭部があるべき場所から生えた美しい女だった。

他の醜い人型とは明らか違う人と変わらない容姿をしたそのモンスターの正体にカルナは心当たりがあった。

 

「59階層にいるはずの『精霊の分身(デミ・スピリット)』と同種か」

 

寄生しているモンスターが『タイタン・アルム』か『ヴォルガング・ドラゴン』の違いこそあれど、あれは『宝玉の胎児』が『魔石』を食らうことで進化した砲竜の『精霊の分身(デミ・スピリット)』だ。

 

「名付けるなら、竜の女王ーーー『ヴォルガング・クイーン』と言ったところか?」

 

原作では【ロキ・ファミリア】精鋭であるフィン達でさえ苦戦した怪物を前にカルナはそんな事を呟いた。

『精霊の分身(デミ・スピリット)』率いる竜種と芋虫型モンスターの大群。対するはカルナ一人。

戦力差は圧倒的でありながらカルナは笑う。

 

「ふふ、絶望的な状況のはずなのに何故だがーーー胸が高鳴る!」

 

圧倒的な敵に高揚したカルナは槍を構えた。

 

「さぁ、始めよう‼︎」

 

いまカルナは冒険に挑む。

 

 

 




オリジナルモンスター
ヴォルガング・クイーン
『宝玉の胎児』に寄生されたヴォルガング・ドラゴンが『精霊の分身(デミ・スピリット)』に進化したモンスター。
正確には『精霊の分身(デミ・スピリット)』一歩手前の存在で完全体ではない。
それでも竜種を元にしているので『力』と『耐久』の能力がズバ抜けており、並の第一級冒険者では傷一つ付けられない怪物である。

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