ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十八話

「あー! やっぱりやぁ、やっぱり神酒(ソーマ)やぁ! なんやカルナ、神酒(ソーマ)買うたんなら、うちも誘ってやぁ!」

「それはすまない。飲むか?」

「飲む飲む!」

 

カルナは新しいグラスに酒を注ぎ、ロキに差し出した。ロキは差し出しだされた神酒(ソーマ)を躊躇いなく飲んだ。

 

「かぁー! やっぱり神酒(ソーマ)は別格やぁっ‼︎」

「それはよかった。飲んだなら、彼女の質問に答えてほしい」

「んんぅ? 誰や、この子?」

「………酒ばかり見て気付いてなかったな」

「お初にお目にかかります、神ロキ。私、エイナ・チェールと申します」

「神酒(ソーマ)はエイナが土産に持ってきた。飲んだ以上、ロキには彼女の質問に答えてる義務がある」

「あー! 騙したな、カルナ⁉︎」

「無償で飲ますとは言っていない」

「ぐぬぬぬっ………まぁ、ええわ。それでギルドのもんがうちに接触するなんてーーー何が狙いや?」

「この子は私の客人だ。中傷など許さんぞ」

「彼女に打算がないことは俺も保証する」

「あっ、そう。リヴェリアの客で、カルナが見極めてるなら、間違いないんやろうなぁ。すまんなぁ、エイナちゃん。どうか堪忍して?」

「だ、大丈夫です。お気になさらずに………」

「ほな、サクサク行こうか。何か聞きたいことでもあるんやろ?」

「………では、【ソーマ・ファミリア】のことについて、知っていることがあったら教えて頂きたいのです」

「うちもソーマのアホとは仲いいわけでもない。ええよ、ちょちょっと口を滑らせたげる」

「………【ソーマ・ファミリア】を取り巻くあの異常性の原因について、何かご存じですか?」

「んっ、いきなり確信きたなぁ。………でも、どう説明したらええんやろ」

 

それからロキは【ソーマ・ファミリア】の説明をした。

市販されている神酒(ソーマ)が『失敗作』であること。

【ソーマ・ファミリア】の主神、ソーマは【ファミリア】を運営する気はなく、趣味の酒造りしか頭にないこと。

趣味の資金調達の為に団員に『賞品』として神酒(ソーマ)の『完成品』を用意したこと。

団員の金への異常な執着は神酒(ソーマ)を求める『渇き』だということ。

それらの話を耳を傾けながら、カルナは膝を抱えたアイズを見た。

 

「………ぐすっ」

 

涙ぐんでいた。ベルに逃げられたのが余程悲しかったらしい。

 

「………アイズ」

「………?」

「アイツはお前を怖がっていたわけでない。ただアイツの羞恥心が並外れていただけだ」

「???」

「ふっ、いずれ分かる。いまは逃げる兎の捕らえ方でも 考えておけ」

 

アイズはカルナの言葉の意味がよくわからなかったが、カルナが言うなら正しいと判断し、頷いた。

まぁ、カルナも弟の初恋を叶えてやりたいと思うお兄ちゃんだ。アイズが理解できてなくとも、影ながら手を回すつもりである。

 

「ほれ、アイズぅ。自分、いつまで落ち込んでんねん」

 

エイナとの話を終わったのか、ロキがアイズに話しかける。

 

「そや、【ステイタス】更新しよ? 帰ってきてからまだやっとらへんやろ? な?」

「………わかりました」

「フヒヒ、久しぶりにアイズたんの柔肌を蹂躙したるわ………!」

「変なことしたら斬ります」

「えっマジで?」

「いまのアイズなら無意識に斬るだろう」

「カルナ、そんな真顔で言わんで、怖い………」

 

ロキはアイズを連れて、別室に向かった。カルナはそれを見送り、リヴェリアとエイナの方に顔を向けた。

 

「面白い、神ですね」

「面白いかは賛同しかねるが、あれで存外に切れる。我々からの信頼も厚い」

「お二方も、ですか?」

「ああ、私もだ」

「俺もロキの言うことは信じる」

 

ふざけていようとも、セクハラしようとも、眷属を一番に考えてくれるロキは誰からも好かれている。

カルナ達の答えを記憶しながら、エイナは残った神酒(ソーマ)を頂戴した。

 

『アイズたんLv.6キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎』

「ぶっっ⁉︎」

 

突然の事にエイナは吹いた。ーーー目の前に座るカルナに向けて。

 

「………エイナ」

「わああああああああっ⁉︎ ご、ごめんなさぁあいっ⁉︎」

「………いまのは仕方あるまい」

 

誰だって驚くと、カルナは顔を拭きながら呟いた。

ただ、一部の業界ではご褒美かもしれないがカルナにそんな趣味はないので止めてほしい。

 

 

◆◆◆

 

 

翌日。【ロキ・ファミリア】ホームではアイズの【ランクアップ】の話題で持ちきりだった。

Lv.の低い下級構成員達はアイズに憧れ、色めき立つ。

一方でLv.の高い幹部陣の中には悔しがる者も多かった。

 

「先に行かれたー‼︎」

「やかましい」

 

ティオナが体全体で悔しがり、ティオネをげんなりさせ、

 

「すごいっすね、アイズさん! とうとう団長達と同じLv.6っすよ‼︎」

 

興奮したラウルがベートに話しかけ、

 

「うるせー!」

「あだっ⁉︎」

 

不機嫌な彼に蹴飛ばされた。

 

「ベート、アイズが自分を置いて【ランクアップ】したのが悔しいのはわかる。だが、それが人に当たっていい理由にならない」

「てめぇもうるせー!」

「だから、蹴るな。大丈夫か、ラウル」

「だ、大丈夫っす。カルナさん」

 

いつも通り、カルナはアイズの【ランクアップ】しても興奮することも、不機嫌になることもなくてもいいの平然としていた。

 

「しかし、アイズが【ランクアップ】したのは皆にいい影響を与えるだろう」

「? どういうことスか、カルナさん?」

「アイズに触発されて、ベート達もすぐにLv.6に至る。ラウルを含めたLv.4以下の者達も強くなる。ーーー俺ではお前達の目標になれそうもないからな」

 

カルナがLv.7に到達した時も【ロキ・ファミリア】はその話題で持ちきりになり、皆の尊敬を集めた。しかし、誰もが尊敬するが彼に続いて【ランクアップ】しようとする者はいなかった。

皆、ある意味で諦めているのだ。飛躍と呼べる成長、異常な早さの【ランクアップ】。カルナは『別格』、『特別』だと【ロキ・ファミリア】の誰もが彼には追いつけないと思い込んでしまっているのだ。

 

「ち、違うスよ! 皆、カルナさんを差別してるわけじゃないス‼︎」

「わかっている。眼差しを見れば愛想の無い俺なんかに憧れていてくれるのは理解できる」

「へっ、何が憧れだ。追うことさえ止めた奴らが」

「そうだな、お前のように俺に追うことを止めないでいてくれる者もいる。これからもベートの目標でいられるように努力しよう」

「ばっ、違えよ! 誰がてめぇなんか目標にするか! ーーーだが、これだけは覚えていろ。お前を超えるのは俺だ!」

「ふっ、楽しみに待っていよう」

 

【ロキ・ファミリア】の朝はいつも通り、騒がしかった。

 


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