ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十七話

ダンジョン探索から翌日。

 

「アイテムは一通り補充できたか?」

「ああ、切らした分は買ったはずだ」

 

カルナとリヴェリア、二人は先日の探索で使い切ったアイテムの補充をしていた。

ちなみにカルナは殆どアイテムを消費していないので行く必要はなかったのだが、そこはリヴェリアが荷物持ちということで無理矢理同行させた。

荷物持ちで連れてこられた筈なのに、リヴェリアのポーチに収まる数しか買ってないのをカルナは不思議そうに見ていた。

 

「念のため、もう一軒くらい見て回ろう。掘り出し物があるかもしれない」

「そうだな。だったら『リーテイル』で構わないか? アイテムとは別に買いたいものがある」

「あそこなら、品揃えも充実しているし私に異論はない」

 

『リーテイル』は大型アイテムショップだ。『冒険者通り』というバベルに続く大通りにあるので、冒険者の需要が高く、評判も良い店だ。

『冒険者通り』でアイテムの補充をしていた二人はすぐに『リーテイル』に到着した。

 

「それでは私は少し見て回ろう」

「俺は目的の物を買ってくる」

 

リヴェリアと別れたカルナは冒険者が見るようなアイテムの棚ではなく、食品雑貨が並ぶ棚、その中でも様々な酒が置かれている酒棚に向かった。

何故、酒棚に向かうかというとこの店は【ソーマ・ファミリア】の神酒(ソーマ)を仕入れているからだ。

カルナは先日、リドに飲みたいと言っていた神酒(ソーマ)を律儀に買いにきたのだ。

 

「えぇ〜〜〜⁉︎ 神酒(ソーマ)って60000ヴァリスもするの⁉︎」

 

目的の【ソーマ・ファミリア】の品が置かれた酒棚の前で大声を出すハーフエルフがいた。というよりカルナには彼女に見覚えがあった。

 

「ギルド職員、エイナ・チュールか?」

「! 貴方は【ロキ・ファミリア】のクラネル氏!」

 

エイナ・チュール。ギルドの受付嬢兼冒険者アドバイザー。受付嬢をしているだけあり、その容姿は見目麗しく、彼女に好意を持つ冒険者は多い。そしてベルの担当アドバイザーでもある。

後、憶測だがベルに好意を持つ未来の妹候補だ。

 

「私をご存知なんですか?」

「弟の担当アドバイザーだからーーー後、ミィシャからすぐ怒ると愚痴を聞かされている」

「………あの子には明日、説教ですね」

 

すまない、ミィシャ。俺の余計な一言で怒られるらしい。

 

「それより、チュールは神酒(ソーマ)を買うのか?」

 

酒棚を見たカルナか尋ねる。残った神酒(ソーマ)は一本。先に居たのはエイナなので優先順位は彼女にあり、エイナが買うならカルナは諦めて別の場所を探すしかない。

 

「いえ、こんな高い物、私には………クラネル氏は神酒(ソーマ)を飲まれるのですか?」

「カルナで構わない。ファミリーネームだとベルと被って紛らわしいだろう。飲むには飲むが俺はドワーフの火酒の方が多いな」

「なら、私もエイナで結構です。そうですか………では、このお酒を嗜んでいる方でーーー」

「カルナ、目的の物は買えたのか? ………エイナか?」

 

店内を見回ったリヴェリアがカルナを探しに来た。

 

「リ、リヴェリア様⁉︎」

「リヴェ、エイナと知り合いなのか?」

「エイナの母とは共に里から逃げ出した仲だ。だから、エイナの事は生まれた頃から知っている」

「なるほど、類は友を呼ぶ、か。リヴェリアとエイナの教育方法が酷似していると思ったがーーーエイナは母親譲りだったか」

 

どちらも生徒が逃げ出すほどスパルタである。

 

「ーーーそうだ、リヴェリア様! このお酒を嗜んでいる方で、依存症や異常な症状を引き起こしている方はいらっしゃいますか?」

 

スパルタという自覚があったのかエイナは話題を逸らすように、本題に戻した。

 

「ふむ、嗜んでいるのなら目の前のカルナだが………ドワーフの火酒を飲んで顔色一つ変えないコイツは当てにならないな」

「別に酔わない訳でない、顔に出さないだけだ。ただ神酒(ソーマ)を飲んだ者して言えることは、アレは一種の麻薬だ」

「麻薬⁉︎ 何が違法薬物が混ぜられているんですか!」

「劇薬の類は使っていない、アレは本当にただの酒だ。ただ失敗作でこの美味さだ。完成品なら誰もが求める依存性はあるだろう」

「………あのもう少し、分かりやすく説明して頂けません?」

 

失敗作や、完成品などエイナには何が何やら理解不能だった。

 

「む………俺は言葉を紡ぐのはあまり得意でない。それに神酒(ソーマ)はともかく【ソーマ・ファミリア】の事情は俺も把握していない」

「………そうですか」

「ただ、あの派閥の事情に精通している者なら知っている。会ってみるか?」

「……えっ?」

「ああ、なるほど。確かにあの者なら、詳しいな。なにせ完成品欲しさに【ソーマ・ファミリア】に乗り込むほとだ」

 

口数が少ない自分では納得のいく説明ができないと判断したカルナは口も回り、酒をこよなく愛する存在に説明して貰おうと提案し、リヴェリアも同様の人物を思い浮かべた。

 

「では、連れていって構わないか? リヴェ」

「ああ、エイナなら問題ない。付いてくるか? 私達の【ファミリア】のホームに」

 

 

◆◆◆

 

 

【ロキ・ファミリア】ホーム、黄昏の館。

カルナ達はエイナを連れてホームに帰還した。

部外者であったエイナを入れるのに門番は難色を示したが、副団長のリヴェリアと派閥最強のカルナに通すように言われては止めることはできなかった。

 

「ギルドに所属している私をホームへ招いたりなんかして………本当によかったんですか?」

「心配ない。貴女は誠実な女性だ。そうでなければベルが貴女を信頼しているはずがない」

「エイナ、お前が腹に一物ある者ならば最初から誘いなどはしない」

 

エイナの不安をカルナとリヴェリアは完全に否定。彼女をホームに通し、彼女と話し合うために応接間に案内した。

 

「おかえりなさい、カルナ、リヴェリア」

「ああ、ただいま、アイズ」

「いま帰った。………まだ元気は出ないか?」

「………うん」

 

応接間のソファーに座るアイズが二人を出迎えた。そして自然とアイズがいるテーブルを囲むようにカルナ達は席に着いた。

 

「その人は………誰ですか?」

「私の親戚のようなものだ。二人共、簡単に挨拶でもしておけ」

「あ……わ、私、エイナ・チュールと申します」

「………アイズ・ヴァレンシュタインです」

「………? あの、リヴェリア様? 何だかヴァレンシュタイン氏、落ち込んでません……?」

「白兎に逃げられたからだ」

「はい?」

「カルナ、それでは誤解を招く。前から気になっていた男に、どうやら逃げられたらしくてな」

 

カルナに誤解を招くなと言っておきながら、リヴェリアも笑いながら、誤解を招く言い方をした。

 

「あちゃー………ベル君に芽はなかったか………」

 

安心しろ、その逃げた相手がベルだ、とカルナは心の中で呟いた。

 

「ては、彼女を呼ぼう」

 

カルナは神酒(ソーマ)を取り出し、栓を抜いた。

 

「えーと、カルナさん? 呼んでくだされんじゃあ……?」

「こうすれば勝手に来る」

「神出鬼没過ぎて見つかるかもわからんからな」

 

リヴェリアとアイズは酒を飲まないので、カルナは自分とエイナの分のグラスに注いだ。

 

「うむ。相変わらず美味だ」

 

カルナは一口飲んで呟いた。アルコールも高くなく飲む人を選ばない間違いなくオラリオ随一の名酒だろう。

 

『この匂いはっ………!』

 

標的が酒の匂いに釣られたらしく、激しい足音が近付いてきた。

 

「神酒(ソーマ)やなッ⁉︎」

「釣れたな」

 

カルナが呟き、開け放たれた扉を見る。そこにはカルナ達の主神、ロキが仁王立ちしていた。

 

 


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