ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十三話

ダンジョン37階層、『白宮殿(ホワイトパレス)』。

『下層』を超えた『深層』。その名の通り白濁色に染まった壁面をしたオラリオに匹敵する領域の巨大迷宮。

大型級モンスター『バーバリアン』、リザードマンの上位種『リザードマン・エリート』、黒曜石の体を持つ『オブシディアン・ソルジャー』、37階層最強の『スパルトイ』などの戦士系のモンスターが出現する階層である。

 

「………荒れているな」

 

カルナはモンスターを無我夢中で倒すアイズを見て呟く。

 

「流石に腰が引けるなぁ………リヴェリア、何も話を聞いていないのかい? 一度辛酸を舐めさせられたくらいで、ああにはならないだろう」

「駄目だ。『何でもない』の一点張りで、何も話そうとしない」

 

あの戦いの後、アイズ達は本来の目的であった資金稼ぎを再開した。

それにカルナも同行しての、計七名のパーティー。

だが、最大戦力であるはずのカルナは何故かバックパックを背負い、サポーターの真似事をしていた。

これはダンジョン単独攻略、リヴィラの街半壊、娼婦購入などをした罰である。………最後に娼婦購入を持ってきた辺り、リヴェリアが何に一番怒っているかがよく分かる。

その罰が荷物持ちで済んだと喜ぶべきか、パンパンに膨れたバックパックを二個も背負った状態で一切の援護がないことを悲しむべきか、判断に難しい所である。

 

「今、灸を据えても意味はなさそうだね………やれやれ」

「あの、団長、リヴェリア様………アイズさん、大丈夫なんでしょうか?」

「ああいった状態の時は、大抵空腹になれば治まるが……腹を空かせた素振りを見せたら、すかさず餌付けをしてみろ。落ち着くかもしれん」

「へっ⁉︎」

 

リヴェリアの言葉に、レフィーヤの中で妄想が膨らむ。

 

「レフィーヤ……お腹空いて動け……ない……あ〜ん」

「はわわわわ……」

 

妄想の中では食べさせてというアイズに餌付けをするレフィーヤ。

 

「………随分、想像力が豊かだな」

「はひっ、な、ななな何を言ってるんです、カルナ⁉︎」

「それだけ動揺すれば誤魔化す意味もない」

 

カルナにはレフィーヤが何を妄想しているかが、手に取るように分かった。伊達に長くパーティーは組んでいない。

 

「カルナーっ、今持ってる証文はどのくらいの金額?」

 

アイズと話していたティオナがカルナに呼びかけてきた。

 

「『リヴィラの街』で売却しただけなら、2000万。手元にあるのを地上で売れば8000万はいくはずだ」

 

証文を記憶していたのか、カルナは確認もせずに答えた。

カルナ達は荷物が戦利品で一杯になると『リヴィラの街』で証文と交換し、また探索するを繰り返していた。

『リヴィラの街』の買取り額が低額なため、価値の高い戦利品だけ彼等は手元に残していた。

 

「やっぱり、カルナがいると早いね。『ドロップアイテム』も鉱石もぼんぼん出てくるもん」

 

ティオナの言う通り、いくら第一級冒険者のパーティーといえど数日でこれだけの大金は稼げない。

それを可能にしていたのがカルナのアビリティ『幸運』だった。

彼がモンスターを倒せば必ず『ドロップアイテム』が、壁を壊せば必ず希少金属が取れる。

その上、大量に獲得した戦利品はカルナが全部持ってくれるので、ティオナ達は非常に楽ができた。

 

「だからさ、そろそろ帰り時かな? ってーーー」

 

通路の奥から大量のモンスターが出現する。

 

「!」

 

アイズは《デスペレート》を抜剣し、駆け出した。

 

「あ〜もうっ、空気読めっての!」

「理性なきモンスターが読めるわけない」

 

ティオナが喚き、カルナが呟いた。そもそもダンジョンはモンスターの領域で、冒険者こそが真似かねざる客なのだから、ティオナの言葉は的外れだと思う。

そんな事をカルナが考えている間にアイズは瞬く間にモンスターを殲滅した。

 

「あらかたモンスターは片付いたな……。この後はどうする、フィン?」

 

しばらく戦闘を続け、37階層を踏破し、38階層手前まで来た時、リヴェリアがフィンに問う。

 

「ンー、そろそろ帰ろうか? 今回はお遊びみたいなものだし。ここで長居して、帰りの道でダラダラと手を煩うのも面倒だ。リヴェリア、カルナ、君達の意見は?」

「団長の指示なら従うさ」

「俺も頃合いだと思う。物資も少なくなった状況で下の階層に行くのは危険だ」

「よし。……皆、撤退するよ!」

 

副団長と物資を管理するカルナの同意もあり、撤退が決まった。

しかし、納得しない者が一人いた。

 

「……フィン、リヴェリア。私だけ残らせてほしい」

 

アイズの申し出に全員が驚く。ただ一人、こうなる事が分かっていたカルナを除いて。

 

「食料も分けてくれなくていい。皆には迷惑をかけないから、お願い」

「ちょ、ちょっと〜! アイズ、そんなこと言う時点であたし達に迷惑かけてる! こんなところにアイズ取り残していったら、あたし達ずっと心配してるようだよ!」

「私もティオナと同じ。いくらモンスターのLv.が低くても、深層に仲間一人を放り出す真似なんてできないわ。危険よ」

 

アイズの申し出にティオナとティオネが猛反対する。

 

「フィン、私からも頼もう。アイズの意思を尊重してやってくれ」

「「リヴェリア⁉︎」」

 

しかし、意外にもリヴェリアがアイズの申し出に賛成した。アイズ自身、反対されると思っていた。

 

「ンー……?」

「フィン、俺からも頼む。アイズの好きにさせてやってくれ」

「「カルナまで⁉︎」」

 

リヴェリアの真意を探るフィンにカルナもアイズの申し出を支援した。

 

「この子が滅多に言わない我儘だ。聞き入れってやってほしい」

「アイズがいまのままでは危ないのはフィンもわっているはずだ。なら、好きやらせてやらせるべきだ」

「ティオナ達の言ってることももっともだ。パーティーを預かる身としては、許可できないな。だから、そんな子を見守る夫婦みたいに迫らないでくれ」

「俺達は夫婦じゃないぞ」

「………私は別に夫婦でも………」

「? 何か言ったかリヴェリア」

「何でもない! ………フィン、私も残ろう。アイズを残らしてくれ」

「わかった、許可しよう」

「えぇ〜、フィン〜。説得してよ〜。なら、あたしも残る!」

「食料も水も、アイズとリヴェリア分しか残ってない。諦めろ」

「うう〜〜〜〜〜〜〜っ……」

 

惨たらしく折れるティオナを無視してカルナはアイズに近づき、彼女だけに聞こえるように囁いた。

 

「『ウダイオス』に挑む気だな」

「⁉︎」

「心配するなら、止める気はないし、止める資格も俺にはない」

 

Lv.6『迷宮の孤王(モンスターレックス)』、ウダイオス。

数いるモンスターの中でも最強クラスの存在。Lv.5の冒険者が一人で挑むなど自殺行為の相手だが、Lv.4時点でウダイオスに挑んだカルナが言えることはなかった。

 

「だが、一つ助言はしておこうーーー奴が『黒剣』を出したら気を付けろ」

「?」

 

意味を理解できないアイズにそれ以上は何も言わず、カルナは撤退の準備を始めた。

 


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