ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十一話

土煙を飛び出した二つの影は、偶然にも女性型ヴィオラスとフィン達の間に割り込んだ。

 

「カルナッ⁉︎」

 

割り込んだのは焔纏うカルナと怪物化したクー・フーリン。

二人は叫ぶティオナに視線を向けず戦闘を続ける。だが、それを黙っていられないモノがいた。

 

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ‼︎』

 

女性型ヴィオラスがカルナ達を邪魔だと言わんばかりに飛びかかる。

 

「「邪魔だ」」

 

それは貴様だと、女性型ヴィオラスをカルナが横薙ぎの一閃で斬り裂き、クー・フーリンが爪閃で縦に両断した。

 

『ーーーーーーーー』

 

女性型ヴィオラスは微かな抵抗さえ許されず十字に斬り裂かれ木っ端微塵に砕け散った。

超大型モンスターをそれぞれ一撃で屠った化物達はそれを一瞥もせずに戦闘を再開する。

 

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッッ‼︎」

 

クー・フーリンが凶爪を振るう。

 

「はああああああああああぁぁぁぁぁぁッッ‼︎」

 

カルナは炎の大槍で迎撃する。

 

「がぁッ⁉︎」

 

拮抗は一瞬。吹き飛んだのカルナだった。

【アグニ】で攻撃力を増大させた槍撃でも相殺できない圧倒的怪力にカルナは耐え切れず、一瞬で目の前の光景が遠ざかり、18階層の外壁に激突した。

 

「やりやがったな、てめぇッッ‼︎」

「よくも、カルナぉーーッッ‼︎」

「待て、ティオネ、ティオナ!」

 

フィンの制止を待たず、アマゾネス姉妹がクー・フーリンに攻撃を仕掛けた。

 

「ーーー雑魚が」

 

だが、クー・フーリンの爪が超速で二人に襲い掛かる。

この瞬間、二人は悟る。この爪撃を受ければ死ぬ。避ける事は不可能、防いでも防御ごと粉砕される。

こいつは第一級冒険者である私達を瞬殺する怪物だと二人は一瞬で理解させられた。目の前に迫る死にティオナ達はどうすることもできなかった。

 

「お前の相手は俺のはずだ!」

「ぐッッ⁉︎」

 

ティオナ達の危機を救ったのは神速で戻ってきたカルナ。長距離を一瞬で移動する加速力を加えた一撃は、クー・フーリンを反対側の外壁まで吹き飛ばした。

 

「二人共、大丈夫か?」

「あんたこそ大丈夫なの? 随分吹っ飛ばされーーーその腕⁉︎」

「うわっ、変な曲がり方してるッ!」

 

ティオナが叫んだ通り、カルナの腕自体は鎧のお陰で原形を留めているが衝撃に耐え切れず本来は曲がらない方向に曲がっていた。

 

「………」

 

カルナは無言で曲がった腕を掴みーーー無理矢理戻した。持ち前の再生力により腕は瞬時に完治する。

 

「ーーー問題ない」

「大有りよ!」

「嫌な音がした⁉︎」

「フィン、アイズの援護に向かってくれ。奴は俺だけでやる」

 

喚くアマゾネス姉妹を無視してカルナはフィンに話しかける。

 

「はぁッ⁉︎ 何言ってんの! 全員で倒した方がいいでしょ!」

「うん。あの人、すっごく強そうだった!」

「だからこそだ」

 

尚も反論するアマゾネス姉妹に、だからこそカルナは一人で戦うと言う。

 

「奴に対抗できるのは俺だけだ。お前達を庇いながら戦う余裕はない」

「っ、私達が足手纏いだって言いたいの⁉︎」

「………俺が助けなければ二人は死んでいた」

「「………ッ」」

「それが現実だ。理解したらアイズを助けに行け」

 

カルナが《シャクティ・スピア》を構え、ティオナ達から視線を外した。

 

「オラァァァッ‼︎」

「ふッッ‼︎」

 

直後、目にも留まらぬ速さで舞い戻ったクー・フーリンの攻撃を弾く。

 

「やぁッ!」

「甘えッ!」

 

カルナも炎を宿した槍撃ですかさず反撃するが、クー・フーリンに容易に防がれる。

二撃、三撃と打ち合うだけで轟音が響き、大気が震え、地面が抉れる。

そして一旦、距離を置くために両者が飛び退いた。

 

「本当にいいんだね、カルナ」

「ああ、俺が勝つ」

 

クー・フーリンはカルナでも勝てないもしれない強敵だ。かと言ってフィン達と連携して倒そうにも彼の速さには【ロキ・ファミリア】随一の俊足を誇るベートでさえ追い付けない。

だから、カルナは一人で戦うしかない。対抗できるのは、勝つ可能性があるのはカルナだけなのだから。

カルナは勝てるか分からない強敵に挑む。

 

 

ーーーその意志が引き金に、彼の新スキルが発動した。

 

 

【英雄宿命(アルゴノゥト)】。発現後、強過ぎるカルナが一度も強敵と遭遇しなかった為、発動しなかったスキル。

条件を満たした事で、全身に黄金の光粒が収束され、チャージを開始した。

チャージに合わせるように、ゴォン、ゴォォンという大鐘楼の音が階層中に鳴り響く。

 

「ーーー皆、行こう」

「団長⁉︎」

 

その光景を見たファンがアイズの元に行くと決断し、ティオネが驚愕した。

仲間の無事を第一に考えれば、自信の親指がこれまで感じた事ないほど疼く相手をカルナ一人で戦わせる訳にはいかない。

だが、いまのカルナを見て確信した。カルナは必ず勝つと。

 

「フィン、私は残ろう」

「リヴェリア。言って悪いけど君ではーーー」

「分かっている。私では援護する事もできない。だが、見ていたいんだ。カルナの戦いを」

 

リヴェリアはカルナとクー・フーリンの戦いに手出しできないと理解していた。

二人の戦いは超高速の近接戦。移動する標的に魔法を当てるのは難しく、近接戦ゆえにカルナは常にクー・フーリンは至近距離にいるので巻き込んでしまう。

かと言って、リヴェリアは護身術程度の武術しかできず、超人達の戦いに割り込む事は不可能だった。

この場にリヴェリアが残ってもできる事は何もなかった。

 

「分かったよ。気をつけて」

「ああ、アイズを頼んだ」

「任せてくれ。ティオネ、ティオナ、レフィーヤ、行こう‼︎」

 

リヴェリアを残し、フィン達はアイズを助けに向かった。

 

「待たせた。続きを始めよう」

「構わねえ。どうせ全員始末するだけだ」

 

カルナとクー・フーリンは再び激突した。

 


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