ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十話

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎』

 

女性型ヴィオラス。女体を象った上半身に複数のヴィオラスを足のように下半身から伸ばす姿は半人半蛸(スキュラ)を連想させる超大型モンスター。

女性型ヴィオラスは咆哮を上げ、下半身から伸びるヴィオラスがアイズに襲い掛かる。

 

「やはりアイズを狙うか!」

 

カルナは援護しようと駆け出す。

レヴィスと女性型ヴィオラスを同時に相手にしてアイズは一溜りも無い。

 

「てめぇは俺だ」

 

しかし、アイズとカルナの間にクー・フーリンが割り込み、進路を阻む。

 

「そう簡単に行かせてくれないか………アイズ、フィン達と合流しろ!」

 

援護に行けないと察したカルナはフィン達の元に行くように叫ぶ。フィン達と合流すれば女性型ヴィオラスだけでなくレヴィスにも戦力を分散できる。それを理解したアイズは頷いて走る。

 

「逃すか!」

 

アイズの風に反応する女性型ヴィオラス、アイズを『アリア』を定めたレヴィスが後を追った。

 

「待たせてすまない。続きをしよう」

「ああ。だが、その前にーーー」

 

クー・フーリンは朱槍を手放した。重力に従い、朱槍が地面に落ちる。

 

「………何の真似だ?」

「てめぇは強い。玩具遊びじゃ決着が付きそうにないからなーーー」

 

クー・フーリンはあれだけ激しい攻防を繰り広げながら、槍を玩具と言い切った。

 

「加減は無しだ」

 

クー・フーリンが纏う気配が荒々しくなる。彼の変化に呼応するように腕と下半身を覆う甲冑が全身を包み込み、爪や角が生え始める。

いや、あれは甲冑ではない。クー・フーリンが怪人(クリーチャー)として持つ怪物の力。鎧のように見えるの変貌していくクー・フーリンの肉体そのものだ。

 

「ーーー絶望に挑むがいい!」

 

『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』。

Fate/Grand Orderでクー・フーリン・オルタが使用した宝具。それをこのクー・フーリンは怪物としての力で再現しているようだ。能力も『耐久』と『力』のアビリティ上昇で間違いない。

しかし、能力を知っていても対策を立てられるものではない。単純な能力増幅(ブースト)ゆえに弱点がないのだ。

一つだ言えることは、

 

「いまの方が強い」

 

感じる存在感の強大さは先程の比ではない。槍を使った戦いではなく怪物としての戦いこそが彼の本気なのだ。

 

「ならばこちらも本気で行こう! 【我を呪え】‼︎」

 

本気を出す為にカルナは詠唱した。

 

「【アグニ】」

 

背中から炎の翼が吹き出し、武器に炎の力が付与される。

 

「ほー、まだそんなもんを隠してたのか。いいぜ、叩き潰してやる」

「いや、それは不可能だ。俺がお前を先に焼き尽くす」

「ほざけッッ!」

 

怪物の力を解放したクー・フーリンと強大な炎を纏ったカルナが再び激突した。

 

 

◆◆◆

 

 

「どこから現れた、と問いただしたいところだが……始末する方が先決だな」

「ああ、そうだね」

 

カルナが激戦を繰り広げている頃、フィン達は周囲のヴィオラスを片付けていた。しかし、その矢先に現れたのは女性型ヴィオラス。

通常のヴィオラスとは一線を隔す相手を前にしてもリヴェリアとフィンは冷静にその巨軀を見上げていた。

 

「リヴェリア、あのモンスターをお願い!」

「お前は私だ」

 

アイズとレヴィスが戦いながらフィン達の元を通り過ぎる。それを追うように女性型ヴィオラスも移動を開始した。

 

「狙いはアイズか!」

「発動している魔法に反応しているのかな。それにあれはカルナが言ってた例の女性か」

「ーーーカルナを誑かしたな」

「リヴェリア、まだ根に持ってるんだ………」

 

嫉妬するリヴェリアにフィンは苦笑した。

散らばっていたティオナ達も集結し、アイズを追う女性型ヴィオラスへの攻撃を始めた。

 

「いくぞ、ティオネ、ティオナ!」

「はい、団長!」

「いっくよーっ!」

 

前衛組が攻めかかり、

 

「レフィーヤ、以前行った連携を覚えているな? あれをやるぞ」

「わ、わかりました!」

 

後衛組が援護を始める。

 

前衛三人がアイズを追撃するヴィオラスを切断して阻止する。

 

『ーーーー‼︎』

 

しかし、頭を切断されたヴィオラスは体だけで暴れ回る。それもそのはず、もはやあれは足の一本。いくら切断されようと女性型ヴィオラスは怯みもしない。

 

「やはり魔石か埋まってる上半身を狙うしかなさそうたまけど………」

 

しかし、上半身の腕から伸びる膨大な数の触手は遠距離攻撃を防ぐ鉄壁の盾。かと言って懐に飛び込むにはリスクが高い。

 

「やっぱり、リヴェリア達に任せるしかないか」

 

遠距離攻撃を通すには圧倒的破壊力が必要だ。それを可能にするのはリヴェリア達の魔法しかない。

ただ、カルナなら槍撃だけであの防御を貫いてしまうのでは考えてしまう。同じ槍使いでこれだけの差がある事にフィンは自虐的な苦笑をするしかない。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】」

 

リヴェリアが詠唱を始める。しかし、いま彼女を守る前衛はいない。

 

「【押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」

『‼︎』

 

魔力の反応を優先して襲う極彩色の魔石を持つモンスターと同じ習性を持つ女性型ヴィオラスは、リヴェリアの膨大な魔力に反応し、フィン達を無視して猛進する。

 

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】」

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ‼︎』

 

壁役もないリヴェリアに女性型ヴィオラスが襲い掛かるとーーーリヴェリアは退避した。

 

『?』

 

女性型ヴィオラスは違和感を持つ。派手な魔力放出、そして攻撃に対する全力逃走。これらは何の意味もない行動に見える。意味があるとすれば、

 

「ーーー【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

『⁉︎』

 

ーーー囮。

中断された筈の詠唱が別の方向で続いている。

リヴェリアの強大な魔力を隠れ蓑にして、レフィーヤが魔法の詠唱を完成させる。

強力な魔導士を二枚用いた囮攻撃。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】‼︎」

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァァァッ⁉︎』

 

炎矢の豪雨が女性型ヴィオラスに降り注ぎ、全身を削り取る。

女性型ヴィオラスごと着弾地点を炎の海に変える爆炎。焼け焦げる女性型ヴィオラスは絶叫を響かせた。

 

「畳み掛けさせてもらおうか」

「お供します、団長!」

「ーーーせぇーのッ‼︎」

 

前衛組が攻撃を仕掛けようとした時、

 

 

ーーーー群昌街路(クラスターストリート)が轟音を立て、崩壊した。

 

 

「「「⁉︎」」」

 

地盤もろとも断崖下の湖に落ちていく水晶群にモンスターも、冒険者も驚愕し、動きを止めた。

 

そして舞い上がった土煙から二つの影が飛び出した。


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