ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

3 / 61
感想の意見により武器名を変更しました。


第二話

カドモスを倒した二班はフィンに泉水を任せ、他は周囲の警戒をしていた。

 

「よし、泉水の搾取は完了だ。拠点に戻ろう」

「ようやくかよ。遅えな」

「泉水は少量しか湧き出ないんだ。時間がかかるの仕方ない」

「うむ。それに良い物も手に入った」

 

文句を言うベートにカルナが諭し、ガレスが悪いことばかりでないと手に持つ、金色に輝く翼の皮膜を見せる。

『カドモスの皮膜』。先程倒したカドモスから発生した希少なドロップアイテムだ。

 

「カルナが倒したモンスターからはドロップアイテムがじゃんじゃん出るの。幸運の女神にでも愛されておるのか?」

「女神かどうかは知らないが、似たようなものだろう」

「はっ、少なくともロキじゃないのは確かだな」

 

ガレスの冗談にカルナは含みのある言い方をする。カルナはレアアビリティ【幸運】を持つ。しかし、これがどういったものなのかカルナ自身や主神であるロキも把握できていないのだ。

 

「何にせよ、冒険者依頼は達成したんだ。あまり遅いとアイズ達が先に帰ってるかもしれない」

「けっ、確かにあの貧乳に先を越されるのは癪だな」

 

フィンの言葉にサラッとティオナの悪口を言うベート。全員が帰還しようと通路に戻ったその時、

 

「!」

「どうしたんだい、カルナ」

 

何かに気付いたカルナが通路の奥を見据える。光が乏しく薄暗い通路は先の方が闇に包まれている。しかし、カルナの眼は接近してくる存在を捉えていた。

 

「ーー来る」

「全員、迎撃準備!」

 

カルナの呟きに、フィンが指示を出す。全員が素早く獲物を構えるのと、それが現れるのは同時だった。

 

「な、なんだありゃ⁉︎」

「見たところ芋虫だな。初めて見るモンスターだが」

「新種か……どんな能力を持っているかわからない以上は慎重に行きたいけど」

「向かってくるなら、倒すしかあるまい」

 

新種のモンスターに一瞬動揺するも突進してくるモンスター達を迎撃する。しかし、

 

「ぬっ、儂の斧が⁉︎」

「全員触れるな! 溶かされるぞ!」

「があああああああああああああああああああッッ⁉︎」

「くそっ、ベート!」

 

芋虫型モンスターの体液に触れた武器が溶けた。ベートは蹴りを主体とするために足を芋虫型モンスターに突っ込んだために負傷する。

 

『ーーーーーーーーーーッッ!』

 

芋虫型モンスターが咆哮を上げ、腐食液を噴出する。

 

「っ!」

 

噴出された腐食液の先にいたのはベート。足を負傷したせいで避けることができない。これで終わりかと覚悟した時、

 

「やらせるつもりはない」

 

ベートの盾になるように前に出たカルナは腐食液を浴びてしまう。

 

「カルナ⁉︎」

「問題ない」

 

安否を確認するフィンにカルナは平然と返事をする。第一等級武装さえ溶かす腐食液を正面から浴びながら無傷。黄金の鎧が腐食液を完全に遮断していた。

 

「どうやらこの中で芋虫と戦えるのは俺だけのようだな」

 

そう言いながら、先程芋虫型モンスターを攻撃しているのに溶けずに原型を留める大槍を構える。

アイズの《デスペレート》と同じ属性である『不壊属性(デュランダル)』を持つ槍。しかし、威力が低くなる『不壊属性(デュランダル)』でありながら、超大型に分類されるその威力は数ある武器の中でも最上級(トップクラス)。

カルナの専用装備(オーダーメイド)。

【ヘファイストス・ファミリア】製、第一等級特殊武装《シャクティ・スピア》。

カルナの凄まじい『力』の能力値と卓越した槍術がなければ使いこなせない彼だけの武器。

 

「フィン、俺が芋虫共の相手をする。早くベートを拠点に」

「……そうだね。ここ任せるよ、カルナ」

「何言ってやがるフィン! 俺はまだ戦えるぞ!」

 

カルナを残して撤退しようとするフィンにベートが噛み付く。だが、ベートの足は爛れて戦うどころか歩くこともままならない。サポーターがいないためポーションなども拠点に置いてきてしまっていたので治癒もできない。

 

「ベート、俊足を失ったお前では足手纏いだ」

「っ、カルナてめぇッ!」

「あまり叫ぶな、傷に触るぞ。カルナも言い方というものがあるじゃろ」

「うおっ、下ろせガレス!」

 

カルナの言葉に激昂しかけたベートをガレスが担いだ。

 

「ベート。芋虫共がここいる奴らで全てだと思うか?」

「あん? そりゃどういう……」

「こいつらが下の階層から上がってきたのか、ダンジョンが新種のモンスターを産んだのかはわからない。だが、他の群れがいた場合、アイズや拠点の皆が危険だ」

「!」

「だから、一人でも多く戦力がいる。そのために主力であるベートには傷を治して復帰してもらわなければ困る」

「…………」

 

ベートは何も言えなかった。カルナはベートの力を認めてるからこそ早く傷を回復させ欲しかったのだ。信じてるからこそ他の皆を任せられると。

その思いをすぐに理解したからこそフィンはカルナに殿を任せ撤退を急いだのだ。

 

「理解したら行け。すぐに追い付く」

「すまない、カルナ」

「任せたぞい」

 

ベートはガレスに担がれ、ガレスとフィンは走り出した。

 

「ーーーカルナッ!」

「?」

 

遠ざかっていくカルナの背中にベートが叫ぶ。

 

「とっとと片付けて戻ってこい! 早くしねえと獲物を全部仕留めちまうぞ!」

「ふっ、承知した。こちらも急がないとな」

 

カルナは口元に笑みを浮かべながら迫り来る芋虫型モンスターの群れに飛び込んだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。