ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか 作:ザイグ
群昌街路(クラスターストリート)。水晶の林が生える『リヴィラの街』の北部にある名所。通り過ぎる者を映すその美しい水晶壁は、鏡の迷宮のようだ。
「………」
その迷宮の一角に陣取るように腰を下ろすカルナがいた。
黄金の鎧を纏い、大槍《シャクティ・スピア》を肩に担ぎ、鎧の下にはハイ・ポーションとマジック・ポーションの試験管を十本以上装填したベルトホルダーを装着した完全武装。そして腰掛ける彼の前には不自然に一つのポーチが置かれていた。
それは餌だ。お前の探している者は此処にある。欲しければ取りに来いと、誘いを掛けていた。
この場にいるのは堂々と姿を現しているカルナだけではない。いつ襲撃があってもいいようにアイズ達が各所に隠れながら、様子を伺っていた。
そして敵側も同じように様子を伺っていた。
◆◆◆
ーーー強いな。
カルナを囲むように配置されたアイズ達の更に遠方にいるレヴィスはそう思った。
隠れている数名はいずれも手練れ。一人、弱いエルフが混じっているが、二人以上を相手にして勝てるか分からない。
「オレが殺るか? 嬢ちゃんには荷が重いだろ」
「うるさい、黙れ。お前とて全員とやり合って勝てる訳がない」
「あの黄金の鎧以外はどうとでもなりそうだがな」
側にいる男を黙らせ、レヴィスは観察を続ける。
まずカルナの前に置かれたポーチ。あれに宝玉(たね)が入っていると見て間違いない。囮として宝玉(たね)を入れていない可能性もあるが、レヴィスは不思議とカルナがそんな事はしないと確信していた。
拳で語り合った結果か、あの男は提示した条件は何があっても守ると、敗北すれば宝玉(たね)を潔く渡すとそう思えた。
ならば周りの奴らを退場させ、カルナを倒せばいいだけだの話だ。
そう考え、レヴィスは懐から草笛を取り出す。
「ーーー出ろ」
従えるモンスターを呼び寄せる笛が鳴り響いた。
◆◆◆
「ーーーッ! 来たか」
鳴り響いた笛に、カルナはポーチを握り、立ち上がった。その瞬間、
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
破鐘の咆哮を上げ、ヴィオラスの大群が飛び出し、群昌街路(クラスターストリート)を取り囲んだ。
その数、見渡しただけで五十以上。しかも、ヴィオラスは次々と押し寄せ、増加している。
「大した数だ。オラリオ随一の調教師(テイマー)達がいる【ガネーシャ・ファミリア】でも、これほど多数の強力なモンスター達を従えるのは不可能だろう。ーーー見事な手腕だな、レヴィス」
カルナが名前を呼びながら見た先に、赤髪の調教師(テイマー)、レヴィスが歩み寄ってきていた。
「戯言はいい。宝玉(たね)は持っているな?」
「ああ、此処に。本物か確認するか?」
カルナは場所を示すようにポーチを叩いた。
「十分だ。お前がそれだと言うなら、そのポーチに入ってるんだろう」
「そうか、信頼されているようで、嬉しい。………それで、もう一人は何処だ?」
「奴がどうした」
「いや、近くに居るはずだがまるで気配が掴めない。野生の獣並だ。彼と再戦したかったんだが」
「ーーーッ!」
その言葉に、レヴィスの頭に血が上った。カルナは自分を見ていない。アイツを敵と定め、レヴィスが眼中にない。目の前にいるレヴィスではなく、姿が見えないアイツをカルナは探している。その事実に堪らなく腹が立った。
「お前の相手は私だ!」
レヴィスは地面から紅の長剣を引き抜き、叫ぶ。
「私を見ろ、カルナ!」
カルナに斬りかかる。しかし、これでは昨夜の再現。また彼の鎧に弾かれるだけ。興奮のあまりレヴィスは二度も過ちを繰り返した。
だが、カルナは動かない。動こうとしない。ただ迫るレヴィスを見据え、一言。
「冷静になった方がいいーーー」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
ずたずたに切り刻まれたヴィオラスが倒れ伏し、金色の閃光がカルナとレヴィスの間に飛び込んだ。
「ーーー敵は俺だけじゃない」
「ちっ、誰だ!」
突然の乱入者にレヴィスは反射的に距離を取った。
「……誰でもいい。貴女はカルナの敵。だから、倒す」
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン参戦。
◆◆◆
「アイズ、モンスターの方はいいのか? レヴィスの相手は俺一人でも大丈夫だ」
「フィンがモンスターは僕等が始末するから、カルナの援護に行けって。敵は一人じゃないから」
「なるほど、的確な布陣だ」
ヴィオラスはLv.4に相当するが、こちらはLv.5以上の第一級冒険者が四人。レフィーヤが戦力外だとしても殲滅するのは造作もない。
カルナの方もレヴィスだけでなく、カルナと同等の実力者がいると仮定し、Lv.5の中で最も強いアイズを送ることで一対二にならないようにしている。
ヴィオラスが襲撃してきた一瞬でそこまで考え、戦力を完璧に配置するフィンには驚愕するしかない。
「承知した。なら、レヴィスは任せる。だが、気を付けろ。彼女は単純なステイタスではアイズを上回るからーーーなっ!」
カルナは背後に《シャクティ・スピア》を振り、超速で迫る突きを防ぐ。
「ほう」
「二度も同じ手は通用しない」
朱槍を弾かれた襲撃者は後ろに飛び退く。カルナとアイズは槍使いの男とレヴィスに挟まれる形になった。
「ふん。お前、槍使いだったのか。嬢ちゃんを相手にしてた時は手を抜いてたって訳だ。それに千切ってやった腕が何であるんだ?」
「手を抜いてた訳では無い。レヴィスに合わせて無手で勝負していただけだ。腕があるのは治したからだ。これでも『不死身』などと分不相応な名で呼ばれてる身、腕一本は簡単に生える」
「『不死身』? 御大層な名で呼ばれてるじゃねえか。なら、オレが本当に死なないか試してやるよ」
「その前にそちらの質問に答えたのだから、こちらも質問をしていいか?」
「何だ? 冥土の土産に教えてやるよ」
「冥土に行く気はないが、簡単な質問だ。貴方の名を教えてほしい」
実はカルナはこの男の名を知っていた。だが、ありえないとも思ってしまう。何故なら、原作に登場しないイレギュラー、それどころか別の作品に登場する人物が目の前にいるのだから。
「死ぬ奴に名乗っても仕方ないと思うがーーー」
彼はカルナと同様、Fateシリーズに登場するサーヴァント。
「ーーークー・フーリンだ」
それも赤黒く歪な意匠の服装を着て、身に纏う気配は禍々しい。その姿はFate/Grand Orderに登場するクー・フーリン・オルタそのものだった。
【ロキ・ファミリア】にカルナがいるとパワーバランスが狂うので怪人側にクー・フーリン・オルタを投入しました。
容姿も名前も一緒ですが、Fate世界とは無関係のダンまち世界の住人です。
かつて冒険者だった彼は人と怪物の異種混成(ハイブリッド)になったことで生前の記憶を失い、『怪物』の殺戮衝動を『人間』の冷静さでより効率的に行う戦闘人形と化しています。