ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第二十六話

翌日、『リヴィラの街』。

この街はいま再興の真っ最中だった。瓦礫が撤去され、壊れた建物が瞬く間に修復されていく。

理由は簡単だ。昨晩のカルナとレヴィスの戦闘、第一級冒険者並の実力者がぶつかり合った余波により、幾つもの建物が倒壊し、街中を荒らされたのだ。

カルナは被害を最小限に抑えたつもりだが、街の冒険者達はそうは思わなかったらしい。

アーチ門に書かれた『三百三十三』というかつて『リヴィラの街』が再建された数が『三百三十四』と書き直されていることから、彼等は街が一回、カルナ達に破壊されたと認識したようだ。

 

「あれ〜、街を直してる。モンスターにでも襲われたのかな?」

「………違うみたい」

 

18階層に到達したティオナが街の様子を見て呟くが、アイズが否定した。

 

「確かに街の雰囲気が少々、おかしいな」

「あの……なんだか、私達避けられてません?」

 

リヴェリアもアイズの意見に同意し、レフィーヤが街の冒険者がアイズ達を遠巻きに見ているのに疑問を持つ。

【ロキ・ファミリア】はオラリオの最大派閥だから他派閥には距離を置かれやすいが、これは敬遠というより警戒されている視線だ。

 

「団長、どうします?」

「うん、何かあったのは間違いなさそうだね。まずは情報収集をしよう」

 

ティオネが隣にいるフィンに指示を仰ぎ、フィンが方針を決めた。

アイズ、ティオナ、リヴェリア、レフィーヤ、ティオネ、フィンという【ロキ・ファミリア】の主力メンバーはダンジョンに来ていた。

理由はアイズとティオナの借金返済。ティオナは51階層で出たヴィルガに武器を溶かされたので作ってもらった二代目《ウルガ》の代金、アイズは愛剣の整備中に借りていた代剣を破損させたので弁償をするために。

ちなみにウルガの代金は120000000ヴァリス。アイズの弁償代は50000000ヴァリスである。Lv.1の冒険者五人パーティーで一日に稼げるのが25000ヴァリスほどなので並の【ファミリア】なら卒倒しかねない金額だ。

 

「あっ、【ロキ・ファミリア】!」

 

フィン達が行動を開始しようとした瞬間、声を張り上げて近づいてくる大男がいた。

 

「やぁ、ボールス。君に会いに行こうと思ったところだよ」

 

明らかに怒っている筋肉隆々の巨漢に、フィンは臆する事なく話しかけた。

ボールス・エルダー。ギルドも領主が存在しない『リヴィアの街』に必要なのは文句を言わせない腕っ節だけ。

事実上、街で最も強い冒険者であるLv.3のボールスが街のトップなのだ。

 

「けっ、何が会いに行こうと思ってただ! こっちはてめえ等に文句しかねえよ!」

「まぁまぁ、落ち着いて。何があったか話してくれないと分からないよ」

「何があった? この街の惨状見ればわかるだろ! てめえんとこのカルナが大暴れしたから修復中だ‼︎」

 

ボールスの言葉に全員が驚愕した。

あのカルナが? 誰にでも施しを与え、弱き者を助け、誰よりも前に出て戦ってきた、あの慈悲深き英雄が?

普段の彼を知る【ロキ・ファミリア】には到底信じられない事だった。

 

「そんな馬鹿な事があるか!」

 

意外にも最初に声を張り上げたのはリヴェリアだった。

 

「ボールス! カルナはいま何処だ!」

「お、おう。いまは上の方にある『ヴィリーの宿』で監視してるぞ」

 

あまりの剣幕にボールスはアッサリとカルナの居場所をバラす。

 

「ーーーッ」

「あっ、待ってリヴェリア!」

「仕方ない。皆追いかけるよ」

 

聞くや否や駆け出したリヴェリアをフィン達は追った。

 

 

◆◆◆

 

 

嘘だ。嘘だろう、カルナ。

 

リヴェリアは走りながら心の中で必死に否定する。カルナが街を破壊するなんて暴挙をするはすがない。何か理由があるんだ。

我ながら、らしくないほど取り乱してると思う。でも、カルナの事になるとどうしても自分を抑えられない。

 

彼の事をこんなに想い始めたのはいつからだろう。

最初にカルナに会ったのは、ロキが唐突に連れてきたのが始まりだった。

初めは何処にでもいる青年に見えた。冒険者志願の理由も『ある薬を買うために莫大な借金をした』と曰くつきなものだった。何故、彼を【ファミリア】に入れようと思ったのかロキに聞くと、気まぐれだと言った。ただ、カルナは普通とは違うとロキの勘が告げたらしい。

最初は意味が分からなかったが、それが正しかったとすぐに理解した。

私が知識を叩き込めばスポンジが水を吸収するように学習し、魔法もあっという間に発現させた。自分で言うのもなんだが私の教え方は酷烈(スパルタ)だが弱音一つ吐かなかった。

フィンが武術を教えればかつて覚えた事を思い出すように瞬く間に上達した。それどころか、見た事もない我流でありながら洗練された体術を開発してしまった。

ガレスと模擬戦をすれば驚くほどの才能、戦闘技術を発揮し、Lv.差を無視して善戦して見せた。私達が彼は強くなると確信した。

 

仲間が強くなる事は良い事だ。カルナにとっても、私達にとっても。

 

レアスキルによる飛躍的な成長速度も相まって、カルナはドンドン強くなった。

だが、強くなったカルナを頼もしく思うと同時に不安にもなった。

アイズのように貪欲に強くなろうとする姿勢は、まるで生き急いでいるようだった。

そして予感は的中した。

 

冒険者になってから半年で【ランクアップ】。それも『中層』への単独攻略及び階層主単独撃破によって。

驚異的な偉業にオラリオ中が湧き上がるが、瀕死の状態で運び込まれたカルナを見て、私は胸が締め付けられる思いだった。

その後、私は彼を問い詰めた。何故、こんな無謀な真似を、あれで自殺志願者のようだと。返答は、

 

「すまかい。皆の助けになるように少しでも早く強くろうとしたんだが、逆に心配をかけてしまったようだ。ーーー俺はただ恩を返したかったんだ」

 

その言葉を聞いた時、心が震えた。カルナはロキに拾われる前に様々な【ファミリア】から門前払いをされていた。

当たり前だ。莫大な借金を抱えた若僧を雇おうとする店も、入団させようとする神もいない。いるとすれば私達の主神くらいだ。

ロキが【ファミリア】にいなければ働く事もできずに野垂れ死んでいたかもしれない。

だから、カルナは拾ってくれた恩を返すために、皆を守る事ができるように強くなろうとしていた。

それを理解した時、リヴェリアの頬を一筋の雫が落ちた。アイズの悲願のよいに自分の為に強くなるのでなく、【ファミリア】を想うからこそ強くなろうとしていた。私達をこんな強く想ってくれていた事が嬉しかった。

 

「……女を泣かせてしまうとは祖父に叱られるな」

 

カルナは涙を流すリヴェリアをそっと抱き寄せた。祖父に泣いてる女がいればこうするんだぞと言っていたが、カルナは間違っていないと思った。

リヴェリアも突然、抱き締められた事に驚いたが、不思議と振り払う事はなかった。己が認めた者以外が肌に触れるのを嫌う誇り高いエルフ、その中でも高潔なハイエルフのリヴェリアが。

この時、リヴェリアは気づいた。この不安は仲間の『心配』からではない。想う人に対する『恋慕』だと。

 

「カルナッ!」

 

リヴェリアはカルナの名を叫びながら『ヴィリーの宿』の一室に駆け込みーーー絶句した。

 

「リヴェ。来ていたのか」

 

そこにはベッドに腰掛ける片腕を肘から無くしたカルナがいた。

 

 

 


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